松坂桃李の主演で話題。ハロプロに青春を懸ける男たちを描いた映画「あの頃。」と「ハロヲタ人生賛歌」

2021/3/17 00:00吉村智樹吉村智樹






こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


おススメの新刊を紹介する、この連載。
第42回目は、この2冊。
松坂桃李が主演した話題の映画「あの頃。」の原作『あの頃。男子かしまし物語』『僕らの輝き ハロヲタ人生賛歌』です。


■ハロプロに生き、ハロプロに死す


松坂桃李が主演した映画「あの頃。」が大ヒット上映中です。これはハロー!プロジェクト(ハロプロ)の応援に命をかけた男たちの「あの頃。」を描いた、ほろ苦い青春ドラマ。





原作は『あの頃。男子かしまし物語』(イースト・プレス)。著者はバンド「あらかじめ決められた恋人たち」のベーシストであり、「神聖かまってちゃん」の敏腕マネージャーとして注目を浴びた劔樹人(つるぎ・みきと)さん。





舞台は、2000年代の大阪。日本のアンダーグラウンドロック不朽の名曲、早川義夫「サルビアの花」で幕を開けます。元モーニング娘。の市井紗耶香が現メン時代にCD「FOLK SONGS」でカバーした経験もある、あのサルビアの花です。「ハロー!プロジェクト」なるご陽気きわまりない名称のムーブメントが地下ロック界まで浸透していった状況を表す、象徴的な曲なのです。


明日なきバンドマン生活を送る青年「劔(つるぎ)。音楽で芽が出ず失意にある彼が、ふとしたきっかけで松浦亜弥の5枚目のシングル「桃色片想い♡」のMVを観たところから物語が始まります。ハロプロに関心をいだき、おそるおそるモーニング娘。を筆頭としたハロプロオタクが集うトークイベントに参加した劔は、ダメ人間なんだけど憎めない仲間たちと出会うのです。


世の中のやつらは藤本美貴の魅力を理解していないとアジテーションする男。矢口真里のラジオ番組内で石川梨華自身から放たれた卒業発表をカセットテープで何度も聴いて悲しみに打ちひしがれる男。道重さゆみの激小ソロパートで彼女の将来性を見抜く先見の明がありすぎる男などなど、モーヲタ的には正しいが一般的には間違った生き方をしているモ娘(狼)たち。彼はそんな推し命な猛者たちとともに過ごし、ハロプロのコピーバンドまで結成。自分の居場所を見つけるのです。


しかし、ハロプロのグループから卒業してゆく女子がいるように、彼らも次第にひとり、またひとりとヲタ活から卒業をしてゆきます。そんななか、人生からも卒業してしまおうとする男が。癌におかされた彼のもとに、かつてのモーヲタたちが再び集うのですが……。


ハロプロに心を奪われた経験があるならば、泣いちゃうかもな映画です。2ちゃんねるmixiでのコテハンどうしの罵倒合戦など、かさぶたをはがされたような痛ガユさ。僕も当時はあたおかなイタヲタだったので、イラストレーターのインナミリサさんと組んで勝手に「モー娘。に似た女子たち」が登場する漫画を発表していました。





■出演者は、ほぼ実在。しかもSNSで交流も可能


映画「あの頃。」はコミックエッセイが原作なだけあり、ほぼ実話によって構成されています。ハロプロに詳しい以外に取り柄がないポンコツな登場人物たちは、すべて実在。バンド「赤犬」の現メンバーだったり、クイズイベントの仕掛人として有名人になっていたり。アツくるしいモーヲタトークイベントが開催されていた店「白鯨」も大阪なんばに本当にあります。映画の中で登場する「オシリペンペンズ」も、信じがたいでしょうが、そのまんまの名前で実際に活動しているのです。



出演者がほぼ実在し、SNSなどで接触が可能。そういう点で「あの頃。」は事故物件住みます芸人・松原タニシ役を亀梨和也が演じた大ヒット映画「事故物件 恐い間取り」にとてもよく似ています。「白鯨」は、かつて松原タニシも常連出演者でした。十人も入れば満員感があるあの店から、同時期に2本の大ヒット映画が誕生するとは……。それにしても劔樹人氏、松原タニシ氏、イケメンに自分の役を演じられるのは、どんな気持ちなのでしょう。


■新刊は幻のモーニング娘。メンバーまで登場


そして、もう一冊おすすめなのが、劔樹人さんの新刊『僕らの輝き ハロヲタ人生賛歌』(イースト・プレス)。





この新刊は2010年代「あの頃。の、その後の頃。」を描いた、現在進行形に近いハロヲタたちの物語。Berryz工房、℃-ute、スマイレージ→アンジュルム、Juice=Juice、こぶしファクトリー、つばきファクトリー、BEYOOOOONDSなどなど登場するグループやユニットが多彩。「ハロヲタ」という点では、こちらのほうが真に迫った一冊と言えます。さらに「7期オーディションで合格していたが辞退した」幻のモーニング娘。メンバーまで登場。事態はさらに混迷をきわめるのです。


「℃-ute」の解散を止めるため、夜の街へと走りだす男。リリースイベントでメンバーにハゲをいじってほしくて、ハゲる努力をする男。どう考えてもおかいしいのに、そのまっすぐさに惚れ惚れとしてしまいます。ああ、人生って素晴らしい。


■メンバーもヲタも卒業後は悲喜交々


モーニング娘。のOGたちのその後の動向を、難なくインターネット動画で追える時代となりました。「あの頃。」との大きな違いでしょう。なかにはプラチナ期をささえた実力者たちを揃えて「なんでラブマ?」とちょっぴり不思議に思うCM動画もあります。




けれども現メンバーに負けぬフレッシュさとアイドル性のまぶしさの前では、そんな小さな疑問や不満などたちまち霧散。愛あらばIT'S ALL RIGHT。感謝がみなぎるばかりです。


美貴様は相変わらず「4期オーディションで落選させられたのに6期で呼び戻された」エピソードで中指を立てまくり。強気だった「あの頃。」のイメージなまま健在。うれしい。うれし涙が止まらない放課後です。下剋上から幕を開けたモーニング娘。のイズムを、実はもっとも体現し続けるひとりであります。




かたや、卒業したあと、多難な人生を送るメンバーもいます。








ハロプロとともに生きる。それはすなわち、メンバーもヲタも「卒業」を乗り越えるということ。ハロプロがなかったら、我々はこれほど卒業の悲しさと対峙しなかったかもしれません。そして、たとえ悲しくても旅発つ人の幸福を祈る、晴れの門出を祝う、そんな人情の大切さをハロプロは教えてくれました。


そして卒業をしたあとでも人生を止めるなんてできない。みんな「歩いてる」んです。歩いて進む方向は、決して平坦な道ばかりではない。スキャンダルだったり、事故だったり、試練としか言いようがない理不尽なバスツアーだったり。残酷ですよね、人生って。晴れの日がいつまでも続くと思いきや 雨の日もやってくる。でも、すべていつか納得できるんでしょう、きっと。


23年もの歴史を誇るハロプロ。これほど長きに亘るのですから、メンバーにとってもヲタにとってもそれぞれ「あの頃。」の時期が違うでしょう。出たり入ったり。「通算何回愛したっけ」、そんな人もいるのでは。でも、それぞれの時代に、変わらず自分を包んでくれた「でっかな愛」があったのではないでしょうか。



映画「あの頃。」

マネージャーやプロデューサー、ベーシストとして「神聖かまってちゃん」などのバンドや音楽ユニットにかかかわってきた劔樹人の自伝的コミックエッセイ「あの頃。男子かしまし物語」を、松坂桃李主演で実写映画化。

大学院受験に失敗し、彼女もお金もなく、バンド活動もうまくいかず、どん底の生活を送る青年・劔(つるぎ)。
ある日、松浦亜弥「桃色片想い」のミュージックビデオを観て「ハロー!プロジェクト」のアイドルに夢中になった彼は、次第にオタ活にのめり込んでいく。

藤本美貴の魅力を熱く語るケチでプライドが高いコズミンら個性的な仲間たちとともに、女子大の学園祭でのハロプロの啓蒙活動やトークイベント、また「恋愛研究会。」というバンドを結成しライブ活動を行うなど、くだらなくも愛おしい青春を謳歌する日々。

しかし時は流れ、仲間たちはアイドルよりも大切なものを見つけ、離れ離れになっていく。
そんなある日、コズミンが癌に冒されていることを知った劔は、かつての仲間たちと再会を果たすが……。
「愛がなんだ」今泉力哉監督がメガホンをとり、「南瓜とマヨネーズ」冨永昌敬が脚本を手がけた。

劔がアイドルにハマるきっかけとなる松浦亜弥役を「ハロー!プロジェクト」のアイドルグループ「BEYOOOOONDS」山崎夢羽が演じる。


監督 今泉力哉
出演 松坂桃李、仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人、コカドケンタロウ、大下ヒロト、木口健太、中田青渚、片山友希、山﨑夢羽(BEYOOOOONDS)、西田尚美、ぱいぱいでか美、増子直純(怒髪天)ほか








https://phantom-film.com/anokoro/



あの頃。
男子かしまし物語
劔樹人 著
1,305円(本体1,186円+税10%)
イースト・プレス

アイドル、出会い、死……男たちの遅い青春。
戻りたくても、もう戻れない、愛しい記憶です。

「神聖かまってちゃん」の敏腕マネージャーとして注目を浴びる著者、劔樹人の待望のデビュー作。
自伝的コミックエッセイである本書は、著者が2000年代初頭から東京に出てくるまでの数年間を過ごしていた大阪市阿倍野区での日々を描く。

ふとしたことからハロプロのアイドルに魅せられ、そのことで出会った友人たちとの、くだらなくも夢中になって過ごした遅い青春の日々。

アイドルという光に勇気づけられ、うまくいかない日々に落ち込み、友人たちと見つけた自分たちの居場所を謳歌しつつも、ひとりの友人の壮絶な死を経て「おとな」になっていく、切なくも愛おしい記憶の数々が、読者をも「あの頃。」に引き戻す。

「大阪市阿倍野区で過ごしていた、あの頃。中学10年生の夏休みのような、そんな毎日が永遠に続くような気がしていた。今思い返しても、どうかしている出来事ばかりだったと思う。もう戻れない、愛しい記憶です。」から始まる、新叙情派の、比類なきコミックエッセイ。

https://www.eastpress.co.jp/goods/detail/9784781611921


僕らの輝き
ハロヲタ人生賛歌
劔樹人 著
1,210円(本体1,100円+税10%)
イースト・プレス

「俺らには黄金期もプラチナ期もなかったかもしれない。だが、いつだって“今”があった」

ハロー!プロジェクトに人生を捧げる男たちの青春狂騒曲。

「僕らの応援しているアイドルたちはステージでキラキラ輝く存在だ。でも、今こうやってあなたたちも、とても輝いているよ」

松坂桃李主演で2021年2月に映画が公開される「あの頃。」原作の劔樹人による、切なくてちょっと不思議なハロヲタ激励型コミック。

「あの頃。」の続編的描き下ろし「そして、恋愛研究会。は」も収録。
https://www.eastpress.co.jp/goods/detail/9784781619330


劔樹人(つるぎ・みきと)
1979年新潟県生まれ。㈱パーフェクトミュージックで「神聖かまってちゃん」「撃鉄」「アカシック」のマネジメントを担当。ダブエレクトロバンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシスト、エンターテイメントグループ「DPG」プロデューサー、入江悠監督「劇場版神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴りやまない」に俳優として出演するなど、マネージャー・プロデュース業以外にも幅広く活動。音楽業界だけにとどまらず、様々な分野で注目されている。男の墓場プロダクション所属。エッセイスト犬山紙子の夫。



吉村智樹