汝、1コマに刮目せよ!【ドラえもん 1コマ拡大鑑賞展】開催!

2021/3/15 09:00 虹



漫画、読んでますか?
私は最近、小山ゆう先生の『あずみ』を読み始めまして、これが本当に面白く、キャラクターの魅力と緩急つけた展開に釘付けになっているところです。

漫画というと絵とキャラクターの描写、そしてストーリー展開が見どころとして語られがちですが、「1コマの持つ魅力」にスポットを当てたら何が見えてくるのか──? それを追究した展覧会が開催されています。
その名も「ドラえもん 1コマ拡大鑑賞展」



展覧会タイトルの通り、「ドラえもん」の漫画にある1コマを拡大して鑑賞してみようという試みです。しかも印刷に入る前の「原画」のコマを高解像度スキャンして拡大しているので、鉛筆で書かれた文字、貼り付けられた写植、修正されたホワイトの跡まで見ることができてしまうという……。

▲「ほぼ日曜日」内にある本展公式ページ

展覧会サイトを見ると、あの「見えない」のコマがある‼ これは気になりすぎるぞ!
というわけで、藤子・F・不二雄先生が生み出した1コマたちが一枚絵としてどう見えるのか⁉ 実際に展示を見に行ってきました!


1コマの力に刮目せよ!


会場は渋谷パルコ8階の「ほぼ日曜日」
エレベーターを降りてすぐに入り口があります。
こちらなんと入場無料! そして写真撮影OK! というからありがたいですね。会場の方に聞いたところ「ジャンジャン撮って楽しんでください」とのことでした。
さて、展示はどうなっているのかというと──……。

▲「ぼくの生まれた日」(小学四年生 1972年8月号)より

おお! めっちゃ拡大されてる~‼
ちなみに右下のキャプション内にある四角が実際のコマの大きさです。

本展は「漫画表現」「構図」「顔・表情」「ワイド(見開きページなど)」といったテーマごとに、インパクトのあるコマを厳選して展示。拡大された1コマは厚いマットを用いて額装され、1枚の絵として扱われています。

▲「のろいのカメラ」(小学三年生 1970年10月号)より


この文字、こういう風に描かれていたのか! 拡大されないとなかなか気が付かないですね。しかし凄みのあるデザインだ……。

こちらは細かいところまですごいリアルな描き込み。
藤子・F・不二雄先生はシンプルで無駄のない線を好んでいたそうですが、描写に関しては「子どもが読むものだからこそ」と一貫してリアルを追究していたといいます。

▲「大長編 ドラえもん のび太の宇宙開拓史」(月刊コロコロコミック 1980年9月号)より


「ドラえもんの展覧会」と聞くと、大人が童心にかえれる内容なのかな? とつい思ってしまうのですが、良い意味でその予想は裏切られます。会場を訪れた感想は「これは驚異の体験である」、まさにこれ。
1コマを1枚の絵画として扱うことにより、「ドラえもん」という1つの作品の中で、藤子・F・不二雄先生が作品の持つイメージ(絵柄)を大きく変えることなく、回によって、ときには1話の中の起承転結の場面によって、全く異なる印象の描法を使い分けているということに気づきます。

これは絵が上手いかどうか以前に、夥しい知識の引き出しを持っているからこそできることなのではないでしょうか。

▲「手足七本目が三つ(ねこの手もかりたい)」(小学三年生 1971年1月号)より

▲「未来の町にただ一人」(小学四年生 1979年7月号)より。同じ「ドラえもん」という作品でも、回(話の内容)によってまったくタッチが異なる。


優れた映画がどの場面で停止しても1枚の静止画として完成されているように、絵巻を断簡として掛軸に仕立て直しても1つの絵画として鑑賞できるように、素晴らしい作品は連ねても独立させても、その良さを異なる形で発揮できるということなのですね。

▲「ゆうれい城へ引っこし」(週刊少年サンデー 1976年6月15日増刊号)より


さらに原画を拡大していることにより、今まで気づかなかった細部へも新たに視線を巡らせることができました。
このページは1つの場面が下2つのコマに分割されていますが、1つの大ゴマに収めず敢えてコマ割りをしてランドスケープの雄大さを表現しています。そしてたった2つのコマの中に葉や木肌、空、煙をあらゆる筆さばき(ペンさばき?)で描き分ける技術
こういった冒険ものはストーリーが気になってしまって初見は絵を隅々までじっくり見ずに読み進めてしまうけれど、このような世界が凝縮されていたのですね。

▲「大長編 ドラえもん のび太の恐竜」(月刊コロコロコミック 1980年2月号)より

▲たった2コマの中にこれだけの描写が詰め込まれている

また、消しゴムかけをする前の下描きの線が残っている状態を、大きな絵で確認できるのも新鮮でした。ペン入れの段階でどの線を生かすと決めたのかなど、制作の上での取捨選択を垣間見ることができます。
同様にホワイトで修正した跡も確認することができるため、のび太の目の下に入ったホワイトを見て「涙を消したのだろうか?」とも思ったり。

▲「さようなら、ドラえもん」(小学三年生 1974年3月号)より ※単行本時に加筆されたコマ

これは「さようなら、ドラえもん」という回で、ドラえもんに「(何でも)自分一人でやれる」と啖呵を切ったのび太がジャイアンに胸倉を掴まれた際、ドラえもんに助けを求めようとして慌てて口を塞いだ1コマです。


もし一旦涙を描いたところで、のび太のこの時の心情に涙は合わないとして消したのだとしたら……⁉ と想像して胸が熱くなってしまいました。

この他にも2つのコマを並べることで視点の違いを確認するなど、漫画を読んでいる時には気づかなかった観点で作品を味わうことができます。

▲左のコマは下から見上げた視線。右のコマは俯瞰した視線となる。「大長編 ドラえもん のび太の恐竜」(月刊コロコロコミック 1980年2月号)より



「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」へ行こう!

▲会場には「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」の紹介ボードも

2011年にオープンして以来、人気の絶えない「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」
行った人に感想を聞くと、「1日中いても飽きない」「この前行ってきたけど、既にまた行きたくなっている」という意見が本当に多い博物館です(ここでポコニャンの魅力に触れて一気にポコニャン沼にはまり、それまでの生活に戻れなくなった友人もいます)。
本展で展示されている1コマの原画が所蔵されているそうなので、コマをじっくり鑑賞してから今度は原稿を観てみるのも面白そうですよね。
プレゼントがもらえる本展との連動企画も開催中ですから、ハシゴをするも良さそうです!

ショップが最高にたのしい!
▲「タイムふろしき」も売っています!

展覧会は入場無料なので気軽に行けますが、ショップが楽しすぎるのでお財布だけは忘れずに行きましょう。
もう、全部かわいい! 全部欲しい! 店ごとくれ~ッ! となること請け合い。珠玉のドラえもんグッズに加えて本展オリジナルグッズもあり、物欲で頭が混乱します。


オリジナルグッズのひとつ、ドラえもん×HOCUS POCUSのコラボドーナツ
私は「しずかちゃん」をイメージしたドーナツを食べてみましたが、ほんのり桜風味の中にシナモンやクローブといったスパイスがキリっと効いていておしゃれな味でした。
見た目もパッケージも可愛いので、お土産にも良さそう。


こちらは自分の好きな色や絵柄を組み合わせてセミオーダーできるTシャツ。右上の黒いTシャツには黒のプリントで「みえない」のコマが印刷されており……うーん、本当に見えにくくて最高である!

そして会場で「でかい1コマ、欲しい~!」となった方にオススメなのが1コマ拡大ポスター!
私がゲットしたのは名作中の名作「のび太の恐竜」の1コマですが、写植の状態がこんなにリアルに再現されており、高解像度スキャン、マジ高解像度。額装して部屋に飾ろう。

▲ポイントカードと比較するとかなり大きいことがわかります

▲バッチリわかる写植の跡。高解像度万歳!


さまざまな都合で会場に足を運べない方も、オンラインショップにてオリジナルグッズを購入することができるので、ぜひ公式サイトを覗いてみてくださいね。※オンラインでの販売開始は3月18日から。

また、本展開催のきっかけとなった拡大原画集の紹介コーナーもありました。
『THE GENGA ART OF DORAEMON ドラえもん拡大原画美術館』は、なんと美術ライターの橋本麻里さんが編者とのこと、よって橋本さんらしさ全開の特別コラムも組まれています!
本展会場である「ほぼ日曜日」で購入すると六つ切アートカードの特典がついてくるそうですよ。もちろん「ほぼ日曜日」のオンラインストアでも同じ特典内容で購入できます。


▲運慶の長男・湛慶の重文《子犬》とドラえもんのフォルムの比較など、まさに橋本さんならではの視点! ほかにも国宝《舟橋蒔絵硯箱》とドラえもんのフォルムを比較しているコラムもあり、その丸さに「たしかに!」と笑ってしまいました。


普段はにこにこして笑顔や勇気を与えてくれるドラえもんの版元(小学館)が、「ドラえもんはマクロ(漫画作品)もすごいがミクロ(1コマ)もすごいぞ!」と作家の鋭才性を真顔でぶつけてくる展覧会。
期間中は無休、夜8時まで開いているので、仕事帰りにも寄ることができそうです。
漫画に対する新たな視座を与えてくれる「ドラえもん 1コマ拡大鑑賞展」、ぜひ驚きを浴びてください!
そうそう、この回無くしてドラえもんは語れない、「おばあちゃんのおもいで」もあるよ~。見て泣こう‼

▲「おばあちゃんのおもいで」より(小学三年生 1970年11月)


ドラえもん 1コマ拡大鑑賞展
会期:2021年3月13日(土)~4月18日(日)
会場:ほぼ日曜日(渋谷PARCO8階)
時間:11:00~20:00
入場料無料
▶ほぼ日曜日 公式WEBサイト
※混雑状況は、ほぼ日曜日のTwitterアカウント(@hobo_nichiyobi)にて確認することができます。