約50名のアイドルが自分の部屋を公開! 写真集『IDOL STYLE』(アイドル・スタイル)の衝撃
こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。
おススメの新刊を紹介する、この連載。
第38冊目はアイドルとアイドルのファンの自室を並べた画期的な写真集『IDOL STYLE』(アイドル・スタイル)です。
■伝説の写真集『TOKYO STYLE』から約30年
1993年に発売され、いまなお愛され続ける伝説の写真集があります。それが都築響一さんが撮影した『TOKYO STYLE』(トーキョー・スタイル)。
この『TOKYO STYLE』は嘘くさい、生活臭が感じられないおしゃれな部屋ではなく、東京で暮らす人々のナマの生活空間を写し取ったリアル極まりない写真集です。ありそうでなかった「普通の人が暮らす普通の部屋の写真集」は、トレンディブームの終焉にとどめを刺す強烈なカウンターでした。
部屋の写真から住む人の声や息づかいまでも聴こえてきそうな『TOKYO STYLE』は「若者のバイブル」と呼ばれ、文庫化や新装化、電子化などかたちを変化させながら、令和の現代に読み継がれています。
■アイドル50名が勇気を出して自宅を公開
そして『TOKYO STYLE』から28年も経ったいま、都築響一さんは新たなる「リアルなお部屋の写真集」を上梓しました。それが『IDOL STYLE』(アイドル・スタイル/双葉社)。約50名のアイドルの部屋を撮影した、前代未聞の写真集であります。
撮影期間は2014年~2019年の5年間。表紙で部屋を公開しているのが、BiSの当時のリーダー、プー・ルイ。かつてBiSのメンバーだったファーストサマーウイカや、同じDNAを継ぐ豆柴の大群がテレビメディアを席巻する昨今、かつて一大地下帝国を築いたプー・ルイが、この5年のアイドルシーンを総括するかのように堂々表紙を飾る。胸が熱くなりますね。
ページを開けば、登場するのはBiSのほかに、PASSPO☆、リリカルスクール、ライムベリー、がんばれ!Victory、predia、BELLRING少女ハート、アリスインアリス、おやすみホログラム、まなみのりさ、Qam、あヴぁんだんど、青山☆聖ハチャメチャハイスクール、GLITTER☆、WHY@DOLL、ハウプトハルモニー、ただの女の子。、劇場版ゴキゲン帝国、tipToe.、・・・・・・・・・、せのしすたぁ、ミライスカート、エレクトリックリボン、虹のコンキスタドール、校庭カメラガール、ANNA☆S、ラブアンドロイド、愛乙女☆DOLL、FES☆TIVE、マボロシ可憐GeNE、アキシブproject、GANG PARADE、TokyoCheer2Party、むすびズム、Maison book girl、ILoVU、ノンシュガー、ヲルタナティヴ、Pimm's、ユイガドクソン、ハッピーくるくる、いちごみるく色に染まりたい。、絶対直球女子! プレイボールズ、東京CuteCute、HAMIDASYSTEM、神使轟く、激情の如く。、桃色革命、SKOOL GIRL BYE BYEなどなど。
*表記は写真集『IDOL STYLE』に準しています。現在は改名しているグループもあります
ひとことで「アイドル」といっても多種多彩。地下アイドルと呼ぶのは気が引けるほどにメジャーだったり、反対に地下アイドルと呼ぶには地底すぎたり。「知ってますとも!」と胸を張れる人たちもいれば、不勉強ながら「・・・・・・・・・」をはじめ読み方すらわからないグループも。改名などを経て永く活動中のグループもありますが、はかなく散って消息が分からない戦士たちもいる。「もしもあの娘がマネージャーと逃避しなければ……」PerfumeやももいろクローバーZ、でんぱ組.incクラスになれた悲劇のグループも、なかにはいたでしょう。悲喜こもごもです。
■ファンの孤独死をアイドルが発見
アイドルたちのエピソードも、また強烈。自分の生誕祭に来なかった常連オタを心配して、アイドルが逆に彼の住所を調べて家を訪ねたら孤独死していたとか、ノイローゼになって高速道路を走るツアー車から飛び降りようとしたとか。住む家がなくなって漫画喫茶に寝泊まりしながらライブ出演を続けていた女子も。
そう、アイドルの部屋の写真集『IDOL STYLE』は、単なる「女子の部屋、覗きた~い」というスケベ心を満たすものではありません。彼女たちがあがきながら必死に生きてきた瞬間、これを活写した、アイドル史を語るうえで極めて重要かつ貴重な遺例集なのです。
■アイドルのファンたちの部屋も同時公開
「ストーカーは瞳に映る景色から住所を割りだせる」と恐れられる時代に、現役、あるいは撮影当時は現役だったアイドルたちが自室を公開しているなんて衝撃的。けれどもこの写真集の衝撃波は、それだけにとどまりません。それはアイドルの部屋の隣ページにファンの部屋も並んでいる点。
この見開き対比が面白い。ゴミ屋敷同然の汚部屋に住むアイドルと、デュアルディスプレイで整然とマルチモニター空間を構築するクールなファンの部屋が並んでいたり、どっちがアイドルなのかわからないほどかわいい「女オタ」の部屋が並んでいたり。なんだか隣にいるファンたちがアイドルたちの護衛や身代わりを果たすしもべとして待機しているみたい。
「アイドルファンの部屋」の固定観念も爽快に破壊されます。みんな本当に部屋がきれい、清潔。というか、驚くほど部屋に何もない。よくテレビや映画で再現される「壁いっぱいアイドルのポスター」「フィギュアやアイドルグッズ満載で足の踏み場もない」光景が、いかに嘲笑をもって誇張されているかが、よくわかります。
思えば、地下アイドルの物販にB1やA0サイズのでっかいポスターなんてない。推し活で購入するものといえば、もっぱらTシャツやステッカーなどコンパクトに収納可能なグッズ。そしてファイリングできるチェキなのですから。イベント全通を目指したり遠征をしたりするなら、軍資金もかかります。そのため生活はシンプルに、スマートに。まるで修行僧のように清らかです。部屋には物がない、あるのは見返りを求めない情熱。これが「その後のTOKYO STYLE」なのでしょう。アイドルという観世音菩薩に尽くし、粛々と功徳を積む彼らの幸せを願ってやみません。
■コロナで苦境に立たされるライブアイドル
「いやあ、すごい写真集だった。画像の訴求力がエグすぎる」とページを閉じたとき、偶然にも収録されているアイドルのひとり、里咲りささんが株式会社を設立するニュースが飛び込んできました。そういえば、同じく部屋を公開している眉村ちあきさんも昨年『眉村ちあきのすべて(仮)』というドキュメンタリー映画が公開されています。みんな、こつこつ前進している。
ライブアイドルにとって新型コロナウイルス禍で活動がままならない状況は過酷でしょう。けれども大雪をかき分けるとフキノトウが芽を出すごとく、ひたむきに続けている人には、いつかいいことが訪れる。でないと残酷すぎますよ、世の中。一枚の画像に映画一本分以上の情報量がある『IDOL STYLE』。関わった全員がハッピーになってほしい。心から祈ります。
さて、この新刊『IDOLE STYLE』は月刊誌『EX大衆』の連載をまとめた写真集です。都築さんはこの連載の前に、演歌カラオケ専門誌『カラオケファン』において演歌歌手を「自宅で」インタビューする「わが家へそうこそ♪」をやっておられました。演歌歌手の部屋もまた独特。大好きで毎月読んでいたんです。あの連載も写真集にしてほしいな。タイトルはもちろん『ENKA STYLE』で。
IDOL STYLE
著 : 都築響一
定価:本体5,800円 + 税
双葉社
90年代初頭、無名の人々の部屋を撮影し、若者と生活のリアルを見せた傑作『TOKYO STYLE』発表。
30年近くの時を経て生み出された本書では、虚実の狭間で生きるアイドル総勢50名超の部屋と、彼女たちが住む世界を支えるファンの部屋を5年間に渡って撮影。
スポットライトやサイリウムではなく、蛍光灯に照らされた選ばれし者たちの姿に、だれも見たことのない「リアル」がある!
根岸愛(PASSPO☆)
プー・ルイ(BiS)
mei(リリカルスクール)
MIRI(ライムベリー)
がんばれ!Victory
林弓束(predia)
仮ちゃん(BELLRING少女ハート)
花梨(アリスインアリス)
カナミル(おやすみホログラム)
みのり(まなみのりさ)
日向恵依(Qam)
星なゆた(あヴぁんだんど)
里咲りさ
星園まりん(青山☆聖ハチャメチャハイスクール)
ゆみーる(GLITTER☆)
青木千春&浦谷はるな(WHY@DOLL)
相沢光梨(ハウプトハルモニー)
一ノ瀬春奈(ただの女の子。)
白幡いちほ(劇場版ゴキゲン帝国)
成瀬ゆゆか(tipToe.)
有坂愛海
眉村ちあき
・(・・・・・・・・・)
白川花凛
まお(せのしすたぁ)
ヨネコ
大石理乃
児島真理奈(ミライスカート)
erica(エレクトリックリボン)
他
※グループ名、芸名等は取材時点のもので、現在は脱退等で、変更しているケースがあります。
当時の記録として、月刊誌連載での取材時点のまま、掲載しております。ご了承ください。
https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-31553-0.html
吉村智樹