ドキッ!電線だらけの展覧会。高圧碍子もあるよ。

2021/2/2 21:55 Tak(タケ) Tak(タケ)

綺麗な夕焼けの写真に収めようとしたら、電線が写り込んでしまいちょっとがっかり何て経験ありませんか。

美的景観を損ねるものとして厄介者扱いされており、新居に引っ越し窓の外を見ると視界にまず電線が入ってしまいがっかりしたことも。

もっとも、これくらまで存在感があれば、鉄塔も含め電線も立派な風景の一部として成立しちゃいますけどね。



日本の風景の中に当たり前のように存在している電線は、海外の人にとっては興味の対象であるようで、アニメ作品に登場する電線だけを集めたブログまであるほどです。

Power Lines in Anime

確かに「エヴァンゲリオン」でも電線は非常に象徴的に描かれていました。

さて、そんな電線を画家も見逃すはずはありません。電線が描かれている絵画が思った以上に存在するのです。


小林清親《従箱根山中冨嶽眺望》 明治13年(1880)大判錦絵 千葉市美術館蔵

明治維新後、文明開化の象徴でもあった華やかで憧れの的だった時代も電線にはあったのです。「おらが村にも電線が!」と歓喜したに違いありません。

見慣れた富士山も木製の電信柱や電線越しに捉えると、とても新鮮なものと映ったのでしょう。小林清親は意図的に取り入れています。


小絲源太郎《屋根の都》 明治44年(1911)油彩、キャンバス 東京藝術大学大学美術館蔵

この作品など電線を描きたかったのではと思ってしまうほど画面に閉める割合が多く、大きな存在感を放っています。

街中に電線が設置されたのが1869年のこと。

それから瞬く間に広がり、人々の生活になくてはならぬものとなりました。電線が「モダンな生活」のシンボルとして憧れをもって捉えられていた時代の作品です。


川瀬巴水《東京十二題 木場の夕暮》 木版画 大正9年(1920) 渡邊木版美術画舗蔵

抒情的な日本の風景を新版画として制作し、海外でも高い評価を受けた川瀬巴水も、あえて電線を主役にしたような作品を残しています。

大正14年制作の「東京二十景『芝 増上寺』」のような日本ならではの美しく抒情豊かな版画作品だけでなく、急速に進む近代化される都市の様子もこうして捉えていたのです。


朝井閑右衛門《電線風景》 昭和25年(1950)頃 油彩、キャンバス 横須賀美術館蔵

時代は昭和となり、戦争を終えた頃にはこんな明確な「電線絵画」も描かれるようになります。

1946年に上海から帰国した浅井は横須賀に居を構え、電線をテーマとした多くの作品を描いたそうです。果たして何が彼をそうさせたのでしょう。

ひとつだけ言えるのは浅井にとって電線は、現代人が忌み嫌いような邪魔ものでは決してなかったことです。


岡鹿之助《燈台》 昭和42年(1967)油彩、キャンバス ポーラ美術館蔵

岡鹿之助の作品の中にもしばしば電線が登場します。代表作でもある「冬の発電所」にも堂々と電線と電信柱が描かれています。

点描で描かれた岡の技法にばかり目が行きがちですが、今回はしっかりと電線に注目しましょう。

さて、現代では注目されるどころか、目の敵にされている電線をモチーフとした絵画を敢えて描いている画家がいます。山口晃さんです。


山口晃《演説電柱》平成24年(2012)ペン、水彩、紙 個人蔵 
©️YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery

2015年に水戸芸術館で開催した「山口晃展 前に下がる 下を仰ぐ」では、会場内に実物大の電柱や電線をインスタレーションとして展示するなど、電線に対する想いは並々ならぬものがあります。

2010年頃から「柱華道」と称し電信柱に関する作品を発表してきた山口晃さん。かつて憧憬の対象であった電線を再び主役として絵画の世界で取り上げたのです。

さて、これまで紹介してきた明治から平成までの電線を描いた絵画を集めた展覧会「電線絵画展」が練馬区立美術館で開催されます。


「電線絵画展-小林清親から山口晃まで-」
会期:2021年2月28日(日)~4月18日(日)
休館日:月曜日
開館時間:午前10時~午後6時 ※入館は午後5時30分まで
主催:練馬区立美術館(公益財団法人練馬区文化振興協会)
出品協力:東京国立近代美術館

練馬区立美術館
https://www.neribun.or.jp/museum.html

もしかしたら、今年一番の注目展になるかもしれません。

電線が有しているポテンシャルはアートファンだけでなく、多くの人の心を捉えるはずです。要チェックです!

因みに、こんなものまで出ますよ!(誰得なんだ…)


松風陶器合資会社 《高圧碍子》 明治39年(1906) 磁器 東京工業大学博物館蔵 

以下、練馬区立美術館公式サイトより。

この展覧会は明治初期から現代に至るまでの電線、電柱が果たした役割と各時代ごとに絵画化された作品の意図を検証し、読み解いていこうとするものです。

文明開化の誇り高き象徴である電信柱を堂々、画面中央に据える小林清親、東京が拡大していく証として電柱を描いた岸田劉生、モダン都市のシンボルとしてキャンバスに架線を走らせる小絲源太郎、電線と架線の交差に幻想を見出した“ミスター電線風景”朝井閑右衛門。一方で、日本古来よりの陶磁器産業から生まれた碍子(がいし)には造形美を発見することができます。

電線、電柱を通して、近代都市・東京を新たな視点で見つめなおします。


『川瀬巴水作品集』