あなたの「推し」は誰?「人類にとって『推し』とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた」

2021/2/2 22:30吉村智樹吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


おススメの新刊を紹介する、この連載。
第37冊目「人類にとって『推し』とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた」です。





「推し」がいるあなたはもちろん、いないあなたも、きっと「うんうん!」と、うなずきながら楽しめる一冊ですよ。


■「推し」が「芥川賞」を受賞する時代


宇佐見りんさんの小説『推し、燃ゆ』が、このたび第164回「芥川賞」を受賞しました。


「推しは私の背骨だ」「推しのない人生は余生だった」
そこまで言い切るほどアイドルの推し活にいれこむ高校生の女子が、ある日SNSで「推しの炎上」を目の当たりにし……「推し」に心をかき乱されながら、その後は……。たとえ「三点リーダー症候群」だと罵られようとも「……」を使ってファジーに表現せざるを得ないほど、彼女の胸中にはひとことで言いようがないさまざまな変化が起きるのです。


自分の「推し」が非難の声を浴びる現状から生み出される苦悩。けれども主人公の女子は「推し」を愛し抜こうとします。読者からは、主人公の女子がけなげに「推しを推す」姿勢に「わかりみが深すぎる」と共感の嵐が吹きあがりました。


ぴえん涙を呼ぶこの小説は、単に芥川賞を受賞したのみの話題では終わりそうもありません。2000年代に入って芽吹いたキーワード「推し」を一般用語化する決定打となりそうです。2021年の流行語大賞に「推し」、クルんじゃないでしょうか





■37歳にして「推し」に目覚め、人生が変わった


そんな「推し」がスポットライトを浴びる絶好のタイミングで発売された、話題の本があります。それが「人類にとって『推し』とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた」(サンマーク出版)。


著者は男性俳優のインタビュー記事が素晴らしいと評判のライター、横川良明さん。Twitterのフォロワーが2万人を超えるインフルエンサーです。


現在39歳の横川さんは、37歳で「推し」の魅力に気がつくまで、一介の冴えないライターだったと省みます。ひとり淡々と仕事をこなし、疲れたら眠る繰り返し。そうして生きる喜びを実感できないなか、ひとりの「推し」に魅せられ、「沼」へとハマっていくのです





■ジャニーズ・ファンの姉の影響が強かった


横川さんが目覚めた「推し」、それは「若手イケメン俳優」


もともと姉ふたりが熱狂的なジャニーズ・ファン。上の姉はKinKi Kids、2番目の姉はSMAPにハマり、部屋の壁はポスターでいっぱい。つねに雑誌「Myojo」「Duet」が閲覧可能状態。横川さんはそんなジャニーズ沼な家庭環境で育ちました。そうして姉ふたりの影響で自分も香取慎吾さんの大ファンに。「姉がジャニーズなら、じゃあ僕はハロプロで」とはならず、男の子が男の子を推す土壌が、すでに少年期にできていた様子。





香取慎吾さんにときめいた十代。忘れていた甘美なあの頃の記憶が蘇ったかのように、冴えない日々を送っていた四十路前ライターの暮らしは「推し」の出現で急激な変化を見せます。これまで嫉妬の果てに呪いまでかけていた他のライターの活躍などどーでもよくなり、Googleカレンダーは「推しスケジュール」で満載に。「推し」に課金をするため仕事をいっそうバリバリやるようになり、さらに無駄に習慣になっていた酒場でのだら飲みを断ち、節約を心掛けはじめました。


この本がビジネス書の版元から発売されている意味がよくわかります。「推し」の経済効果って、ハンパないんです


■「推しに恥ずかしくない生き方がしたい」


「推し」に夢中になるだけではありません。「あの俳優のファンは質が悪い」と思われないよう品行方正となり、ついつい吐いてしまっていた人の悪口を「推しが見てるかも」と慎むようになるなど、推しに恥ずかしくないように生きたいと考えはじめましたのだそう。





「推し」に出会うまで、死んでもいいとすら思うほど沈む毎日を送っていた横川さん。ところが事態は一変。カレンダーに記された「推しの公演日」までは死ねないと、気持ちがすっかり前向きになりました。そう、「推し」と出会った日から、横川さんの人生は活き活きと輝き始めたのです


明るい話題だけではありません。若手イケメン俳優を推す横川さんは、男性が男性のファンになることで、さまざまな差別的視線を感じるようにもなります。男性が男性を好きになる気持ちへの偏見は令和になっても根強く残っている。「推し」は横川さんに当事者として社会問題に触れるきっかけをも与えてくれたのですね。


■「推し」が見せてくれた新しい地図


このように「推し」は自分のなかの狭い固定観念を壊し、踏み込んだ経験がない世界へと連れていってくれます。僕は毎週、中年サラリーマン向け週刊誌「週刊大衆」で仕事をしています。この雑誌、どういうパイプがあるのか、なぜか他の男性誌に較べて香取慎吾さん、稲垣吾郎さん、草彅剛さんのインタビューが掲載される確率が高いのです


しかし他のページは、女性にはまったくニーズがない、お色気記事がほとんど。表紙を開くと、いきなり熟女ヌード写真が袋とじになっています。女性がコンビニのレジへ持っていくには、とてもとてもハードルが高い雑誌なのです。なのでファンのあいだでは、この雑誌を買う行為を「週刊大衆チャレンジ」と呼んでいるのだそう。そうしてオヤジ系週刊誌という新しすぎる地図を開いてゆくことに――。


「推し」がいるライフスタイル。それは生きづらい世の中をサバイブするための、大切な杖なのかもしれません。わたくしごとですが、老いた母は彦根のゆるキャラ「ひこにゃん」を推しており、ひこにゃんが現れるステージはできる限り観に行っています。それだけではなく、ここ数年はひこにゃんに現金書留で「お年玉」を送っております(どこに!)。はたで見ていると「もったいない」と思うのですが、母はひこにゃんのおかげで、とても楽しそう。人類にとって「推し」がいっそう心の拠り所になる時代が来るのでしょうね。



人類にとって「推し」とは何なのか、
イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた
著者:横川良明
1,400円 + 税
サンマーク出版

なぜ、人類には「推し」が必要なのか?
「推し」とは一体、何なのか??
NHK「あさイチ」(10月5日放送)で、「推しのいる生活」特集が放送された際、史上最多の視聴者コメント数が届いたそうです。

今、注目を集めている「推し」。
「推し」とは、ファンであることを超えて、誰かにお勧めしたくなってしまうほどに、大好きな人や、もの、キャラクターのこと。

一体なぜ、「推し」はそんなに熱狂されるのか?
ファン(=オタク)たちは、どうしてそんなに「推せる」のか?

この本は、「オタクあるある」から「なぜそうしてしまうのか」の考察まで、その笑いも涙もすべてを書いた、決定版の一冊です。
すべての推しがいる人に、そして、ファンの心理について知りたい人にも、ぜひ読んでいただきたいです。

聞いてくれ、推しがいる人生のすばらしさを。

・テレビの前で高校球児くらいピュアな涙を流せる
・全力で「好き」と思える人やものができる
・学校や職業ではなく、「好きなもの」から友達ができる
・推しの前では、母でも仕事人でもないただの人間になれる
・声に出して名前を呼ぶだけで、甘酸っぱさで心が爆発する
・推し活の予定が、今日と明日を違うものにしてくれる
・自分の価値なんてわからなくても、今日も推しが生きている!

アイドル・アーティスト・俳優・芸人・スポーツ選手・アニメキャラ……どんな推しも等しく尊い。
https://www.sunmark.co.jp/detail.php?csid=3872-9


吉村智樹