笑えて泣ける受賞作!『100日間おなじ商品を買い続けることでコンビニ店員からあだ名をつけられるか。ビスコをめぐるあたたかで小さな物語』

2021/1/26 17:00吉村智樹吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


おススメの新刊を紹介する、この連載。
第36冊目『100日間おなじ商品を買い続けることでコンビニ店員からあだ名をつけられるか。ビスコをめぐるあたたかで小さな物語』です。


noteで爆発的にバズりまくり、オモコロ杯2020年最優秀賞を受賞した話題の記事が遂に書籍化したんです!





■なにごとも三日坊主なあなたに贈る100日間の物語


あなたは「毎日、続けている」習慣、ありますか?
家計簿、筋トレ、ブログ、英会話、資格取得の勉強などなど「続かなかった」「三日でやめちゃった」挫折経験があるのでは。


わたくしごとです。「運動不足のために」購入したノルディック・ウオーキングのポール、三日どころか、いまだ開封すらしていません。購入した瞬間にやる気がピークを迎えてしまいました。根気のなさなら誰にも負ける気がしない僕。それでも、まさかこんな想像を絶するスピードで挫折するとは。


でも、それはやっぱりよくないんです。続けないのは。飽きても、めんどくさくなっても、「だりーな」と感じても「続けるって大事なんだな」と話題の新刊『100日間おなじ商品を買い続けることでコンビニ店員からあだ名をつけられるか。ビスコをめぐるあたたかで小さな物語』(光文社)を読んで改めて考えさせられました。この本には「続けた人にだけが見える幸福な光景」が描かれているのですから。





■3軒のコンビニで100日間「ビスコ」を買い続けるとなにが起きる?


『100日間おなじ商品を買い続けることでコンビニ店員からあだ名をつけられるか。ビスコをめぐるあたたかで小さな物語』の著者与謝野さんはごく一般的な会社員。特段に社交的な性格ではありません。行きつけのうどん屋さんでも決して「自分は常連だ」と大きな顔をしたりしない。お店の人から顔を憶えられたら、むしろ照れくさいと思う、奥ゆかしい人。


お店のスタッフと懇意になる経験が少ない与謝野さん。そんな彼がある日ふと「100日間おなじ商品を買い続けることでコンビニ店員からあだ名をつけられるか」とひらめきます。そして実行に移すのです


与謝野さんが「毎日買う」と決めた商品、それは、まあまあ好きという理由で「ビスコ」


与謝野さんのグッジョブな点、それは一軒ではなく3社3軒のコンビニを同時に100日間めぐったこと。ローソン、ファミリーマート、デイリーストア。3社のコンビニを比較しながら進行していくのです。これにより観察の視点が多様化し、めちゃめちゃおもしろい事態に。3軒を出入りするため、たった一つのビスコから、さまざまな人間模様が生まれたのです(記事をつくるうえで、この多面構成は、すっごく勉強になりました!





■コンビニ店員との小さな交流が生みだす感動



毎日コンビニに通い、ビスコだけを買う。とてつもないシンプルな行為。にもかかわらず与謝野さんには見えてくるものがたくさんありました。棚に商品が置かれるサイクル、店員のピアス率、レシートを自ら渡す人・渡さない人の違い、コンビニにおけるビスコの位置づけ、などなど定点観測しなければ知りえなかった世界が広がります。こうして与謝野さんは次第に店長より詳しいのでは? と思うほど店員のシフトも把握してゆくのです


与謝野さんの心のなかにも変化が起きます。ビスコばかり買うヘンな人だと思われる緊張感、馴れ、惰性期、原点回帰、そして達成感。日々同じことをしているだけなのに感情はうねってゆきます。100日間コンビニでビスコを買う、その行為がなんだか悟りを開くために行う比叡山の千日回峰行のよう。


1日数分、ヘタすりゃ1分にも満たない店員さんとの交流。けれどもその小さな出会いから、人は少ぉしずつ心のドアを開け始めます。与謝野さんが一度だけビスコを買わなかったとき、店員さんは驚きの声をあげました。ビスコばかり買うヘンなお客さんは、いつしか店員さんたちにとっても心の拠り所となり、心配したりされたり、友情ともまた違う「コン情(コンビニ情)」が芽生えていたのです。


与謝野さんは、ある日いつもいるちょいヤンキー風味な店員さんが退店すると知り動揺。自分でも意外なほどの喪失感が湧きあがります。ここ、すごくいいシーンなんです。僕も読んでいてパピコのように心が二つに割れました。





■100日間コンビニに通って見えた社会問題


ビスコを毎日ひたすら買い続けるという「ちょっとおもしろ」発想から始まったこのチャレンジ。日を追うごとに与謝野さんは、イジメのような軽減税率の導入、プラチック製買物袋の有料化義務づけ、極めつけの新型コロナウイルスと、社会問題に対峙せざるをえない運びとなります。


だからでしょう。書籍用に書きおろされた後日談やあとがきは、ビスコのようにサクサクと軽妙洒脱にnoteに綴られていた100日間のセリフリポートより筆致が重く、ジャイアントコーンのようにずっしりきます。コンビニに毎日通い、店員さんと情を交わしたからこそ、働く人たちを案ずる気持ちが募るのでしょうね。


著者である与謝野さんも、通い始めた当初はコンビニを取り巻くシビアな問題について考えるようになるとは想像していなかったでしょう。毎日ひたむきに同じことを続けたからこそ「それぞれが抱えるキツさ」が見えたんですよね。ゆえに、あとがきが胸にグッと刺さります。


続けるって、やっぱり大事。ワニは100日後に死んでしまいました。けれども、100日後に誕生する感情や知見もあるわけです。なにごとも、続けてみましょうよ





■結局「あだ名」はつけられたのか?


この本に、大きなドラマはありません。コンビニに訪れるお客さんと店員さんとの、ささやかな会話が綴られているだけ。けれども、まるでコンビニの陳列棚に並ぶ商品のように、小さくとも多種多彩な感動があります。エピソードの一つひとつが愛おしく、カードにポイントが貯まるかのごとく心のなかに積み重なります。だから大笑いしながらも、いつしか涙してしまうのです。


さて、ではですよ。果たして与謝野さんに「あだ名」はつけられたのか? 答は……ぜひとも本を読んでみてください。


いやあ、おもしろい本です。
僕にお金があったら、毎日この本を書店で購入するのですが。「ビスコ本のお兄さん」とあだ名をつけられるまで。



100日間おなじ商品を買い続けることでコンビニ店員からあだ名をつけられるか。
ビスコをめぐるあたたかで小さな物語
与謝野/著
1,000円+税
光文社

2020年1月にnoteにアップして以来、SNSで多くの反響と感動を巻き起こした記事が待望の書籍化!
はたして、100日間近所のコンビニで「ビスコ」を買い続けたら、あだ名はつけられるのか?
著書を取り巻く小さな日常から、ラストに大きな「物語」が生まれます!
書籍化にあたって、書き下ろしとしてその後の「後日談」も収録。
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334951993


吉村智樹