【ニトリすごい】『ニトリの働き方』に学ぶコロナに負けないサバイバル術

2021/1/12 18:30 吉村智樹 吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


おススメの新刊を紹介する、この連載。
第34冊目は国内約550店舗を展開する家具・インテリアの小売業大手「ニトリ」の秘策を明かした『ニトリの働き方』です。





■「緊急事態」でも休業しなかったニトリが再評価されている


いやあ、えらいことなりました。
ド直球の緊急事態ですよ、いま。


東京をはじめとする一都三県に、新型コロナウイルス対策における「緊急事態宣言」が再び発令されました。僕が住む京都(と大阪・兵庫)も早ければ今週中に発令される見込み。さらに愛知・岐阜も次いで「近日、国に対して発令を要請するのではないか」と報じられています。


しかも恐ろしいことに今回は特別定額給付金を配布する話が、まるで出てきません
命を脅かされる点においては、前回よりさらに厳しい自粛期間になりそうです。


新型コロナウイルス対策といえば、頭に浮かぶのが「ニトリ」。家具・インテリアの小売業大手「ニトリ」がとった方法が、いま再注目されています


前回の緊急事態宣言では多くの企業店舗が休業しました。しかしニトリは生活用品の需要に応えるべく、新規感染拡大の防止に努めながら休業をしなかったのです。*商業施設や百貨店内で展開していた店舗を除く


大手企業でありながら緊急事態宣言発令中も休業しなかった。そのため当時、ニトリは批判を浴びました。しかし同社グループは全社員に対し特別感謝支援金と、往時は入手が困難だったマスク50枚を支給して新規感染拡大防止に努めながら、開店し続けたのです。


この対処に救われた消費者がいたのも事実でしょう。国を挙げての外出自粛なんて誰しも初めての経験。絶望感にさいなまれる人々にとって、ロードサイドの大型店舗に明かりがともっている光景は、未来へつなぐ一縷の望みに感じられたのでは。 


ニトリはその後、いくつかの店舗から従業員の陽性反応が出ました。しかしながら店内カメラで濃厚接触者の有無を確認できるシステムの構築と消毒措置の徹底で、全国展開する店舗ながら最小限に抑えられているといえます。日頃から衛生用品を扱っているのも強みとなっているようです。


こうしてニトリ(二トリホールディングス)は、2020年3~11月期の連結営業利益において、前年同期比の約4割増、1200億円弱となったと伝え聞きます。国難の時代にあって、この利益増はスゴイ。驚異です。





そういえば、ニトリは東日本大震災の被災地にも出店していきました。これも当時はかなり賛否の声があったのです。とはいえ、タオルを買える店があるありがたさを感じたという声も聴きました。ビジネスライクではあるので美談にとらえる気はないけれど、生活用品ってライフラインですから。安価で購入できるのは、ありがたいですよ。みんな生きていかなきゃいけないわけです。


■サバイバルの時期を生き抜くため「ニトリの働き方」を学ぶ


サバイバルの時期を生き抜くため、ニトリの手法には学ぶべき点があるはず。そんな緊急事態の真っただなかに、絶好の商機とばかりに発売されたのが『ニトリの働き方』(大和書房)。この新刊ではニトリが実践している39のビジネスメソッドが公開されています。





著者はニトリホールディングス代表取締役会長兼CEOの似鳥昭雄氏。さらに各部署で働く人々の現場からのナマの声をあわせて構成されています。


まず、本の表紙からいきなりニトリ流が表れているのが素晴らしい。ペーパータオルを思わせるエンボス加工。暗い場所でも指に触れるだけで『ニトリの働き方』であるとわかる。書籍であっても日用品、生活用品のひとつとして流通させたい志向が装丁からも伝わってきます。


■梱包サイズの見直しで作業効率を上げた


ニトリがくだした大きな決断のひとつに「梱包サイズの均一化」があります。販売する商品の大きさは千差万別、まちまちです。けれどもニトリの梱包サイズは数種類。売り場によっては二種類しかないのです。梱包サイズがバラバラだと積載が難しい。在庫の際にも余分なスペースが生じます。物流にも支障をきたすでしょう。たとえ「この商品に、この箱は大きいのでは」と感じても、持ち運びの感覚を商品ごとにその都度変えるより、統一した方が効率はいいのです


導線を滑らかに。積載はシンプルに。ひと手間でも減らせる動作は減らしてゆく。日常生活のなかで減らせるポイントはあるのか、暮らしを振り返って点検してみる。仕事や家事の能率をあげてゆくうえで、とても大事な視線です。





それに新型コロナウイルスにおいて感染拡大防止対策の心構えのひとつに「非接触」があります。ものに触れる機会を一回でも減らす。それはひいては「命を守る」につながるのです。


さらに、梱包サイズの均一化は人間関係にも応用できます。誰かを下に見たり、誰かを上に見あげすぎて媚びへつらったり、ついつい、人によって「容量が異なる接し方」をしてしまう。けれども結局、人によって態度を変えていると、あちこちに軋轢が生じます。「感情のロス」が生まれます。誰に対しても均一な接し方を心掛ける。それが次第に円滑な人間関係となってゆくのです。


■支出を見直すべし。売上アップだけが目標ではない


ニトリには電気料金を見直す部署があります。大店舗を抱える企業ならではのセクションですね。全国のみならず世界にまたをかけて展開する企業ですから、各地方の異なる電力会社とつきあわねばなりません。さらに電力自由化によって電気事業者の数も増加しています。バラバラな電力会社のプランを鑑みながら最適解を導き出す、これは至難の業です。


しかし、部署をわざわざ設けてでも電気料金の見直し、コストの削減に取り組まねばなりません。それは単なる倹約ではなく、未来への持続化を可能とするおこないだからです。





暮らしのなかで無駄な出費がないか、定期的に点検しましょう。電気・ガスなどの料金プランはもちろん、課金したまま放置しているオンラインレンタルDVDサービス、月会費を払っているものの顔を出していないオンラインサロン、あるんじゃないですか。


「質素倹約」だと思うから、気持ちが暗くなってしまう。我慢しないのがポイント。ゆうゆうと軽快に生きるために、重い鎖ははずしましょう。「お、ねだん以上」の暮らしを築くためのセルフ定期点検です。


■「前例がない」に縛られるニッポン


最後に、とても感心したのが、反対意見を押し切って成功した場合、反対した側にも責任を求めることが可能な社風という点。いま、さまざまな停滞の原因が「成功したはずの企画を反対しても、反対した側にリスクがない」ことにあります。失敗の責任って、ヒットに結びつかなかったり、赤字になったりした場合にとらされますよね。けれども反対した企画が他社で成功しても、反対した人の責任は問われない。


これ、おかしいんです。会社に利益をもたらさなかったという点で、同じくらい責任を問われてもいいはずなんです。ニトリは、それがあるから成長できるのでしょう。


強烈な感染力がある新型コロナウイルスの変異株が上陸している。なのに水際で止められない。政治家が会食をオンラインに切り替えられない。きっと、前例がないからなんでしょう。でも、もしかしたらそれが原因で誰かが死ぬかもしれない。著者の似鳥氏が信条とする「即断・即決・即効」が、いかに「きれいごとではなく重要」であるか、身に沁みる昨今です。



ニトリの働き方
似鳥 昭雄 著
1,400円+税
大和書房

増収増益日本一! これがニトリの仕事の基本!
ニトリ創業者が社員に語り続けた原理原則、商売の心得を公開。最前線で働く社員が実践する超具体的な仕事術が満載!

現状を否定するところから仕事は始まる。
「観察・分析・判断」をする力を磨き上げる。
「現場・現物・現実」三現主義を徹底する。
「即断・即決・即行」でなければ、成功はつかめない。
優れたアイデアは「不平・不満・不便」の発見から生まれる。

……ニトリ創業者が社員に語り続けた33の「仕事の原理原則、商売の心得」を大公開!
http://www.daiwashobo.co.jp/book/b527951.html



吉村智樹