❝すべてはすべてである❞ゲーム

2021/1/12 12:21 拓磨 拓磨



タレスは言った。❝すべては水である❞と。
スピノザは言った。❝すべては神である❞と。
アンカは言った。❝すべてはエネルギーである❞と。
ホラインは言った。❝すべては建築である❞と。
七尾旅人は言った。❝すべてはうたである❞と。
親父は言った。❝すべては金である❞と。

僕は言ってみよう───
すべてはすべてである
と。




❝すべては湘南である❞……?

『ね大西』

「ん」

『熱海って湘南なの?』

「熱海?なんで?」

『湘南って言ったら神奈川じゃん。静岡まで行ったら違くね?』

「何w 地元民のプライド?」

『違うけど』

「でも別に、同じ相模湾に面してんじゃん」

『湘南=相模湾沿い、なの?……じゃあ伊東とかも?』

「伊東ってどこ?」

『熱海の下。まあ湘南か。じゃあ下田は?』

「……」

『てか、相模湾ってこれどこまで相模湾?もう距離的には館山とかも湘南になってくるんだけど』

「……」

『大西的にはどこまで湘南なの?』

「……どうでもよくね?w」

『えー、決めようよ』

「………」

『…………』

「……………」

『………………』

「…………なんか」

『うん』

「僕の、さぁ、持論みたいなのがひとつ、あって」

『なに』

「❝すべてはすべてである❞っていう。つまりさ、あらゆる概念は、拡張していけばいずれ森羅万象を包含するんだよ」

『……ほんとか?』

「少なくとも、僕らが日常あつかう形而下的な概念って、デジタルな境界とか定義とか、所与じゃないじゃん?」

『どういうこと』

ハゲのパラドックスだよ。これは数で拡張できるからわかりやすいけど、別にあらゆる概念で同じようなことできると予想していて。だから、僕的には、自明に全宇宙が湘南であって、そのテの議論には参加したくない」

『ちょっと待って』


❝すべては酒である❞

あらゆる概念?』

「そう。何でもできる。……例えば君がいま飲んでるその酒あるだろ?」

『おん』

「すべては酒なんだよ」

『は』

「……酒ってさ。アルコールが1滴でも混じってれば全体が酒じゃん。つまり、いま酒を飲んでる君の体液って、酒になってるよね」

『おう。おう』

「ところで果実酒とかって果肉、つまり固体が混ざってんじゃん。発泡酒は気体が混ざってる。つまり、全部が液体である必要はないんだよね。だとしたら君の体液を含む君全体がお酒であって、君を含むこの居酒屋の個室も一杯の枡酒であって。そうやって拡張してけば結局すべては、宇宙っていうひとつのお酒なんだよね』

『……ま言ってみればね』

「言ってみれれば勝ち」


❝すべてはセーターである❞

『え、じゃあさ、俺がなんか適当に概念言ったらそれ宇宙にできる?』

「まぁ、たぶん……一般名詞なら」

『じゃあねー、……セーター』

「ぜったい僕見て言ったじゃん」

『そうw』

「セーターって何だっけ、……編み物でできたトップスならセーター?」

『だと思う』

「そっか。…まぁまずトップスってのはハゲと同じ要領で、丈がこっからここまでっていうのは無いから、ネックレスからワンピースまで含まれるよね」

『初手が怖いなw ……でも首は通らないとだめだよ』

「……首って人間のじゃなくてもいいよね、ほら、犬用のセーターとかあるから。これもこの動物からダメとか言えないはずなんで、線虫用のセーターとかでもよくて」

『待ってw』

「編み物である以上穴は空いてるから、すべての編み物はセーターでありうるよね」

『そうなっちゃうなー。じゃああとは❝すべては編み物である❞が言えればいいわけだ』

「編み物もさぁ……繊維が絡まってれば編み物でしょ?」

『怒られるよ?』

「知り合いにタンジモトヒロってニットアーティストの人いるんだけど、すごいぐちゃぐちゃな立体作ってて」

『怒られるよ?』

「まあ、で、けっこう色んなもの繊維でできてるじゃん。木とか、紙とか……カーb

『いやいや、でもさすがにすべてではないじゃん?水とかさ、空気とか』

「……超ひも理論っていうのがあって」

『あっもう大丈夫です』



❝すべては了解である❞

『これ面白いね、俺もできるかな』

「できるよ」

『じゃあ何かお題くれ』

「了解」

『………』

「……あ、了解、っていうお題」

『おいww お前、形而下って言ってなかった?最初』

「まぁ……すべては形而下だから」

『ヤバこいつ』

「はい、❝すべては了解である❞ね」

『了解、って何だっけ……調べるか……』

「大事」

『……あー……了解って理解みたいな意味あるね。俺たちは、この椅子を座るものだと了解している。そういう了解がある。みたいな』

「あるね」

『……なんか哲学的だけどさ……俺たちにとっての椅子の本質って、座るものだっていう了解にあるんじゃないかな』

「いいぞww それで?」

『つまり、俺たちが認識してるのって、そのもの自体ではなくて、そのものに対するいろんな側面からの、了解、なんだよね』

「わかるよ」

『だとしたら……主観的には世界って自分の認識してることがすべてだから、すべては了解ってことだよね』

「いけんじゃん」

『……いけたわ。すげえ詭弁だった気がするけど』

「すべては詭弁」

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拓磨

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