新たな一発屋芸人が加わり、伝説のベストセラー「一発屋芸人列伝」が文庫本で復興!

2020/12/24 15:40吉村智樹吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


おススメの新刊を紹介する、この連載。
第32冊目は、M-1グランプリなど「お笑い」の大きな賞レースがひと通り終わったいまだからこそ読みたい『一発屋芸人列伝』(文庫補強版)です。





■一発屋のコウメ太夫がM-1に参戦?


12月は「お笑い」が激アツです。女芸人No.1決定戦「THE W 2020」四代目女王はピン芸人の吉住に決まり、漫才頂上決戦「M-1グランプリ2020」16代目王者の栄冠はマヂカルラブリーの頭上に輝き、2組のチャンプが誕生しました。


マヂカルラブリーの優勝に対しては「あれは漫才じゃない」「いや、漫才だ」論でネットが紛糾キング・オブ「一発屋芸人」コウメ太夫がTwitterで、


{漫才か}{漫才じゃないか}の議論かと思ったら~、

私は{芸人か}{素人以下か}で議論されてました~。

チクショー!! #まいにちチクショー


……と、笑いをもって消化活動の役割を果たしていたのが、お見事でした。コウメ太夫に「チクショー!!」と叫ばれたら、マヂカルラブリーの優勝ネタが漫才か漫才でないかについて考える時間が、もうどーでもよくなってきますしね。さすが「一発屋」と呼ばれながらも消えることなく、一発屋として愛され続ける人の言うことは違います。





■過去の「一発屋」と「ぼる塾」の違い


「一発屋」といえば、「THE W 2020」を観ていて「おもしろい現象が起きているな」と感じました。


「THE W 2020」ファイナリストに勝ちあがった「ぼる塾」の田辺智加が言い放つ決め台詞「まあねぇ~」。これは2020年度「新語・流行語大賞」にノミネートされています。


これまで「流行語大賞」は別称「芸人の鬼門」と呼ばれてきました。


たとえば、パイレーツ「だっちゅーの」、エド・はるみ「グ〜!」、スギちゃん「ワイルドだろぉ」、レイザーラモンHG「フォーー!」、ねづっち「ととのいました」、楽しんご「ラブ注入」、とにかく明るい安村「安心して下さい、穿いてますよ」、ブルゾンちえみ「35億」、日本エレキテル連合「ダメよ~ダメダメ」などなど、これまでほぼ毎年、芸人さんのギャグが選ばれてきたのです。


そして流行語大賞の各賞を受賞あるいはノミネートされると必ずと言ってよいほど、その後ギャグが本人もろとも消費され尽くし、鮮度を失い、のちに「一発屋」と呼ばれてしまうケースが多い。だから流行語大賞に選ばれてしまうのは危険だと。


しかし「ぼる塾」の場合は異なります。流行語のみが先行し、本人たちは無傷のままあとから認知され、フレッシュなまま「ネクストブレイク」と呼ばれている。これまでの「一発屋」と呼ばれる多勢のように食い尽くされた感がない。そんな新しいカタチを見せています。芸人さんたちにとってこれは新しいパターンでしょう。まるで「NHK紅白歌合戦」への出場が決定してからデビューするNiziUのようです。


情報が高速で伝播し、本人たちの認知を超えてしまう。月並みな表現ですが、これが「時代の変化」なのでしょう。





■新たな一発屋を加え帰ってきた「一発屋芸人列伝」


時代の変化を感じ取れる本と言えば、髭男爵・山田ルイ53世が記した新刊『一発屋芸人列伝』(新潮文庫)をおススメめしたい。


この新刊『一発屋芸人列伝』は、2018年に発売されベストセラーとなった同名単行本に新たな一発屋メンバーの取材を加えて文庫化した2020年度最新補強版です。


先に発売された単行本は「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を受賞。山田ルイ53世氏の文才は広く知れ渡り、こちらもベストセラーとなった「ヒキコモリ漂流記」を始め、この2年で続々と新刊を上梓。もう「タレント本」とは言わせない人気の著者となりました。つまりこの『一発屋芸人列伝』は、山田ルイ53世自身が一発屋を脱する第一歩を踏み出した記念すべき一冊なのです。





■実はさまざまなパターンがある「一発屋」


この本を読んでいると、ひとことで「一発屋」といっても辿るコースはさまざまであるとわかります。


一発屋化した夫を支えるため妻が始めた事業が大当たりしたレイザーラモンHG。売れていた時にアパートを一棟購入したおかげで家賃収入でしのげたコウメ太夫。テレビから消えたと思いきやテレビを断らざるを得ないほど営業で大人気だったテツandトモ。「サイン会0人事件」がSNSで知れ渡り再び陽の目を見たジョイマン。縁もゆかりもないローカル局に救われたムーディ勝山。「ロケバスの運転手」となって別のかたちで芸能界とつながる天津・木村。拠点を九州へ移して局地的な人気タレントとして返り咲いた波田陽区。自ら「一発屋」に加わることで仕事量をキープし続けた逆転手法のキンタロー。


そして……人気絶頂期に収録中の大けがのために急ブレーキを踏まざるを得なくなったスギちゃん。人気絶頂期に「文春砲」をくらって一気にイメージをダウンさせたとにかく明るい安村。いまだ人生の迷路をさまようハローケイスケと、人生模様は千差万別。ありとあらゆるパターンがあり、ひとことで一発屋といっても多種多彩な落とし穴があり、「一発屋にならない方が難しい」と感じます。





■闇営業にコロナ。一発屋の列伝は終わらない


感慨深いのが、この本が書かれた2018年にはまだ「闇営業」も「新型コロナウイルス」も話題にはのぼらなかった点。レイザーラモンHGとムーディ勝山は、本書で取材されたのちに2019年に反社会勢力と接触したとして(情状を酌量すると、彼らは反社会勢力だとは知らなかったのですが)謹慎期間が設けられ、レギュラー番組をクビになるなど再び仕事を失いました。2020年は2度目の這い上がりに懸ける一年となったのです。いやあ、生きていくのは本当にたいへん。『一発屋芸人列伝』発売後も、彼らの列伝は続いていたわけです


そこへきて追い討ちをかける、新型コロナウイルス。よもや芸人さんのほぼ全員が謹慎でもないのに自宅待機となるとは……。著者本人も想像していなかったでしょう。本当に人生は、なにが起きるかわからない。かつて一発屋と呼ばれた後ろ指をさされたヒロシが、三密を回避できるソロキャンプでさらなる脚光を浴びたのも皮肉です。





■誰だって一発屋になる可能性がある


文庫版の帯には「ブームは終わる。それでも人生は続く。」とあります。芸人に限った話ではないですよね。人気店だったのに閉鎖を余儀なくされる飲食店など新型コロナウイルスは多くの業態を変化させてしまいました。誰だってこれから一発屋になる可能性がある。そして失速し、忘れられ、「そんなやつ、いたなー」と嘲笑されようとも、生きていかなければならない


2020年に新装発売された『一発屋芸人列伝』は、単なる芸人の悲哀を綴ったルポルタージュとしてではなく、時代の変化を感じ「わがこと」として読むべき一冊です。「ルネッサンス!」は「復興」「再生」「復活」を意味することば。2021年は強制的に一発で沈んでしまった人たちにとって復興の一年でありますように。皆様、よいお年を。



一発屋芸人列伝(文庫最新版)
山田ルイ53世/著
649円(税込)
新潮文庫

ブームは終わる。
それでも人生は続く。
世間が知らなかった、一発屋のそれまでと、その後。

やがてブームは終わり、世間は彼らを「一発屋」と呼んだ。
大ブレイクを果たしたのちテレビから姿を消した芸人たちの人生はしかし、その後も続いている。
自身も一発屋芸人と呼ばれた著者が、コウメ太夫、ジョイマン、波田陽区、キンタロー。、スギちゃんなど12組の芸人に取材。
不器用ながら一歩ずつ前に進むそれぞれの今に迫る。
第24回 「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞受賞の、感涙ノンフィクション。
https://www.shinchosha.co.jp/book/102461/


吉村智樹