純喫茶だからこそ味わえるレトロなお菓子「純喫茶とあまいもの 京都編 これからも通いたい30の名店」

2020/12/15 21:00吉村智樹吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


おススメの新刊を紹介する、この連載。
第31冊目は、慌ただしい師走のさなかにほっこりできる、読んで楽しいガイドブック『純喫茶とあまいもの 京都編 これからも通いたい30の名店』です。





*今回、著者である難波里奈様よりご快諾をいただき、本書からページを抜粋しております。


■今年は喫茶店で「ひとり忘年会」はいかが


あなたは今年の年末を、どのように過ごしますか。


「どうしようかな……。忘年会の予定はなくなってしまったし。オンライン飲み会が関の山かな」


そういう方は少なくはないでしょう。


東京商工リサーチが12月11日(金)に発表した調査結果によると、年末年始の忘年会や新年会を「開催しない予定」と回答した企業は94.2%に達したのだそう。「飲めや歌えや大騒ぎ」タイプの飛沫が飛び交う宴会は「今年は我慢」。そんな風潮がはっきりと数字に表れています。


ならば、今年は喫茶店で「ひとり忘年会」は、いかがでしょう。


たとえば、照明が暗めの、ジャズやクラシックがかかる喫茶店。ソロで訪れ、革張りのシートに深く腰をおろし、お茶をしながら静かに2020年を振り返ってみては。淹れたての熱いコーヒーに自家製の焼き菓子を添え、沈思黙考。甘味とともに、じっくりと自分と向き合ってみる。しみじみと、ものおもいに耽ってみる。そんなアローンな忘年会も悪くないですよ。


■全国1.700軒以上の純喫茶をめぐった「純喫茶の女神」


喫茶店といえば、素敵な新刊が発売されました。それが『純喫茶とあまいもの 京都編 これからも通いたい30の名店』(誠文堂新光社)。


著者は、日ごろは会社員でありながら退社後や休日を利用して日本全国1.700軒以上の純喫茶に通い詰めた「純喫茶の女神」こと難波里奈さん
49.000人を超えるTwitterの人気アカウント「純喫茶コレクション」の運営主宰者でもあります。
https://twitter.com/retrokissa
「難波さんの影響で喫茶店へ行くようになった」「難波さんの本を読むまで、ひとりで喫茶店へ行った経験がなかった」という人もたくさんいるんのです。


■日本茶のイメージが強いけれど実はコーヒー好きが多い京都


この『純喫茶とあまいもの 京都編 これからも通いたい30の名店 』は、そんな喫茶店LOVERな難波さんが東京を中心にめぐった前著からの第二弾。タイトル通り、京都の純喫茶にあるケーキやクリームソーダなどなど「あまいもの」を中心に紹介した書籍です。角砂糖を思わせるほぼ正方形な珍しい判型も、京都めぐりのお供にバッグから出し入れがしやすいようにという気遣いの表われ。





ではなぜ「京都」なのか。純喫茶が多い街といえば「名古屋」「愛知」が有名です。けれども実は京都も負けず劣らず喫茶店王国。京都は日本でもっともコーヒーを飲んでいる県庁所在地ならびに政令都市として第1位パンの消費量も第1位ですから、パンとコーヒーをともに味わえる喫茶店の数もこれまた多いわけです。


難波さんはそのような深イイ喫茶店でお茶をするためだけに頻繁に京都を訪れ、さらにこの本を執筆するに2019年から今年にかけ、半年に亘り京都を取材してまわったといいます。


■喫茶店でしか味わえない特別な「あまいもの」


それにしても喫茶店の「あまいもの」って独特な食文化ですよね。たとえば「プリン・ア・ラ・モード」。船のように横たわるバロックな形状のガラスの器に、ほろ苦くて硬めのクラシック焼きプリンやフルーツが盛られ、ホイップクリームに銀色のアラザンが散りばめられたプリン・ア・ラ・モードなんて、喫茶店以外では、まずお目にかかれない「あまいもの」メニューですよね。僕はカフェでは一度も見たことがないです。


さらにパンケーキではなく「ホットケーキ」、コーヒーフレッシュでいただく「コーヒーゼリー」、キューブ寒天のサクサク食感がたまらない「フルーツポンチ」、シロップ漬けの黄桃や白桃でテンションがあがる「フルーツサンド」などなど、どんな高級パティスリーにもない「サ店のママの味」です。


「チョコレートパフェ」も喫茶店のママが切ってくれた「うさぎリンゴ」が大活躍。バナナのユーザビリティのイカツさ、缶みかんと缶チェリー、缶パインのニーズの高さは、喫茶店ならではの光景でしょう。アイスクリームに挿し立てられたウエハースが冷えた舌をやさしくリセット。ときどきウエハースではなく「ブルボンのお菓子」が刺さっていて、思わず「実家か」とツッコんでしまいます。けれども、そのアットホームさに癒されるんです。そんなふうに喫茶店の「あまいもの」って、胸の深いところをくすぐる、ちょっぴり切ないおいしさがあるんです。


この新刊『純喫茶とあまいもの 京都編 これからも通いたい30の名店』は、宝石のように色とりどりなゼリーなどさまざまな喫茶スイーツを写した、とろけるように美麗な画像も満載。お客さんを心地よくもてなしたいという店主さんの想いが、器のセレクト、盛りつけ方、色合いなどに表れています。「クリームに添えるミントを自家栽培している」など、訪問したことがあった店でも知らなかったエピソードもふんだんにあり、改めて「喫茶店は深いな」と。





■京都ならではな重厚な喫茶空間


さらに「あまいもの」だけではなく、店内の貴重な美術品、調度品や、職人技が光るオーダーメイドのテーブルや椅子、そういったたたずまいに関する秘話もたっぷり。「アーティスティックなランプシェイドには、どのような歴史があるのか」「神々しい輝きを放つステンドグラスは、どのような歴史をたどったのか」「三代目は、この得難い空間をどのように守り続けているのか」など、スプーンでくるくるかきまわすように時代が遡ってゆくのです。このように、喫茶店を愛して愛してやまない難波さんだからこそ心を開いた店主さんたちの意外な経歴や情熱が綴られています。





そう、京都の喫茶店は、国の無形文化財に指定される店があるなど、建築に重厚さがあるのも特徴。手彫りがほどこされた特注の椅子や、人間国宝となった造形作家がつくったテーブルなど、それ自体が美術品といえるダイニングセットでお茶を楽しめる。こんなラグジュアリーな経験が日常遣いでできるのが京都の喫茶店の大きな魅力でしょう。





これら外装内装およびファニチャーはやはり「もう職人がもういないので二度と再現できない」というデザインが多いようですね。いま行っておかないと、再び経験することは不可能。実はギリギリの状態で持ちこたえているともいえます。過去に何度も愛するお店の閉店、悲しい別れを経験してきた難波さんだからこその、焦りも含んだ強い愛情を感じずにはいられません。


湯気が立ちのぼるほどの難波さんの喫茶店愛は、紹介するお店の掲載順にも表れています。数多ある京都ガイドブックには先ず載っている名だたる常連店をさしおくかのように、トップバッターは京都人ですら駅名が読めない人が多い「椥辻(なぎつじ)駅を最寄りとした「マリ亞ンヌ」からスタート(そんな本、初めて読んだ!)。続いて「リゲル」「ひめりんご」「キャメル」と、知る人ぞ知るお店が続々登場。実際に現地へ味を運び、おそるおそるドアを開け続けた人でないと、このチョイスはできません。





■県またぎが難しい現在だからこそ「本で空想旅行」


さて、気になるのは、やはり新型コロナウイルス。GoToキャンペーンも年末年始は全国一斉停止が検討されているようです。知事が県またぎの自粛を要請する都道府県もあります。京都の喫茶店の魅力を全国の読者へ伝えようと尽力してきた難波さんの心の痛みは、はかりしれないでしょう。


難波さんは「いつかまたふらりとお邪魔できるその日を夢見て。周辺にお住いの皆さまは次の休みの予行演習として、遠方の皆さまは空想旅行に飛び立つため、ページをめくっていただけましたら幸いです」と記しています。


その言葉には、存続について決して予断を許さない京都の喫茶店を忘れないでほしいという気持ちと、もうひとつ、この本を通じて純喫茶の魅力に触れてもらい、いまは地元の純喫茶を再発見・再評価してもらいたい、そんな願いがあるのでは。僕はそう受け取りました。


この本は「京都編」ではありますが、ぜひあなたが住む街の喫茶店を訪れてみてください。手作りのあまいものと香り豊かなコーヒー。「ピンチはチャンス。2021年も、いっちょがんばろっか」と、きっと背中を押してくれる味があなたを待っていますよ。



純喫茶とあまいもの 京都編
これからも通いたい30の名店
著者: 難波 里奈
編集: 江角 悠子
定価(税込)1,760円
誠文堂新光社

くるり・岸田繁氏も推薦!!
純喫茶の第一人者 難波里奈さんによる、京都の名店のあまいものを巡る探訪記。

パフェ、ゼリー、プリン、トースト、ホットケーキ、飲み物など、あまいものを切り口に、京都府内に存在する名喫茶30店を紹介しています。

丹念な取材により、メニューの誕生秘話から材料、作り方、店主の人柄や美学を探究。
お店の外観、内装、調度、食器なども考察しています。

全国1700軒以上の純喫茶に通い詰めた著者の審美眼、愛のあふれる文章、美しい写真により、京都純喫茶の文化を綴ります。

世界中の人々にとって忘れられない年となった2020年。
この本の取材を開始したのは2019年の秋で、半年の間、毎月のように京都へ赴き、お忙しいにも関わらず取材にご対応下さったお店でその歴史や熱い想い、これからの展望を伺うという貴重で楽しい時間を過ごしました。
(中略)
いつかまたふらりとお邪魔できるその日を夢見て。
周辺にお住まいの皆さまは次のお休みの予行練習として、遠方の皆さまは空想旅行に飛び立つため、ページをめくっていただけましたら幸いです(はじめにより)

難波 里奈(ナンバ リナ)

東京喫茶店研究所二代目所長。
日中は会社員、仕事帰りや休日に純喫茶を訪ねる日々。
昭和の影響を色濃く残したものたちに夢中になり、当時の文化遺産でもある純喫茶の空間を日替わりの自分の部屋として楽しむ。
著書に『純喫茶とあまいもの』(誠文堂新光社)、『純喫茶レシピ』(監修、誠文堂新光社)、『クリームソーダ 純喫茶めぐり』(グラフィック社)、『純喫茶の空間』(エクスナレッジ)ほか。
https://www.seibundo-shinkosha.net/book/hobby/51047/



吉村智樹