東大出身者が体験した理不尽ないじめや過労の実態「東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話」
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こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。
おススメの新刊を紹介する、この連載。
第24冊目は、いま話題騒然の『東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話』です。
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フジテレビ「さんまの東大方程式」やTBS「東大王」など、いまメディアで脚光を浴びる東京大学の学生たち。
書籍も「東大思考」や「東大合格生のノートはかならず美しい」など東大生が東大の名を冠して書いた本が続々とベストセラーとなっています。
学生がこれほどスポットライトを浴びるのだから、東大出身者たちはさらに「日本でもっとも生きやすい人たち」であるはず。
生涯を保証された、輝かしい道を歩んでいるのだと。
つい、そう思ってしまいますよね。
それが、どうしたことでしょう。
東大出身者のレッテルを貼られるだけで、これほど生きづらくなるとは!
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■人柄が評価されない「東大卒」の人々
僕は大阪芸術大学という「理系」でも「文系」でもない「芸術系」の大学に通っていました。大阪芸術大学は僕が在籍した当時は「バカでも受かる大学」「いやそれは断じて違う。バカしか受からない大学だ」と揶揄されていたんです。
世界的な名だたる賞を受賞する卒業生たちを多数輩出したことで、この頃はそこまでひどくは言われません。大阪芸大への進学を目標とする学生も増えています(ミルクボーイのおかげ?)。けれども、不景気になると真っ先に行政からの予算が削られる系統の出身者であると自覚はあるつもりです。
そんな、日本の大卒者の異次元的傍流にいる僕ですが、意外と東大出身者たちと接点がありました。それがテレビ界。僕が知る限り、クリエイティブのジャンルでもっとも高学歴エリートが集結しているのが、テレビ局です。僕が出入りしている関西ローカル局ですら東大卒の正社員は珍しくありません。それどころかハーバードやケンブリッジ出身者もいます。
地方局ですらこうなのですから、全国ネットの番組をつくるキーステーションだったら、きっと局員は世界的名門大学のカタログ状態でしょうか。日本のテレビ番組は東大をはじめとする一流大学出身者によってつくられているのです。
そして僕が彼らとともに働いて強く感じたのは「東大卒というだけで、人をひとくくりにはできない」ということ。これまで出会った東大出身の制作者は「さすが!」「デキるな、お主」と感服するしかない、数字が読める人ばかりでした。アイデアが豊富で鋭く、しかも論理的に説明できる。くわえて、誰にでも優しく気遣いができる温かな人柄のクリエイターでした。「やっぱり東大卒のエリートは人間の器が違う」と心を動かされたものです。
しかし反面、十代のバイトくんよりも仕事ができない、それこそ「なんにもできない」人もいました。受験戦争を勝ち抜いたとは思えない、武器をすべて戦場に忘れてきた人もいたんです。
あの人は東大卒、でも、この人も東大卒。同じ赤門出身なのに、この違いはなぜ? はじめは不思議でしたね。そして「東大卒という学歴だけで人格をひとまとめになどできないんだな」、そう実感しました。できない人だけではなく「デキる」人たちを「東大卒だから」と考えてしまっていたのも、それもまた偏見であると、大いに反省しました。
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■「東大卒」に嫌悪感を抱く人々
とはいえ世の中、「東大卒」を同一視し、崇拝します。また反対に「勉強が異様にできるおかしな人たち」と変人視し、なかには人格を見ずに東大卒というだけで忌み嫌う人も少なからずいるのです。
東大卒のライター池田渓さんが上梓した新刊『東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話』(飛鳥新社)には、東大を卒業した人たちが経験した過酷な事例が多々掲載されています。
たとえば、東大から新入社員がやってくると、それまで部署で学歴トップだった上司は一段さがることになります。そのため他の名門校出身の上司は、おもしろくない。特に上司が名門私立大学出身だと憎悪度が増すようです。以来、無視されたり、机を蹴られたり、衆人環視の状況で長々と説教をされたりと、いじめが始まります。しかも「上司と同窓」の社員が多い職場だと、集団いじめに発展するというから目も当てられません。
関西の行政になると、もっとえげつない。もともと「東京」というだけで牙をむいてくるいびつなプライドの高さがあるうえに「東京大学」ですから。東大を卒業しただけでイキってるとみられるんでしょう。市役所の所員となった東大卒の男性は、いじめ抜かれました。
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■もはやブラック企業。「残業200時間超」官僚の実態
また官僚になると、国会答弁を作成するためなどに月に200時間もの残業を強いられる場合も。東大出身者で国を愛する気持ちが強ければ強いほど、だったら君がやってと、仕事がどんどんまわってくる。野党がわざとあいまいな質問しかよこさず、想定に対する答弁をいくつも用意しなければならないケースも。そうなると徹夜です。徹夜が続きます。
医師から過労を指摘された官僚が残業を100時間に減らしたため、時間に余裕ができて鬱になったというエピソードには絶句しました。残業100時間でも充分にヤバいのに。完全に感覚がマヒしています(この本を読むまで、官僚は働き方改革関連法から除外されているとは知りませんでした)。そんなブラック企業さながらに過酷な労働条件下にありながら奨学金の返済を免除してくれた国に報いるために懸命に働いているというインタビューに、落涙を禁じえませんでした。
池田さんご本人も、屈折した感情を抱く出資者に土下座を強要された経験があるのだそう。東大出身者が自分に対して土下座をしている。その状況を想像するとうっとり甘美な気持ちになるのでしょうね。そんな大人が現実にいくらでも存在するのです。
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■「勉強ができる子がいじめられる」空気
著者の池田渓さんは、あとがきに、東大卒業生が、現役東大生が、東大を目指す学生が、幸せになれるように願ってこの本を書いたと綴っています。そして、今後東大に合格する未来はまずないであろう僕が読み終えた感想は、シンプルですが「やっぱり誰をも差別しちゃいけないですよね」です。
勉強ができるといじめられる。勉強ができるやつはエラそうだ。授業を真面目に聴いているやつはカッコ悪い。キモい。モテない。そういう空気は、僕たちの学生時代は確かにありました。教室のなかに漂っていましたね。僕自身も、そういう目で見ていたんです。
そのため、本当は勉強をしたいのに、当時は友情だと信じていた単なる同調圧力に負けて「怠けるクラスメイトに合わせて勉強をやめてしまった」、そんな学生もきっといたでしょう。同世代どうして足を引っ張りあい、若い芽を摘みあう、よくない風潮があったのです。
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■「生理的に無理」がまかり通り、新たな生きづらさを生む
大の大人が、東大生や東大卒をいじる、いじめる、無視する。いつまでも学生気分のまんまです。そこには学歴コンプレックスだけではなく「お前は俺を下に見ているんだろう本当は」と被害妄想をこじらせた、ヤヤコシい心理が横たわっています。それに東大生にマウントをかければ、インスタントに自己肯定感をたかめることができます。「自分は東大生より偉い」と。
このように東大生をいじめるに至る正当な理由などないにもかかわらず、負の感情だけが無駄に根深い。すべての議論を放棄する「生理的に無理」という言葉を野放しにしているため、いかに現在もさまざまな差別を生んでいることか。高学歴の方が蔑まされると「逆差別」と言われますが、逆もなにも、やっぱりそれはストレートに差別です。
感情というものはやっかいです。放っておくと負の方向へ暴走します。その感情をコントロールしたり抑えたりできるのが、理論であり、知性です。よく「理屈を言うな」という言葉を耳にします。けれども、感情を抑えて理屈でものを考えるから、人は人にやさしくできる、そう僕は思うのです。でなければ、いつまでも「思わずカッとなってやった」「ムラムラしてやった」が理由の犯罪はなくならない。
人は皆「生きづらい」という悩みを抱えて生きています。けれども東大出身者が「東大卒だから」が理由で生きづらいのだとしたら、世の中の感覚を早急にアップデートする必要がありますよね。日本が誇る最高学府の卒業生が、日本の宝である人たちが、それが誇りに思えず「東大なんか入らなきゃよかった」と後悔し悲しい想いをするなんて、とてもさびしい国ですよ。
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東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話
池田 渓 著
1.364円+税
飛鳥新社
東大は、人生の幸せを約束してくれない。
東大いじめ、東大プア、 東大うつ。
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東大卒の著者が、「東大に人生を狂わされた人たち」を徹底取材し、自らの経験とともに「東大の裏の顔」を洗いざらいぶちまける、あなたの知らない東大生活。
「東大卒なんだから、できるでしょ?」の呪いに苦しめられる人たち
・対人関係が苦手な東大法学部卒がメガバンク営業になったら...
・東大を出てキャリア官僚に→月200時間超の残業地獄
・年収230万円! 元駒場寮生の警備員
・地方公務員になった東大卒が経験した壮絶いじめ
・勉強だけできても...博士課程5年目で八方ふさがり
最強の学歴があっても、いきづらい!
これでもあなたは、東大に入りたいと思いますか?
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(吉村智樹)