誰もがネットで見たことがある彼女の、誰も知らない波乱万丈な生き方とは。「フリー素材の女王」の告白

2020/10/19 19:20 吉村智樹 吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。

おススメの新刊を紹介する、この連載。
第23冊目は(あかね)さやさん初の著書「『フリー素材の女王』の告白 私はこうしてオーディションを勝ち抜いた」です。





いま、落ち込んでいる、凹んでいるあなたに、特におすすめします。
眼の前の壁をこつこつ丁寧に乗り越えていった茜さんが書くこの本は、きっとあなたを勇気づけ、背中を押してくれるでしょう。


■「フリー素材の女王」と呼ばれた謎の女性


ひとりの女性が写ったこの画像、一度は目にした経験がありませんか?



▲フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)model by 茜さや


こちらは無料で写真素材を配布している「ぱくたそ」が提供している画像。
「ぱくたそ」がストックするフリー素材33.505枚のなかでも、特に使用される頻度が高い、人気の一枚です。


「フリー素材」


ブログをやったり、デザイン作業にかかわったりした経験がある方なら「フリー素材」を知らない人はいないはず


「フリー素材」とは無料で利用できるデータのこと。


たとえば人物画像なら、頭を抱えて悩んだり、いかにも「大満足!」という笑みを浮かべたり、いろんなポーズをとっている人たちがいます。


そのたくさんの名前も知らない人物のなかからユーザーは記事や広告にふさわしい画像を選び、しかるべき手続きを経て無料で使うのです。「フリーの人物画像、使ったことがある」って人、多いのでは? なかには「フリー素材を一ヵ月に何十枚も使っている」ヘビィユーザーもいるでしょう。


では「フリー画像に使われるモデルさんたちにも人生がある」とまで踏み込んで考えた経験はありますか?


さて先ほどの、ボーダーのシャツを着てスマホを手にした女性、芸名を「茜さや」さんといいます。彼女の画像はWeb上のさまざまな場所に多用され、汎用性の高さから彼女はいつしか「フリー素材の女王」と呼ばれるまでになりました。


膨大なストックがあり、かつ匿名性が高い「フリー素材」。おびただしい数の画像の海でひときわ人懐こく微笑む彼女。しかしその背景には決してフリー(自由)なだけではない波乱の人生があったのです。





■つらい中学時代を救ったアーティストは「YUI」


現在27歳の茜さんは広島県生まれ。中学時代は、それはそれは厳しい日々を過ごしました。1日に授業が8時間もあり、ガチガチに規律に縛られた私立の学校に往復およそ3時間もかけて通いました。通学時間が長くなればなるほど女子は危険がつきまといます。自分の身を守るために、学校では持ち込みを禁止されていたガラケーを水筒に詰めて通っていたのそう。


早朝に家を出なければ遅刻してしまうその中学校は、優秀な成績と風紀を乱さないことだけが善といえる環境でした。茜さんの成績は優秀。しかしながら次第に授業に意味を見出せなくなり、クラスの女子たちが形成する排他的なコミュニティにもなじめない。それでも茜さんは父親の跡を継いで建築士になる目標を「自分の夢」だと信じ込み、前向きに生きようとしていました。自分に嘘をついていたため、遂に心と身体が拒絶をしはじめ、学校へ通えなくなるまでに。


悩みの渦中にある思春期の彼女を救ったのが、アーティストのYUI。YUIが書く、決して「頑張れ」と根拠もないのに励まさないリアルな歌詞は、茜さんの支えとなり、杖となりました。「東京」「芸能」に関心をいだいたきっかけは、なんとYUIだったのです。これは意外ですよね。





■十代の彼女にセクハラ、パワハラの魔手が伸びる


高校に進学し、在学中に上京を決意した茜さん。東京へ出る。簡単な話ではありません。親と学校の先生を説得しなければなりません。17歳の闘いが始まりました。両親に負担をかけぬよう、まず資金30万円をつくるためアルバイトを始めます。


高校生がアルバイトで30万円を稼ぐなんてたいへん。さらに体型がふくよかだったため、バイトの先々で大人の男たちからセクハラに遭い、いやがると、次に男たちは腹いせのパワハラに転じてきました。あってはならない社会の現実を、十代の彼女は残酷にも知ってしまうのです。生きづらさにストレスを感じ、泣きながら炊飯器ごとごはんを食べる日もあったのだそう。


■上京後「フリーランスアイドル」の道を選ぶ


なんとか上京を果たした茜さん。けれども、決して順風満帆ではありません。搾取をしたり、いともたやすく条件を翻したり、ときには脅迫さえしてくる芸能事務所。「大手広告代理店にパイプがある」と近づいてきて肉体関係を迫る詐欺師。貧困にあえぎ、借金までして活動費を工面するアイドルたち枕営業。見たくもないアイドル界の闇を、いやというほど見てしまいました。澱んでゆく日々のなかで、さらに妹が自殺未遂を……。


茜さやさんの新刊「『フリー素材の女王』の告白 私はこうしてオーディションを勝ち抜いた」が素晴らしいところは、元アイドルが業界の暗部を暴露したいわけでも、結局は承認欲求に回帰してしまうだけの「かわいそうだった私エッセイ」を書きたいわけでも決してない点。困難を乗り越えてゆく際に行った具体例をあげ、彼女が読者に寄り添おうとしているのがひしひしと伝わってきます。


茜さやさんの特徴はいくつかありますが、大きいのはフリーランスである点。設計士の家に生まれたからか、彼女はつねに人生を設計し、数値化してきました。そうして彼女は「芸能事務所がやっている仕事の多くは、個人でもやれる」と気がつきます。いわゆるセルフブランディングです。


先ず「茜さや」という芸名を自分でつけました。「あ」「か」と、あいうえお順に表記される場合の有利性を考えたのです。また、新人アイドルは収入があまりありません。身ぎれいにするために、モデルをするかわりにネイルやヘアメイクを無料でやってくれる場所をmixiで探しまわりました。このように頭をひねり、節約をしつつ慎重に実績を積み上げていったのです。


「ミスiD2017」に応募した際は、他の応募アイドルのフォロワーの増減を調べ、なんとデータ化していたと言います。そして狙いを「吉田豪」賞に絞り、Twitterでは審査員であるライターの吉田豪さん(ハンドルネームは吉田光雄)が起きている午前2時台に集中的に爆弾発言的な内容をツイートしたというから恐れ入りました!


彼女の姿勢を見ていると、努力とは「考えること」だと改めて教えられますね。





■名もなき「フリー素材」として名をあげる逆転の生き方


こうして「目標達成にだけマインドをフォーカスする」、気持ちを「全振りする」姿勢でこつこつと歩みを進めていた茜さん。とりわけ彼女の運命のフォーカスがビシッと決まったのが「ぱくたそ」のフリー素材モデルを引き受けたところでしょう。


本来、グラビアアイドルは名前を知ってもらうことが最重要。そして容姿こそが収益の源です。それなのに個性をはく奪され、無料で配布される「フリー素材」に使われるなんて、ありえません。しかしインターネットを駆使し熟知していた茜さんは、はじめは名前を捨ててでもネット上に画像が伝播するメリットを感知できたわけです。





■インターネット上の画像は「落ちている」わけではない


「フリー素材」と呼ばれる画像にも、人が写っており、そこには物語があります。茜さやさんの新刊「『フリー素材の女王』の告白 私はこうしてオーディションを勝ち抜いた」は、それを教えてくれます。よく軽々しく「ネットで拾った画像」などと口にしたり書いたりする人がいます。インターネットには「落ちている画像」なんて一枚もありません。そこには、撮った人、撮られる人の想いがあるのです。


茜さんはボーダーの私服を着ていただけなのに「胸を強調させている」と非難を浴びました。記憶に新しいですね。フリー素材のなかに写っている人も今日も生きていて、あなたと同じように傷つくそれを思いやれる気持ちこそが「ネットリテラリー」ではないでしょうか






「フリー素材の女王」の告白
私はこうしてオーディションを勝ち抜いた
茜さや 著
¥1,540 (税込)
一万年堂出版

今度こそ! 本気でオーディションに受かりたいあなたに

「大丈夫! 夢はきっと叶うよ」
「頭の中だけでジャッジせず、とにかく動いてみて」

と背中をそっと押してくれるのは、ミスヤングチャンピオン・ファイナリスト、ライブクイーン・グランプリなど多くのオーディションを勝ち抜いてきた著者・茜さやさん。

ボーダーの服を着て、カバンを斜め掛けにしている写真。
どこかで見たことはありませんか?

ほとんどの人は名前を知らないけれど、知る人ぞ知る日本初・フリー素材サイトのアイドルなのです。

10年前、高校2年の秋、本気で芸能の仕事がしたくて「学校をやめます!」「東京に行ってアイドルになります!」と宣言。
故郷の広島から上京。

以来さまざまな経験をつみ、フリーのグラビアタレント・実業家として夢を実現してきました。

昨年は「自分の夢はたくさん叶えることができたから、今度は誰かの夢のために生きたいな」と、芸能界の子が安心して働ける場所を提供するコンセプトバーをオープン。

この本は、アイドルを目指し上京した過去、オーディションに勝つ法則、フリーという生き方を選んだ今の光と闇を、ありのままにつづった著者の初エッセイ。

「本気を伝えるなら、言葉より行動」
「強く かしこく やわらかく」
「自分の船は 自分で風向きを合わせて 舵をきる」

など、ハッと気づかされる一言メッセージとともに、著者のあきらめないマインドを追体験することで「次は必ずオーディションに受かる!」と、自然に自信とパワーがよみがえってきます。
先の見えない不安を一掃し、ステキな未来をぐっと近づける一冊です。
https://www.10000nen.com/books/978-4-86626-062-4/




(吉村智樹)