テレビの寿命は、あと10年。「生まれたときからYouTube世代」が誕生している今こそ必読「メディアシフト YouTubeが『テレビ』になる日」

2020/10/12 18:45吉村智樹吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


おススメの新刊を紹介するこの連載、第22冊目は大人気YouTubeチャンネルの仕掛人が語る話題のビジネス書「メディアシフト YouTubeが『テレビ』になる日」です。





「好きなYouTubeチャンネルがある」「好きなYouTuberがいる」「YouTubeを観るようになってからテレビ番組をほとんど観なくなった」「自分もYouTubeをやっている」「いつかYouTuberになって稼ぎたい」、そんなふうに思う人なら必読の本なのです。


■「生まれたときからYouTube世代」が誕生している


「テレビの寿命は、あと10年」


YouTubeで初めてギャラクシー賞を受賞した講談師・神田伯山さんをはじめ、およそ40もの有名人YouTubeチャンネルを運営している関口ケントさん。年商は、なんと1億円! 


そんな関口さんが語り下ろした話題の新刊「メディアシフト YouTubeが『テレビ』になる日」(宝島社)は「テレビの寿命は、あと10年」という衝撃的な言葉から幕を開けます。


「テレビの寿命は、あと10年」


衝撃的、と書きましたが、多くの人は「テレビの寿命は、あと10年。きっとそうなるだろう」と、うすうす肌で感じているのではないでしょうか。いや、10歳未満や10代の視聴者にとっては、テレビ番組はとっくに寿命が尽きた過去の遺物、そんな感覚なのでは。


関口さんの息子さん、上は8歳、真ん中が5歳、下は2歳。3人とも一度も自発的にテレビ番組を観た経験がありません1秒たりともです。


初めてテレビ番組を観たとき、CMをスキップできないことに驚き、強いストレスを感じたのだそう。それ以来、地上波の番組に見向きもしなくなったのだとか。テレビ番組が原体験にない世代は、もう当たり前に誕生しています


新たに家庭用テレビを購入した方なら、お気づきでしょう。いまテレビのリモコンにはYouTubeを選択できるボタンがついています。「テレビ番組はお茶の間で。YouTubeはスマホやタブレットで」と分けて考える時代すら終わり「家族団らんの時間もリビングでYouTube」が当然の生活様式となりつつあるのです。


じゃあ地上波のテレビ番組って、いつ観るの? 観る時間はないですよね。





■「手越祐也チャンネル」の成功が意味するもの


「YouTubeがテレビ番組にとってかわる存在になる」、僕がそう強く確信させられたのは、この頃ではやはり手越祐也さんのチャンネル開設です。


100万再生を超える日が珍しくない大人気YouTube「手越祐也チャンネル」の成功は、単に有名芸能事務所を退所しても干されずYouTubeが受け皿になる、そんな程度の話では済まない気がします。


手越さんは山口達也容疑者や芸能人の自殺についても自由に発言しています。果たして過去にテレビ番組でそれがやれたでしょうか。また、これほど丸裸でピュアな発言を聴いたあとで、演出と編集でごてごてに装飾されたテレビ番組を観て「YouTubeよりも面白い」と思えるでしょうか。「テレビ番組にはもう戻れない」という感覚が芽生えるユーザーは、決して少なくないのでは(時代の節目に次々と災難が降りかかる滝沢副社長がかわいそうすぎではありますが)。


現在の視聴者は過激な話や盛った話が聴きたいのではありません。嘘がない話が聴きたいのです。テレビ番組とYouTubeの確たる一線は、そこにあります。





■YouTubeは決して「新しいメディア」ではない


「メディアシフト YouTubeが『テレビ』になる日」には、YouTubeに限らず他のビジネスや普段の暮らしに転用できるアイデアが満載。ページごとに「チャンネル登録」できるのならばしたいくらい。


この本を読んで、もっとも「なるほど」と感じたのが「YouTubeは最先端メディアという考え方は誤解である」という点。人気YouTubeチャンネルには、じんわりとキャンプで火を起こしたり、うまいハイボールをつくるために手間暇かけて透明な氷をつくったり、ノーカットで講談を見せたり、怪談をじっくり語ったり、かつてのプロ野球選手や関取たちが過去を振り返ったり現況を解説したり、芸人さんたちが本音を語りあったり、アーティストが好きなように演奏したりと、意外と贅沢な時間の使い方をしています。


それらはかつて日本には存在した、けれども効率化最優先という考えのなかで捨てられていった、ゆったりとしたひととき。YouTubeはむしろ旧きを慈しむ温故知新なメディアなのです。たとえば「中川家チャンネル」で兄弟が好き放題にやっているおっさんくさい20分を超える長尺コントは300万アクセスを超えています。テレビ番組では長すぎて絶対に放送できないし、若者向けにつくっているわけでもない。なのに若者がついていっている。面白い現象です。





■「勝つ」「競合する」という考えではもうビジネスは伸びない


では、なにが決定的に古くなったのか。それは「競合する」「勝つ」「成功する」という勝者側の理論です。YouTubeチャンネルにはYouTuberどうしのコラボレーション企画が多々あります。裏番組、競合他社という概念がないからできること。その温かな交流が、視聴者をさらに惹きつける。「競合ではなく協業」なのです。


「勝つ」という概念が、観ている方にとってはうっとうしい。「知らんがな」でしかない。つねに裏番組と闘い、目標視聴率を勝ち取るために血目をあげねばならないテレビ番組には、これができない。目の前の視聴者が欲しくて、どうしても表現が過激になり卑しくなる。それがテレビ制作にとって当たり前になったとき、カウンターカルチャーとしてYouTubeが登場したわけです。


HIKAKINさんがなぜこれほど支持されるようになったのか。いろんな原因が考えられますが、個人的には「人の悪口を言わないから」というシンプルな理由が大きいと思います。「そんなの人として当たり前では」と思うかもしれません。けれどもテレビ番組には「誰かを責めていない時間」が、とても少ないのです。





新しいビジネスは「勝つ」「成功」「競う」「攻める」という好戦的な概念から逃れるところから始まるようです。自分に嘘をつかない表現を心掛けながら、ゆっくりじっくりやる、そういうおおらかなマインドから収益が生まれるのでしょう。関口ケントさんの新刊「メディアシフト YouTubeが『テレビ』になる日」はそれを教えてくれます。そういう点でこの本はテレビ界のみならず、旧来のビジネス書にも一石を投じていると言えます。



メディアシフト YouTubeが「テレビ」になる日
関口ケント 著
企画・プロデュース・編集・図 石黒謙吾
1.500円+税
宝島社

大人気チャンネル仕掛け人のビジネス新法則

「競合より協業」「横に面を取る」

30歳のメディア戦略家が見通す地設変動のリアル

YouTube史上初「ギャラクシー賞受賞は関口さんのおかげです!」

――神田伯山氏

ジェネラリストの北野武さんは元祖YouTuberだ

自分でつくり自分で背負う

カリスマ的な「神主属性」が重要。信者を抱えたいと意識し続けること

パーツではなく発信する人間へ

マーケティング的視点と思考で地道にコツコツという姿勢が最重要

「必ずバズる方法論」なんて大ウソ

地方創生・観光誘致もシフトチェンジ 最終的には民主主義自体さえも変革

政治や選挙戦もYouTubeで変わる

芸能人とYouTuberの違いは

「認知度」か「人気度」か

関口 ケント(せきぐち けんと)プロフィール


YouTubeアナリスト
株式会社Wednesday CEO

1989年東京都生まれ。26歳で妖怪ウォッチ公式YouTubeチャンネルを立ち上げ、チーフプロデューサーとして流行を生み出す。2017年に株式会社テクサ(現株式会社ライバー)の執行役員に就任し、YouTuber50人ほどのチャンネルコンサルティングを担当。多くの人気YouTuberを育てる。また、ヒカルや加藤純一らも出演したクリエイターフェス『うず祭り』を企画・総合プロデュース。2019年に「株式会社Wednesday」を立ち上げCEOに就任。現在、神田伯山、関暁夫、島田秀平、登坂淳一、はなわ、KAMIWAZA、よしお兄さんなどのチャンネル運営を行うなど、YouTubeに軸足を置いて多角的に広がるビジネスを大量に推進している。
https://tkj.jp/book/?cd=TD008985&path=&s1=



(吉村智樹)