「商品が売れない」「ヒット作を出したい」と思うなら必読!『拝啓、本が売れません』

2020/9/28 20:40 吉村智樹 吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


おススメの新刊を紹介するこの連載、第20冊目は話題の文庫本『拝啓、本が売れません』です。悲壮感全開のタイトルを見ただけで手に取らずにはいられません!





■「ものが売れない」と悩むあなたを救う本が登場


政府がまとめた9月の月例経済報告によると景気はやはり、よくないようです。7月~8月に新型コロナウイルスの感染が再び拡大してしまったため、個人消費の回復は、まだまだ足踏みした状態だとのこと。


はぁあ(ため息)。新型コロナウイルスってやつは本ッ当に、しぶとい。なかなか収束しませんね。


働く多くの人は、なにかをつくり、なにかを売って、売り上げで生活をしています。
商品であったり、作品であったり、システムであったり、サービスであったり、芸であったり。
そうしてつくりあげたものを「誰かに買ってもらって」暮らしを立てています。


新型コロナウイルスは残酷に「売る」「買う」の関係を壊してしまいました。今年の春に外出自粛を要請されたのをきっかけに庶民に巣ごもりの習慣がすっかり根付いてしまい、生活必需品以外の買い物をする回数が減ってしまっているのです。


そんな悪況のさなか、あなたが「ものが売れない」「なんとかしたい」と悩んでいるのならば、一冊600円台のこの文庫本が解決へと導いてくれるかもしれません。それが小説家の額賀澪(ぬかがみお)さんが上梓した新刊『拝啓、本が売れません』(文春文庫)。SOSの叫び声が聴こえてくる切実なタイトルのこの新刊文庫、内容がものスゴーく有益なんです!





■小説家の悩みを堂々と表した赤裸々なタイトルが話題に


もともとこの『拝啓、本が売れません』は、およそ2年前、2018年8月にKKベストセラーズから単行本として発売されました。小説家の悩みをストレートに表した赤裸々なタイトルが話題となり、「自分は小説家じゃないけれど気持ちがわかる!」と共感を呼び、Amazonのノンフィクションのジャンルで1位を獲得するほどのベストセラーになったのです。


以来、額賀さんは「本が売れない本の人」と呼ばれるようになり、嬉しいようなわびしいような、微妙な気持ちになったのだそう。


■文学賞をW受賞。なのに又吉の「火花」に話題を奪われ……


『拝啓、本が売れません』の内容は、これまたタイトル通り胃が痛むほど切実。2015年に栄えある「松本清張賞」「小学館文庫小説賞」を受賞した額賀さんが、どうしたら売れる本がつくれるのかがわからず、恥を忍んでヒットメーカーたちの元へおもむき、取材というかたちで悩みを打ち明けていくセルフ・ドキュメンタリーなのです。


新人作家が名だたる文学賞をW 受賞するという、本来ならスポットライトを何灯もあてられまくって然るべき事態。文壇に才気に溢れた新星がピカピカに輝きながら登場したのですから。時代の寵児として迎えられるハズだったのです。


しかし……同年に又吉直樹が「火花」で芥川賞を受賞。「芸人が初の芥川賞を受賞」とあり、すっかり話題をかっさらわれてしまいます。それ以降も上梓する単行本は十分な好成績をおさめつつも、なんとなく二番手ポジションに甘んじるようになってしまいました。又吉のように「作品の映像化」にもなかなか至らず、彼女はもやもやした日々を過ごします。





■初版部数を減らされ、作家生命に危機が訪れる


松本清張のぶ厚い唇に挟まったまま抜け出せないような鬱屈した日々。額賀さんは現状を打破するため「担当書籍が累計6千万部を突破した敏腕編集者」「店頭から続々とヒット作を生みだしたスーパー書店員」「マーケティングに長けたWebコンサルタント」「数多くの書籍を映像化させてきたプロデューサー」「視覚効果でベストセラーを生みだすブックデザイナー」といった書籍にまつわる名物ヒットメーカーたちの元を訪ね、必勝法を訊きだします。


なんといっても手に汗握るのは、ここ。『拝啓、本が売れません』の取材中に、額賀さんが「初版部数を減らされる」憂き目に遭うシーンです。


初版部数の決定は「この人なら、これくらい売れる」という、すなわち経済的「評価」。ここを減らされると、今後の作家生命に強く響くのです。部数が落ちると当然、印税収入がさがります。それどころか「次がない」可能性が大ありなのです。額賀さんは退路を断たれ、いよいよ「本を売る」というテーマに真剣に、必死に取り組まなければならなくなってゆきます。





■ヒットメーカーたちのアドバイスは耳に痛いことばかり


そして彼女はヒットメーカーたちの元を訪ねるたびに、痛いところをグサグサ突かれます。表現はわかりやすいか? 登場人物のキャラクターはたっているのか? 読者に爽快なカタルシスをちゃんと与えられているのか? 著者が作品に対して恥ずかしがっていないか?(ヒットメーカー曰く、作家は作品に対して『ドヤ顔』でなければならない) 「SEO対策(検索エンジン最適化)」にしっかり取り組んでいるのか? ……などなど。


アドバイスのなかには彼女の美意識から避けていたことがらがありました。またインターネットと書籍の売り上げとの関係は、ことさら重要視もしていませんでした。でも、いまは教えに従おう。彼女はそう決め、ヒットメーカーたちの教えを胸に、新作に取り組みます。


果たして結果は――。





■遂にベストセラーを実現!


ここまでが2年前に世に問うた単行本版『拝啓、本が売れません』。では今回おススメする文庫版『拝啓、本が売れません』の、なにがそんなにスゴイのか? それは、額賀さんが2年前に単行本を出したのちに「自分の本に記した方法論を自ら実践し、ベストセラーを実現した」点にあります。


額賀さんは『拝啓、本が売れません』を書きながら、ヒットメーカーたちの教えを小説に採り入れ、カバーイラストにも関わり、遂に吹奏楽小説『風に恋う』を、重版に次ぐ重版のベストセラーにします。彼女は「成し遂げた」のです。文庫版『拝啓、本が売れません』には、この「その後の日々」もしっかりセルフ・ドキュメントされています


さらに感動的なのは額賀さんのみならず、取材したヒットメーカーたちも蓄積したノウハウを武器に独立したり、仕事の幅を広げたりと成長している点。「すごい人たちって、もっとすごくなるんだな」と圧倒されます。





■文庫版は第一級のビジネス書としても使える


つまりこの新生『拝啓、本が売れません』は、単なる単行本の文庫化ではなく、再現性が高いビジネス書の要素を強めた「別の商品」に生まれ変わっているのです。初めての方のみならず「もう単行本を買って読んだからいいや」という読者も、もう一度、手に取ってみてください。むしろ一度目を通した方のほうが、劇的な変化に驚けるのでは


見習うべきは額賀さんの柔軟な姿勢にあります。額賀さんは自分の小説が文庫化されたとき、あがってきたカバーイラストを見て、小説を書きかえたのだそう。表紙のイラストからくるイメージで自分の小説を修正するなんて、しょうもないプライドに縛られていては、やれないでしょう。


額賀さんは取材を進めるうちに、本をたくさん売るために必要な、たったひとつの“ある真理”へと辿り着きます。きっとその真理は、ものを売るコアであり、書籍でなくても当てはまるはず。


それはなになのか。
ぜひページを開いてみてください。



拝啓、本が売れません
額賀澪 著
文春文庫
630円+税


――「売れる本」は作れる!!――


「松本清張賞」「小学館文庫小説賞」をダブル受賞してデビューした新人作家が見た「出版不況」の現実。
それは厳しくも、決して暗闇の中にあるものではなかった――。


「売れる本」はどうやったら作れるのか――小説を書く作家自身が、本が読者の手元に届までを支える編集者やデザイナー、実際に売る書店員、本を売り伸ばす施策を考えるWEBコンサルタントらに取材して見えた答えは?


タイトル通り、新刊の初版部数が下がるという事態に直面した額賀さんは、自ら、「売れる本」の謎を探る旅に出ます。
新人賞をW受賞し、華々しくデビューした著者・額賀澪さんによる突撃ルポ。


敏腕編集者、カリスマ書店員、ヒット連発の映像プロデューサーなど、スペシャリストたちに取材をした結果、見えてきた秘訣とはーー。
単行本「風に恋う」発売を前に、刊行された本書は、出版社の壁を越えて、発売前の新作を先取り公開。「売れる本」のために、考え、動き、でた結果とは。


実際に『風に恋う』をヒット作として成功させた著者が、発売から二年半経った現在についてまでを書き上げた異例のノンフィクション。
『風に恋う』をベストセラーに仕上げるまでの、ヒントがいっぱいの話題の書です。


https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167915353



(吉村智樹)