YouTubeは「お笑い」をどう変えたのか。『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』

2020/9/14 21:00 吉村智樹 吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


9月26日(土)放送『キングオブコント2020』決勝進出者が発表されましたね!


ベテランのジャルジャルやジャンポケから、お笑い第七世代の「ニッポンの社長」までファイナリストに年齢やキャリアの幅があり、ヒリヒリした世代闘争感がたまりません。


個人的には大好きなロングコートダディが初の進出を果たしたのがとても嬉しい(とはいえ『コントの大会でも10組中9組が吉本って……』と少々げんなり)。


加えて「文春オンライン」による恒例「好きな芸人ベスト30 2020」も発表されました。


読者の年齢層が高いメディアであるにもかかわらず、霜降り明星、四千頭身、宮下草薙と、第七世代がしっかり台頭してきています


【好きな芸人ベスト30発表】東京03、アインシュタイン、ニューヨークが大躍進! 激変した2020年の勢力図
https://bunshun.jp/articles/-/40223
【好きな芸人2020 ベスト15発表】EXITが“あの大御所”を抜いてトップ3入り! V3目指すサンドをぺこぱ猛追
https://bunshun.jp/articles/-/40224


キングオブコント決勝進出者や好きな芸人にランクインしてきたメンツを観ていると「お笑いはもうYouTube抜きに語れない」と感じます。

名前が挙がったほとんどの芸人さんがYouTubeチャンネルを運営しています。なかでもジャルジャルの「ジャルジャルタワー」は今年2月に累計再生回数がなんと3億回を突破! 「さんおく」って3円置くんとちゃいますよ。芸人さんにとってYouTubeは、自分たちが純粋にやりたいことを主張できる貴重な場であり、かつ稼げる舞台。人によっては地上波よりも重要なステージになってきています


そういうわけで第19冊目となるスイセン図書は『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』です。





■石橋貴明はなぜ人気YouTuberに転身できたか


「とんねるずは死にました」。いま、石橋貴明さんのインタビュー記事が大いに話題となっています


「とんねるずは死にました」―戦力外通告された石橋貴明58歳「新しい遊び場」で生き返るまで
https://news.yahoo.co.jp/feature/1798


石橋さんは『とんねるずのみなさんのおかげでした』終了以来、テレビ地上波での、コンビとしてのレギュラーは現在一本もなし。変わって今年6月に「新しい遊び場」ことYouTubeチャンネル「貴ちゃんねるず」を開設。登録者数129万人を突破する人気YouTuberとして返り咲きました。このインタビュー記事では、地上波からYouTubeへフィールドを変えて生き抜かんとする、不屈の闘志を語っています。


ほぼ同日、相方の木梨憲武さんがハイヒールのリンゴさんと漫才コンビ「梨とりんご」を結成。こちらも話題に。コンビ揃ってニュースとなり、お笑い第三世代(石橋さん曰く“とんねるず世代”)が攻めの姿勢をとり続けていることに励まされます。


石橋さんがYouTubeチャンネルを開設する。その事実について、捉える側の感覚は千差万別でしょう。「貴さんほどの人が、なんでYouTubeに?」と首をかしげる人もいれば、「芸人さんがYouTubeチャンネルを開くなんて当たり前なのに、どうしてそんなに大きなニュースなの?」と、そちらを不思議に思う人もいる。ご本人にとっては「一回死んだ」とまで言うほど、YouTubeはプライドを捨てて不退転の覚悟で挑む極北のメディアでした。その感覚を、理解できる人もいれば、理解できない人もいるでしょう。


このように「お笑いの世界にとってYouTubeとはなにか」という観念が、まだふわふわしているのです。





そんなYouTubeが現今の視聴者にとってどのような存在なのか、どのように時代を動かしているのかを解き明かした話題の新刊がこちら! じゃーん! 銀色のヤツ! ではなく『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』(扶桑社)。


お笑いが好きな人、テレビが好きな人、YouTubeが好きな人には、内部事情が知れて、もうたまらない内容。そしてこれから個人でYouTubeチャンネルを始めたい人、自社の広報媒体として運用してゆきたいと考える企業さんには有益まちがいなしな一冊です。


■知名度があっても人気YouTuberになれるわけではない


著者は29歳の放送作家、白武ときおさん『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』最年少作家であり、ほかバラエティ番組を多数構成。


さらに刮目すべきは人気YouTubeチャンネルをあまた構成/演出している点。「しもふりチューブ」「みんなのかが屋」「ジュニア小籔フットのYouTube」など、お笑い系のYouTubeチャンネルを軒並みヒットさせています。白武さんは現在のフワちゃんのスタイルをつくった人としてもおなじみですね。そんな、まさに時代の寵児「YouTube放送作家」なのです。


しかし「芸人はもともとすでに知名度があるのだから、シードで簡単に人気YouTuberになれるんじゃないの?」、そういぶかしく思う人もいるかもしれません。けれども実際はそんなに甘くはない。フルーツポンチ村上さんのムラカミーチャンネルはチャンネル登録者数 2430人。「アダモちゃん」で一世を風靡した島崎俊郎さんのチャンネルアダモは登録者数 144人です。反面、地上波での露出はほぼないにも関わらず、若手芸人ガーリィレコードのガーリィレコードチャンネルは登録者数 80.1万人。テレビ地上波に出演していて知名度があっても、ユーザーの心理とはなかなかクロスできないのものなのです。





■YouTubeチャンネル成功の秘訣は「照れのなさ」


この新刊『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』では、白武さんがYouTube運用について重要なポイントをたくさん語っています。なかでもとくに膝を打ったのが「照れがないこと」という点。


テレビのようにお茶の間で観るものではなく、スマホやタブレットなどミニマムかつ極私的なディバイスで再生される場合が多いYouTube。それゆえに運用する側と再生する側は1対1、人間対人間の深い関係となってゆきます。そこに「YouTubeにおりてきた」「稼げると聞いて始めた」という小馬鹿にした気持ちがあると視聴者はその「お仕事感」を敏感に察知します。


お笑い系のYouTubeチャンネルは「カジサック以前・以降」に分けられると語られます。それほどカジサックが残した功績は大きい。なるほど確かに彼には照れがありません。地上波のひな壇団体戦では疎ましがられるほどのハイテンションと、少人数スタッフとの熱い絆、家族を出演者として明確に打ち出す「照れのなさ」がありました。照れやウラオモテがない、テレビを上に観ない姿勢がYouTube視聴者に受け容れられたのでしょう。


語る内容の真偽に賛否があるものの「教えたい」気持ちに一切の迷いがない「中田敦彦のYouTube大学」や、芸能人の余芸ではなくYouTuberとして一からやる覚悟で、背水の陣を敷いてヒカル氏に教えを乞うた「宮迫ですッ!」も、照れを捨てたからこそ獲得できた登録者数なのだと感じます。「エガちゃんねる」に至っては江頭2:50さんの「照れている姿を露出する照れを捨てる」という二重構造があり、それゆえ爆発力もすごかった。


霜降り明星やEXITら「第6.5~第七世代」になるとさらにネット動画や配信に対して照れる理由すらないジェネレーション。なのでYouTube視聴者と圧倒的に親和性が高い(EXITにとってはむしろ地上波のほうがサブでしょう)。そういう点で、個人的に特に面白いと感じるのは、地上波にもネット動画にも理解があり、かつ地上波とYouTubeで空気感のスイッチを切りかえられるかまいたちただものではないと思います。





■視聴者が望む「地上波ではできない番組」とは


ほかにもこの新刊では、地上波とは違う定点撮影の重要性、閉所での収録がもたらす効果、少人数スタッフの価値観や熱量の統一、編集によって人間味が伝わること、人を傷つけない表現の大切さについて解き明かしています。以前、あるテレビマンがスマホでYouTubeを観ながら僕に、しみじみと「こういうの、撮れないんだよね私たちには……」と語りました。地上波のテレビとYouTubeは、やはり似て非なるものなのです。


AmebaTVが開局当時「地上波ではできない番組を」と、過激だったりお色気だったりの要素が強い番組を配信していました。視聴者が望む「地上波ではできない番組」とは、そういう意味ではないことをYouTubeは教えてくれます。サンドウイッチマンの伊達さんがカツ丼を食べるだけの動画121万回も再生されました。こんな凶暴なまでにほのぼのした動画、地上波ではありえませんから。





新型コロナウイルス禍の影響で巣ごもりの感覚が定着し、人々がYouTubeと接する時間は今後さらに増えてゆくでしょう。明日から運用を考えている方は必読の新刊に違いありません。


そして、僕個人がおススメするお笑い系YouTubeチャンネルは、飛石連休:藤井ぺイジさんの「藤井ペイジちゃんねる」です。


特に「辞めた芸人、辞めない芸人に話を聞こう」のシリーズは「定点撮影やZoomという地上波ではできない表現で、こんなにも素晴らしい人間ドキュメンタリーがつくれるのか」と驚くとともに、笑い泣きさせられます。
もっと登録者数が多くてしかるべしチャンネルです。

藤井ペイジちゃんねる
https://www.youtube.com/channel/UCYHvJjgYCivMek70IhRYb4Q



YouTube放送作家
お笑い第7世代の仕掛け術
白武ときお 著
1540円(本体1400円+税)
扶桑社

YouTube、テレビ、TVer……現代のエンタメコンテンツ分析の最新書
「お笑い第7世代」ブームを仕掛ける“越境”仕事術

霜降り明星推薦!
「3人目の霜降り明星!彼が仕掛けるお笑いが次のトレンド!」――粗品
「僕が第7世代という言葉を適当に言ったとき、この男は目を輝かせていました」――せいや

霜降り明星YouTubeチャンネル「しもふりチューブ」を手掛ける『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』最年少作家による初の著書。
YouTubeから地上波まで横断して働く29歳のエンタメ分析&仕事術。

YouTubeとテレビの制作現場から届ける最新分析&事例
・2020年、YouTubeになにが起きているのか?
・誰が「コンテンツ」を面白くしているのか?
・芸能人はK-POPアイドル、YouTuberは日本のアイドル
・霜降り明星・せいやの「第7世代」発言
・「しもふりチューブ」の作り方
・フワちゃんのビジュアル誕生秘話
・EXIT・兼近の本音力
・TVerは「テレビの最終兵器」になり得るか?
・なぜテレビは炎上してしまうのか
・リモートだからこそ面白い企画とは

‘90年生まれ、29歳の放送作家、白武ときお初の著書。『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』や、霜降り明星のYouTubeチャンネル「しもふりチューブ」に作家として参加。“お笑い界の裏方”としてエンタメビジネス最前線で活動しています。

地上波番組の放送作家として、またYouTubeの放送作家として、媒体を越境しながら働く白武が、YouTubeとテレビの最前線の現状を分析。メディア論にとどまらず、エンタメ業界で必要とされるスキルや、著者が実践しているライフハックなども紹介しており、実践に基づいたカルチャー&ビジネス書となっています。

お笑い第7世代の最注目コント師・かが屋との座談会や、YouTube年表、コンテンツ“全部見”放送作家の必見コンテンツ100選など、企画も盛りだくさんの一冊

https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594085544



(吉村智樹)