サブスクの時代だからこそ聴こう!平成生まれのシンガーが令和のネット世代へ贈る『町あかりの昭和歌謡曲ガイド』
こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。
安倍首相が辞意を表明して初めて迎える週明けです。
憲政史上最長の在任日数。
しかも元号をまたいでの長期政権でした。
時代が変わる瞬間に、あなたは立ち会ったわけです。
「歌は世につれ、世は歌につれ」と申します。
かつての重大ニュースを振り返るとき、よく「その年に流行っていた曲」がセットで報じられます。
安倍首相が首相官邸で記者会見を開いたとき、オリコンシングルチャートの第1位に輝いた曲は関ジャニ∞の「Re:LIVE」でした。
次に決まる総裁は来年9月までが任期。
言わばリリーフ。
ということは来年9月には静養が明けた安倍さんの第三次政権(Re:LIVE!)もありえる? ヒット曲によってそんなふうに想像を膨らませてしまいますよね。
音楽は、時代というドラマのBGM。
そういうわけで第17冊目となるスイセン図書は、平成生まれのアーティストが令和のサブスク&YouTube世代へ送る新しいサウンドガイド『町あかりの昭和歌謡曲ガイド』です。
■新型コロナウイルスが生んだ無観客ライブ配信
この頃、アーティストがこぞってライブを配信するようになりました。あなたも、ご覧になった経験があるのでは?
配信の多くが無観客ライブ。ムーブメントのきっかけが新型コロナウイルスなので諸手を挙げて大喜びするわけにはいきません。けれども、King Gnu、Creepy Nuts、フラワーカンパニーズ、flumpool、ゴールデンボンバー、サカナクションなどなどビッグネームのオンラインライブが自宅をはじめ好きな場所でリラックスして観られるなんて、夢のようです。今秋はWANIMA、ONE OK ROCK、東京事変のライブ配信もあるとのこと。
この「オンラインライブ」という潮流は、永く活躍するJ-POPジャイアンツの世界にも波及しています。たとえばサザンオールスターズ、サザンと並べていいのかわかりませんが長渕剛、山下達郎、TUBE、THE ALFEE、ウルフルズ、現場ではいろいろあったようですがGLAY、などなど錚々たる大御所たちがオンラインライブに挑みました。
森口博子がガンダムシリーズの名曲を歌うオンラインライブも大いに話題となりました。視聴無料だったこともあり、一気にTwitterのトレンドを塗り替えました。9月にはいま「ツッパリHigh School Rock'n Roll (在宅自粛編)」が話題のT・C・R 横浜銀蝿 R・Sもオンラインライブに挑戦しますよ。夜露死苦! このように昭和に登場したエトワールたちが令和の技術で新たな光をまとい始めたのです。
■「サブスク」が昭和や平成のポップスを蘇らせる
現在のミュージックシーンを観ていると、令和のテクノロジーやシステムが昭和や平成生まれのサウンドに再びスポットライトを当てていますね。そして、いい音楽を次世代に伝える役目を果たしているのがわかります。
「サブスク」も、そのひとつでしょう。CDなど単体のソフトではなくサービスを受ける期間に対して料金を支払うサービス「サブスクリプション」。この「(略して)サブスク」は日本の名曲、佳曲、埋もれし秘宝を一気に掘り起こしました。80年代アイドルの象徴のひとりであり、政治的発言の多さから「令和のジャンヌダルク」と呼ばれる日もある小泉今日子の104タイトル726曲がサブスク解禁となったケースは、一般向けのニュースにもなりました。「キョンキョン、こんな素晴らしいアルバムを出してたんだ」と驚き、再評価したリスナーも多かったのでは。
■ネット世代に贈る「昭和歌謡曲ガイド」が登場
アーティスト自身も、YouTubeやニコニコ動画など配信サービスを通じて自分が生まれる以前の音楽に触れ、影響を受ける場合があります。たとえば平成生まれの町あかりさん。フジテレビ『じゃじゃじゃじゃ~ン!』内の人気コーナー「あかりおねえさんのニコニコへんなうた」などで知られるシンガーソングライターです。
町あかりさんはインターネットを介して昭和のポピュラーミュージックに心を奪われたひとり。リアルタイムを知らない彼女は遂に、ネット世代に贈る初の著書『町あかりの昭和歌謡曲ガイド』(青土社)を上梓しました。「平成生まれが昭和歌謡を聴くと、そう聴こえるんだ」「新鮮!」と、たちまち話題になっています。
■サザンオールスターズが中学生のハートに火を点けた
町あかりさんがタイムトラベルするきっかけ、それは中学一年生のときに好きになったサザンオールスターズ。同世代の女子たちが好きなアーティスト名をエグザイルではなく「EXILE」と書くように、彼女もまたわざわざ「SOUTHERN ALL STARS」と英語表記で書いていたと言います。けなげさ、今で言う「けなげみ」を感じさせますよね(言わないか)。
多感な少女の吸収力はすごい。彼女はサザン、おっとSOUTHERNの全作品をはじめ、桑田佳祐、原由子などメンバーの関連作品をすべて入手。さらに「彼らがデビューした1978年に流行していた曲」「湘南に関係がある曲」と、いとしのサザンを起点として関心の幅をどんどん広げてゆきました。そうしてレコードの溝を針で辿るように時代を遡っていったのです。
学校から帰ってきたらYouTubeやニコ動でレア映像を漁り、ヤフオクで目当てのシングル盤を競り落とす。そんなふうに昭和のテレビやコンサート風景に胸キュンな日々。彼女はやがて自分でも曲をつくるようになっていきます。
■先入観なく選んだ新しいスタンダード
新刊『町あかりの昭和歌謡曲ガイド』の画期的な点、それは著者が平成生まれなので先入観や「想い出補正」が一切なく、ヒットしたorしていないにかかわらず「いい曲」を公平に聴く耳を持っていること。桜田淳子の「ミスティー」も小泉今日子「魔女」も中森明菜「SOLITUDE」(ソリチュード)も近藤真彦「ロイヤル・ストレート・フラッシュ」もヒット曲ではあります。けれども代名詞というわけでもない。そういった大ヒット曲の後方で控える秀作たちをピュアに再評価できるのは、平成生まれの町さんだからこそ。
正直、昭和生まれなのに恥ずかしながら田原俊彦の「カフェバー物語」や山口百恵の「喪服さがし」、知りませんでした! だからって町さんには「和モノのレアグルーブをDIGってやるぜ」みたいなギラギラした態度もない。だって「埋もれる/埋もれない」なんて視点そもそもがないのですから。この『町あかりの昭和歌謡曲ガイド』の読後感がとっても爽やかなのは、そこなんです。
■後追いだからわかる松田聖子の偉大さ
平成生まれなので、観点もフレッシュ。キャンディーズの歌詞に出てくる、いまではあまり使われることがない言葉「ぶどう酒」に「ファンタ・グレープみたいな味なのかな」と想像していたり、なんで昭和の歌謡曲はワインを飲まないでシャワーのように浴びたりかけたりばっかりするんだろうと疑問をいだいたり(言われて初めて気がつきました!)。
時代の後追いで、しかも音楽を生業に選んだからこそ「それがどれだけ偉業なのか」がわかる事例もあります。たとえばTBS伝説の生放送ベストテン番組『ザ・ベストテン』でのワンシーン。初登場の松田聖子は「青い珊瑚礁」を中継先の空港の滑走路で歌わされました。ザ・ベストテンの合言葉「追いかけます。おでかけならばどこまでも!」の洗礼をうけたわけです。ともすれば「昭和のテレビ界は無茶してたんだよ~」で済まされがちなエピソードですよね。しかし町さんは当時の映像を観て、聖子ちゃんは生放送なのにモニタースピーカーもない場所でどうやって歌っているんだと仰天。飛行機のタラップから降りてすぐに歌っているので、きっとリハーサルなしのぶっつけ本番でしょう。往時十代の新人だった松田聖子がいかに度胸があり偉大な存在であるかを改めて感じたと言います。
『ザ・ベストテン』といえば、京急「川崎」駅のホームにある案内表示板は現在もザ・ベストテンのような「パタパタ」と音がする反転フラップ式ボードなのだそう。町さんはいつもその前に立ち、ベストテン歌手になったつもりで気分を高揚させていると言います。ボードの下にはぜひともルビー色のソファーを置いておいてほしいですね。
デジタル販売やネット配信などで、実は令和は昭和よりも昭和歌謡に手軽に触れられる時代でもあります。ノスタルジーではなく、新しい音楽の扉を開ける気分で、ページを開いてみてください。
では最後に、町あかりさんが桜田淳子をカバーした「リップスティック」をどうぞ! もう最ッ高なんです。
町あかりの昭和歌謡曲ガイド
町あかり 著
本体1500円+税
青土社
サザンオールスターズ、小泉今日子、キャンディーズ……。
定番から知られざる一曲まで、昭和歌謡曲愛好家のシンガー町あかりが自信をもって紹介する日本の名曲の数々。
年代や有名無名など一切関係なく、曲の魅力だけで選曲する、YouTube世代のまったく新しい昭和歌謡曲ガイド!
http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3453
(吉村智樹)