【額縁トリビア】脇役なんて言わないで!これを知れば美術館が10倍楽しくなる!

2020/8/26 20:40 明菜 明菜

こんにちは、美術ブロガーの明菜です。美術館にはたくさんの絵画がありますが、ときに、絵画より目立っているものがあります。

それが…


ジョン・エヴァレット・ミレー《マリアナ》(1850-1851年) テート・ブリテン

額縁です!!!

絵画の枠となる額縁には、豪勢なものが多いのです。西洋絵画の巨匠の作品ともなれば、華やかな装飾が凝らされた存在感強すぎな額縁も珍しくありません。


ルーベンスが描いた肖像画(ベルギー王立美術館蔵)。17世紀頃に額縁の豪華さもピークを迎えたので、ルーベンス作品の額縁はとても派手。肖像画の人物が高貴だとなおさら派手。

額縁の魅力に気づいてからは、絵画よりも額縁に目が行ってしまうことも…美術館で「うわぁー!!すっっっっっごい額縁!!」と言って一緒にいた人に冷たい視線を浴びせられたことがあります。

今回は、そんな額縁の魅力をお伝えするため、額縁絡みのトリビアを5つご用意しました。額縁の歴史はまだ分かっていないことも多く諸説あるので、そういう説もあるのかー!とお楽しみください。


ダーフィット・テニールス(子)が描いたオーストリア大公レオポルト・ヴィルヘルムのギャラリー(ベルギー王立美術館蔵)。コレクションの額縁は同じようなデザインに統一されています。

①昔は絵より先に額縁が作られていた!

絵と額縁は別々に作られ、後で合体されるイメージがありますが、絵よりも先に額縁が作られていた時代がありました。

例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチの《岩窟の聖母》もそんな作例の一つ。先に枠組みが作られ、枠に収まるようにレオナルドが油絵を描いたそうです。

額縁の形を把握した上で、どんな構図が良いか考えたのだな…と思うと、絵の見方が少し変わりませんか?


レオナルド・ダ・ヴィンチ《岩窟の聖母》(1495-1508年) ロンドン・ナショナル・ギャラリー(ほぼ同じ構図の絵画がルーヴル美術館にも所蔵されていますが、額縁は全然違う)

ちなみに現在の額縁はレオナルドが絵を描いた当時のものではありません。写真のロンドン・ナショナル・ギャラリー版の額縁は、当時の祭壇のパーツをベースに新たに制作されたもの。

昔の額縁はどんなデザインだったのかな?と想像をめぐらせるのも楽しく、新しい美術館の楽しみ方かもしれません!

②額縁にカーテンレールがついていた!

なんと額縁にカーテンレールがついていた作品もあるんです!かつては、お金を払った人だけが見られるようにしていたことがあるのだとか。

『フランダースの犬』にも、ルーベンスの《キリスト降架》にカーテンがかけられており、貧しい主人公ネロは見ることができない…と嘆く場面があります。


ピーテル・パウル・ルーベンス《キリスト降架》(1611-1614年) アントワープ聖母大聖堂

今はカーテンはかかっていません。ただし、教会に入るのにお金を支払うので、原理は変わってないかも?ちなみに、どこにカーテンレールが付いていたのか、今は素人には分からない印象です。

しかし、自然光が差し込む明るい教会では、カーテンがあることで絵を保護できたのでは?と考えることもできます。保護する目的だったのか、お金を払った人だけに見せる目的だったのか…一体どんな目的があったのか、想像するのも楽しいですよ。

③ルノワールは古い額縁を再利用していた!

印象派の中でも人気があるルノワールは、19世紀から20世紀に活躍した画家です。しかし、作品には18世紀のアンティークな額縁を付けることがありました。


ピエール=オーギュスト・ルノワール《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》(1876年) オルセー美術館(ルノワールの代表作として掲載。額縁の年代までは調査できませんでした)

この頃から、

「新しい絵に古い額縁を付けるのも良いよね」
「古い絵に別の時代の古い額縁を付けるのも良さそう」

といった発想が広がっていきます。画家や画商だけでなく、美術館やギャラリーにもこのアイディアが広まり、古い絵に合う古い額縁を探すようになったそうです。


ロンドンのテート・ブリテンの展示風景。絵画もいろいろ、額縁もいろいろです。

かくして、全然違う時代の絵画と額縁なのに、ぴったり調和した作品が生まれました。あまりにも絵画と額縁が綺麗なハーモニーを奏でているので、額縁が当初からのものなのか後付けのものなのか、素人にはさっぱり見分けられない事態に…。

④クリムトは弟と額縁を作っていた!

アングルやドラクロワなどが活躍した18世紀頃からは、自ら額縁のデザインを手がける画家も登場しました。画家によるトータルプロデュースが始まったのですね。

中でも有名なのが19世紀末頃に活躍したウィーン分離派の巨匠、グスタフ・クリムトです。彼の作品である《ユディトI》をご存知でしょうか?


グスタフ・クリムト《ユディトI》(1901年) ベルヴェデーレ宮殿オーストリア絵画館

こちらの額縁は、クリムト自身がデザインを考え、弟である彫金師のゲオルクに作らせたものです。クリムトの主要作品の額縁は、この2人のコラボで作られたものが多いそうですよ。

⑤1枚の絵のために数多の額縁が捨てられてきた!

豪華な額縁やシンプルな額縁など、絵画には絵に合ったさまざまな額縁が付けられています。しかし、絵が描かれた当時の額縁がそのまま付けられていることは、とっても稀です。


ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻像》(1434年) ロンドン・ナショナル・ギャラリー

絵の所有者が変わる度に好きな額縁をチョイスするなどの理由で、これまでに数多の額縁が捨てられてきました。また、完成した絵を何らかの事情でカットする場合、それまで使っていた額縁は廃棄で、新たな額縁が付けられます。

絵画は後世に伝えられるべき芸術として保護される反面、額縁は意外と簡単に捨てられてしまうのですね。しかし、絵画と額縁の関係が「主と従」であることも動かせない事実です。


ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》(1657年頃) アムステルダム国立美術館

絵画を守る頑丈そうな額縁には、廃棄の儚い歴史がありました。これから美術館で絵画に対峙するときは、額縁をねぎらっていきたいと思います。

【まとめ】額縁すごい!額縁エラいぞ!

今回はキャッチーなエピソードを紹介しましたが、額縁の歴史はもっと奥深いです。時代によってデザインが少しずつ変わっていくので、きちんと学んだら「この額縁は○○世紀のデザインだな」とか分かって楽しいと思います。


フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》(1888年) ロンドン・ナショナル・ギャラリー

絵画の本を開いても、額縁までは載っていないことの方が多いですよね。額縁は美術館を訪れることでしか出会えないレアキャラなんです。

額縁のデザインによって絵画の印象が変わることも珍しくはありません。なのに、持ち主が変わったときに捨てられるなどの悲しい歴史を持っています…。



美術館を訪れた際には、額縁にも注目してみてはいかがでしょうか?もう脇役とは言わせない、絵画と対等な存在になるんだ!

【参考文献】
『額縁と名画―絵画ファンのための額縁鑑賞入門』ニコラスペニー著、古賀敬子訳 八坂書房(2003年)
『額縁からみる絵画 古代ローマのフレスコ画から19世紀の肖像画へ』小笠原尚司著 八坂書房(2015年)