元プロレスラーのシェフが新型コロナと激闘!『オープンから24年目を迎える人気ステーキ店が味わったデスマッチよりも危険な飲食店経営の真実』

2020/8/24 16:50吉村智樹吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


8月も、もうすぐ終わり。
暑さの凶暴性がいくぶん和らいできました。
今年の夏は日本各地で40度を超える酷暑(というかもう殺暑)となる日がありました。 やっとゴールが見え始めましたね。


さて、五寸釘で刺すような暑さが去ると、次にやってくるのがキツい夏バテ。めまいがする暑さと、クーラーによる冷やしすぎの有刺鉄線デスマッチで、身体はもうだるんだるん。「栄養つけなきゃ」とは思うもののキッチンに立つのすら面倒くさく、市販のうどん玉に醤油ぶっかけて食う的な横着でしのいでしまいがち。こういうときは血がしたたるステーキを食べて夏バテを電流爆破してやりたいものです。


とはいえ新型コロナウイルスの影響で、ステーキハウスはもちろん、どちらの飲食店も満身創痍の闘いを強いられました。


そういうわけで第16冊目となるスイセン図書はミスター・デンジャーの異名を馳せた元プロレスラーのステーキハウス店主が書く『オープンから24年目を迎える人気ステーキ店が味わったデスマッチよりも危険な飲食店経営の真実』です。







■東京に安くておいしいステーキの名店あり


以前のように気軽には都道府県をまたげない昨今。もしも東京へ行ける機会があったならば、ステーキハウス「ミスターデンジャー」を訪れてみたい。


「ミスターデンジャー」は東武亀戸線「東あずま」という、なかなか「ついでに」というわけにはいかないシヴい駅から徒歩4分の場所にあります。


おもなメニューは、どっさりなボリュームのビーフステーキと、ごろごろ肉肉しいハンバーグ。味わいが深い「ハンギングテンダー」(焼肉店で言うサガリ、ハラミ)の筋を手仕事で丁寧に断って抜き取って使います。そのためステーキは箸で切れるほどお肉が柔らかいのだそう。また自分の店で筋や脂の除去処理をしているため、お安く提供できるのだとか。ソースが6種類もあり、毎日通っても飽きないお味と評判です。


ぜひともミスターデンジャーのステーキを画像検索していただきたい。バターがたっぷり乗っており、ウインナーソーセージのつけあわせも嬉しい。さらに牛すじで出汁をとったスープがついていて、めちゃめちゃおいしそうなんです。ああ、ステーキとイカツいハンバーグにかぶりついてスタミナつけたい!


■店主は死闘を繰り広げた元レスラー


店主であり、自ら厨房でステーキを焼くのが、元プロレスラーの松永光弘(まつなが みつひろ)さん。ニックネームは店名にもなった「ミスターデンジャー」。プロレスに明るくない僕ですら、ミスターのデンジャラスな活躍は目や耳にしている、そんな有名レスラーです。


松永選手と言えば、代名詞はやはり「デスマッチ」! 対戦相手めがけて2階席からダイブをしたり、五寸釘1000本をびっしり打ち込んだ畳「地獄の針山」にぶん投げられたリと生傷が絶えない激闘で、インディーからのしあがってきました。


1997年にステーキハウス「ミスターデンジャー」を開店した当時、松永さんはまだレスラーを引退していませんでした。そのため、デスマッチを終えたあと怪我の治療もそこそこに店に行ってステーキを焼いていたというから驚き。血がしたたるステーキを血がしたたる店主が焼くなんて兼業の概念がくつがえされます


そんな血みどろの戦場を何度もかいくぐってきた松永さん。存在が危険だとまで謳われた彼が「飲食店経営のほうが過酷」「地獄だった」というから、店舗経営は本当に甘くないのですね。幾度も経営難に陥り、そのたびにもがきながら這い上がってきた記録が、新刊『オープンから24年目を迎える人気ステーキ店が味わったデスマッチよりも危険な飲食店経営の真実』(ワニブックス)に綴られています。


松永さんはすでにレスラーを引退して長いですが、有刺鉄線でできた冠を新たに制作して表紙撮影にも臨んでいます。





■レスラーも音を上げる立ち仕事のつらさ


飲食店を始めた松永さんが先ず驚いたのが「体力的なつらさ」でした。有刺鉄線をぐるぐる巻きにした野球のバットをぶんぶん振り回すほど強靭な体力の持ち主であった松永さん。そんな彼でさえ、立ち仕事はこんなにもつらいのかと音を上げました(ちなみに牛肉の高騰で値上げをせざる得なかったときのポスターは『音(ね)上げ宣言』でした)。現在も身体の酷使からくる足底筋膜炎を患いながら調理を続けています。


■狂牛病、リーマンショック、震災


そして松永さんの店には、まるで何度もデスマッチを挑んでくる大仁田厚さんのように試練が繰り返されます。狂牛病騒動、リーマンショック、牛肉の高騰、東日本大震災……。かつてあった支店の店長が肉の仕入れを2トンも間違え、900万円近い無駄な支出をせねばならなかった日もありました。また、原因がはっきりしないのに、嵐のようにやってきたたくさんのお客さんが、翌週には嵐のように消えてしまう場合も(怖い!)。どれもこれもいつ起きるかわからない、いっさいのブックがないカードです。


この本を読むまで知りませんでした。2001年に巻き起こった狂牛病騒動はいまだに食肉業界に暗い影を落とし、松永さんもダメージを受け続けています。畜産界、精肉界の混乱は現在進行形であるという事実。皆、闘い続けているのです。





■新型コロナというメインイベント


そして、24年という長い長いデスマッチを経て、遂に自然界最大の凶器攻撃と呼ぶべき「新型コロナウイルス」が松永さんの店を襲います。松永さんはこれに対しオープン以来、初めての長期休業に入りました(6月に再開店)。補償のお金をもらっても経営的に合わないなか、あえて休場というかたちで新型コロナを迎えたのは、さまざまな苦境を乗り越えたからこそ完成した究極のバンプだったのかもしれません。松永さんは「コロナとの闘いを『デスマッチ』にしてはいけない」、そう言います。


■自分は弱い人間だと認める


この本には気づきがたくさんあります。飲食店を経営している人にも、そうではない人にも、どんな仕事にも、我々フリーランスにとっても。


仕事がうまくいくためには、


●扱うメニューを減らす(手広くやりすぎない)。
●なんの店なのか、わかりやすく。
●自分の目が届かない店は増やさない。
●仕入れ先に値切らない。
●過去の栄光はばっさり切り捨てる。
●自分でやる。自分が厨房に立つ。外注しすぎない。
●初期費用は安く。しかし回転し始めたら大胆な設備投資を。
●原価を低くしない。
●手を抜けるところは抜く。
●強がらない。私は弱い人間だと認める。
●ファンを大切にする。同じように一見さんを大切にする。毎日が新規開拓。
●町内会に奉仕する。
●しっかり休む。
●誰かが不幸になる儲けは意味がない。


松永さんは「デスマッチで本当に大事なことは、死ぬかもしれない状況になっているリングから、しっかりと生きて帰ってくることなのだ」と語ります。





この本を読んでいて、強さとは弱さを認めることなんだなと感じました。目先の勝ちより、敗けながら、負けながら、それでもしぶとく生き続ける。それが真の勝者なのだろうと。あー、ますます「ミスターデンジャー」のステーキが食べたくなってきました。


余談ですが、かつてワニとも闘った松永さんが、ワニブックスから本を出したのも不思議なご縁を感じます。



オープンから24年目を迎える人気ステーキ店が味わったデスマッチよりも危険な飲食店経営の真実
松永光弘 著
1,300 円+税
ワニブックス

今年でオープンから24年目を迎えたステーキハウス『ミスターデンジャ―』(東京都墨田区立花)。
今や行列が絶えない人気店だが、狂牛病騒動、リーマンショック、新型コロナウイルスなど予期せぬピンチの連続で、ここに至るまでの道のりはデスマッチよりも危険だった!
どんな非常事態も創意・工夫で乗り越えてきた元プロレスラーで〝ミスター・デンジャー〟の異名を馳せた店長の松永光弘氏が初めて明かす、固定概念をブチ壊すサバイバル哲学!!


「コロナ禍のような緊急事態下こそ、大きな決断を即座に下せるかどうかが、ビジネスを進めていく上で、とても大事なことだと思っている。もちろん、これは私が何度となくビジネス上で失敗を繰り返し、そこから学んだことでもある。いまとなっては、あんなにたくさんの危機に直面してきたのに、よく店を23年も存続させ続けることができたな、としみじみ思う。そうやって体験してきたこと、学習してきたことも、この本ではすべて書いていこう」(著者より)
https://www.wani.co.jp/event.php?id=6712



(吉村智樹)
*画像はすべてこちらで撮り下ろしています。