子どもたちのバイブル「コロコロコミック」の裏側には大人たちの汗と涙があった!『コロコロ創刊伝説』とは

2020/8/3 16:00 吉村智樹 吉村智樹






こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


「緊急事態宣言を解除したにもかかわらず新規感染者が40人を超えたぞ!」なんてのんきなことを言っていた頃が懐かしいですね。


「Go To Travel キャンペーン」が始まったりしたかと思えば「罰則付き休業要請はあり得る」と国民を脅してみたり、態度がコロコロ変わります。そのたびに翻弄される日々です。思わず「漫画かよ!」とブーたれたくもなります。


こういうときは家でのんびり漫画を楽しむのが一番!


ということで第14冊目となるスイセン図書は、7月15日に待望の最新第5巻が発売された、月刊コロコロコミックの誕生秘話を描く実録漫画『コロコロ創刊伝説』です。





■小学生のバイブル『コロコロコミック』はいかにして生まれたか


1997年(昭和52年)に創刊された小学生向け漫画雑誌『コロコロコミック』。多くの人が一度は手にした経験があるのでは。コロコロコミックは大ヒット作品を「連射」しました。「ゲーム」「ビックリマン」「ミニ四駆」など数々の社会現象を呼び起こし、遂に発行部数100万部(!)を突破するに至った怪物です。


漫画界に一大旋風を吹き起こした『コロコロコミック』は、いかにして誕生したのか? ベストセラーの数々はどのように生みだされたのか? そこには大人たちの汗と涙、子どもたちへの愛と情熱がありました。当時の作者や関係者などレジェンドへの綿密な取材を経て漫画化されたのが、今回ご紹介する『コロコロ創刊伝説』です。


コロコロコミックは手にずっしりくるボリューム感、おトク感も子どもたちにはたまりません。その極端なブ厚さから、ときに「小学生のバイブル」「お子様用の文藝春秋」と呼ばれる場合もありました。


■名作から珍作まで、なんでもありだった


コロコロコミックはとにかく名作、人気作、話題作品が多い多い! ドラえもんなど藤子不二雄関連作品を筆頭に、名たんていカゲマン、ゲームセンターあらし、あさりちゃん、おぼっちゃまくん、ビックリマン、星のカービィ、スーパーマリオくん、学級王ヤマザキ、ポケットモンスター、妖怪ウオッチ、デュエル・マスターズ、ベイブレードバーストなどなど枚挙にいとまがありません。


漫画に採りあげたゲームやホビー、お菓子が流行する場合が多く、日経トレンディ顔負けのトレンドウオッチャーでもあります。『ビックリマン』は編集者がたまたまロッテのお菓子「ビックリマン」を購入し、おまけについているシールの意味がわからず本社へ問い合わせをしたことが漫画化へと発展したというからビックリ!


新しいホビーの漫画化へ挑戦する気概に溢れ、溢れすぎて、ときどきとてつもない珍作が登場するのもコロコロの魅力。たとえばヒット作『ゲームセンターあらし』『ファミコンロッキー』の流れにある電子ゲーム格闘系漫画『突撃! ゲームボーイ』


さすがにゲームボーイはゲーム画面が小さすぎてドラマ展開がしづらかったよう。空手家でもある主人公の少年が毎回ゲームボーイ本体を空手の技で殴りまくる、物を大事にする精神はどこへやらという内容でした。作者の苦悩がしのばれます。





■「高橋名人」をはじめ裏方たちをスターにした


コロコロコミックといえば漫画だけではなく「16連射」で一斉を風靡した「高橋名人」を生みだした媒体としても知られています。無名だったハドソンの社員として編集部へ営業にやってきたのがファーストコンタクトだというから驚き。営業にやってきた社員が一夜にしてスターに……


高橋名人といえば裏技。高橋名人は編集部で新作ゲームを実演したところバグが見つかり、冷や汗をかいていました。そんな彼にこれはミスではなく”裏技”ってことにしようと提案したのは、なんとコロコロコミックの編集者でした。裏技はその後、一般名詞化しましたね。コロコロコミックはこのように高橋名人をはじめ「ビックリマンの反後(たんご)博士」「ミニ四ファイター」のように実在する社員や裏方スタッフをヒーローにしてゆく功績もありました。


■『つるピカハゲ丸』作者のむらしんぼは借金苦にあえいでいた


この『コロコロ創刊伝説』には、もうひとつの大きな柱があります。いや、こっちがメインとすら言えるでしょう。作者はコロコロコミック誌上に『とどろけ! 一番』『つるピカハゲ丸』などのヒット作を生みだした、のむらしんぼさん。作品のアニメ化などで巨万の富を得たものの、現在は鳴かず飛ばずの64歳。カード借金がかさみ、離婚も経験しました。「どん底にある漫画家が果たして『コロコロ創刊伝説』で復活できるのか!?」、そういった現在進行形のドキュメンタリーでもあるのです。道ゆく小学生から「あ、つるピカハゲ丸だ!」と指さされた経験ならばライター界で右に出る者がないと自負するワタクシ。読まないわけにはまいりません。





■望まれて誕生したわけではなかったコロコロコミック


いや~、知らない逸話だらけでした。コロコロコミックは、たったふたりの編集者が起ち上げた弱小な雑誌でした。当時の漫画は全般的に対象が子どもから高校・大学生、さらには社会人へと年齢があがり、出版社自体が児童漫画を「ガキ向け」と差別視するようになっていました。子ども漫画の復興を誓い、PR用に日本一のちびっこ漫画雑誌であると謳うポスターをつくったところ、会社から日本一なはずがないから修正しろとまで命令される始末。そのような怒れる逆境から、しぶとく進んできた道のりがあったのです。


■日本中の子どもたちが「友だちんこ!」になれた


怒りといえば『おぼっちゃまくん』が誕生した発端にも怒りがありました。アイデアに煮詰まり果てた小林よしのりが成城のカフェで気分転換をはかっていたところ、隣の席にいた青年が彼女に「パパからクルーザーを買ってもらったんだ」と自慢しているではありませんか。執筆で忙しく、どこへも出かけられないよしりん先生、それを聴いて「あたまに北半球!」と激怒。怒髪天をついたまま猛然と「めちゃめちゃ下品なお坊ちゃま」像を描いたのです。それは日ごろクラスメイトとの貧富の差を感じていた日本中の子どもたちが「友だちんこ」になれた瞬間でした。


コロコロコミックは「小学生の目線」をつねに大切にしてきました。たとえば、すがやみつる『ゲームセンターあらし』。主人公が「出っ歯を使ってドリル撃ち」するなどなど破天荒極まりないゲームプレイで度肝を抜きましたね。実は連載開始前は、もっとシュッとしたカッコいい少年が想定されていました。しかし、コロコロに優等生はいりませんと、チビで出っ歯の少年になったのです。


性格はガサツで短気。見た目にもコンプレックスだらけ。そんな人間的にイマイチなやつらでも「ラジコン」や「ヨーヨー」などある一点が突破できれば英雄になれる。クラスで上から17番目くらいの子どもたちは皆、コロコロコミックの漫画に等身大の自分を反映していったのです。





■人知れず深い傷を負っていた作者たち


この『コロコロ創刊伝説』は作者たちの苦悶にも迫ります。『星のカービィ』の初代作者ひかわ博一が、こんなにも苦しみながら描いていたとは知りませんでした。かつてのむらしんぼのアシスタントだったひかわ氏は『星のカービィ』で一躍人気作家となります。しかしアンケート上位をキープする重圧に耐えられず、心は折れ、吐きながら描いていたのだそう。遂にはひとたび引退し、復帰作を描けるようになったのは、なんと11年後でした。


かつてのアシスタントが自分を超えてゆく。自分がいる座を脅かす。激しく嫉妬しながらも、お金がないという現実。のむら氏は遂に、アシスタントだったひかわ氏に借金を申し込みます。しかも、けっこうな額の……つらい。あんな丸っこくて愛らしい漫画の裏に、そんなギザギザなドラマがあったとは。しかしながら、この漫画でひかわさんが悩んでいた日々を初めて知った母親から手紙が来るエピソードは、現在進行形ドキュメンタリーだからこその展開です。泣けます!


■ダッシュで生き抜き40代の若さで亡くなった巨漢の漫画家


最新刊である第5巻は『ダッシュ!四駆郎』でミニ四駆ブームを巻き起こしながらも2006年、48歳の若さで亡くなった巨漢漫画家・徳田ザウルスの評伝。


お金がなくてだらしなく、公園の噴水で身体を洗い、ゴミ屋敷に住みながら漫画を描き続けた彼。まだ世に出ていなかったホビー「ミニ四駆」と出会い頭角を表します。漫画に登場するミニ四駆のデザインを読者に公募したところ、なんと3万通もの応募があったというから、いかに彼が描くメカニックが子どもたちのハートをつかんでいたかが、うかがいしれます。サイン会と入稿の締め切りが重なり、大勢の子どもたちが見守るなかサイン会会場で「公開執筆」を行い、危機を乗り越えた逸話はすごい。往時の人気の白熱ぶりに圧倒されます。作品名のとおりダッシュで駆動していた徳田ザウルスは、まさに子どもたちの夢の結晶でした。





■離婚に借金。「もうひとつの伝説」もリアルタイム進行中


そうやって取材を続けるのむらしんぼ氏にも、悲喜こもごもがあります。自分の結婚式の寸前まで原稿を描くほど忙しく、家庭を顧みることができず、「あなたは漫画と心中したいんでしょ。その望みを叶えてあげます」と言い残し、妻や娘、息子たちは去っていきました。『つるピカハゲ丸』が当たっていたときは「2億円でも貸す」と言っていた銀行にアシスタントへ払う30万を借りに行くと、現在のあなたには一円も貸せないと追い返される始末。カードローンでの借金は300万円を超え、最愛の母を亡くし、かつての戦友たちは鬼籍に入り……と、こっちはこっちで手に汗握る展開に。だからこそ、この『コロコロ創刊伝説』が発売されたと知った娘さんから久々に届いたメールの内容に涙せずにいられないのです。ここが一番、胸にとどろきましたね。


こういった厳しい現実がリアルタイムで、しかも「つるピカハゲ丸」のギャグタッチのまんまで描かれるから、もうたまりません。コロコロコミックで得た「熱く生きる」気持ちを忘れず、僕もコロコロと転がりながら進んでゆきたいです。そしてこの本が売れて、作者ののむら氏にはぜひとも「もうけたぜ~!」と言ってほしい。



コロコロ創刊伝説 1~5
のむらしんぼ 著
各巻 本体583円+税 *画像は最新刊5巻
小学館

「コロコロ」を創った男たちの真実の物語!

『とどろけ!一番』『つるピカハゲ丸』の作者・のむらしんぼが、すべてを賭けて描く「コロコロ」を創った漫画家と編集者の真実の物語。

大人のコロコロ「コロコロアニキ」で連載開始以来、テレビや雑誌、SNSなど各所で話題となっている『コロコロ創刊伝説』が、ついにコミックスになりました。

小学生男子のバイブルとして、現在でも発行部数100万部を誇る「月刊コロコロコミック」はいかにして創られていったのかを、創刊当時から現在まで、約40年もコロコロで描き続けている作者が漫画化しています。

のむらしんぼ先生の人生は、この本の売れ行きにかかっています。
全ての元・コロコロ読者、全てのマンガファン、全ての人類のみなさん、絶対に面白いから買ってください! 離婚や借金なんのその! このコミックスで、つかむぜ! ベストセラーの一番星!

https://www.shogakukan.co.jp/books/volume/44507


(吉村智樹)