【ワークマン】快進撃の理由とは? 『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』

2020/7/20 14:00 吉村智樹 吉村智樹






こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


開始が前倒しになったかと思えば東京は除外。キャンセル料も結局は払わないんだか払うんだか二転三転する「Go To Trouble」ならぬ「Go To Travel」。


新型コロナウイルスも沈静化する気配はいっこうに感じられず、それどころか緊急事態宣言以前とほとんど変わらない新規感染者数を記録する日々。


お勤めの方、自営の方、パートさんやアルバイターなどなど日本中のワークマンたちの暮らしに強く影響が出てしまっていますよね
出口が見えぬ不安な日が続きます。
なかなか「Go To 脱出口」とはいかないようです。


そこで、こんな時期だからこそ来るべき収束の日に向けてお家でゆっくり戦略をたてられる「おススメの新刊」を紹介します。


第12冊目となるスイセン図書は、多くの企業が新型コロナウイルス禍によって売り上げを落とす昨今にあってなお進撃が止まらない作業服専門店「ワークマン」の物語『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』です。





■「作業服はプロが着るもの」という考え方に縛られた時代があった


仕事のほとんどを机の上で生みだし、指しか動かしていないデスクワークマンの僕。けれども日ごろ着ている衣料品の多くは作業服です。


作業服は動きやすく、なにより安い。機能的で、特に防寒や静電気除去には絶大な効果を発揮します。寒がりかつ帯電体質で冬になるといつも「ピリッ」と走る電流に悲鳴をあげている僕。そんな自分にとって作業服は欠かすことができない命綱なのです。


もう三十年来、作業服を着る暮らしを送っています。着れば着るほど「生活のなかでこれほど利便性が高い衣料ジャンルは他にない」と感心させられます。現場作業だけに限定するのは、あまりにももったいない。


しかし、かつては作業服を普段着遣いしていると、不思議そうな視線を向けられた時期もありました。「作業服イコール鬼瓦権蔵」というイメージが強すぎたのでしょうか。ドカッとしたジャンバーを着て会議に出席すると「女性にモテないでしょう」と多方面に差別的な発言を露骨にするディレクターもいました(10年前なので今はそういう人はいませんが)。冗談じゃないよ~。そもそも作業服を着ようが着まいがモテないので関係ありません。


しかし現在、作業服に対して偏見を抱えるする人は、もういません。完全に市民権を得ています。「作業服コーデ」はInstagramのキラーコンテンツとなっていますしね。このように作業服がカジュアルな存在になったのは、デザイン性の向上もさることながら専門店「ワークマン」が果たした功績が大きいのです


■わずか16坪の小さな店舗から始まった「ワークマン」


雑誌「日経xTREND(クロストレンド)」記者である酒井大輔さんが上梓した新刊『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』(日経BP)が話題です。この本は一軒の小さな作業服屋さんが”作業服を売るという業態を変えぬまま”巨大アパレルメーカーへと成長(というより変貌)を遂げていった40年を追う、気迫に溢れたルポルタージュ。ワークマンの冷却タオルで汗を拭かないと熱気にあおられてしまう、そんなアツい一冊なのです。


作業服専門店「ワークマン」は1980年、群馬県で誕生しました。はじめはわずか16坪の小さなお店。外観も、いかにも「プロ仕様!」といったぶこつな雰囲気でした。アパレル感は、まるでなかったのだそう。





そんな、ちょっとイカツい「ワークマン」を大きく変身させたのが現・専務の土屋哲雄さん。商社マンとして世界を飛び回っていた土屋さんは呼び寄せられるように2012年に常勤顧問に。以来この8年にあいだに「ワークマン」は急成長を果たします。


土屋さんはワークマンに関わり、驚いたことが多々あったのだそう。先ずは「仕入れ」。仕入れは各店舗の判断に任されている場合が多く、しかも仕入れの根拠はなんと「勘」でした。勘ピュータに頼ると、はずれたときに無駄な在庫を抱えてしまいます。こんなアナログなままはいけない。そう考えた土屋さんは勘からデータ経営への転換をこころみるのです。


データ化する作業で見えてきたものがありました。たとえばMよりも「3L」といったサイズがよく売れていたり白い長靴が九州でだけ極端に売れていたり。他のアパレルのストアにはない、作業服専門店ならではの動きですよね。そうやってデータ化を進めるうちに社員全員が各店店頭や在庫の状況をつかめるようになりました。それからワークマンは本部と店舗との連携がグルーヴィにまわりだしはじめたのです。


■作業服だってファッションだ! 「ワークマンプラス」が巻き起こした革命


土屋さんが手がけた改革のなかでも特に大きな功績はふたつ。ひとつはワークマンのオリジナルブランドを起ち上げた点。もうひとつは取り扱い商品は同じなまま「ワークマンプラス」というおしゃれな内装の店舗を開いた点


もちろん、そこには苦労がありました。これまでプロの職人を対象に販売していた作業服をファミリーへ向けへと転換した場合、現状の駐車場で対応できるのか。それを調べるために土屋さんは一日中、路上に立って車の流れを観察しました。その様子が「アヤシイ」と、なんと職務質問を受ける羽目に。自分の会社なのに!


そうやって地道なフィールドワークの結果、ワークマンならびにワークマンプラスは全国へと販路を拡げました。「ワークマンさいたま佐知川店」に至っては一軒の店が時間によってワークマンからワークマンプラスへと変身するのだそう。しかも時間によって店名が変わるたびに照明や店内に漂う香水のかおりまで変えるという凝りよう!


土屋さんが新たな風を吹き込むと、新鮮な空気を吸った社員たちのアンテナも受信力がたかまります。「スポーツマンがワークマンのシューズを絶賛している」「オートバイライダーたちの間でワークマンのウエアが評価されている」「建築などの現場作業のみならず普段着として使いこなすカリスマ女性がいる」「YouTubeなどでキャンプ動画がブームとなり撥水や断熱に優れた作業服をアウトドアファッションとして使う人が増えている」などなど、新たな発見ができるようになってきたのです。そうやって時代を読む視力があがり、ワークマンは現場のプロから一般ユーザーへとドアを開き始めました。





■「自社製品を愛する」という基本理念


40年の歴史がある会社の人たちが、なぜ中途でやってきた土屋さんについていったのでしょう。その理由のひとつに「土屋さんが一日中、自社商品を着た」という点が挙げられます。


実はそれまで社員ですら「作業服をふだん着るのは恥ずかしい」という偏見があったのだそう。しかし作業服をさっそうと着こなして出勤する土屋さんを見て、社員たちは改めて自分たちが取扱う商品のレベルの高さを再認識しました。さらには誇りをもつに至ったのです。素晴らしことですよね。与党の皆さんも誇りをもって、あの「マスク」をおつけになってみてはいかがでしょう。どなたもしていらっしゃらないようですが……。


この本はビジネス書です。
けれども、ビジネス以外の場所でも心がけたい教訓がたくさん得られました。なにより「固定観念に縛られず、自分がいる場所とは別の世界をのぞいてみる」考え方の重要性を学びました。


ワークマンがプロ用の作業服をファッションのいちジャンルとして一般化したように「自分自身も別のどこかでワークできるのではないか」と考えなおしてみたい。そういった視点をもらえた本でした。



ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか
酒井大輔 著
日経BP
1,760円(税込)

全編新型コロナウイルス緊急事態宣言発令後、書き下ろし!
『ワークマン初のビジネス書』誕生

作業服専門店がアウトドアショップに転身!?
商品を全く変えず、売り方を変えただけで2倍売れた、「アパレル史上に残る革命」の舞台裏を渾身ルポ!

消費増税も、新型コロナ禍も、全く揺るがぬ右肩成長。
ワークマンはなぜ、強いのか。その強さは、本物か。
ビジネスモデルのすべてに迫ったノンフィクションの決定版が登場。

●新業態「ワークマンプラス」は、なぜ生まれたのか?
●「ワークマンを変えた男」とは?
●実は「データ経営」企業だった!
●販促費を全くかけずに売り切る秘策!?
●まだまだある「第2、第3のワークマンプラス」

https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/20/279560/



(吉村智樹)
*使用している画像は筆者が撮り下ろしています。