【おススメ本】お見合いのストレスで難聴に!?『お見合い35回にうんざりしてアメリカに家出して僧侶になって帰ってきました。』

2020/6/15 14:00 吉村智樹 吉村智樹






こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


「東京アラート」が解除されたあとにも、都内の新規感染者数がいまだ二ケタ台にものぼる昨今。


自宅で楽しめる安全で手軽なエンタテインメントと言えば、やはり「読書」


そこで、こんな時期だからこそ読んでいただきたい「おススメの新刊」を紹介してゆきます。


第7冊目となるスイセン図書は、テレビのコメンテーターとしても顔なじみな僧侶が書き下ろした話題の本『お見合い35回にうんざりしてアメリカに家出して僧侶になって帰ってきました。』です。





■ヤバい! 波乱に満ちた尼僧の人生


今回ご紹介する新刊は『お見合い35回にうんざりしてアメリカに家出して僧侶になって帰ってきました。』(幻冬舎)という、タイトルですでに情報量がメガ盛りな自伝的エッセイ集です。


著者は京都・大行寺の住職、英月(えいげつ)さん
情報番組『ミント!』をはじめ、さまざまなメディアでコメンテーターとしても活躍しておられるので、ご存知の方も多いでしょう。
おおらかで、澄んだお声が素敵な女性です。


そんな英月さんは現在48歳。
これまで過度な回数の「お見合い」、家出に近い「渡米」、苦労しっぱなしの「海外生活」、日本ではなくアメリカで「僧侶になる」などなど、とにっかく波乱に満ちた人生を送ってきました。


バイオリズムのアップダウンは、もう絶叫系ジェットコースターのよう。
ときに爆笑し、ときに筆者と同じようにハラハラドキドキ緊張し、感情を揺すりに揺さぶられながら読み終えました。


■大手銀行員時代は何不自由なく暮らした


英月さんは1821年(文政4)に創建された永い歴史を抱く大行寺で生まれました。
しかし、仏教に関心を寄せる気持ちはなく、大学卒業後は都市銀行の本部で正行員をしていたのです。


高いお給料、充分な休暇、恵まれた福利厚生、たっぷりな賞与を得られ、定時になれば夜の街へと繰り出す何不自由ない暮らし。
出勤のためのスーツはハイブランド製、四日間の香港旅行のあいだに100万円もの大金をカードで支払っても貯蓄にはいっこうに響かない。
そんな夢のような日々を送っていました。





■35回に及ぶ「お見合い」のストレスで難聴に


しかしながら、極楽浄土と呼んで大げさではないライフスタイルのなかでさえ、苦痛を感じる出来事がありました。
それが「お見合い」


これは京都の寺院間の習わしなのか、伴侶をお見合いで選ぶ常例があるようです。
代々お見合いによって寺を継続してきた家系ゆえ、英月さんも多分に洩れず、両家の公認のもと、さまざまな男性と出会います。


ところが、対面するのは、父親に相談しないと自分では何ひとつ決められないなど、気乗りしない男性ばかり。
ときには、まだおつきあいにさえ発展していない段階にもかかわらず先方の縁者から「元気な男の子を産んでくださいね」と言われる始末。
まるで跡継ぎ出産のためだけの、産む機械扱いです。


そうして断り続ける英月さんに、遂に母親は「何か恨みでもあるのですか」「こんな歳にもなって結婚しない娘がいるのは家の恥。父や母を殺したいのですか」と泣き出す始末。


英月さんもまた、自分が折れて妥協すべきなのかと悩みます。
そうしてお見合いのストレスから英月さんはなんと、難聴になってしまうのです
まさに、地獄。


ここまできて、読者は気がつきます。
そうか、この本は35回もお見合いしちゃった(てへぺろ)的な、単なる「面白エッセイ集」ではないのだと。
人は、自分らしさとは? 自分の居場所とは? と本気で問いながら生きないと、大げさではなく命が危ない
英月さんは、自らの生き方をさらけだすことで、それを読者へ伝えようとしているのです。





■アメリカで読経をしたきかっけは「猫のお葬式」


自己のアイデンティティの崩壊を感じた英月さんは、安定した銀行員生活を捨て「骨を埋めるつもりで」アメリカへと渡ります。


ここからがまた、まるでスペクタクル映画であるかのように、さまざまな困難が襲ってきます。
言葉が通じないトラブル、交通網を理解できないトラブル、「プロの女性」に間違われるトラブル、エトセトラ。


そうしてもがきながら生きる彼女は、日本から遠く離れた地で、あれほど興味がなかったお経を読むのです。
きっかけは、友人の飼い猫のお弔いをするため。
そうして京都では感じなかった「慈愛の大切さ」を海の向こうで知ることとなったのです。


海外でたくさんの苦労をする破目に陥った英月さん。
それでも読んでいて感じるのは、ひとかけらのパンがありがたいほどの貧困を経験し、なぜこんなに生きるのがしんどいのだと悩み、自分の人生に光が射す場所はどこなのかかとひたすら問い続け、自力でそれを見つけようとした日々のほうが、お金があっても旧態依然とした家長制度のなかでストレスを感じていた日々よりも、ずっと幸せだということ。


「周りがそうだから」と流されるのは簡単です。
しかし、悩み、問い続けることで得られた境地こそが、真の「自分らしさ」なのだと、この本は教えてくれます。


自分らしさって、そう簡単には手に入らない。
深い苦悩としぶとい追及の向こう側にあるんでしょうね。





■これから男女はどのように出会うのか


さて、この本は表題にもあるように「お見合い」が重要なキーワードとなっています。


アフターコロナwithコロナと呼ばれるこれからの時代、恋愛や結婚のかたちは大きく変わっていかざるを得ないでしょう


マスクをしているために、素顔はよくわからない。
顔を見初めて恋愛感情へと発展する可能性はかなり低くなる。


さりとて飛沫感染を防ぐため、おしゃべりは最小限に留めねばならない。
そうなってくると、性格で人を好きになる場合も少なくなるでしょう。


一歩発展し、たとえ飲みに誘えたとしても、ソーシャルディスタンスの距離をとって座るのがマナー。
手をつないだり髪をなでたりする前はアルコール消毒が必須。


そのような状況下で、どうやって女性と男性は出会い、愛を育むのか。
その第一歩として感染の心配がない、Zoomなどを使ったリモート「お見合い」が復活するのではないか、そんな気がします。



お見合い35回にうんざりしてアメリカに家出して僧侶になって帰ってきました。
英月 著
幻冬舎
1,400円(税別)


「あなたの唯一の取り柄は若さです。若さがあるうちに結婚しなさい」という親の一言から始まったお見合い地獄。「自分の居場所は、ここではない」と、30代を目前に全てを捨ててサンフランシスコへ家出。10年近く住み、もう日本には帰らないつもりだったのに、友人の猫のお葬式がきっかけで仏教の魅力に惹きこまれ……いつのまにやら京都で住職になっていました! どんな人生でも、きっと居場所が見つかります。笑えて泣ける奮闘人生エッセイ。
https://www.gentosha.co.jp/book/b13101.html


(吉村智樹)
*使用している画像はすべて撮りおろしです。