【おススメ本】超人気アカウントが教える「寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった『つながる作法』」

2020/5/18 13:00 吉村智樹 吉村智樹





こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


段階的に解除が始まったとはいえ、まだまだ不要不急な外出を自粛するよう要請されている昨今。
自宅で楽しめる手軽なエンタテインメントと言えば、やはり「読書」


そこで、こんな時期だからこそ読んでいただきたい「おススメ書籍」を紹介してゆきたいと思います。


第三回目は、もっとも身近なSNS「Twitter」にまつわる本。
寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった「つながる作法」をご案内します。


■日本のTwitter利用者は4500万人を超える





皆さんは「Twitter」をやっていますか?


Twitterジャパンの報告によると、日本での「Twitter利用者率」は世界の16%にも及び、月間アクティブユーザーは「4500万」(!)を超えるのだそう(2019年11月25日に発表)。


ひと月に、稼働しているアカウントだけを見ても4500万人強
東京都の人口が1395万1636人(2020年01月31日 総務局発表)ですから、日本の暮らしの中に、いかにTwitterが根付いているかが、うかがい知れます。


検察庁法の改正をめぐる膨大な数の抗議投稿がうねりとなり、さながら「Twitterデモ」の様相を呈したのは記憶に新しいでしょう。
このようにTwitterはいま、国さえ動かせる巨大かつ強大な存在となっているのです。





■Twitterの良心?「企業アカウント」とは


このように多くの人々が利用するTwitterですが、決して穏やかな場所ではありません。
クソリプ、言葉の暴力、マウントの取り合い、差別、逆張り、罵りあいなど、日々どこかで大小の争いが起きています。
パクツイと呼ばれる盗作投稿や、情報商材を売ろうとしたり実態がわからないサロンへと誘導したりする怪しい「稼いでる」アカウントの出現も後を絶ちません。
ある意味で、こんなにもつねに活況を呈し、刺激的なSNSは他にないでしょう。


そのような殺伐荒涼としたTwitterで、まるで陽だまりのように温かなメッセージを届け続けるのが「企業アカウント」


「企業アカウント」とは文字通り、自社製品の販促告知であったり、イベントのPRであったりといった、宣伝のために存在するものです、本来は


ところが企業アカウントのなかには、会社がプッシュしたい商品と直接の関係がない日常の風景をつぶやいてみたり、他の企業アカウントときゃっきゃきゃっきゃと交流をしたりと、人柄がにじみ出るものもあります。
そして、「あれ? 企業アカウントなのに、こんなに人間くさいんだ」と“中の人”にファンがつきはじめ、次第にフォロワーを増えてゆくのです。


僕自身も、企業アカウントのツイートに「ほっこりした」経験は少なくありません。
大阪の天王寺でファミリーレストラン「デニーズ」の場所がわからなくて迷っていた時、ライバルであろう「ロイヤルホスト」の公式アカウントから道順を教えてもらったことがあります。


また、「シャープ」の公式アカウントが、若い頃に大阪なんばの「ベアーズ」(異端の音楽を演奏するライブハウス)へ通っていたといった内容をツイートしていた時は、がぜん親近感が湧きました。





■フォロワー38万人を超える人気アカウント誕生秘話


今回紹介する「寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった『つながる作法』」(KADOKAWA)は、数ある企業アカウントのなかでもとりわけ「温かなまなざし」で多くのファンを獲得したキングジム公式ツイッター担当者、通称「キングジム姉さん」@kingjimによる新刊です。





ラベルライター「テプラ」などのヒットで知られる「株式会社キングジム」
1927年創業という長い歴史を誇る事務用品メーカーです。


そんなキングジムがTwitterに公式アカウントを起ち上げたのが10年前の2010年2月。


担当したのは、ひとりの女子社員。
社長から突然、何の前触れもなく担当を任せられたのだそう
そして、「自由にやれ」と言われたものの、会社を背負うアカウントで、なにをどう自由にしてよいのか頭を抱える日々となります。


今ではにわかに信じがたいですが、往時のTwitterには画像を実装する機能すらありませんでした。
商品を紹介するのに写真も使えないという、地図なしで真夜中の砂漠を歩くような、行き先もわからない企業アカウント運営が始まったのです。


暗中模索の日々。
そのよう状況で彼女は、写真が使えない制約のなかアスキーアートを駆使し、社の魅力を伝える努力を始めます。
そうしてツイートに躍る愛らしい絵文字は、事務用品のお堅いイメージを払拭し、一般ユーザーが振り返りはじめたのです。


それでも現在でこそ38万7千人の フォロワーを抱えるビッグアカウントですが、5000人に達するだけでも丸1年がかかったのだそう。
ビジネスをはじめ何事にも「結果を出すには時間がかかる」ことを、この本は教えてくれます。


彼女は、社内での立場にも苦しみました。
現在でこそ企業がSNSを重要視しますが、往時は年輩の社員たちから、給料をもらって遊んでいるのではと白眼視されていたのだそう。
それでも彼女はめげながらもめげず、静かにこつこつ、決して宣伝臭を強くせず、ユーザーに寄り添う言葉を重ねていったのです


■ツイートする前に、ちょっと考えよう


文字なのだから声量はわからないはず。
なのに、キングジムのツイートは、なんとも耳障りがいい。
軽やかで大きすぎず小さすぎない声が聴こえてくるようです。


140文字足らずですが、そこにはその人のキャラクターが透けて見えてきます。
ある意味、怖いです、Twitter。


そして、なによりこの本は「言葉に気をつける」大切さを教えてくれます。
多くの「炎上」の原因は「言い方」にあります。
持論を語っていても、言い回しがトゲトゲしければ、理解してくれるはずの人も理解してくれない。
つながれたはずの人とも、つながれない。
「これは理解者を増やしたいのではなく、敵を増やしたいんだな」と受け取らざるを得ない、口調がいやしい主張も、たびたび目にします。


彼女は投稿をする前に、使う文言にヘイトなニュアンスはないか、誰かを傷つけていないかに注意を払い、言葉の意味を調べ、必ず下書きをするのだそう。
このように、伝えたい、わかってもらいたいならば、ワードを選ぶ作業はとても重要です。


反対に言えば、故意に過激な物言いをすると一気に耳目が集められるのも事実。
攻撃的で相手への敬意や思いやりがないツイートには、その「言ってやった」感に惹かれ、瞬間沸騰のように支持者を増やす傾向にあります。


しかし、そんな放火魔ツイートばかりしているとやがて信用を失い、自分自身を燃やし尽くしてしまうでしょう。
小さなツイートを積み重ね、10年かけてこつこつと地味な事務用品を一般に浸透させてきたこの担当者が、それを実証しています。





■個人アカウントでも使えるノウハウ満載


企業アカウントの運営は、そうとう難しいと思います。
言いがかりのような攻撃的なリプライが飛んできても、無下にブロックはできないだろし。
最近では「小湊鐵道」のTwitter担当者と会社とのいさかいが、そのまんま実況されてしまう例もありました。


「寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった『つながる作法』」は、企業公式アカウントの運営方法を示唆する点で、すこぶる良書です。
けれども、個人アカウントであっても見習うべき部分が多々あります
言わばビジネス書を超えて「Twitterにおけるネットリテラシー但し書き 最新版」と呼べるのではないでしょうか。
「あ、このエピソードは自分にも役立ちそう」と感じたら、しっかり心のなかにファイリングしておきましょう。



寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった「つながる作法」
著者 キングジム公式ツイッター担当者
定価: 1,540円(本体1,400円+税)


企業公式ツイッター、キングジム(@kingjim)の「中の人」が語る!
地味な文具メーカーなのに、フォロワー数36万人!
キングジム公式ツイッター担当者が、運営にまつわるエピソードをぜんぶ語る!
ノウハウなし、予算ゼロ、担当は1人……。
あらゆる逆境を乗り越えながら、いかにして人気アカウントにまで育て上げたのか。
誰も教えてくれなかった、「広報としてのSNS」がわかる本、爆誕。
https://www.kadokawa.co.jp/product/321910000943/



(吉村智樹)