あなたも仏像になってみては? 段ボールに「顔出し仏像」を描き続ける女性がいた

2019/11/11 11:00 吉村智樹 吉村智樹

▲思わず手を合わせたくなる、あたたかみに溢れた笑顔。彼女はひたすら段ボールで「顔出し仏像」を描き続けている


いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





第12回目は岡山県の倉敷発の情報をお届けします。


■ほっとけない! 段ボールに仏像を描き続けるアーティストがいた


「芸術の秋」がやってきました。特に、伝統の美である仏像を鑑賞するには、うってつけの季節。


燃えあがるような紅葉で彩られた境内を歩き、本堂に祀られた由緒ある仏像に合掌する。心が静まり、癒されるひとときです。


ああ、仏像めぐりがした~い。そのように思っていたある日「倉敷に段ボールに仏像を描いて顔ハメしている女性がいる」という噂を耳にしました。しかもその姿をInstagramやTwitter、FacebookなどのSNSで発信しているとのこと。


見れば……本当だ! オー・マイ・ブッダ!





仏像の顔ハメ看板を手作りし、歩いたり動いたりしている女性が、確かにそこにいるではありませんか。
思わず三度見してしまいました。仏の顔も三度見。


この方はいったいなぜ、このようなことをしているのか。
「知らぬが仏」なのかもしれません。でも知りたい。
僕はいてもたってもいられず、倉敷へと向かいました。


■自分の身長を超える大作も!


お会いしたのは「2D(にーでぃー)仏像顔出し看板」を制作するアーティスト、ニシユキさん(41)。



▲段ボールに「2D仏像顔出し看板」を描くニシユキさん


2012年から段ボールにアクリル絵の具で仏像を描き始め、その数はおよそ40体。
「自宅の片隅で、ちまちま作業している」のだそうですが、なかにはご本人の身長を超える150センチという大型作品も。



▲段ボールの質感のためか、アクリル絵の具で描かれる不動明王はワイルドな迫力に満ちている



▲ご本人の身長よりも大きな作品も


よく見ると、光背や蓮華座までカッターで切り抜かれるなど、ひじょうに精巧な仕事が施されています。「いつ失敗するか、ハラハラしながら切っています」とのこと。光背にも仏像が散りばめられた「2.5D」の労作も。





どうして段ボール仏像(しかも顔出し)を描きはじめたのか。
作者のニシユキさんにお話をうかがいました。


■段ボール仏像を持参してさまざまな場所へ





――いやあ、こうして「2D仏像顔出し看板」がずらりと並ぶと壮観ですね。段ボールとはいえ三十三間堂を思わせる迫力があります。根本的な質問なのですが、ニシユキさんは仏教徒ですか。


ニシユキ
「いいえ。仏教徒ではありません。なので、お坊さんから『怒られるんじゃないか』と不安でした。でも、各地の寺院から『イベントに出てくれ』と依頼されるようになり、受け容れてもらえています。この頃は仏教関係の催しに出ることが多いです」











――ニシユキさんは「ニシユキテン」の名で、さまざまな場所で2D仏像顔出し看板を試着してもらう(?)パフォーマンスやインスタレーションを行っていますね。イベントには何体くらい持っていかれるのですか。


ニシユキ
「少なくとも二十体は持っていきますね。ご来場の方に、お好きな仏像を選んでいただけるように。私、お見立てするのが好きなんです。『今はどんなご気分ですか?』とか」


――その日の気分に合う仏像があるんですね。








■顔もちゃんと描き、あとで切り抜く


―― 一体を描くのにどれくらいの時間がかかるのですか。


ニシユキ
「描き始めると2~3日で終わるんです。けれども、描くまでが時間がかかります。描く仏像の歴史や背景を調べたり、想いを巡らせたり。自分の中で咀嚼しきらないと描きだせないんです。InstagramやTwitterを見てくださる方は新作を待っていてくれるんですが、気持ちが入らないと描けないですね。『まだ違う。まだ違う』って」











――そこまで心を込めて描いていらっしゃるのですか。あいている顔の部分は描かないんですか。


ニシユキ
「一番大事な顔の部分は、実はちゃんと描いているんです。眼も鼻もしっかり描いてから、そこを切り抜いているんです。段ボールとは言え仏様を作っているので、顔だけ描かないというわけにはいかないんです。仏様の顔をカッターで切り抜くのは、とてもつらい作業です。とはいえ、私が描く仏像は、誰かが顔を装着しないと完成しない。そういう作品なので仕方がないですね」









▲人間が仏像の絵に参加することで、初めて彼女の作品は完成する


――人が顔を出すことによって魂が入る?


ニシユキ
「そうなんです。『人の顔があって仏になる』というところが大事なので


■はじめは、ぶっとんだ「着ぐるみ」だった


――顔出し看板を自作しようと思われたのは、どうしてなのですか。


ニシユキ
「幼稚園児の頃から絵を描くのが好きで、学生時代は油絵を描いていたんです。けれども、社会人になってから、完成のイメージが浮かばないまま白いキャンバスに絵を描き続けているのが辛くなってきて。二十代前半から二十代の中頃まで、『なにか新しい表現はできないものか』と、もがいていたんです。そうしてふと、『自分が何かに変身をしてみてはどうだろう』とひらめきました。これがすべての始まりです」


――「変身」というのは、初めから仏像だったのですか。


ニシユキ
「いいえ。はじめは仏像ではありませんでした。素材も段ボールではなく布製の着ぐるみです。自分がなりたいものをラフスケッチして、それを、お針子をしている友だちに渡して、着ぐるみを作ってもらっていました。できあがった着ぐるみを身につけて、友人たちに撮ってもらった写真をカレンダーに加工して、アートイベントなどで販売していたんです」


――顔出し看板ではなく着ぐるみから始まったのですか。どのような着ぐるみを作っていたのですか。


ニシユキ
「最初に手掛けた着ぐるみがハチ。あとイヌと、ニワトリと、さらに“尻相撲力士”という架空の関取といったように、どんどん加速してったんです。言わばコスプレイヤーですね」



▲イヌ



▲ハチとニワトリ



▲尻相撲力士「白桃龍」





――尻相撲力士とは、かなりぶっ飛びましたね。絵を描く辛さは、着ぐるみ制作によって解消されたのですか。


ニシユキ
「そうですね。ノリノリでした。非日常を楽しんでいました。アートイベントだったり、友人同志の集まりだったり、パーティだったり、機会があるたびに着ぐるみを自分で装着して出かけていました」


■東寺での「立体曼荼羅」に衝撃を受けた


――布製の着ぐるみが段ボールになっていったのは、どうしてですか。


ニシユキ
「だんだんと“人に作ってもらった着ぐるみを自分しか着ない”というスタイルがつまらなく感じてきまして。広がりがないというか。それだったら反対に『自分で作って、それをいろんな人が着たり身につけたりした方が面白いんじゃないか』と考えるようになっていったんです」



▲二十代は「自分にできる新しい表現はないものか」ともがき続けていたという


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