どこもかしこも妖怪だらけ。高円寺に日本一の「妖怪専門店」があった!
▲地獄へようこそ。身の毛もよだつ造形なのに、どこか愛おしさを感じる妖怪たち。クリエイターが腕によりをかけて制作した妖怪アートや妖怪雑貨がずらりと並ぶ
いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。
おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」。
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。
今回は東京発の情報をお届けします。
■高円寺に「妖怪だらけ」の店があった
「ゲゲゲの鬼太郎」は6期を数える今なお大人気。「妖怪ウオッチ」は12月に新作映画が公開されるなど、妖怪はもう夏の風物詩ではなく年中無休の人気ぶり。不気味でおどろおどろしい造形でありながら、妖怪はなぜか人の心をとらえて離しません。
そんな妖怪たちが、想像を絶するほどの数で一堂に会している場所が、「東京の高円寺にある」と聞きました。
お店の名前は「大怪店」(だいかいてん)。JR「高円寺」駅の南口を出て、五分ほど歩いた場所にあります。3年とひと月前に隣町の阿佐ヶ谷にあるアニメストリートでオープンし、この高円寺へは今年の1月に拡張移転したとのこと。
外観がもう、いきなりアヤシげ。古い民家の2階が、ろくろ首や河童、一つ目小僧や提灯おばけに占拠されているではありませんか。レトロな風情とサブカルチャーが共存する高円寺の町並みに不思議とマッチしています。
■魔界としか言いようがない空間
店内に足を踏み込み、「なんと、奇怪な……」。妖怪をモチーフとした雑貨やアート作品がいたるところに。肌にサブいぼがたつほど、魑魅魍魎がびっしり。百鬼夜行どころか千鬼はくだらない数です。
▲二階へ上がる階段に、早くも子泣きじじいのラベルが貼られた酒瓶が
▲店のロゴ「大」の字といきなり目が合う
▲一歩足を踏み入れると妖怪のオブジェがぎっしり!
店内は大まかに言うと3つに分かれ、1~2週ごとに企画が入れ替わるギャラリースペース(取材日は立体妖怪展を開催中)、作家さんごとに貸し出している月額のレンタルボックスが積み重なった「妖怪貸し箱」スペース、一番奥にフリースペースが連なっています。
▲1~2週で展示物が入れ替わるギャラリースペース
▲取材当日は「立体妖怪展」開催中。精巧にして気迫が漲る造形作品の数々に息をのんだ
▲月額でボックスをレンタルできる「妖怪貸し箱」スペース
▲ポストカードなど手軽に購入できる雑貨も幅広く取りそろえる
▲さまざまなイラストレーターが参加する「妖怪シール」は随時、新作が納品される。コンプリート地獄に落ちること間違いなし!
かなりの広さですが、なんせ妖怪が足元から天井までうじゃうじゃいるため、魔界めいた圧迫感があります。妖怪好きにはたまらん空間です。
いったいなぜ妖怪の専門店を開いたのか。絶対にただものではないオーナー店長の妖怪DJ高☆梵さん(41)にお話をうかがいました。
▲「大怪店」オーナー店長、妖怪DJ高☆梵さん
■作家オリジナル妖怪作品の品揃えは日本一
――妖怪のフィギュアやオブジェ、雑貨などが、店内にぎっしりとひしめいていますね。しかも、よそでは見たことがない珍しいものばかりです。
妖怪DJ高☆梵
「うちで扱っているものは、ほとんどは作家さんがつくるハンドメイド作品です。まれにソフビなどはプロダクトもありますが、陳列している商品の9割がた、他店ではほぼ扱っていないのがこの店の特徴です」
▲怖いだけではなく、かわいいやつもいますよ
――作家さんのハンドメイドやオリジナル商品がこれほど多く集まっているお店は、他にあるのでしょうか。
妖怪DJ高☆梵
「ないんじゃないかな。鬼太郎や妖怪ウオッチのような企業ものの店は別ですが、さまざまなクリエイターがつくる妖怪作品ばかりを扱うのは、うち以外に僕は知らないです。この規模で、これだけの量の商品がつねにあるっていうのは日本で唯一と言っていいと思います」
――商品数は、どれくらいの種類はあるのでしょうか。
妖怪DJ高☆梵
「通販サイトだけでも1500アイテムを超えるので、店内には2000近くはあるかなって感じですね。種類だけでも2000なので、量で言うと『数え切れえないくらい』です」
――いやあ、これほどたくさんの妖怪に囲まれ、見つめられたのは初めての経験です。高☆梵さんご自身の作品はありますか。
妖怪DJ高☆梵
「僕はアパレルなどですね。原案を描いてデザイナーさんに送って。シルクスクリーンによるプリントは自分でやっています」
▲ファッションコーナーも充実。この秋は妖怪でドレスアップ!
■元バンドマンが水木しげるの影響で妖怪好きに
――一番奥にフリースペースもありますね。
妖怪DJ高☆梵
「ここは『怖(コワ)ーキングスペース』といいます。1時間300円で自由に使っていただいて構いません。妖怪漫画や妖怪の展示の図録等の妖怪関連書籍がたくさんあるので、漫画喫茶のように使う方もおられます」
▲巨大な天狗の面がものすごい存在感を発揮する「怖(コワ)ーキングスペース」
▲さまざまな妖怪関連イベントのフライヤーがあり、情報収集や交流の場所にもなっている
▲数多くの妖怪関連書籍が並び、その場で読むことができる。ゆでたまごの「ゆうれい小僧がやってきた!」はシブい
▲妖怪漫画の巨匠・水木しげるの漫画が数多く並ぶ
――本棚には水木しげる先生の単行本が多いですね。
妖怪DJ高☆梵
「もともと僕はバンドマンで、昔からハードコアやメタルのベースボーカルをやっていたんです。その頃から水木しげる先生が好きで、水木先生の漫画からインスパイアされて歌詞を書いてたこともあります」
――水木先生の作品をお好きになったきっかけは、なんだったのでしょう。
妖怪DJ高☆梵
「大学生の頃に住んでいたアパートの隣が古本屋で、棚には水木先生の漫画がたくさんあったんです。それを買って読み始めて、好きになりました。好きな点は、漫画にご自身の実体験がよく出てくるところ。味があって、いいんですよ。水木先生の『好きなことをやりなさい』という姿勢には、やっぱり励まされます。自分はこれまで就活らしいことをしてこなかったので、こうやって、いやなことを我慢せずに生きていてもいいんだなって」
――やはり水木先生の影響は大きいのですね。この『怖(コワ)ーキングスペース』も、鬼太郎の妖怪ハウスのようなくつろぎをおぼえます。
妖怪DJ高☆梵
「店の造りなどにも、漫画から受けた影響が反映しているのかもしれないですね」
■妖怪の魅力はコワさだけじゃない
――高☆梵さんが妖怪に惹かれる理由はなんでしょう。怖いものがお好きなのですか。
妖怪DJ高☆梵
「いいえ、実は妖怪に恐怖を感じることは、まったくないんです」
――そうなんですか!
妖怪DJ高☆梵
「実はもともと、怖いものは苦手なんです。幽霊は怖いし、ホラー映画も苦手。僕にとって妖怪は、怖いっていうより、もっとキャッチーな存在。キャラクターがはっきりしているところが好きなんです」
――わかる気がします。妖怪はキャラクターがはっきりしているし、愛らしいです。
妖怪DJ高☆梵
「普段は意識していないけれど、自分の生活の中に妖怪がいるって、楽しいじゃないですか。こういう妖怪アイテムとかグッズとかアート作品が、生活のなかで『ちょこん』といるのがいいんじゃないかと思います」
■「音とアート」で妖怪を表現してきた
――たくさんのイラストレーターさんや造形作家さんの作品を販売されていますが、どうやって知りあわれたのですか。
妖怪DJ高☆梵
「もともと『デザインフェスタ』が好きで、よく観に行ったり出展品を買ったりしていたんです。そのなかで妖怪を作っている人たちと何人か知りあって、イベントに出演してもらって。そういうことを繰り返しているうちに、作家さんの知りあいが増えていったんです」
――「イベント」とは、どういうものですか。
妖怪DJ高☆梵
「11年くらい前にmixiに『妖怪散歩ツアー』というコミュニティがあったんです。このツアーに参加してみたら、『ぬらりひょん打田』くんという男(俳優の打田マサシ氏)がいて、彼と意気投合したんです。それでふたりでLOFTなどで『妖怪たちのいるところ』という妖怪にまつわるトークをはじめごちゃまぜのイベントをやりました。その後は僕が元々がバンドマンということもあり、自分の企画で『ライブハウスで、妖怪を音と絵で表現しよう』と考え、『音ノ怪 絵ノ怪』(おとのけ・えのけ)というイベントを始めたんです。僕がそこで妖怪の唄を歌って、作家さんにライブペインティングをお願いして」
――なるほど。妖怪をつくる作家さんとの関係は、音楽とアートのコラボから始まったのですね。『妖怪を音で表現する』というのは、どのような形でパフォーマンスを披露されていたのですか。
妖怪DJ高☆梵
「自作の打ち込みの曲を流しながら、妖怪のことを“ラップっぽく説明する”みたいな。この店を始める以前は、それが活動のメインでした」
――こちらのお店が音楽からスタートしていると知って、腑に落ちました。単なる専門店を超えたポップさとかリズムを感じます。
妖怪DJ高☆梵
「うちの店は、ある意味でライブハウスだと思っているんです。妖怪を通じて自分を表現している人たちがライブをする場所だと」
▲「この店は妖怪を通じて自己表現をするアーティストたちのライブハウス」と語る妖怪DJ高☆梵さん
■店をやるつもりじゃなかった
――音楽とアートのコラボのみならず、妖怪の造形作品や雑貨などを販売し始めたのは、どういういきさつがあったのですか。
妖怪DJ高☆梵
「そもそもは『大怪展』という作品展があり、これがはじまりです。浅草にあるけっこう大きなギャラリーを借りて、作家さんも3、40人くらい集めて妖怪の企画展を始めたんです。やっぱり、素晴らしい作品を多くの人に手に取ってほしいですから。それが好評で、5、6回やったんですよ」
――回を重ねるほどの人気だったのですね。
妖怪DJ高☆梵
「そうなんです。好評を博したおかげで東急ハンズ渋谷店ほか、さまざまな場所で催事イベントを行うなど、発展していったんです」
――企画展が下地としてあったのですね。それにしても、企画展を一軒の専門店にするのは、なかなか勇気が要ったのではないかと思うのですが。
妖怪DJ高☆梵
「勇気というか、ひょんなことから、こうなったんです。自分が店をやるなんて思ってもみなかったんですよ。知り合いが阿佐ヶ谷のアニメストリートにスペースを借りたんで観に行ったら、いきなり『店やんない?』って。その頃はコールセンターで働いていたので、『仕事が休みの週末だけならやれるかな』くらいの軽い気持ちでした。それがだんだん、惹きこまれていって、遂に専業になりました」
――過去に店舗経営のご経験はありますか?
妖怪DJ高☆梵
「店舗経営は初めてです。ただ、これまで『妖怪食堂』という妖怪と食のコラボイベントを何度かやって、その経験が役立ちました」
――妖怪食堂? 妖怪と食のコラボイベント? それはなんですか。
妖怪DJ高☆梵
「知りあいに、完全予約制のギャラリー 兼 寿司屋という『酢飯屋』をやっている人がいて、そこの一画を使ってやりました。妖怪を模したごはんを提供して、作家さんのグッズも並べて、みたいな」
――「ギャラリー 兼 寿司屋」ですか。それはまたなんと奇々怪々な。では最後に、これからお見えになられるお客様へメッセージを。
妖怪DJ高☆梵
「見てほしいのは作品の質の高さと、あとやっぱり数の多さですね。隅から隅まで探してみると、きっと自分が欲しい妖怪作品に出会えると思うんです。草むらを搔き分ける感覚で来てもらえれば、楽しいと思います」
怖い。けれども、なぜかなごむ。「大怪店」は、そんな不思議な気持ちになるお店でした。人間ではないのに人間くささを感じてやまない物の怪たちに囲まれていると、心がまさに「ようかい」(溶解)というか、ほどけてゆくのです。
大怪店に並ぶ作品を観ていると、「クリエイティブって、こういうことなんだな」と改めて感じます。固定観念の向こう側へ行くのは、怖いものです。それでも新たな表現に挑戦したいという作家さんたちの想いが、どのオブジェや雑貨にも「おばけ級」に満ち溢れていました。
作家の魂が宿る大怪店の妖怪たち。冥途のみやげに、おひとついかがですか。
大怪店
住所:東京都杉並区高円寺南3-44-17 2F
電話番号:050-5309-2219
HP:http://goo.gl/fMTQJd
営業時間:12:00〜19:00
定休日:火・水 完全定休。
*企画により変更や臨時休業がございます。最新情報は公式ツイッターをご確認ください。
https://twitter.com/escape_yokai
TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy
タイトルバナー/辻ヒロミ