「株式会社うんこ」とは? うんこだらけのアパレルショップが存在した
▲横浜の郊外に建つ謎のプレハブ倉庫。中に入ると、そこは「うんこ」だらけのアパレルショップだった
いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。
おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」。
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。
今回は横浜発の情報をお届けします。
■あれはなに?「株式会社うんこ」と書かれた謎のプレハブ建造物
今年2019年の春からSNSで、「横浜に『株式会社うんこ』と書かれた謎のプレハブ倉庫がある」という情報を頻繁に目にするようになりました。しかも、「営業車までもがド派手だ」と。
▲二度見は必至。インパクトはスゴイが、外観だけでは何屋さんなのかがわからない「株式会社うんこ」
さらにこの頃は、「ルーフに金色のうんこを載せたミニパトが走っている」という目撃談も加わるようになりました。どうやらこのミニパトも、「株式会社うんこ」の乗用車らしいのです。
▲ルーフに金のうんこが載ったミニパト。これもどうやら「株式会社うんこ」の乗用車らしい
これはニオうぞ。
もしや、特ダネではないか?
というわけで僕は、「最寄り駅は、ありません」と言われた横浜北端の街へおもむきました。
■社長さんから手渡された名刺は、なんと10枚!
噂の建物を見上げ、震撼しました。
「なんだかわからないけれど、これはすごい!」
紅梅色で「株式会社うんこ」とだけ大きく書かれた看板、ブルックリンの街角に放置されていそうなワイルドなペインティングがほどこされたバン、ウワサの「うんこミニパト」などなど、目に入るものはどれもこれも、とにかく押し出しが強い。
▲書体もうんこ感がある株式会社うんこ
▲ナンバープレートは「ばば‐ばば」
▲「マッドマックス」や「爆裂都市」に出てきそうな
▲車間距離をあけたくなる
▲パトランプならぬパトうんこ
うんこは、わかる。しかし、肝心の「何屋さん」なのかがわからない。正体が不明なのに印象だけは異様に残るのです。
こちらの方が「株式会社うんこ」の社長、野畑昭彦さん(54)。
「どうも、野畑です」と手渡された名刺は、なんと10種類!
▲「株式会社うんこ」の社長、野畑昭彦さん
▲手渡された名刺は10枚。絶対にただものではないぞ、このお方
「こ、これは、ひと筋縄ではいかないぞ……」
巻きうんこのごとく、疑問符が渦を描くこの「株式会社うんこ」。
その正体に迫ります!
■「みんなが好きなものを会社名にしたら、自然と『うんこ』になった」
――率直な疑問なのですが、「株式会社うんこ」って、なにをする会社なのですか。
野畑
「アパレルです。『うんこ』っていうアパレルブランドなんです」
▲謎のプレハブ倉庫の正体は、うんこブランドのショップだった。店内はうんこのファッションアイテムが満載
▲カラフルなうんこリストバンド
▲ご丁寧にディスプレイは便器に
――まさかのアパレルだったんですか。なぜ会社名が「うんこ」なのですか。
野畑
「え?」
――あ、どうされましたか。なにか、お気を悪くなさいましたか。
野畑
「いや……。うんこ、お嫌いですか?」
――うんこですか。う~ん。決して嫌いではないです。
野畑
「でしょう? みんな、そんなに嫌いじゃないでしょう。うんこ」
――そこまで嫌いではないと思います。でも、株式会社名に「うんこ」は、さすがにインパクトが強すぎるというか。
野畑
「そんなにダメかな……。うんこ」
――いえいえ、そんなにしょんぼりなさらないでください。うんこ、大好きです!
野畑
「そうですよね。みんなが好きなものを会社名にしたら、自然と『うんこ』になったんです」
――自然とうんこに……。多くの人はきっと、うんこは好きなのです。「うんこ漢字ドリル」も流行りましたし。でも、正直に申し上げて、「うんこが好き!」とは大っぴらに言いにくいかな、とは思います。
野畑
「そういう方は、幼い頃を思い出してほしいですね。誰しも小学生くらいの時って、うんこが好きじゃないですか。うんこって、お子さんはみんな笑うんです。子どもが微笑むって、素晴らしいことでしょう。でも、中学生くらいから、恥ずかしく思っちゃうのか、うんこという言葉も言わなくなる。言うとしたら、人を傷つけるとき。それを僕は不思議だなと思っていたわけです。うんこをずっと好きでいたっていいはず。僕は、もっとオトナに笑ってもらいたいんです」
――「笑ってもらいたい」というお気持ちが根本におありなのですね。
野畑
「僕は芸人さんのように舞台に立って人を笑わせる技術はないんです。なので、作るもので笑ってもらいたい。『なんだよ、これー』とか、『ばっかだなー』『くだらねーなー』って。みんながクスッと笑えたらいいなと」
▲「うんこで世界を幸せにしよう!」という熱いメッセージ
▲トイレでは「おなら」の効果音を鳴らせば、自分から出る音を消すことができる
▲「愛のうんこ時計」。購入すれば希望者はクレジットカードに見えなくもないカードがもらえる(ただし好評につき完売)
――とても素敵な理念だと思います。とはいえ、会社名を「うんこ」に決めることに対し、周囲の反対はなかったですか。
野畑
「もちろん反対の人の方が多いです。ただ、『言ってもしょうがない。またか』という感じでした。僕はいつも思いついたら即実行に移すので。それに、決めちゃったものはしょうがないですしね」
■うんこアイテムの撮影のためにニューヨークへ
――失礼ながら、会社は儲かっているのでしょうか。
野畑
「儲けはないですよ。支出ばかり多くて。PVをわざわざニューヨークで撮影したり、バカなことばかりやったりしていますから」
▲ニューヨークで撮影したプロモーションビデオ
▲うんこスニーカーのメイキングビデオ
▲うんこスニーカーはとりわけ人気が高い
▲タイプも豊富
▲「タン」にもバッチリ「うんこ」のロゴ
▲中敷きにもうんこがいっぱい
▲レディースもかわいい
▲アウトソールもご覧の通り
――なんと! PVをニューヨークで撮影されているのですか。
野畑
「もう何本も撮っています。PVを撮ったり、フリーペーパーを刷ったり、自動車を塗装したり。少々儲けがあってもすぐにそういうことに注ぎこんでしまうので、お金が残りません」
――そこまでうんこに情熱を注いでいらっしゃるとは。もしかして、スカトロプレイがお好きなのですか。
野畑
「スカトロではないです。『うんこのイラスト』のデザインが好きなんです」
――あくまで「うんこのイラスト」がお好きなんですね。
野畑
「そうなんです。昔から、うんこの絵ばかり描いていたんです。たとえば、これは高校時代に使っていた英語の辞書なんですけれど(と言って、ページを開く)」
▲学生時代に使っていた英語の辞書に、大きなうんこの落描き
――思いっきり、うんこを描いてますね。高校時代の授業中や勉強中って、つい描いてしまいますよね。うんこを。
野畑
「描きますよね~。勉強もせずに、落描きばかりしていました。うんこもたくさん描いていましたね」
■「巻きうんこ」は世界共通
――デザインは巻きうんこ専門なのですね。
野畑
「え?」
――あ、どうされましたか(冷や汗)。またなにか、失礼なことを言ってしまいましたか僕。
野畑
「うんこを描くとき、巻かないですか?」
――う~ん。巻きますね、やっぱり。
野畑
「ですよね。巻いていないと面白くならないですもの」
――確かにうんこって、巻くと面白いですよね。でも、ニューヨークでも撮影をされたそうですが、うんこを巻いて描くのって日本だけなのでは。海外の方が見ても、それがなになのか、わからないのではないですか。
野畑
「いえいえ。巻きうんこって世界共通なんです」
――そうなんですか!
野畑
「僕は海外へ行ったときに必ず、現地の方に『うんこを描いてください』ってお願いするんです。するとね、みんな巻くんです。中国、フランス、イタリア、ロシア、ニューカレドニア、オタワ、オーストラリア、カナダ、サウスアフリカ、韓国などなど、巻きうんこは世界共通。しかもみんな、巻きうんこを描いているあいだ、にこにこしちゃう。笑顔になるのも世界共通。僕はそれが面白いと思ったんです」
▲野畑さんは海外へおもむくと必ず現地の人に「うんこを描いて」とお願いする。すると、何も口出ししなくても、ほぼ全員が「巻きうんこ」になるのだそう
▲海外の方に描いてもらったうんこコレクション。巻きうんこは世界共通
――それは存じ上げませんでした。巻きうんこは国境を超えるんですね。
■意外な好評を得て「うんこ事業部」を設立
――では、そもそもご自身で「アパレルブランドを起ち上げよう」と思われたのは、どうしてですか。
野畑
「僕には『50歳になるまでに自分の洋服屋をやりたい』という願望がありましてね。なんとか50歳になるギリギリ手前で夢がかないました」
――起業される以前は、どのようなお仕事をしていらっしゃったのですか。
野畑
「もともと洋服が好きだったので、大学を卒業してから服屋さんに入社しました。ところがある日、父親が倒れちゃいまして。父親が営んでいた『野畑商店』の跡を僕が引き継がなきゃならなくなったんです。でも、あいかわらず僕は服が好きで、やっぱりどうしても自分のブランドを持ちたいという夢を諦めきれなくて。それで野畑商店の仕事を続けつつ、自分でカジュアル紳士服のメーカー『ばのばの』を起ち上げたんです」
――はじめは「株式会社うんこ」ではなく「ばのばの」だったのですか。お父様が営む「野畑商店」は、どのような会社なのですか。
野畑
「父が営む『野畑商店』は安全靴や手袋、作業着など、安全用品の問屋をやっていました。野畑商店がのちに『のばのば』に改称したので、僕は反対から読んだ『ばのばの』というアパレルメーカーを起業したんです。とにかく、世の中で当たり前とされることの“逆”がやりたかった。『のばのば』に対して『ばのばの』にしたのは、その気持ちの表われです」
――おっしゃるとおり、「うんこのアパレルブランド」は、世の中の当たり前とは正反対だと感じます。でも、販売するのには勇気が要りますよね。
野畑
「初めは、それほど深くは考えてはいませんでした。野畑商店が扱っていた作業服は、胸などにネームを刺繍する場合が多かったんです。○○工務店とかね。だったら、『うんこを刺繍したら、面白いんじゃないか』とひらめきましてね。まず、うんこのイラストを商標登録して。すると、申請が通っちゃった(笑)。それでTシャツの胸元などにうんこを縫い入れて、知人やお客さんたちにプレゼントしていたんです。『面白いでしょ』って。売るという発想は、まだなかったですね」
▲うんこのイラストを商標登録。通過した時は自分でも驚いたという
▲うんこイラストのTシャツが好評となり商品化がスタート
――初めはプレゼント用だったのですか。
野畑
「そうなんです。ふざけていただけなんです。ただね、そうこうしているうちに、『欲しい』と言ってくれる人がけっこう現れ始めまして。だったら、『売ってみようかな』と。それで『ばのばの うんこ事業部』を設立し、大手ネットショップで販売を開始しました」
▲ネットショップでさまざまなうんこアイテムの販売を開始
――「うんこ事業部」ですか。グッとくるネーミングですね。ネット販売の反響はいかがでしたか。売れましたか。
野畑
「いや~、売れないです(笑)。まったく売れませんでした。Tシャツが2~3か月に1枚、売れればいいほう。そりゃそうですよね。『うんこ Tシャツ』で検索する人なんていませんもの」
■「熱心な『うんこファン』が僕を支えてくれた」
――そんなに売れなかったのに、粘り強くやってこられたのですね。諦めなかったのは、なぜですか。
野畑
「ぜんぜん売れないながらも、熱心なファンがいてくれたんです。ファンが僕の心の支えになりました」
――熱心なファン? どういう方ですか。
野畑
「ある若者から、『色違いのうんこTシャツが欲しいのに、ネットショップでは欠品のまま。どうなってるんですか』と問い合わせがありました。大手ネットショップって、補充する手続きがめんどくさいんです。それでこちらから彼に電話をかけて、『もう、さしあげます。お贈りします。うんこで幸せになってください』って伝えたんです」
――う、「うんこで幸せに」、ですか!?
野畑
「そうです。すると、彼はとても喜んでくれましてね。『本当にうんこが大好きなんです。僕は居酒屋をやっているので、お客さんも宣伝します』とまで言ってくれて。そこから、うんこ談議に花が咲きまして。僕も嬉しくなっちゃって、色違いのうんこTシャツだけではなく、うんこアイテムの試作品などを彼にプレゼントしました」
――わかる気がします。何事も、ひとりでも共感してくれたり応援してくれたりすると、心が折れずに続けられますよね。
野畑
「『世の中には、こんなにうんこを愛してくれる人がいるんだ』と感動しましてね。顔も知らないその青年とどうしても会いたくなっちゃって、3日後に、彼が営んでいる他県の居酒屋まで行ったんです。店へ入ると、『もしかして、野畑さんですか?』って、僕の来訪をめっちゃ喜んでくれて。お客さんまでもが、『あの噂の、うんこの社長さんですか!』って声をかけてくれて。話を聴いてみたら、みんなうんこが大好き。『うんこが好きな人って、こんなにいたんじゃん!』って。それから商売に本腰を入れるようになりました。その青年と出会っていなかったら、今ほど本気にはなっていなかったでしょうね」
▲「初めは売れなかったが、うんこを熱愛してくれる人たちに支えられた」と振り返る野畑さん
■奥さんに「社名をうんこに変更」のプレゼント
――「ばのばの」を「株式会社うんこ」に改めたのは、いつですか。
野畑
「2017年の1月6日。奥さんの誕生日に社名変更しました」
――なんとロマンチックな。奥様へのプレゼントですね。
野畑
「それだけではないんです。3月17日が長女の誕生日だったんですけれど、なんとこの日に商標登録されました。登録日はこちらでは選べませんから、すごい偶然です。4月6日は次男の誕生日なのでネットショップをオープンし、6月10日が長男の誕生日なので初めて展示会を開きました。家族全員に尽くしたので、もう思い残すことはないですね。まあ、家族の誰も特に喜んでないですけれど(苦笑)」
▲長女の誕生日に商標登録された
■「この世をうんこまみれにしたい」
――いま僕たちがいるこの実店舗を開かれたのはいつですか。
野畑
「今年の5月ですね。実店舗と言っても、イベントの日くらいしか店舗での一般小売りはしていないのですが」
――看板にインパクトがありますね。車に乗る人は皆、きっと驚くことでしょう。
野畑
「看板は自分で描きました。看板の前を通り過ぎたり、車の窓から見たりした人が、『なんだこれは!』と思って検索してもらえる効果があるかなと思って。きっかけがないとネットショップまで辿りつけませんからね」
――社員さんは何名いらっしゃるのですか。
野畑
「社員、いないんですよ。ひとりでやっています。うんこが好きな人がまだまだ少ないのかな……。社員を抱えられるまでは至っていないのが現状ですね」
――商品を見せていただくと、思いの外ポップでかわいいですし、ブレイクの予感がします。今後の夢はなんですか?
野畑
「僕はこれから、楽しいとか嬉しいとか、そういった感情にさせてくれるものがもっと欲される時代が来ると考えているんです。全世界をうんこで楽しくしたい。この世をうんこまみれにしたいですね」
キープ・オン・ローリング!
「うんこで、クスッと笑ってほしい」という野畑さんは、今日も頭をひねりつつ、楽しいうんこアイテムを世に届け続けています。
その行いは単なる商売にとどまらず、日増しに殺伐さを色濃くしてゆく日本に笑顔を取り戻すための貢献であり、ひとつの世直しなのではないかと感じました。
野畑さんが表現するうんこは、どれも巻いています。しかし、そこには長いものには巻かれない反骨精神があり、その孤高なるスピリッツは黄金色の輝きを放っている。そんな気がしつつ、横浜を後にしました。
「株式会社うんこ」、僕は猛烈に水洗、いや推薦します。
株式会社うんこ
https://unco.co.jp/
株式会社うんこ【公式ショップ】
https://unco.shop/
株式会社うんこ「秋のうんこ祭」
https://unco.co.jp/unkomatsuri2019aki/
日時:
2019年11月2日(土) 10時〜16時(雨天中止)
2019年11月3日(日) 10時〜16時(雨天中止)
物販、パフォーマンス、展示、飲食等、小さな会社「株式会社うんこ」の駐車場にて、秋のうんこ祭を開催します。
うんこを投げる。
うんこを聴く。
うんこを食べる。
うんこ好きが楽しく集まる、日本最大、世界最大の「うんこ祭」になる事は間違いなし!
住所:神奈川県横浜市瀬谷区卸本町9279-40
TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy
タイトルバナー/辻ヒロミ