【強烈な吸引力を持つ画家・高松和樹】 待望の画集がついに発売!

2019/9/11 21:45 虹



▲《儚き時の流れの中で私は抗い続ける。》 2019年 318×410 ミクストメディア

等高線が起伏を示すしなやかな肢体。
青みがかった闇から浮かび上がるグラデーションは、東京都庭園美術館エントランスにあるルネ・ラリックのガラスのレリーフを彷彿とさせます。

このムラ無く完璧なまでに仕上げられた作品は、一見するとCG(コンピューター・グラフィックス)のように見えますが、実はアナログ。アクリル絵の具などを用いて作家・高松和樹さんの手によって描かれた作品です。


◆異色の画家・高松和樹



▲高松和樹さん 一見怖そうですが、画集の編集者曰く「これまでに会ったどの作家よりも腰が低い人です」とのこと♡

1978年、宮城県仙台市に生まれた高松和樹さんは、東北芸術工科大学美術科洋画コースへ入学、その後研究課程を経て美術団体「独立美術協会」の会員となります。
現在は宮城県芸術協会 運営委員をはじめ、東北芸術工科大学非常勤講師や女子美術大学非常勤講師として教鞭をとりつつ、国内外で精力的に活動。現代において勢いのある画家のひとりと言えるでしょう。



▲《コノ時》 2018年 1000×803 ミクストメディア

私が初めて高松さんの作品を目にしたのは、2017年。前述の「独立美術協会」の団体展においてでした。
「高松和樹という面白い画家がいる。遠くから見ても、どの絵か一発でわかるよ」
知人にそう言われて会場へ来たものの、辺り一面にはたくさんの絵。
本当に見つけられるのだろうか……? という不安は瞬時に払拭されました。その言葉の通り、初めて観るにもかかわらず、高松さんの作品を一発で見つけることができたのです。
色彩自体はモノクロームであり、周囲を圧倒するほど巨大な作品というわけではありません。しかし画面から放たれる尋常でないオーラに視線が絡め取られ、自然と吸い寄せられるように絵の前に立っていました。


▲こちらがその時の作品。《もう疲れました。の図》 2017年 1940×2590 ミクストメディア

その頃すでにアートフェアなどのイベントや、様々な企画展にも積極的に参加されていた高松さん。挿画やタイアップの活動も幅広く、またSNSでも作品を発信されていました。
おそらくこの記事を読んでいる方の中にも、高松さんをご存知の方がいらっしゃるのではないでしょうか。
強烈な吸引力を持つ画家・高松和樹。
そんな高松さんの国内で初めての画集が、いよいよ発売となりました!


◆どうやって描いてるの?
技法に込められたメッセージを探る


9月10日より大型書店を中心に店頭に並ぶのが、こちらの『高松和樹画集 私達ガ自由ニ生キル為ニ』(芸術新聞社)です。



この画集ために描きおろしとなった《過去の私にありがとう。今日の私にこんにちは。》を表紙に、全部で120点の作品が収録されています。
巻末には作品に登場するモチーフの解説下図など、普段見ることのできない貴重な資料も付属しています。


▲本画集に収録された《過去の私にありがとう。今日の私にこんにちは。》の下図。神々しすぎる……!

ところで多くの方が高松さんの作品を観て抱くのは、「どうやって描いているのだろう?」という疑問ではないでしょうか。本書では高松さんの作品を著書の表紙にも使用している、精神科医の斎藤 環先生が跋文にてその謎を解説をされています。

"まず3DCGソフトによって立体を“彫刻”し、これで等高線を作り、この線を使ってグラデーションを作る。この画像をターポリンというテントなどに用いられる防水布に野外用顔料をジグレー版画で出力、更にその上からアクリル絵の具で手彩色を施す。(『高松和樹画集 私達ガ自由ニ生キル為ニ』跋文より引用)"

なるほど、つまりデジタルで下地を作り、アナログで仕上げているということなのですね。
これに対し斎藤先生は、オールCGのもっと効率的な手法をとらずに、敢えてアナログ変換をするところに「高松の創造性を刺激し、強い動機づけを与えてくれるプロセス」が潜んでいるのではないかと指摘します。
そこで読み解かれるのが、高松作品に付けられたタイトル、そしてテーマです。


▲《私ガ自由ニ生キル為ニ。》 2018年 910×727 ミクストメディア/珍しいピンクのジグレー下地はアメリカの『Corey Helford gallery(コリー・ヘルフォード・ギャラリー)』限定カラーだそう。(※部分的な補修などでピンクのアクリル絵の具も少量使用。)

高松さんは「SNSや掲示板など、年齢も性別も事実かわからない匿名性の高い場所で放たれる言葉は、投稿者の人間性や本音が出やすく、アイコンのイメージとは裏腹に生々しさを感じる」と言います。
高松作品に付けられたタイトルは、まさにSNSで呟かれる人々の本音を感じさせるものばかり。
時に攻撃的で、時に消極的。優しい気持ちになることもあれば、人形のように己を封じることもある。
黒と白のシンプルな色の間を揺れ動くグラデーションは、性別や年齢から善悪、美醜、真偽などのあらゆる二極性を決定付けないメタファーのように感じます。
人間の気持ちは1か0かではなく、その間の定まらないところを浮遊することが多いのですから。


▲《愛》 2016年 1000×1000 ミクストメディア

ともすればあどけなく、清らかで優雅な少女たちは、その心の奥底に勇敢さや、やりきれない想い、そして憂鬱と折り合いをつけなければならない諦観といった複雑な感情を抱えています。高松作品の真髄は、この混沌の中にある美しさに宿っているのではないでしょうか。
斎藤先生の言葉を借りるなら「高松の技法は、少女を描くために特化した技法であるからだ」。まさにこれに尽きます。


◆いよいよ発売! 都内ではパネル展も


▲《過去の私にありがとう。今日の私にこんにちは。》 2019年 1000×803 ミクストメディア

9月10日より、ついに発売となった『高松和樹画集 私達ガ自由ニ生キル為ニ』
都内の大型書店では「高松和樹フェア」も同時に開催! 本画集に収録された作品のパネル展示や、装丁を手掛けた文芸書とのコラボが店頭に並びます。
サイン本も数量限定で発売されるそうなので、気になる方は以下の実施店をぜひチェックしてみてくださいね。


▲紀伊國屋書店新宿本店での様子


【実施店】

・紀伊國屋書店新宿本店 開催中
・ジュンク堂書店池袋本店 開催中
・丸善丸の内本店 開催中
・オリオン書房ノルテ店 開催中
・ブックファースト新宿店 9/17~