会社員が「ふと、思いつき」で作りはじめたダンボールアートの数々がスゴい!

2019/9/9 13:00 吉村智樹 吉村智樹

▲「風の谷のナウシカ」に登場する翅蟲(ハムシ)「ウシアブ」。これはあるサラリーマンが「ふと、思いつきで」作りはじめたダンボールアートのひとつ。着色はせず、頭部にはスターバックスコーヒーのスリーブ(カップを挿す円筒状の巻紙)が効果的に使われている


ライターの吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





第7回目は、兵庫県の明石から情報をお届けします。


■「ダンボールで作ったオブジェが並ぶ店がある」


今年に入り、「兵庫県の明石駅からほど近い場所に、ダンボールで作ったオブジェがずらりと並んでいる店がある」という噂をTwitterで知りました。


Google ストリートビューで観てみると、ガラス扉の向こう側に、確かにオブジェらしきものが列している様子が見て取れます。



▲JR明石駅の南側に位置する、ある一画



▲化粧品店の名残りがある建物。確かに、ガラスの向こうにオブジェが並んでいる。


オブジェは高さにして、25センチ~40センチといったところでしょうか。


■化粧品店がいつしかダンボールアート美術館に


Twitterを辿っていくと、漕ぎついたのは、作者である会社員の秋田崇志さん(43)のアカウント。





問い合わせをしてみると、お母様が営んでいる化粧品店店舗(現在は閉店)の棚に手作りしたオブジェを並べている、とのこと。


ご自身のものづくりの様子もツイートしておられます。





気になった僕は、アポを取り、現場を訪ねてみました。


そして……「こ、これはスゴイ!」。


思わず、息をのみました。
「風の谷のナウシカ」に登場する「蟲」。クワガタをイメージしたゾイド、生きているかのようにうねるドラゴンなど、ダンボールでできた作品がズラリ!












▲なんと羽が閉じたり開いたりする。凝ってる!





どれも、ダンボールならではの素朴でしなやかな質感が存分に活かされています。


ダンボールだけではなく、スターバックスコーヒーの包装紙をあしらった作品のクールなかっこよさは、感動グランデ級! OH! フラペチーノ!(意味不明)


いつから、いったいなぜ、こういったダンボールアートを手作りするようになったのか。
秋田さんにお話をうかがいました。



▲驚きのダンボールアートの作者は、会社員の秋田崇志さん


■Twitterで噂が広まったダンボールアート


――僕がこの展示場所を知ったのは、Twitterの、どなかたの投稿がきっかけでした。ツイートを見ると、店舗の中に秋田さんがお作りになったダンボールアートが並んでいて驚きました。


秋田
「もともと自分が作った作品を人に見てもらいたいって気持ちは、あんまりなかったんです。たまたま、『いつも店の前を通っていた』という人がここへ入ってきましてね。『以前から気になっていて。写真を撮っていいですか?』と訊かれたので、どうぞって応えて。その画像がTwitterにアップされて、それを見た神戸新聞の記者さんから取材されて、そうやって噂が広まったんです」


――実際にガラス板の棚に整然と陳列された作品を目の当たりにすると、細部までしっかり手がこんでいて、さらに驚きです。ここは、もともと化粧品の販売店だったそうですね。


秋田
「そうです。今年(2019)の2月末まで母親が営んでいた秋田屋化粧品店だった場所です。化粧品を並べていた陳列台を作品展示のディスプレイ棚に流用しています。僕がTwitterで使っている“アキタ屋 #ダンボールアート2019”というハンドルネームも、店の屋号にちなんでつけました」






▲今年(2019)の2月末まで、ここはお母様が営む「秋田屋化粧品」の店舗だった


――現在ここは秋田さんのアトリエなのですか。


秋田
「アトリエと言えるほどでは……う~ん、まあ、作業場です。それまでは自分の部屋で作っていたんです。母がこの店をたたんだので、作業場をここへ移しました」



▲かつては自宅の一画で作業していた


――外からでもガラス張りの屋内に並んでいる様子がうかがい知れ、それがなんとも神秘的な光景なのですが、決して公開しているのではないのですね。


秋田
基本は非公開です。一般公開をしているわけではないです。とはいえ、Twitterなどを通じて『見せてくれ』と言われたら、その際はお見せしますよ。僕の都合があえば」


――どれも素晴らしい作品ですし、私設ギャラリーとして開放すれば、新たな明石の名物スポットになるのでは。


秋田
「いつかここをギャラリーのように公開してもいいかなとは考えるんですが、なにぶん自分は会社員です。いつもここにいるわけではないので、難しいですね」


■オブジェは現在27体。手がけたら必ず完成させる


――秋田さんは、いつからダンボールでものづくりを始めたのですか。


秋田
「2017年の9月から。数ですか? 現在で27体です。一ヵ月に、およそひとつペースですね」


――わずか2年で27体も! かなりハイペースですね。お勤めをしながら一ヵ月に一個これを作っているって、そうとうたいへんなのでは。


秋田
「毎日少しずつ作っているので、そんなにたいへんではないです。仕事が終わったあとの夜とか、休みの日に1~2時間ですね。ノリだすと早いんです。3時間で一体できあがることもあります。反対にノラないと一週間くらい放置してしまって、一ヵ月半くらいかかります。ただ、最後まで仕上げなかった例は一度もないです。最後まできちんと仕上げるから27体も作れたんでしょうね」


――なるほど。「継続すること」と「完成させること」って、何事も大事ですよね。



▲秋田さんは仕事終わりや休日に、かつて化粧品を販売していた場所でこつこつと制作にいそしんでいる



▲一ヵ月半かかった宇宙飛行士。脚の皺が特に難しかったという



▲時間がかかっただけあり、湾曲面と平面の組み合わせが見事だ


■ふっと心に響いたものを作るだけ


――ミリタリーから土偶までモチーフが幅広いですが、お好きなジャンルはなんですか。


秋田
「好きなジャンルって、特にないんです。普段の生活の中で、『ふっ』っと思いついたものを作ってるんです


――「ふっ」と思いついたものを、ですか。


秋田
「そうなんです。『ふっ』と。この『明石市100周年記念デザインマンホール蓋』もそうです。歩いていて、足元を見たら、これがあった。『あ、ええな』と思ったら、もうその夜から作りはじめていました





――インスピレーションを大事にされているんですね。たとえば、「これを作って」というリクエストがあったら、どうされますか。


秋田
「ふっ、と思い浮かぶものを作っているんで、リクエストがあっても作らないです。よく、『猫を作ってください』『かわいい犬を作ってください』って頼まれるんです。むげに断ると角が立つので、『いやぁ……う~ん』って、いつもなんとなくごまかしています


――徹底していますね。


秋田
自分の中で響かないならば、作らない。なので、たとえ自分で作ったものであっても、『同じものを作ってください』と頼まれても、作らないでしょうね


――自分が作ったものであっても、2度は作らないのですか。こだわりですね。ということは、これらの作品は秋田さんの関心の歴史でもありますね。



▲「自分の中で響かなければ、頼まれても作らない」と語る秋田さん


■ペーパークラフトの経験はまったくなかった


――もともと、ペーパークラフトはお好きだったのですか?


秋田
「ペーパークラフトの経験ですか? ないないないない。まったくないです。美術系の学校や教室などもまったく通っていないし、紙で何かを作るなんて、経験はなかったですね


――え! ハンドメイドの経験がないって本当ですか。いきなりこれらの作品を作れるなんて、すごすぎますよ。


秋田
「うーん……思い返せば、子どもの頃は絵をよく描いていました。親が言うには、『おもちゃがほしい』とストレートに言えない子だったそうで、欲しいロボットの絵ばかり描いて『ほしいアピール』していたようなんです(笑)。もしかしたら、当時『おもちゃがほしい』と願った気持ちが、今に蘇っているのかもしれませんね


――確かに、作品全体に憧憬を感じます。どこか懐かしいです。


秋田
「過去の記憶がふっと蘇るのは、あるかもしれないですね。できたばっかりのこれは“クワガタの蛹(さなぎ)”なんです。子どもの頃に『クワガタの蛹って(造形が)カッコええな』と感じた日がありまして。それをずっと忘れていたんですが、最近、思い出したんです」



▲幼い頃に「カッコいい」と思ったクワガタの蛹のことを、ある日「ふと」思い出し、作りはじめたという


――ご自身のお子さん(中一女子と小3男子)は、秋田さんの作品をどのように言っていますか。


秋田
「それがね、子どもが興味を示さないんですよね~(苦笑)。ぜんぜん興味がないみたい。もっと、『これ作って』とか言われるかなと思ったんですが、ノータッチで」


*インタビュー後、夏休みの宿題として、息子さんがダンボールでつくった貯金箱を披露。口には出さないけれど、やはり息子さんはお父さんの作品に好感を抱いていたようです。


■作り方は独学。像が立っているのも「偶然」


――そもそも、なぜ2017年からダンボールでオブジェを作り始めたのですか。


秋田
「東京に大野萌菜美さんというダンボール作家さんがいらっしゃるじゃないですか。彼女が作った戦車の模型をTwitterで観て、『これ、自分でも作れるんじゃないか』とひらめいたんです」


――大野萌菜美さんは、ダンボール工作の本を何冊もお出しになっている有名な作家さんですよね。彼女の著書をお手本にされたのですか。


秋田
「いいえ。作り方の本があるんですか? それは今、初めて知りました


――え! そうなんですか。ならば、いきなり、どうやって作ったのですか。


秋田
『なんとなく』ですね。なりゆきで。参考にする文献などは何も見ていないです。設計図も引かず、『こんな感じかな~』と組み立てて行ったら、できたんです。『意外と形になるやん』『できるやん』って。それならば、ほかのものにもチャレンジしてみようかと」



▲2017年のある日、ふと「自分にも作れるんじゃないか?」とひらめき、設計図を見ることも引くこともなく作りはじめた戦車。それまでペーパークラフトの経験は「なかった」という。秋田さんに潜在していた才能の砲弾が発射された瞬間だ


――いやあ、独学だったとは。驚きました。


秋田
「もう、ただの見切り発車です。なので、僕の作り方が本当に正しいのかすら、わかりません。大きさも初めから考えているわけではなく、なんとなく、自然とこのサイズでできあがる。よく、『作り方を教えてください』とお願いされるんです。けれども、説明書も読まずに勝手に作り方を憶えたから、人に説明するのが難しい。なんせ、像がこうして立っているのですら、偶然ですから



▲縄文時代の遮光式土器。「計算して作っていません。偶然、立ちました」のだそう。それはそれですごい!



▲ハサミの柄の部分にダンボールを巻き付けて曲面をつくる。これも独自にあみだした方法



▲独学でこれほど複雑な組み合わせを可能にするとは!


――ということは、この素晴らしい遮光式土偶が立っているのも「偶然」なのですか! それはそれでカッコいいです。それにこの土器、スターバックスコーヒーの包装紙が、とてもいい効果を生んでいます。


秋田
「これね、実は失敗作品やったんです。できあがってると、なんとなく印象が薄くて。『ああ、失敗やなあ』って思ってたんですよ。そのとき、たまたまスタバのスリーブがあったので貼ってみました。すると、意外とマッチして。スリーブのデザインが縄文時代の文様みたいに見えるでしょう


――失敗作だった土器が、スタバのスリーブを貼ったことで完成したのですね。


秋田
「成功というか、『入った!』と感じましたね


――なんだか彫った仏像に魂が入ったかのようですね。



▲「偶然あった」というスターバックスのスリーブが見事に縄文時代の文様を表している。秋田さんは、何かが「入った!」と感じたのだそう



▲スリーブの意匠だけではなく形状も活かす。重ねると、まるで昆虫の複節のようだ



▲伊勢海老の殻にもピッタリ



▲伊勢海老の眼には、よく見るとスターバックスの女神「セイレーン」が降臨


■自分が欲しくて作ったのだから売らない


――どの作品も感動しますが、『ハウルの動く城』は特に凝っていますね。


秋田
「『ハウルの動く城』のデザインが好きで、フィギュアが欲しかったんです。ところがね、3万円近い値段やったんです。『これは買えんな~』と。それやったら、自分で作ろうかって





――これほどオブジェ感が輝きを放っていると、「売ってほしい」とおっしゃる方も現れるのでは。


秋田
売らないです。ハウルの動く城に限らず、オーダーメイドでも、売るために作っているわけでもないです。だって、どれもせっかく自分が欲しくて作ったんですから。お売りする理由がないです


――なるほど。それにしても労作ですよね。2次元のアニメを立体化するのは難しくないですか。


秋田
「スマホで画像を観ながら作るんですが、裏側や横っ側など360度どうなっているかはわからない。なので、わからない部分は想像で作りました。そこは、あんまり気にしないんです。そっくり同じものを作りたいわけではないので





――あくまで、自分がつくりたいものを作ると。


秋田
「先ほどの土偶も実際には見たことがないし、厚みがこれで合っているのかもわかりません。自分が望むかたちにしているだけで、実際のものとは違う点がたくさんあるんでしょうね。でも、それもいいかなって。昔のプラモデルって、組み立て終えたら、ぜんぜん箱のイラスト通りになっていない場合がよくあったじゃないですか。腕の関節が曲がらないとか。あのガッカリ感って、今になって思えば楽しかったし、ああいうチープな感じは残しておきたいなと思うんです」


――「プラモが箱のイラスト通りにできあがらないガッカリ感の楽しさ」、痛いほどよくわかります。すべてが腑に落ちました。


■ずっと「思いつき」。これからも変わらない


――ダンボールでオブジェを作り始めて、よかった点はなんですか。


秋田
「他のクラフト作家の方々と交流する機会ができたことですね。たとえば、オドンガー大佐さんというダンボールアートのカリスマがいらっしゃっるんです。僕はオドンガー大佐さんが作るものが好きで、曲面の表現はどうしているのかが知りたくて、東京まで会いに行ったんです。そういう出会いが生まれたのがよかったです」



▲平面から曲面を生みだす匠・オドンガー大佐さんから受けた影響が大きく、タコを作りはじめた。タコの動きがよく表されている。タコは好きなモチーフで、珍しく幾つかつくっている


――いろんな方から刺激を受けて、作品もどんどん変わっていかれるのでしょうね。今後は、どのようなモチーフにチャレンジしたいですか。


秋田
「特にないです


――ない?


秋田
「うん、ないです。自分は、ふっと頭に浮かんだら、それをむしょうに作りたくなるんです。反対に『将来、これに挑戦したい』という造形は、何もない。あくまで、ぽんっ、と出てきたものを作る。ずっと思いつき。それは今後もきっと変わらないでしょうね」


これから作りたいものはない。「ふっ」と思いついたアイデアを、いま実現したい。
先のこと、将来のことを考えさせられ、急き立てられる日々の中で、秋田さんが作るオブジェは迫力を感じるとともに癒しも与えてくれます。


そして、「ぽんっ」と弾けた冴えたアイデアが壊れぬように受け止めるには、クッション性に富んだダンボールは、やはり最適ですよね。



アキタ屋 #ダンボールアート2019 (@Ram_akita)
https://twitter.com/ram_akita/



吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


タイトルバナー/辻ヒロミ