話題の新刊「恐い旅」。事故物件住みます芸人こと松原タニシが実際に訪れた恐怖の現場200か所

2019/9/4 20:00 吉村智樹 吉村智樹

▲「事故物件住みます芸人」こと松原タニシさん。2冊目となる新刊は、旅にまつわる本だった。もちろん、一筋縄ではいかない「恐い旅」だ


ライターの吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





第6回目は、「異界」から情報をお届けします。


■「事故物件住みます芸人」が心霊スポットでさらに恐怖体験


「心霊スポット」と呼ばれる場所を、訪ねたことはありますか?
少なからぬ数の方が、肝試しなどを理由に、一度は足を踏み入れたのではないでしょうか。


しかし! わずか3年で300以上のスポットをめぐったのは、この人だけかもしれません。
それが松原タニシさん(37)。



▲わずか3年で300以上の恐怖スポットを実際に訪れた松原タニシさん


松原タニシさんは、「事故物件住みます芸人」としても知られるピン芸人。


松原タニシさんは、2012年よりテレビ番組の企画の一環で事故物件(前の居住者が自殺や殺人、孤独死や事故などで亡くなっている部屋)に半ば強制的に住まわされ、いつしか居住自体が仕事になりました。この6年間で、なんと7軒もの事故物件に住んでいるのです


ちなみに現在の住まいは、前の借主が首を吊って亡くなった部屋です。


そのように恐怖とともに生きる松原タニシさん、実は「事故物件住みます芸人」であるのみならず、「異界探訪者」としても名を馳せています。2016年から、たった3年の間に、なんと! 300か所を超える怪異な現場を訪ねているのです(単純計算で、一年に100か所以上!)。


さらにタニシさんは、このたび、2018年4月までに分け入った異界200か所を網羅した、恐るべき本を上梓しました。


それが、「異界探訪記 恐い旅」(二見書房)。



▲新刊「異界探訪記 恐い旅」(二見書房)


ページをめくると……。


◎ 鈴の音が追いかけてくる廃火葬場
◎ 心霊写真が撮れる踏切
◎ おばさんの声が聞こえる地下通路
◎ 首なしの騎馬兵が現れる橋
◎ 亡くなった女の子が訪ねてくる中華料理店跡
◎ 謎の手形がついている自殺多発の橋
◎ 不思議な髪が落ちているトンネル
◎ 呪いの釘が打ちつけられる神社
◎ 女の悲鳴が聞こえる断崖


などなど、タイトルだけで身の毛もよだつものばかり。しかも詳細なリポートに加え、現場の地図や、その場で撮影した画像まで多数収録。おどろおどろしにも、ほどがあります。


単なる心霊スポット紹介の本ではなく、著者が実際に現場に潜入し、それがまだここ3年以内の話であるという点でも画期的。ホラーとしても読めますが、「ダークツーリズムの新視点」とも捉えうる、そんな多様な価値があります。


いったいなぜ危険をかえりみず、「異界」と呼ばれる場所へ引き寄せられるのか。
「異界探訪記 恐い旅」を書きあげた、松原タニシさんにお話をうかがいました。


■呪われた「異界」200スポットを網羅!





――前作『事故物件怪談 恐い間取り』に続く第二弾となる新刊が、まさかの400ページ近い大著だったので、びっくりしました。たいへんな労作ですが、執筆期間は、どれくらいかかりましたが。


松原タニシ
「およそ半年です。とはいえ、実は始めの三か月は、ぜんぜん書き進められなくて。当初の予定では3月に書き終わるはずでした。けれども、その時点ではまだ十分の一も書けておらず、4月になってからも五分の一も書けてない。そんなひどい状態でした。果たして本当に発売できるのかって……ヤバかったですね」


――今作は心霊スポットをはじめとした日本ならびに海外の「異界」200か所を旅した記録集ですが、とてつもない数の現場を細部まで憶えておられていますね。記憶力と再現力に感服しました。取材の際はメモを取っているのですか。


松原タニシ
「メモではなく、動画を残しているんです。書いたエピソードの大部分は、ツイキャス『異界に泊まろう!』で配信した場所についてです。だから、映像が残っているんです。それを観返したり、思いだしたりしながら書きました。その作業もあって、一話一話、書くのにすごい時間がかかったんです。もともと、書くペースが遅いのもあるんですが」



「異界に泊まろう!」……心霊スポット及び“異界”で朝まで過ごすドキュメンタリーホラー不定期旅配信。2016年からスタート。


――動画配信していたということは、本を書くにあたって、嘘がつけないですね。


松原タニシ
「そうなんです。この本に書いた原稿は、ほぼ、ツイキャスの記録です。なので、動画が残っているし、証拠が残っている。生配信なので実際に視聴者が観ていたものです。つまり、“話を盛る”ことはできません。実際に目にしたこと、身の上で起きたことをそのまんま書いています。ツイキャスは仕事ではなく個人的にやっている配信なので、まさかこうして書籍化されるなんて、考えてはいませんでした。それだけに、感慨深いですね」


■執筆期間そのものが恐怖体験だった!


――配信と言えば、この本を書く姿自体を、ご自身がメイン司会をつとめるインターネット番組『おちゅーんLIVE!』でも生配信されていましたね。あの回は、何時間配信していましたか。


松原タニシ
58時間30分、配信しました。その間に『100話、書きあげる』という試みで。書いてる状態を、『どうやってエンターテインメントとして視聴してもらえるか』と悩みました。けれども、結局『どんどん書きあがっていく』のを観てもらうことが、もっとも盛りあがるんだとわかりまして。そこからは、ペースがあがりました」


――私も時おり視聴していましたが、おでこに熱冷ましシートを貼るなど、本当に辛そうでした。あの企画で遅れは取り戻せたのですか。


松原タニシ
「かなり書き進められました。スタッフさんは大変だったでしょうが、執筆している姿を配信する企画は正直、助かりましたね。あれがあったから、さぼらずに済みましたし、本が書きあがったんだと思います。そして、やっぱり自分は、『人に見られていなかったら頑張らない。スイッチが入らない人間なんだ』と、改めてわかりました」


――タレントさんが本を「ちゃんと自分で書いている」事実にも衝撃を受けたのですが、さらに文章がうまい。前作と今作を読んで確信したのですが、タニシさんが書く文章は、おかしな虚飾がなく、とても読みやすい。わかりやすいから頭に情景がしっかり浮かぶんです。なぜ、そんなにお上手なのですか。


松原タニシ
「本を読むのが苦手だから、かな。本を読んで難しい表現に出会うと、僕はそこで読むのが止まっちゃうんです。なので、『自分がわかる文章』しか書けないんです。それで、読みやすいんじゃないでしょうか」


■「心霊スポットへは、決して行きたいわけではない」





――タニシさんが事故物件に住み始めたのはテレビの企画による半強制からでしたが、心霊スポットなど異界を自分から旅しようと考えたのは、なぜですか。


松原タニシ
「事故物件に住み始めて、ありがたいことにイベントや番組に呼んでもらえる機会が増えました。けれども、事故物件に住んでいるからといって、毎日怪奇現象が起きるわけではない。何も起きない日が大半です。それで、期待されるほどの恐怖エピソードが少なく、ガッカリされることが多くなったんです。だったら、『もっと怖い場所へ旅立っていかなければ』と。一か所にとどまらず、流動し続けなければならない。そんなふうに考えたんですよね」


――ということは、決してノリノリで旅をしているわけではないのですね。


松原タニシ
「『仕方なく』が正直なところです。全然、ノリノリではないです。異界を訪れるのは、オカルトを仕事にしている立ち位置の自分がやるべきことなのかな、と思いまして」


――嬉々として訪れているのではなく、課せられた「使命」ということでしょうか。


松原タニシ
「そう、かもしれない。はじめはそこまで深く考えていたわけではないのですが、行動に対して、アイデンティティが後からついてくる、そんな感じでしたね」


■視聴者も体験。実際に配信された怪異の生動画


――それにしても、よくこれほどまでに怪しい場所をご存知ですね。どうやって知るのですか。


松原タニシ
「地方のイベントへ行ったら、地元の方に『近くに、いわくがある場所はございませんか』と訊く場合が多いです。できれば、あまり有名ではない場所の方がいいので」


――そういった場所を訪れると、実際に奇妙な体験もしますよね。


松原タニシ
眼の前を歩いていた男の人が消えたことがありました。ある、稲荷神社です。眼の前で歩いていた男性が鳥居と鳥居のすき間にしゅっと入っていって、『道があるのかな?』と思って覗いてみたら、そこには石灯篭しかなくて


――背筋が寒くなりますね。そして日本のみならず、海外へも渡っていらっしゃいますよね。


松原タニシ
「台湾の火葬場の廊下を歩いていたら、鈴の音がこちらを追うように聴こえてきたのは恐かったですね。確実に聴こえたし、動画にも、その音がしっかりと残っています。あの時は、さすがに逃げました。自分でも、『本当に怖いときは逃げちゃうもんだな』と自覚しました」


■心霊体験をするために、命がけで現場へ分け入る





――異界に足を踏み入れるとき、持参する物はあるのですか。


松原タニシ
「スマホ、懐中電灯、充電バッテリー。夏は虫よけや虫刺されの薬、冬はカイロ。そんなところです」


――懐中電灯や虫刺されの薬が必要ということは、やはりそう簡単には行けない場所なんですよね。この本は、奇妙な現象ももちろん恐いのですが、そこに辿り着く前に立ちはだかる難所が、さらに恐いんです。「心霊体験をするために、物理的に命がけの体験をしている」部分がすごい。


松原タニシ
「安全のためもあって、いつもは数名で行くのですが、たまに僕ひとりになります。やっぱり、ひとりで行くのは恐いですね。特に山は恐いです。ある山に、『触ると死ぬと言われる象の石像』があると聞き、観に行きたくなったんです。向かったのはトークイベントが終わったあとだったので、真夜中でした。その日は同行者がおらず、しかも雨が降っていて、足元もぬかるんでいました。それでも歩き進めていると、石の階段の傾斜がどんどん険しくなっていって、しまいに階段自体がなくなり、ついには道そのものがなくなったんです


――夜中に、歩いていると、道がなくなるって……それは恐怖ですね。


松原タニシ
「『さすがに、これ以上は登れない』とあきらめたその時、はっと気がついたんです。『あ、戻れない』って」


――戻れない……。


松原タニシ
「帰り道がどこにあるのかが、わからないんです。暗闇だし、雨で視界が遮られていたし。仕方がなく夜が明けるまで、その場でじっと耐えました。そして陽が昇りはじめ、辺りが明るくなったとき、わかったんです。僕はずっと、崖っぷちを歩いていたんです


――ええ! 崖っぷちをですか!


松原タニシ
「たまたま、崖から落ちなかっただけ。たまたま運よく生きていただけです。朝になってやっと下山できるようになったら、『遊び半分でここに来たら、天罰が下るぞ』と書いてある板がありました。自分はこういう場所を選んで旅しているのだと実感しましたね」


――恐ろしいです。そして現場へ向かう道中の描写に、タニシさんの決意を感じます。


■異界を旅するうちに「人間の本性」が見えるようになった





――さまざまな場所に、後輩芸人の華井二等兵さんや、にしね・ザ・タイガーさんがよく同行されていますね。タニシさんにとって、おふたりはどういう存在なのですか。


松原タニシ
「華井、にしね、彼らは……なんなんだろう(笑)。無償で手伝ってくれる素晴らしいアシスタントであり、僕にとっての癒やしですね」



▲同行することが多い後輩芸人、にしね・ザ・タイガーさん、華井二等兵さん


――タニシさんのようにオカルトの仕事をしていないのに先輩を慕って付き添っていて、いい関係だなと感じました。


松原タニシ
「彼らがオカルトに特化していないのに、ついてきてくれる。これが重要なんです。正直、心霊スポットで朝まで僕と一緒に過ごしたとしても、彼らにはまるでメリットがないですから。彼らの仕事に、なんの関係もないですからね。それなのに、やってくれる。ありがたいです」


――そういう損得を抜きにした関係って、なかなか築けないですよね。


松原タニシ
「そうなんです。実は、異界を旅するようになってから、“人間の欲望や本性を強く感じるようになったんです


――人間の欲望や本性を?


松原タニシ
「異界探訪は先程も言ったとおり、動画を生配信をしながら巡るのです。その際、視聴者からのコメントがリアルタイムで画面に表示されます。その中には、誰かを傷つける心無い発言や、考え方の押し付けや否定、などなど、読むと嫌な気分になる独りよがりなコメントがちょくちょく見受けられたんですね。それらには、『注目されたい』『誰かを否定して、自分が優位に立ちたい』という欲望が透けて見えるように感じられました。心霊という、答えのない、見えないものに関わるからこそ、人間の本性という見えないものが文字で可視化されるというか」


――本来は見えないとされているものを見ようとするうちに、人の心の中が透けて見えるようになった、ということですか。


松原タニシ
「そうですね、おかげさまで。けれども、純粋に僕の探検を一緒に楽しもうとしてくれている視聴者の方が、もちろん多くて。僕は僕のために配信をしていて、それをそのまま楽しんでくれる視聴者たちがいてくれることで、損得勘定なしの関係性を保てる。それが、もっとも健康的だなぁと思うんです」


■異界へ行くことは、決して推奨しない





――最後に、この本に書かれた場所はほぼ特定できて、読者が実際に訪れることができますが、それは推奨されますか。


松原タニシ
「いいえ。ガイドブックではないです。あくまで、個人的な旅の記録。そこを実際に訪れる行為を勧めているわけではありません。行くのならば安全を確保して、周囲に迷惑が掛からないようにしてほしいですね」


飾らず、盛らず、実際に現場で起きたことを淡々と書き綴る松原タニシさんの新刊「異界探訪記 恐い旅」。しかし、虚仮威し(こけおどし)をしない涼やかな筆致だからこそ、リアルに恐怖が忍び寄るのです。



「異界探訪記 恐い旅」
松原タニシ著

「事故物件住みます芸人」こと松原タニシ、書き下ろし単行本!

約2年間(2016年7月~2018年4月)で二百箇所以上の「異界」を巡った旅の記録をまとめました。

心霊スポット、事件現場、火の玉目撃地、戦跡、トンネル、処刑場跡、呪いの場、自発多発スポット、廃墟、神木、樹海、人身事故の多い踏切、霊が現れる橋、伝説の地蔵……などで実際に体験した不思議な話を収録。

恐くて読みすすめられない話あり、旅情たっぷりでほっこりする話あり、充実の一冊です。

二見書房 刊
1,450円+税
https://www.futami.co.jp/book/index.php?isbn=9784576191027

松原タニシ Twitter
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吉村智樹
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