手づくりの「おやじ」グッズがぎっしり! 謎の雑貨店「トム・ソーヤー王国」に潜入
▲店内はおびただしい数の手づくり「おやじ雑貨」がひしめいていた。店長は自らを「世直し王様」と名乗った。ここは、いったいなんなんだ!
ライターの吉村智樹です。
おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」。
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。
今回は東京から情報をお届けします。
■売ってる商品が全部「おやじ」な雑貨店とは?
東京の福生(ふっさ)市に、「売っている商品が、ぜんぶ “おやじ”という、奇妙な店がある」という噂を耳にしました。
ぜんぶ、おやじ? おやじって、あの、おっさんのこと?
近年は「おっさんずラブ」や「バイプレイヤーズ」のように、中高年男性を愛らしい存在として捉えるドラマなどが増えてきました。
とはいえ、それはドラマのなかでのお話。現実は、おやじが好まれるシーンなど、ほぼ存在しません。
おやじたちは薄い髪にゆるいパーマをかけて後退した生え際を隠し、意識高いメッセージで若者たちからカリスマ視されようと必死です。加齢臭を拭いさる無駄な抵抗に全身前全霊を傾け、汗だくです(それ、僕です……)。そんな努力をしても「キモ!」のひとことで一蹴される、それがおやじなのです。
そんな「おやじ」を商品化し、なおかつ、「それしかない」だなんて。そんな奇特にもほどがある店が、果たして存在するのだろうか?
■異彩を放つピンクの建物を発見
半信半疑を通り越し、二信八疑でやってきたのが、JR青梅線「牛浜」駅から徒歩10分の場所にある「トム・ソーヤー工房」。
カメラを向ける勇気がありませんでしたが、東京環状の大通りを渡れば、すぐ目の前が「Yokota Air Base」(横田基地)。かなりイカツい立地にあります。
店舗と工房を兼ね備えたこの店は、確かに、尋常ならざる異彩を放っています。店構えは、マイメロディと肩を並べる派手なピンク色。
▲マレーシアのマラッカを思わせるピンク色の建物
▲明らかに街並みに溶けこんでいない、強い押し出し力を感じる
ドアには、確かに「おやじキャラ雑貨の店」の貼り紙が。
▲「おやじキャラ雑貨の店」「今日もハッピー! ですゥ」。不安しかない
▲「世直しおやじ」「小学七年生」。さらに混沌としてきた
そして店の外には、「なるほど、これか」。溢れこぼれんばかりの、小さなおやじたちが、いたるところに顔をのぞかせました。
▲店頭には、おびただしい数のアヤシい「おやじ」が
▲プーさんではなく、おっさん
▲頭に花が。コギャル?(死語)
▲庭にも、気になるなにかが
■恐るべき数の「おやじ雑貨」と「世直し王様」
おそるおそるドアを開けると、うあ、あ(絶句)。
物干しハンガーぶらさがった、手作りのおやじグッズが視界を遮ります。
▲天井からぶらさがる「おやじ」たち
あちらにもこちらにも、色とりどりなおやじがぎっしり。まるで、おやじという名の大海原に放り出された気分。
かつて「おやじの海」という曲が大ヒットしましたが、この状態を意味していたんですね!(違うかもしれません)。
ご店主さんの肩書は「世直し王様」。その名の通り、トム・ソーヤーに負けないほど冒険心に溢れまくったお店です。
▲「トム・ソーヤー工房」の店主、世直し王様。お、王様!? これはたいへんな人が出てきたぞ
なぜ、「おやじ」ばかりをつくるのか。
なぜ、これが「世直し」なのか。
なぜ、あなたは「王様」なのか。
謎しかない店内にいて、なにから質問してよいかわかりませんが、とにかくこの摩訶不思議なトイ・ストーリーの背景に迫りたいと思います。
■おやじ雑貨は世直し王様ご本人?
――お店のなかが「おやじ」でいっぱいですね。世直し王様が「トム・ソーヤー工房」を開いたのは、いつですか。
世直し王様
「この店を始めて25年。気がついたら、自分もすっかり、おやじになってしまいましたねえ(しみじみ)」
――確かに、並んでいる雑貨がどれも、世直し王様によく似ていますね。
世直し王様
「いやー、褒められているのかどうか微妙ですね」
――ああ、すみません(汗)。「もしかしたら失礼かも」と思いながら質問をしてしまいました。
世直し王様
「いえいえ、お気になさらないでください。みんな心のなかに土足で入ってきますから(笑)。意識をしているわけではないのですが、毎日つくっていると魂が入るんでしょうか。だから似てくるんだと思います」
▲並んでいるおやじ雑貨は、すべて世直し王様の手づくり
▲作品とご本人が瓜二つ
■誰しもの心の中に「架空の王国」は存在する
――ご店主様は「世直し王様」を名乗っておられますが、ということは、ここは王国なんですか?
世直し王様
「はい。そうなんです。私は“トム・ソーヤー王国”という架空の国の王様なんです。皆さんも、どなたでも心のなかに架空の王国をお持ちでしょう。私もそんな感じです」
――ここはトム・ソーヤー王国という国だったのですか。ならば、ご家族は王族ですか。
世直し王様
「そうです。妻はトム・ソーヤー王国の姫で、布製品は姫がつくってくれます。実態は姫というより、フィクサーなんですが(笑)」
■25年前は嘲笑された「世直し」が、今はリアルに
――「世直し王様」は、世直しをする王様、なんですよね。
世直し王様
「大きなコンセプトは『世直し』です。『世の中が少しでも楽しくなるといいな』と思いながら、おやじアイテムをつくっています」
――なぜ「世直し」なんですか。
世直し王様
「私は山口県の萩の生まれでね、心の師匠は吉田松陰先生。それゆえに“世直し”は、つねに自分のなかにあるテーマなんです」
――いいテーマだと思います。確かに、世直しが求められる時代ですよね。
世直し王様
「工房を開いた当初は時代がバブルだったので、『世直し? なに言ってんだ(嘲笑)』的な反応しかなかったんです。けれども最近は『世直し』という言葉がリアルになってきまして。オリンピックも、どうなるのか。参院選も、いったいどこへ投票してよいのやら。工房の目の前が横田基地なので、キナくさいウワサもすぐに耳に飛び込んできますしね」
――25年前に名乗りはじめた「世直し」が、時を経て切実に響くようになってきたんですね。
世直し王様
「そうなんですよねえ……。とはいえ、リアルすぎる気がしてきましてね。いまって、右か左か、立場を迫られるじゃないですか。『世直し? お前は右なのか左なのか、どっちなんだ』と。それもあって最近では、堅苦しくない、もっと軽いニュアンスの『ハッピー世直し』と呼ぶようにしているんです」
――「ハッピー世直し」ですか。いいですね。極彩色の作風とあいまって、ぴったりだと思います。
世直し王様
「いやあ、そう言っていただけると、ハッピー冥利に尽きます」
▲「ハッピー冥利」に尽きているポーズ
■「おやじ」は世の中で、もっともアウエイなキャラクター
――ところで、なぜ「おやじ」ばかりをおつくりになっているのですか。
世直し王様
「みんなが好きなものって、ヒーローだったり、かっこよかったり、かわいかったりでしょう。だからあえて、もっともアウエイなキャラクターにしたんです。おやじってネガティブな捉え方をされるでしょう。そこに、逆にスポットライトをあてていこうと」
――こんなに「おやじ」に光が当たる場所は、ほかにないですよ。どれくらいの量があるんですか。
世直し王様
「数えたことがないんです。店頭に出ているのは、ごく一部です。まだ完成していない『おやじ待ち』状態のアイテムもかなりあります」
――「おやじ待ち」ですか。ざっくり見たところ、完成品で5000アイテムはゆうに超えていると目算したんですが。
世直し王様
「ああ、だったら6000はあるんでしょうね。しょっちゅうイベントに出店しているので、一度にごっそりなくなりますし。日々、つくっては売り、つくっては売り、を繰り返しています。今日も取材の直前まで、おやじをつくっていました。『すきあらば、おやじをつくる』。そんな人生でしたね。実は今日はイベントを終えたばかりで、店内はすっからかんな状態なんです」
▲工房と店舗が一体化しており、日々さまざまな素材がおやじへと改造されてゆく
▲「イベント出店が終わったばかりで商品が売れてしまって。今日は棚がすっからかんなんです」。ということは、いつもはもっと多いのか。それはスゴイ
――こ、これですっからかんなんですか!
世直し王様
「そうなんです。うちはほぼイベント出店で商品をまわしています。値段は、だいたいひとつ500ハッピー(1ハッピー=1円)から1000ハッピーの間ですかね。そういったイベントで、口上を述べながら露店に人を集め、それで買ってもらうんです。」
▲実は商品の販売はイベント出店が主力だ
▲楽しい口上を述べながら人を集める
▲露店でもっともよく売れるのが、500ハッピー(日本円で500円)ほどの駄玩具。遊び方をおもしろおかしく語りながら、関心を集める
▲変化に富んだ動きがユーモラスで思わず笑ってしまう人気商品「おやじファンタスティック」(500ハッピー)
――口上ですか。懐かしいですね。ガマの油売り、バナナのたたき売り、七味唐辛子売りなどの口上を、昔はよく縁日で見かけました。「男はつらいよ」の世界ですね。
世直し王様
「とにかく、口上でなんとか間を“もたせて”いるんです。なんせ、ほぼすべてが駄玩具で、実用的なものが何ひとつないですから(笑)。口上だけではなく、豆千代姐さんに扮して三味線を弾いたり、紙芝居をやったりしています。『おやじ人魚姫』とか、『おやじとキリギリス』とか」
▲女装をして三味線を弾いたり、おやじが主人公の紙芝居をやったり
――おやじ人魚姫……古きよき大道芸の世界を継承しておられるのですね。
世直し王様
「もっと新しいスタイルも採り入れなきゃ、とは考えてはいるんですが、なかなか……世の中の流れが速くて、新しい文化に追いつくので必死なんです。スマホは一昨年からようやく使い始めました。上のお兄ちゃん(長男)が高校へ行きはじめたので、連絡がとれるように。Instagramは、やっと昨年から。『YouTubeもやらなきゃ』と思いながらも、手が回らない状態です」
――YouTube、ぜひはじめてください。話題になると思いますよ。おやじYouTuberって、あんまりいませんから。若き「しゃちょー」がいるくらいですから、おやじの「おーさま」がいてもおかしくないです。
■25年間も絵が上達しないのは逆にスゴイ
――世直し王様の作品は主に「絵付け」ですが、絵を描こうと思われたのは、どうしてですか。
世直し王様
「子どもの頃から絵描きさんへの憧れがあり、画家を目指して上京しました。田舎者で、あまり知識がなかったものですから、『絵描き=東京にある芸大を出なければならない』と勝手に思い込みましてね。でもね、芸大って、そう簡単には入れてくれないんですよ(笑)。それで予備校へ通ったり、ムサビ(武蔵野美術大学)の通信から編入を考えたりしたんです。けれども、そのころ路上で歌もうたいはじめまして。『もうこのまま、独自で表現活動をしたほうが早いな』と考えるようになったんです」
――はじめから、おやじの絵を描いておられたのですか。
世直し王様
「もともとは、もっとシュールなもの、エッジが効いたものを描いていたのですが、おやじを描きはじめてからは、これひと筋ですね」
――独学の表現活動で、ここまでやってこられて、それはそれで偉大ですよ。
世直し王様
「お恥ずかしい。これだけ長くやっていれば、普通ならば、もっと上手くなるもんです。けれどもどういうわけか、へたなままでした。それなので、この頃は反対に『こんなに長い間やって、このチープさをキープできるのが逆にスゴイ!』って、自画自賛しています(笑)。25年もやっていて、『まだまだ伸びしろがあるところがいい』と思っています」
――小器用にうまくなっちゃう人が多いなか、このヘタウマな作風を貫くなんて、そうそうできないですよ。
世直し王様
「東京ビッグサイトで開催されている『デザインフェスタ』に20年くらい、ずっと出店しているんです。20年も経つとね、当時、母親に連れられてやってきてグッズを買ってくれた小学生の女の子が、成長して出店する側になっているんです。20代の女性から『お久しぶりです。子どもの頃におやじアイテムを買いました』って声をかけられ、うれしくなって新作を見せたら、『変わってない……。ブレてないですね』って(笑)」
■素材の駄玩具が時代とともにどんどんなくなってゆく
――もとの素材は、どこで見つけてこられるのですか。
世直し王様
「つねに探しています。道端に落ちている石ころひとつ見逃せません。駄雑貨や駄玩具の卸問屋をめぐって買いだめする日もあります。とはいえ……どんどん素材がなくなってきました」
――少子化があり、不景気もあり、駄玩具は需要も供給も少なくなってきているでしょうね。
世直し王様
「駄菓子は、まだ生き残れているんです。でも、駄玩具は本当に減りました。ゼンマイだとかマグネットだとかバネだとか、そういったアナログな仕組みの駄玩具は、見つけたらすぐ買ってキープしておかないと、あっという間になくなります。でも、駄玩具って、いいでしょう。私は好きなんです。遊び方が自由で、想像力が試される。あと、壊れるのもいい。『あ、これだけ力を入れると壊れるんだ』ってわかるじゃないですか」
▲「素材となる駄玩具が近年どんどん手に入らなくなっている」という。消費税が10%になったら駄玩具の消滅は近い
■自分の宝物を「おやじ化」してくれるオーダーメイドも
――見たところ、駄玩具だけではなく、立派で上等なお人形もありますね。
世直し王様
「あ、それは預かりものなんです」
――預かりもの?
世直し王様
「実はうち、オーダーメイドも受け付けているんです。アイテムを持ち込んで、『これ、おやじにしてください』って依頼をされる方も少なくないんです」
▲「これ、おやじにしてください』と依頼された人形たち
▲「おやじ化」のオーダーメイドを請け負っておる
――自分の持ち物を「おやじに変えてもらえるサービス」だなんて、前代未聞の唯一無二じゃないですか。
世直し王様
「いやあ、儲かりませんので、なんでもやらないと。『他人の家の芝生は青く感じる』と言われていますよね。なので、できるだけ芝生は見ないようにして(笑)、お金をかけないかわりに手をかけています。そうやって、私が理想とする『くだらん&たまらんワールド』を誕生させられたらなと。それが、私なりのハッピー世直しなんです」
眼が血走っていたり、鼻水を垂らしていたり。カラフルなおやじたちがひしめくサイケな王国、「トム・ソーヤー工房」。
世直し王様がつくるおやじは、どいつもこいつも、うだつがあがらなそうな、強烈な小市民性を放っています。
でも、なぜでしょう。愛おしい気持ちが止まらないのです。
SNSでやたらとえらそうだったり、明後日の方向に「喝!」を入れたり、いい歳をして衆人環視のなか演技で泣いたりするあのおやじこのおやじたちより、ずっと心を許せるのは、僕だけでしょうか。
世直し王様は福生市の工房のみならず、全国の催事場へ出かけているそうなので、見かけたらぜひ「くだらん&たまらん、でもハッピー」なおやじアイテムを連れて帰ってください。
トム・ソーヤー工房
東京都福生市熊川1070
OPEN● 13:00〜19:00
定休日●不定休
電話●042-553-7279
「イベント等で不在の場合があります。連絡してから来られると間違いございません」
URL● http://happyyonaoshi.com/
instagram● https://instagram.com/yonaoshiosama/
Twitter● https://twitter.com/yonaoshiosama
吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy
タイトルバナー/辻ヒロミ