咲き誇れ、毒の華。噂のドラァグクイーントリオ「八方不美人」が2ndミニアルバム「二枚目」を発表!

2019/7/26 18:00 吉村智樹 吉村智樹


▲人気急上昇中のディーバユニット「八方不美人」。コンセプトは「毒」!


ライターの吉村智樹です。
今回から始まりました連載「特ダネさがし旅」
特ダネを求め、私が全国をめぐります。





■謎のドラァグクイーントリオ「八方不美人」とは


昭和を代表するガールズトリオといえば、キャンディーズ。
平成はPerfume。
ならば令和は、「八方不美人」になるのでは?
本気でそう思えた一夜でした。


7月6日(土)、新宿二丁目にあるナイトクラブ「AiSOTOPE LOUNGE(アイソトープ ラウンジ)」にて、八方不美人の2ndミニアルバム『二枚目』のリリースイベントが開催されました。





「八方不美人」とは、新宿二丁目を拠点に活動してきたドラァグクイーン(女装パフォーマー)の「エスムラルダ」「ドリアン・ロロブリジーダ」「ちあきホイみ」の3人によるディーバユニット。昨2018年12月に1stミニアルバム『八方不美人』でデビューしました。





ドラァグクイーンが正式にトリオユニットを組んでメジャーデビューを果たすだけでも異例のシンデレラストーリーですが、それぞれの経歴も輪をかけてユニーク。




ドラァグクイーン歴がもっとも長いエスムラルダさんは、日頃はフリーのライター・編集者・脚本家として健筆をふるい、ミュージカルの翻訳のお仕事も。エスムラルダ名義で「同性パートナーシップ証明、はじまりました。」、森村明生名義で「英語で新宿二丁目を紹介する本」という著書もあります。




もっとも長身な次女、ドリアン・ロロブリジーダさんは身長180cm。20㎝ものヒールを履き、ウイッグの盛り方によっては背丈が2メートルを超える日もあるのだそう。早稲田大学出身で、日頃はPRのお仕事をされています。




末っ子キャラのちあきホイみさんは、その名の通り、「ちあきなおみさんとホイットニー・ヒューストンを敬愛している」しっとり系シンガー。慶應義塾大学の大学院を修了した才媛(?)で、サラリーマンをしながら参加しています。


このように、それぞれが別の仕事を持ちながら活動している点も大きな特徴です。





そして! プロデューサー陣がさらにゴージャス!
Wink「淋しい熱帯魚」や「新世紀エヴァンゲリオン」の主題歌「残酷な天使のテーゼ」、やしきたかじん「東京」など数々のヒット曲を手掛けた作詞家・及川眠子(おいかわねこ)さんと、アン・ルイス「WOMAN」や小柳ゆき「あなたのキスを数えましょう」などを手掛けた作曲家の中崎英也さんによるダブルプロデュースです。




■八方不美人のコンセプトは「毒」


会場では、リリースイベントの前に記者会見が。





プロデューサーの及川眠子さんによると、八方不美人のトータルコンセプトは「毒」!


生きづらさが蔓延する世の中に「毒をもって毒を制す」存在となり、スカッと溜飲が下がる存在にしたいと語っておられました。


ドリアン・ロロブリジーダさんの「観ての通り、毒まみれでしょ。ごめんなさ~い。この3人から毒を抜いたら、なんにも残らないです」というコメントに記者は大笑いしながら、うなずくばかり。





確かに、艶やかを通り越してケバやかな3人の姿を観ていると、「とてもきれいだけれど、触ると化膿するアネモネのようだ」と感じました。





そして、今回のミニアルバム『二枚目』のソロ曲のコンセプトは「片想い」。表題曲「罰をくらえ愛で」をはじめ、3人のソロ曲、計4曲が、さまざまな情景の「片想い」に彩られています。


「前作のテーマ『不倫』に続き、今回は『片想い』。今回も、歌の中でさえ幸せになれない私たちでした(苦笑)」(エスムラルダ)


ここで、デビュー前にドリアンさんがメンバーから脱落寸前だった逸話も披露。なんと、1stミニアルバムの録音の際、連絡なしに2時間も遅刻したのだとか。





「ホイみが黙々とソロ曲のレコーディングをするなか、眠子さんと中崎さんと私で、『ドリアンが来なかった場合、誰に代わりを頼むか』まで話し合いました(笑)」(エスムラルダ)


「その時、俺は言ったんだよ。『世の中にはいるんだよ。幸せが転がり込んで来そうになると逃げ出したくなるやつが』って」(中崎英也)


しかし、結局はただの寝坊。時間がないなか、ドリアンさんは抜群の集中力を発揮し、ほんの数回でOKテイクが出たそうです。





■最前列は小学生。さまざまな層から人気


さて、記者会見を終え、いよいよ、お客さんを入れてのミニライブ。会場は立錐の余地もない超満員。熱気がみなぎり、表面張力は決壊寸前。ブレイクへのカウントダウンが始まったことが、ひしひしと伝わってきます。


司会は同じくドラァグクイーンのオナン・スペルマーメイドさん。「八方不美人の曲がよく聴こえるように」と、わざわざカブリモノの耳に穴をあけてきたという、気合いが入った応援体制。





登場した3人は、お客さんの熱狂ぶりと、客層の幅広さに驚き、「浅草演芸場かと思ったわ」(ドリアン・ロロブリジーダ)。


実際、老若男女、お子さんからお年寄りまで大集合。最前列で観ていたのは、なんと小学生。「放送部に入って、校内放送で八方不美人を流してね」(エスムラルダ)と新たな需要を掘り起こしていました。


MCの面白さに定評があり、しゃべりだしたら止まらない八方不美人の面々。歌いだす前の注意事項の説明で、「カメラのシャッター音はOKか否か」で5分も費やすなど、会場は早くも大きな笑いに包まれます。いい意味で「先が思いやられる」展開に。


■ソロ曲は三者三様の「片想い」


一曲目は、表題曲の「罰をくらえ愛で」














「♪死~ん~で~」というフレーズがインパクト絶大。オナン・スペルマーメイドさん曰く「これ、八方不美人のキャラクターだから許されてるよね。ほかのアーティストなら炎上してるよね」と、八方不美人の特異なスタンスに言及。


「『死んで』って本気で言っているわけではないんです。あくまで比喩ですから」(ちあきホイみ)、「心と言葉って、うらはらでしょう~」(ドリアン・ロロブリジーダ)と、このフレーズには失恋歌ならではの含みがあると解説。しかし作詞した及川眠子さん当人は「いや、マジで書いた」とひっくり返し、元の木阿弥に。





2曲目は、ちあきホイみさんのソロ「玻璃(はり)の鏡」


「玻璃の鏡」とは、閻魔大王が三途の川で死者を天国に行かせるか地獄に行かせるかを決める際に使う、生前の姿を映し出す鏡のこと。


「そんな玻璃の鏡にすら写してはいけない切ない想いを歌にしました」(ちあきホイみさん)


完璧なる女装と、しっとりと歌われるバラードに、客席はすっかり魅了され、浄化される雰囲気に。





でも「ジャケ写はチークが濃すぎるね。おてもやん感があるわ」とオナン・スペルマーメイドさんからのツッコミが。


「恋愛って、普通は『相手に想いを届けたい』って考えるじゃないですか。でも私たちはこれまでは、もしもノンケ男性に恋をしたら、その想いが相手に伝わらないように、親友でいられるように努めなければならなかった。そういう想いって、鏡には映らないですよね」(ちあきホイみさん)と、切ない事情も吐露されていました。


3曲目は、ドリアン・ロロブリジーダさんの「蛇蝎(だかつ)のごとく」


「蛇蝎というのは蛇やサソリを意味する、皆さん最低一日に一回は使うありふれた慣用句ですけれども使わねーよ! というツッコミが)、憎い、悔しい、そんな気持ちを胸に『抱いて!』っていう、そういう人間の内面にあるきれいごとでは済まない葛藤を描いています」(ドリアン・ロロブリジーダ)


「なんかよくわかんないけど、性欲すごいわ、この歌」(オナン・スペルマーメイド)





歌い終わったあと、亡くなった向田邦子さんが脚本をお書きになったテレビドラマ『蛇蝎のごとく』『阿修羅のごとく』の話題で盛り上がりましたが、客席は一部を除き、ぽかーん。


そして4曲目は、今日イチの問題作、エスムラルダさんの「魔法時間」


魔法のスティックを手に、80年代アイドルふうのフリフリ衣装で歌い踊るエスムラルダさんに「正気の沙汰じゃない」「どんな47歳なんだ」「大磯ロングビーチか」「私たちは、これのフリか」と、ほかのメンバーからツッコミの砲火が。


「カオスでしょう。振れ幅は私が一番大きいです」(エスムラルダ)





作詞した及川さんが「これまでアイドルに詞を提供してきたすべてのノウハウを凝縮させた」と語るほどの自信作。場内酸欠状態になるほどの大爆笑でしたが、大笑いしつつ、プレッシャーを全身で受け止めて応えるアラフィフディーバの姿に、強く胸を打たれました。


■二枚目の次は「三枚目」宣言


ここで、朝焼けのなかで撮影された「罰をくらえ愛で」のPVを全員で鑑賞。レインボーブリッジを思わせる美しいロケ地は、実は荒川の河川敷であること、工事現場の人に怪しい目で見られながらの撮影だったことなど、秘話を多数公開。




レトロ建築として価値がある中銀カプセルタワーや幕張本郷のモーテルで撮影されたシーンも見どころです。


最後に、デビュー曲「愛なんてジャンク!」を歌い、イベントは終了。あまりの楽しさと歌のうまさ、音楽性の幅広さを見せつけられ、お客さんたちは心地よいぐったり感にひたっていました。




ミラーボールのように多面的にキラキラと、ときにはギラギラと輝く八方不美人。「取り扱う音楽ジャンルが広いので、三枚目は、どうなるか私たちにもわからない。エンヤみたいに突然ケルト音楽になっているかもしれない」(ドリアン・ロロブリジーダ)と、さらに混迷の道を突き進む決意を宣言。


八方美人には生きられず悩んでいた人たちに勇気を与える八方不美人。背徳的で、不条理で、灰汁(アク)が強い。でもどこかとぼけていて温かい彼女たち(?)の愛に溢れた音楽を、ぜひくらってみてください。



八方不美人 2ndミニアルバム
『二枚目』


[収録曲]
1.罰をくらえ愛で
2.魔法時間(エスムラルダ)
3.蛇蝎の如く(ドリアン・ロロブリジーダ)
4.玻璃の鏡(ちあきホイみ)


全曲 作詞:及川眠子 / 作・編曲:中崎英也


2019年8月2日(金)21:30
八方不美人「二枚目」リリース記念インストアイベント
ミニライブ+チェキ会

TOWER RECORDS新宿店 7F

観覧フリー

*TOWER RECORDS新宿店、渋谷店、池袋店、秋葉原店、横浜ビブレ店にて八方不美人「二枚目」をご購入いただいたお客様に先着でチェキ会参加券を配布致します。




吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


タイトルバナー/辻ヒロミ