映画『手のひらに込めて』で俳優に開眼? おおうえくにひろ(元ハリガネロック)インタビュー!

2019/6/24 13:00 吉村智樹 吉村智樹


▲話題の映画『手のひらに込めて』の準主役を演じた元「ハリガネロック」おおうえくにひろさん。芸人を辞め、東京の表舞台を去ったおおうえさんはいま、どのように過ごしているのか


いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





今回は滋賀と奈良発の情報をお届けします。


■話題の映画『手のひらに込めて』とは


関西では6月28日(金)から、ある話題の映画が公開されます。
それが『手のひらに込めて』




舞台は滋賀県彦根市。


100年以上前から続く老舗和菓子店「中嶋庵」。
ここは、妻を亡くした職人気質の父と、三人の娘で守られてきました。








そんなある日、父が突然、脳梗塞で倒れます。


閉店を決意した父に対し、「お母さんとの想い出が詰まったお店をたたみたくない」と、ひとりでお菓子づくりを続ける次女。





危機に直面し、ぶつかり合いながら成長をしていく父と娘、そして家族の物語――。



このお話、なんと実話なのです。
しかも舞台となる老舗和菓子店「中嶋庵」は、実話のなかに登場するお店。
この作品はそんな、究極の地域密着映画なのです。


■かつてのM-1ファイナリストが俳優に開眼?


さらにこの『手のひらに込めて』には、もうひとつ、注目すべき大きなポイントがあります。


それは、病に倒れる和菓子職人の父親を演じるのが、元「ハリガネロック」おおうえくにひろさんであること。





伝説のお笑いコンテスト番組「爆笑オンエアバトル」(NHK)第4代チャンピオンに輝いたハリガネロック。


「M-1グランプリ」に2度もファイナリストに選ばれ、同期の中川家とチャンプの座を争ったほどの凄腕、ハリガネロック。



その名の通り、彼らはロックを感じさせるいでたちと尖った感性のネタで、熱狂をもたらしていたのです。


一時は漫才で日本の頂点に立ったハリガネロック。
しかし2014年、19年もの活動歴にピリオドを打ち、惜しまれつつ解散をしました


ボケのユウキロックさんは、解散後は笑芸の指導者に。
そしてツッコミのおおうえくにひろさんは、芸人を辞め、東京を離れ、故郷の奈良県葛城市へ居住地を移していました
なんでも現在は、地元アイドルの育成に携わっているとのこと。


東京の表舞台から去った、おおうえくにひろさん。
そんな彼がいま、俳優として、再びスポットを浴びることに。


「難病を抱える父」という大役を担うおおうえさんに、この映画への取組みと、気になる「いま、どうしているのか」をお訊きしました。


■「こんなに大きな役を演じるのは初めてでした」





――おおうえさん、いま、おいくつですか。


おおうえ
45歳です


――45歳ですか。そうは見えないです。長身で、脚が長く、スマートで、ハリガネロック時代の印象のままです。変わった点と言えば、ヒゲが生えているくらいですよ。


おおうえ
ヒゲは、映画の役づくりのためにはやしたんです。クランクアップしたあとは剃ったんです。けれども舞台挨拶の仕事があるので、再びヒゲをはやしはじめました。映画と同じ雰囲気の方がいいかなと思って」





――普段はヒゲもおはやしになっていないのですか。なおさら、若々しい印象のまんまです。今回ご出演になられた映画『手のひらに込めて』では、準主役の大役を果たされましたね。これまで映画出演のご経験はありますか。


おおうえ
「千原兄弟さんの『岸和田少年愚連隊 血煙り純情篇』にエキストラ程度に出たり、元相方(ユウキロック)が主演した『浪商のヤマモトじゃ!』に出たり、出演経験はいろいろあるんです。けれども、こんな大きな役は初めてですね


■伝説の元漫才師が「寡黙な和菓子職人」を演じる


――この映画では、3人の娘をもつ父親を演じておられますね。親子ともどもコミュニケーションをとるのが上手ではなく、愛しあっているのに関係がぎくしゃくするところがリアルだと思いました。父親役を演じるのは、どんな気持ちでしたか。


おおうえ
「自分には中三の息子と中一の娘というバリバリ思春期の子どもがいるので、父親役を演じることに抵抗感はありませんでした。ただ、僕はしつけにうるさいタイプやったんです。『お父さんはいつも、やいやいうるさい』って言われるくらい。なので、無口で、娘たちと微妙に距離がある父親役は、けっこう難しかったですね





――そのうえ「寡黙なベテラン和菓子職人」ですよね。しかも和菓子をこしらえている手元をしっかりと撮られる。そういう点も、たいへんだったのでは。


おおうえ
「たいへんでした。和菓子をつくった経験はなかったですし。和菓子づくりを指導してくださったのは、この映画のモデルになった方なんです。直々に教えてくださいました。ご主人が言うには、『片時もゴルフボールを手放すな』と。ご主人は利き腕ではない左手を鍛えるために、一日中ゴルフボールを手のひらのなかで回転させていたんだそうです。実際に僕もゴルフボールを渡されたんですが、正直それをどう回すと正解なのか、わからないですよ。『これで合うてんのかなあ?』と首をかしげながら、一日中ゴルフボールをこねこねしていました。それこそ『腕、痛っ!』ってなるくらい」





■重病の現実を知り、役づくりに取り組んだ


――ゴルフボールでの自主練習の甲斐があってか、和菓子の匠を見事に演じておられました。この映画ではさらに、脳梗塞で倒れ、左半身に後遺症が残る役という重大なミッションを背負っておられますね。


おおうえ
「そうなんです。それがもっとも難しかった。僕は、大きな病気ってしたことがなく、入院経験もないんです。“脳梗塞になり、退院後も左半身に麻痺が残り、唇が右側だけしか動かない”状況をどう演じていいのかが本当にわからなくて。しかも、じょじょに回復してゆくというのがね。ずいぶん悩みました」


――どのように役づくりをされましたか。


おおうえ
「看護師の方に、“脳梗塞後はどういう症状が出るのか”をお訊きしました。左半身だけ思うようにならない場合の、筋肉がつった喋り方とか。あまりにも、わからんことだらけでしたから」


――杖をついて歩くのも、馴れていないと難しいですよね。


おおうえ
杖をつきながら歩く姿をビデオに撮り、何度も同じ道を往復しました。『もうちょっと、ゆっくり』『早いです』『もう少し足を引きずってください』と看護師さんから指導を受けました。後遺症で左手が曲がっているんですが、曲がる角度や腕の位置なども厳しくチェックされました。こういう部分をおろそかにするとドラマのメッセージが伝わらないので、みんな真剣でしたね


――そこまでしっかり役づくりをされて、俳優に開眼されたのではないですか。


おおうえ
「どうでしょう。『役者さんのお仕事はおもしろいな』と思いました。これからも依頼があれば、どんどん挑戦していきたいです。でも、だからと言って、『これからは役者になります』ではないですね





■きっかけは「あまちゃん」! 地元アイドルの育成に携わる


――現在のお仕事はやはり、アイドルの運営がメインですか。


おおうえ
「そうですね。奈良のご当地アイドル『Le Siana』(ルシャナ)と、堺・泉州のご当地アイドル『Culumi』(くるみ)、ふたつのアイドルユニットのイベント構成やMCをやっています。それだけではなく引率もしますし、物販も、チェキも、裏方もやります。あとは、ならどっとFM(78.4MHz)の『とんでもフライデー!!』という番組でメインパーソナリティをつとめています。ほかにも地元のイベントの司会など、ですね」


――かつて漫才師「ハリガネロック」として東京で活躍していたおおおうえさんが、奈良に住まいを移され、ローカルアイドルの運営にかかわっている事実がとても意外です。なぜなのでしょう。


おおうえ
「コンビを解散してから2年はピンでよしもとにおったんです。当時、子育ての様子をブログに綴っていて、ブラマヨの小杉が『おもろいです』って言うてくれましてね。そのおかげもあり、パパタレントとしての仕事が入ってきていました。タレントの仕事をやっていくうちに、『自分はもう“芸人”ではないなあ』と思うようになってきていて。そのような時期と重なるように、奈良のアイドル『Le Siana』と関わりはじめたんです」


――それは、どういうきっかけですか。


おおうえ
「コンビを解散する前かな。僕ね、『あまちゃん』(2013年度上半期に放送されたNHK連続テレビ小説)に、めっちゃハマったんです。あれは、地方アイドルの話ですよね。それで、『自分の故郷である奈良にもアイドルっておるんやろうか?』と好奇心が湧き、検索してみたんです。そしたら廬舎那仏(るしゃなぶつ)にあやかった『Le Siana』の動画がヒットした。観てみたら、楽曲もダンスも衣装もしっかりしている。クオリティが高いんです。びっくりしてね。奈良のご当地アイドルなんて『♪鹿せんべ~』とか、そんなちょけた歌をうたってる企画もんやとばかり思ってたから。それで関心をいだき、彼女たちのTwitterカウントをフォローしたんです」


――まさか「あまちゃん」がきっかけだったとは! それから、どうなさったのですか。


おおうえ
「プロデューサーさんから『今度、秋葉原でライブをやるので、観に来ませんか』と誘われたんです。さらにそれ以来、司会のお仕事もいただくようになりました。芸人イベントの司会と違って、出演しているのは芸能界の右も左もわからん女の子たちばかり。自分のMCで全力で盛りあげなあかん。それが僕には新鮮で、やりがいを感じたんです。そんなんもあって、『いっそ芸人を辞めて、地元へ戻ってアイドルを育ててみたい』と考えるようになっていったんですよね」


――それでアイドルのライブのMCをするようになったのですね。確かにこうしてお話を訊いていても、以前よりも声が大きく、声色がポップで、滑舌がいっそう明瞭になっていらっしゃるように感じます。


おおうえ
「そらもう、声はかなり大きぃなりましたよ。発音も、しっかりせんとね。芸人のイベントやったら、ほかの誰かが助けてくれる場合もある。でもローカルアイドルのイベントは、MCが華やかに盛りあげんと。自分もはじけんと。そんなんもあって、性格も明るくなったんとちゃうかな。わからんなりに手さぐりで頑張っているアイドルたちを応援したい。その気持ちが声や性格に表れていると思います」





■芸人を辞め、故郷の奈良へ「単身赴任」


――アイドルにかかわる前は、暗かったのですか。


おおうえ
「う~ん。コンビの関係がうまくいかなくなってからはね……。新ネタはつくらへん。漫才そないウケへん。コンビ間の会話もない。そんな状態やのにキャリアや実績はあるから、舞台ではトリを務める日が多かったんです。もっと売れてるしウケてる後輩のあとに舞台へ上がるのが申し訳なくてね。だんだん卑屈になってきていました。しんどかったですね。アイドルのMCは『キャリアがない子たちを、なんとかしてあげないかん!』と気合いが入る。テンションが上がるんです」


――相方であるユウキロックさんの著書『芸人迷子』にも、コンビ関係が悪化してゆくくだりがありますよね。でも……食い下がるようで申し訳ないですが、なにも、よしもとを辞める必要はなかったのでは。古巣である大阪よしもとへ戻るお考えはなかったですか。


おおうえ
「う~ん……。東京に十年以上いて、そのあいだに大阪の状況も大きく変わりました。たむら(けんじ)や(月亭)八光などがピンで活躍していて、『いまさら自分が大阪のよしもとに戻って、果たして活躍できる場所があるやろうか?』と考えてしまったんです。それやったら、いっそ辞めて、一からやりなおしたほうがいいかなと」


――ご家族の反対はなかったですか。


おおうえ
なかったです。むしろ、芸人に未練がある僕に、妻は『新しい光を見つけたんやから、そっちを信じて進んでみたら?』と背中を押してくれました。ただ、妻は東京で仕事があるので、僕の単身赴任になりましたが(苦笑)」





■悔しさはない。お笑いは今でも大好き


――「芸人に未練がある」時期もあったそうですが、お笑い番組って観ますか。


おおうえ
「めっちゃ観ますよ。M-1も観ますしね


――自分がそこにいない現実が悔しくないですか。


おおうえ
「悔しい……う~ん。羨ましくはありますよね、正直に言って。単純に漫才がやれている状況が羨ましい。キラキラした場所で漫才をやる快感を知っていますからね。『自分にも、あんな頃があったんやなあ。ありがたいなあ』って。ただ、現在は進むべき目標がそこじゃないので、悔しさは、そないないかな。悔しい気持ちがないからこそ、お笑い番組も視聴者として楽しめているんやないかと思います。観ていて、よう笑いますしね」


――解散後、ユウキロックさんと会ったり連絡を取ったりしていますか。


おおうえ
それはないですね。相方に最後に会うたんが、いつやったかな。(間)寛平師匠のお芝居に出させてもらって、それを観に来てくれたんが最後やったと記憶しています」


――たとえば、テレビなどで「一日だけハリガネロックを復活させる」企画があったら、どうされますか。


おおうえ
やりますよ。そういうのは僕、ぜんぜん抵抗はないんです」


――その言葉を聞けて、とても嬉しかったです。ありがとうございます。では最後に、いまから映画をご覧になる方へ、メッセージを願いします。


おおうえ
「普段から『みんな仲良し!』な家族やないんです。不器用で、気持ちをうまく話せない。そのために、想いがぶつかってしまう日もある。でも、やっぱりみんなが家族を愛していて、自分のお店を愛している。その気持が響いて、友人たちが手助けをする。そんなふうに街の人たちが『ぎゅ、ぎゅ』と集まってくる。そういう、もどかしいねんけど温かい関係が描かれていると思うんで、ぜひご覧いただきたいです



映画「手のひらに込めて」公式サイト
http://tenohira.sakura-ent.com/


【キャスト】
中島裕香(次女)…永瀬かこ
中島肇(父)……おおうえくにひろ(元ハリガネロック)
中島結(長女)……朝丘初
中島雪(三女)…大山蒼生
小林えり(叔母)…江口かほる
中嶋優里(母)…林穂乃花
橘りんか……………桜あかり(元OSK歌劇団)
井上香織…………上妻ほの香(特別出演・元SKE48) 他


監督・脚本/中村みのり
撮影監督/西内稔(日本撮影監督協会)
原作・プロデュース/福本裕介
企画・制作/株式会社SAKURA entertainment


上映スケジュール
上映中
イオンシネマ名古屋茶屋


6月28日(金)~
イオンシネマりんくう泉南
イオンシネマ近江八幡
イオンシネマ草津


7月5日(金)~
イオンシネマ高の原



おおうえくにひろTwitter
https://twitter.com/ooooueeee




TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


タイトルバナー/辻ヒロミ


協力/立花亜希子(デシリットルファクトリー)