まさに海のアイドル。日本一の「ウミウシのフィギュア」コレクターに会ってきた!

2019/6/3 16:00 吉村智樹 吉村智樹


▲「ウミウシのフィギュア」コレクターの萬谷弘さんは、ハワイみやげのチョコレートの空き箱にフィギュアを並べてTwitterに投稿。5000以上の「いいね!」を獲得し、一躍話題の人となった


いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





■ひたすら「ウミウシのフィギュア」を集める人がいた!


「ウミウシのフィギュアだけを、こんなにたくさん買い集めているのは、日本ではおそらく僕だけでしょうね」


兵庫県尼崎市にお住いの萬谷弘さん(まんたに ひろし/50)は、そう言います。



▲アクリルの水槽を特注し、海底を模したジオラマにコレクションを並べる萬谷弘さん





目がさめるほど鮮やかな原色が散りばめられていたり、フルーツゼリーのようにぷるぷると透き通っていたり、なかには自ら発光するスター性が豊かなタイプまでいる、ウミウシ。


神様が全力でデザインしたとしか思えない、崇高なるビューティ。あまりの美しさから、ときに「海の宝石」「海底のアイドル」と呼ばれる、観る者を魅了してやまない神秘的な生き物です。


萬谷さんはパン工場に勤務しながら、日々ウミウシのフィギュアを集め続けています。
萬谷さんのコレクションは取材日で計412個
「月に、およそ10個。年間100個ペースで増えている」と云い、そう遠くないうちに500個を突破する予定です。

















眼にも麗しい萬谷さんの「ウミウシのフィギュア」コレクションの噂は、さまざまな言語に翻訳され、日本のみならず世界各国へ広がっています。そうして、海外にいる熱狂的なウミウシファンや、フィギュアの目利きたちを驚かせているのです。


しかしいまなお、「自分と同じようなコレクターは、まだ見つかっていない」とのこと。つまり萬谷さんは言わば「フィギュアコレクター界の新種」であり、「世界一のウミウシフィギュアコレクター」である可能性が高いのです。


間違いなく、ウミウシのフィギュア界の「てっぺん」をとっているのであろう萬谷さん。
いったいなぜ、ウミウシをそこまで愛するようになったのか。
なぜ、愛を注ぐ対象が「フィギュア」だったのか。
それが知りたくて、尼崎へと向かいました。


■ウミウシのフィギュアを集める人は、どうやら他にはいない





――膨大な数のコレクションを拝見し、「きれいだな~」と、うっとりしました。しかも架空の生き物ではなく、これらが実在している事実にも、改めて驚かされます。ウミウシのフィギュアのコレクターって、日本にどれくらいいらっしゃるのですか。


萬谷
「うーん。知る限り、ほかにはいらっしゃらないようです。ウミウシがお好きな方は、ほとんどがダイバーさんなんです。かわいいウミウシグッズを集める女性は多いですが、僕のようにフィギュアを集めている人には、まだ出会えていないです


――ということは萬谷さんは、日本一であり、かつ日本唯一のフィギュアのコレクターかもしれませんね。





■市販品だけではなく、ハンドメイド作家にオーダーする


――素朴な疑問なんですが、ウミウシのフィギュアって、こんなにもたくさん販売されているのですか?


萬谷
「イベントや通販で買えるものもありますが、種類が限られています。ガシャポンも時々発売されるぐらいですね。なので、工芸作家さんに注文して、つくっていただいているんです。ここに並んでいるのは、ほとんどが一点ものなんです


――ええっ! こ、こ、このウミウシのフィギュアたちは、オーダーメイドなのですか!


萬谷
「そうなんです。市販品だと、コンプリートしてしまうと、もうコレクションが終わってしますから。僕は一生コレクションを続けたいので。とはいえ、ウミウシは5000~6000種類以上いるといわれており、まだ学名がついていなかったり、未発見の種類も少なくはなかったりするので、実際は一生かかったとしても集め終わらないと思います」


――「一生、ウミウシのフィギュアを集め続ける」……ですか。うぅ、すごいです。ウミウシのフィギュアとともに生きる覚悟なのですね。でも、ウミウシのフィギュアをつくる作家さんって、そんなにいらっしゃるのですか。


萬谷
「ウミウシを専門につくっている方は、やはり少ないです。ですのでカエルやクラゲ、昆虫などをおつくりになっている作家さんを画像検索で見つけています。そして、『ウミウシも、お願いできますか?』と訊いて、OKだったらオーダーします。現在は、海外の作家さんも含め、およそ15名の方に依頼をしていますね」



▲レジンでできたアジサイイロウミウシ


――素材は、なんですか。


萬谷
「粘土やガラスなどです。あと、珍しものでは紙製もあります。図鑑を観ながら『この子は透明感があるから、ガラスやレジンの作家さんに頼もう』『この子はモフモフしてるから羊毛フエルトで!』といったように、ウミウシの質感と作家さんの得意分野が合うように考えています」



▲ガラス製



▲紙製


――下衆な質問なのですが、おいくらくらいでしょう。


萬谷
「粘土製で1000円~3000円。ガラス製なら4000円から1万円ぐらいですね」


――これまで総額、どれくらいお使いになられましたか。


萬谷
「平均ひとつ2000円、×412個。プラス、オーダーしたアクリルケース代、というところです」


――およそ100万円ですか。一点ものの美術工芸品を集めておられるのですから、それくらいかかってしまいますよね。一点ものをコレクションする愉しみって、どこにありますか。


萬谷
「やはり作家さんから『できましたよ』と連絡を受けたときのうれしさ、封を開けた瞬間の『おー!』という歓び、ですね。作家の皆さん、どなたも予想を超えた、いい作品をつくってくださるので」





■コレクションのきっかけは、あるアイドル集団


――以前からウミウシがお好きだったのですか?


萬谷
「いいえ。僕はもともと、アイドルオタクだったんです


――は?


萬谷
NMB48のファンでして。握手会へ行ったり、全国ツアーやイベントへ遠征したりしていました。CDも、ずいぶんたくさん買いましたね。そして、4年とちょっと前かな、メンバーの山尾梨奈さんがネットでウミウシの写真集を『すごいきれいで癒される』と紹介していたんです。それまでウミウシの知識ってほとんどなく、『ウミウシって、そんなにきれいなんや』と思って画像検索したのが、興味をもったきっかけでした」


――NMB48がきっかけで、ヒョウではなくウミウシに関心をいだくとは。なんという意外な出会い。では、どうして「フィギュア」だったのですか。


萬谷
「ウミウシで画像検索をしていて、6*umi(むつうみ)さんという作家さんがジオラマ展示をしている画像を見つけたんです。調べてみたら、『実物大のウミウシフィギュアをつくっている』とのこと。それで連絡をとってみました。すると『東京の西荻窪にあるニヒル牛(元たまの石川さんがオーナー)というレンタルショーケースに作品を置いている』とのこと。それを聞いて、すぐに購入しました」



▲6*umiさん作のホシゾラウミウシ


――最初のひとつ目から、すでに作家さんのお手製だったのですか。その作品は、山尾さんにプレゼントをしましたか。


萬谷
「はい。あと、ウミウシのフィギュアを服につけて握手会へ通いだし、『あ、ウミウシの人や!』と認識されるようになりました。それが嬉しかったですね。テンションがあがりました」


――ウミウシのフィギュアは、アイドルとのコミュニケーションツールとして絶大な効果があったのですね。その後は、ますますNMB48へのオタク度が増していったのでは?


萬谷
「いやあ、それが……。まったく逆なんです


――え?


萬谷
「ウミウシのフィギュアが本当にきれいで、かわいくて、カッコよくて。フィギュア集めに没頭しはじめ、いつしかコンサートや握手会へも行かなくなってしまいました。熱がウミウシの方へ移ってしまったんです」


――なんと、アイドルをきっかけにウミウシの魅力を知り、推しがウミウシに移行してしまったとは。オーマイガー! せっかくメンバーから顔認識されたのに、もったいない気が……


萬谷
「後悔はないです。現在はウミウシのフィギュアのこと以外、なにも考えていないんです。フィギュアを買うために働き、買うために生きている。そんな日々です。家の人からは『もっと身なりにもお金を使ったら』と諭されますが、服も靴も、CDも雑誌も、最近はほとんど購入してないんですよね。そのお金があったら作家さんにフィギュアをオーダーしたい」


――「ウミウシのフィギュアのこと以外、なにも考えていない」って、すごい境地ですね。そこまでウミウシのフィギュアに惚れ込んだ理由は、なんなのでしょう。


萬谷
「う~ん。なぜでしょうね……。自分でも『なんでこんなことになってしまったんかな』と思う日もあります。理由があるとすれば、幼い頃にウルトラ怪獣に夢中になった時期があったんです。ウルトラ怪獣のデザインって、どれもすごいカッコよくて。テレビを観ていても、ウルトラマンより怪獣を応援していたくらい。ウルトラ怪獣消しゴムも、ずいぶんたくさん集めました。大人になってからは2万円もする写真集を買って、怪獣のデザイン画を見て背中がゾクッとするのを感じました。ウミウシのフォルムや色彩にも同じような魅力があります」


――「作家さんの作品」がお好きなんですね。


萬谷
「そうかもしれません。優れたデザインの造形物に憧れる感覚が、僕にはあるようです。なので、正直に言って、生きているウミウシより、フィギュアの方が好きなんです。Twitterも、ウミウシのフィギュアをつくっていただける作家さんにダイレクトメールを送りたいがために始めたくらいですから。ウミウシのフィギュアと出会ってから、生活はすっかり変わりました。カッコよくて、かわいくて、技術が凄いウミウシのフィギュアが集まって、ケースという小さな世界のなかに収まっている。『こんなに夢があることって、ほかにないよなあ』と思うんです



▲UMS(ウミウシ)412と呼びたくなるチーム感





タンスの上に置かれたアクリルケース海底には、工芸作家たちが技術と情熱を注いでつくったウミウシのフィギュアが並んでいました。まるで生きているかのように輝きながら。


萬谷さんは「コレクションを一生続ける」と言います。尼崎の一画に、胸を熱くする海洋浪漫がありました。



萬谷弘さんTwitter
https://twitter.com/apw2kz3ey9vesui


萬谷弘さんFacebook
https://www.facebook.com/hayate.cute.lovely.y




TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


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