Twitterで話題沸騰! 空き箱を使って夢の世界を表現する大学生「はるきる」さんに会ってきた!
▲明治「ザ・チョコレート」の空き箱で作った一体のロボットが、ひとりの大学生の運命を大きく変えた
いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。
おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」。
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。
■Twitterでバズりまくった「空き箱の飛行船」
165,000「いいね」超え。
これはTwitterで、ある大学生が弾きだした「大バズ」記録です。
ツイートした作品は、小麦全粒粉を使用したブルボンのミルクチョコレートビスケット「アルフォート」のパッケージを利用した飛行船。
▲ブルボンのビスケットチョコレート「アルフォート」のパッケージが……
▲宇宙を旅する船に変身。この作品をTwitterに投稿し、165,000を超える「いいね」を記録した
帆船をかたどったミルクチョコレートのイメージを損なわず、手づくりで見事な立体作品に仕上げています。
本来ならゴミ箱に捨てられる空き箱が、まるでアンティークのような情趣さえ漂わせたオブジェとなって蘇っているのです。
作者は「空箱職人はるきる」さん(21)は、神戸芸術工科大学アート・クラフト学科の4年生。
▲神戸芸術工科大学アート・クラフト学科の4年生「空箱職人はるきる」さん
このひとつのツイートが起爆剤となり、はるきるさんの人生は一気に変転。いまやテレビをはじめさまざまなメディアの取材が殺到する新進気鋭のクリエイターなのです。
空き箱を利用したペーパークラフトのシリーズは、2018年から本格的に制作を開始。明治「CHELSEA(チェルシー)」のサイケなパッケージデザインを活かした最新作「ピアノ」で計26作品を数えます。
▲明治「チェルシー」の空き箱で作られたピアノ。バーコードを鍵盤に見立てるなど芸が細かい
どこかレトロクラシックで、気品とユーモアを感じる作風は、いっそう磨きがかかっていますね。
他のメディアから少々遅れをとりましたが、関西の情報を採りあげる当連載としては、彼をスルーすることは許されない。
ぜひともご本人にお会いしたく、はるきるさんが暮らす春の神戸を訪れました。
■設計図はなく、いきなり切る
――はるきるさんは神戸芸術工科大学アート・クラフト学科の学生さんですが、空き箱によるペーパークラフトは大学で教わったのですか。
はるきる
「いいえ、独学です。お菓子の空き箱の再利用方法を教えてくれる授業なんてないですよ」
――確かにそうですよね。はるきるさんの作品を観て、まず「いったい、どうやって作っているのだろう」と不思議だったんです。もともとプリントされてしまっている紙だから、制約が多いですよね。あらかじめ設計図を描くのですか?
はるきる
「設計図はないんです」
――設計図、ないのですか! 驚きです。
はるきる
「ないというか、『頭の中にある』んです。空き箱を見ながら構造を考え、頭の中の設計図に従い、はさみとカッターナイフで切っていきます。なので下書きもないんですよ」
――下書きもしないんですか! それは本当にスゴ技です。ひとつの作品を仕上げるために、何箱を使いますか。
はるきる
「複数、使います。ロッテのトッポで4箱を使ったかな。中身を食べるかですか? 中身はちゃんと食べます。食べきれない分は友人にも配って」
▲ロッテ「トッポ」のパッケージ4箱を使った、宙空にそびえる城
▲空き箱を台座にしながら倒れないバランス感覚が素晴らしい
▲ロッテ「シャルロッテ」の空き箱4種類×4箱、計16箱を使用
▲細部にまで心配りが行き届いている
■硬い紙はプリント部分だけはがす
――空き箱って、なかには頑丈なものもあるでしょう。切りにくくはないですか。
はるきる
「切りにくい箱はあります。プリングルスのケースは特に、めっちゃ硬いんです。なので印刷された部分だけをきれいにはがし、その部分を使っているんです」
――プリントされた薄紙だけで、あんなにしっかりとした立像を作られたのですか。お話を聞いて、改めてさらに「すごいな」と感動しました。
▲硬い「プリングルス」の筒は、プリント部分だけをはがしとり、「紳士」の立像にした。ふたを台座にするアイデアもシブい
▲「プリングルス紳士」はポーズも変えられる
▲はるきるさんご本人もスマートかつ長身で、どことなくプリングルス紳士を思わせる雰囲気
■フォロワー300人から244,000人に増大!
――既存のお菓子や日用品の空き箱を立体作品にしてみようと思われたのは、どうしてですか。
はるきる
「2017年にTwitterで明治『ザ・チョコレート』の空き箱にイラストを描き足すのが流行ったです。「#明治ザチョコアート」というハッシュタグもできて、観ていてすごく楽しくて参加したくなりました。とはいえ『自分なら、やっぱりイラストではないなあ』と。それで空き箱を使って、羽が生えたロボットを作ってみたんです」
▲2017年に流行したハッシュタグ「#明治ザチョコアート」にペーパークラフトで参戦
――明治『ザ・チョコレート』の空き箱で作ったロボットには、なにかモチーフがあったのですか。
はるきる
「はじめはガンダムを意識していたのです。けれども、できあがってみると、ぜんぜん違うものになってしまっていて(笑)。でもこれが、けっこうリツイートされたんです。フォロワーもそれまで300人ほどだったのが、一気に2000人台にまで膨らんで」(フォロワーは現在244,000人超え!)
▲明治『ザ・チョコレート』の空き箱で作ったロボットは975いいね、333リツイートとなり、これが発火点となった
■「商品パッケージだから注目されているという自覚がなかった」
――それから一気に火が点いた感じですか。
はるきる
「いや、それが……そうでもないんです。てっきり『ロボットだからリツイートされたんだ』と勘違いしてしまって。しばらく『切り絵を立体ロボット化する』というシリーズを公開したんです。この作品は自分でもかなり気に入っていたのですが、Twitterではあんまり反応がよくなくって」
▲ロボットにニーズがあるのだと思い、しばらく投稿し続けた「切り絵ロボット」シリーズ。これもそうとう凄いが、求められていたのは、この方向ではなかった
――切り絵の立体化も充分すごいです。反応がかんばしくないのが不思議ですね。
はるきる
「商品パッケージだから注目されているという自覚がなかったんです。それで、『もしかして、お菓子の空き箱だからよかったのかな』と考えなおし、試しにブルボンのアルフォートの空き箱で、宇宙に浮かぶ船を意識したファンタジックな作品をつくってみました。2018年9月でしたね。すると、これが……」
――16万5千以上の「いいね」を記録したのですね。桁違いの大きな反応ですね。
▲「アルフォート」の空き箱で作った宇宙船は16万5千以上の「いいね」、5万1千以上のリツイートという破格のバズを記録した
はるきる
「『そうか、こっちだったのか!』って気がついて(笑)。それ以来、1~2週にひとつのペースで作っています。はじめの頃はひとつ作るのにおよそ20時間かかっていました。この頃はもっと早く、10時間ほど作れるようになってきましたね」
▲リッツ7個分の空き箱を用い、20時間かかった大作
■元のパッケージのイメージから離れすぎない
――「反応がいい傾向」ってあるんですか。
はるきる
「元のパッケージのイメージから離れすぎないほうがいいようです。アルフォートだと帆船のイメージが強いので、やはりそこは船で。ティッシュの『鼻セレブ』も、動物の写真がプリントされているから、やっぱり動物に。そして、ちゃんとティッシュケースとして使えるように。そんなふうに極端にかけ離れない方が反応がよいです。自分でも、元のデザインやロゴマークを活かしながら作る方が楽しいです。なにを作ってもいいとなると、逆につまらなく感じます」
▲ティッシュ「鼻セレブ」にプリントされたゴマフアザラシの赤ちゃんを立体化。ちゃんとティッシュケースになる
▲コアラがマーチを演奏
▲森永のビスケット「ムーンライト」は、三日月の上にエンジェルが乗っかっている
▲「アポロ」はロケットに
▲キョロちゃんの第四形態?
▲「冬期限定」感を活かした造り
▲微熱少年
――元のイメージを損なわず大切にされているためか、その後、企業から制作を依頼されるまでになりましたね。
はるきる
「そうなんです。まさかマクドナルドから依頼されるなんて、驚きました。『自分、めっちゃかっこいいじゃん!』って鼻高々になりました」
――企業にしてみれば、学生さんが自分たちの商品を広めてくれて、嬉しいでしょうね。
はるきる
「はじめは『怒られるかな』と不安もあったんですが、どの企業さんもとても喜んでくださって。プリングルスはアソートセットを寄贈してくださいました。もちろん、人形にしました」
■幼い頃から紙で仮面ライダーのベルトを作っていた
――初歩的な質問なのですが、「はるきる」さんのハンドルネームの由来を教えてください。
はるきる
「はるきるは、紙を“貼る・切る”という意味です。もともとは本名をひらがな読みした“はるき”だったのですが、Twitterで“空箱職人”として認知していただくようになってから改名しました。ペーパークラフトの手順に従うのならば、本当は“きるはる”なんですけれど(笑)。はるきるのほうが語呂がよかったので」
――はるきるさんがペーパークラフトを始めたのは、いつですか。
はるきる
「小学生の頃でした。両親が名古屋でスーパーマーケットを経営しており、とても忙しくしていたんです。なので店にたくさんあった新聞広告や空き箱を使って、ひとりで遊ぶのが好きな子どもでした。仮面ライダーのベルトなど特撮ヒーローが身に着けているアイテムを紙で作りはじめたのが最初ですね」
――幼い頃に作った紙細工は、どなたかに見せていましたか。
はるきる
「できあがると、買い物に来たお客さんに見せていました。お客さんの多くは近所の人たちで、顔見知りなんです。それで『はるくん、また作ったの』『よくできてるね』なんてほめられると嬉しくて、さらに次々と作るという感じでした。作品を見せて、ほめられると嬉しい感覚は、すでにその頃には芽生えていました」
■「ワクワクさん」に憧れて
――紙で作品をつくるとき、お手本にした方はおられましたか。
はるきる
「*ワクワクさんです。夕方に再放送されていた『つくってあそぼ』(NHK教育テレビ/NHK Eテレ)を観るのが楽しみでした。接着にセロハンテープを使うのも、ワクワクさんの影響なんです。ワクワクさんとは、いまでも『いつか共演したい』という夢があります」
*ワクワクさん……声優・タレントの久保田雅人が子ども向け工作番組『つくってあそぼ』(NHKEテレ)のなかで演じたキャラクター。現在はYouTube『ワクワクさんチャンネル』でYouTuberとして活躍中。
■いかにセロハンテープでしっかり貼れるかを研究
――え! はるきるさんの空き箱作品は、セロハンテープで接着しているのですか。
はるきる
「そうなんです。瞬間接着剤と併用しながら。セロハンテープを使うのは『ワクワクさんが使っていたから』。それくらいワクワクさんの影響を受けていますね」
――セロハンテープで、こんなにしっかりと造形できるのですね。セロハンテープ独特のテカテカした部分も見当たらないし、高度な技ですね。
はるきる
「よく『セロハンテープだと接着力が弱いんじゃないか』と心配されます。けれども、どうすればしっかりくっつくか、どうしたら貼った際のギザギザ感がなくなるかを、長い時間をかけて研究してきたので、その点は自信があります」
――なるほど。作家ではなく「職人」を名乗っていらっしゃる理由が、よくわかりました。
■ペーパークラフトを友達にプレゼント
――小学生時代から始められたペーパークラフトは、その後も続けていかれたのですか。
はるきる
「中学校に入るとサッカーが好きになり、紙でなにかを作る趣味はいったん忘れていました。ただ高校へ入ってから、友だちの誕生日に、友だちが好きな漫画やゲームに登場する鎧や剣を紙で作ってプレゼントしたんです。これがとても評判がよく、『あ、自分が進む道はこれだ!』『やっぱり自分はペーパークラフトを極めたい』と、改めて考えました。それでハンドクラフトが学べる大学を調べてみると、神戸にそれがあったんです」
――誰かに喜んでもらいたい気持ちが根底にあるのですね。大学卒業後の夢や目標はありますか。
はるきる
「上京して、ペーパークラフトのプロになりたいですね。その一環として、Youtubeでペーパークラフトのチャンネルを開設しようと考えています。そうやって、ゆくゆくはTwitterのフォロワーを100万人にしたい。やっぱり自分はTwitterで知ってもらえたという意識があるので」
まるでお菓子の箱をワクワクしながら開けるように、将来への希望が溢れる空箱職人はるきるさん。
空き箱は、からっぽなんかじゃない。
こんなにも夢が詰まっていたんですね。
その珠玉の作品の数々は、「段ボール箱に入れて大学に置いています」とのこと。
それは、もったいない~。
ぜひとも、紙工メーカーのミュージアムなどが常設展示に名乗りをあげてほしいなと思いました。
空箱職人はるきる
https://twitter.com/02esyraez4vhr2l
TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy
タイトルバナー/辻ヒロミ