50歳を目前に日比谷野音での初ワンマンライブに挑む裸の帝王「クリトリック・リス」インタビュー!

2019/4/8 18:00 吉村智樹 吉村智樹


▲令和元年となる今年、50歳を迎える異色のアーティスト「クリトリック・リス」。4月20日(土)、日比谷野音での初ワンマンライブに挑む


いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





■「パンツ一丁」で日比谷野音のステージに立つ男





「ライブのたびに、必ず身体のどこかをケガしてるんです」


アグレッシブなライブでアンダーグラウンド音楽シーンを席巻する「クリトリック・リス」のスギムさんは、そう語ります。


4月20日(土)、あるひとりの男が、日比谷野外音楽堂のステージに立ちます
彼にとって、初の野音ワンマンです。


しかも50歳を目前として
さらに、パンツ一丁で





大阪在住の「クリトリック・リス」スギムさん(49歳)は、全国津々浦々をめぐり、年間およそ200本ものライブを敢行するアーティスト。





そのスタイルは、シンプル極まりなく、それゆえに異色。
ステージで自らボタンを押し、オーケストラ音源を流しながら、ほぼ全裸に近い姿で汗みどろで歌います。





曲も、金にだらしない男に貢いでしまう女性の哀しみを歌った「バンドマンの女」や、アルバイトで得たお金を安酒で浪費する鬱屈した日々を描いた「陽の当たらぬ部屋」など、這い上がれない人たちの生きづらさを慈しむ、情けなくも優しい世界。
アーティスト名にもあるように、心の陰核部分を突いてくるのです。





令和元年にジャスト50歳を迎えるスギムさん。
決して平坦ではなかったその道のりと、大会場である日比谷野外音楽堂でのワンマンライブに挑む意気込みをお訊きしました。


■長距離バスに乗り、ネットカフェで寝泊まりしながら全国で歌う



▲ひとりスカムユニット「クリトリック・リス」のスギムさん(49)。十三の歓楽街がよく似合う


――スギムさんに単刀直入にお訊きします。「クリトリック・リス」とは、なんなのですか?


スギム
“クリトリック・リス”とは、僕のソロプロジェクトの名称なんです。僕がステージに上がってパフォーマンスしている状態をクリトリック・リスと呼んでいて、例えるならば『コーネリアスの小山田圭吾さん』かな。もともとはバンド名だったんです。バンドがうまくいかなくてメンバーが抜けてゆき、2人のユニット名となり、クリトリック・リスは、最後は僕ひとりになってしまいました


――スギムさんはクリトリック・リスの最後のメンバーだったのですね。とても失礼な質問なのですが、「クリトリック・リス」の活動だけで、食べていけるのでしょうか。


スギム
「いけてます。全国でライブをやっていますが、移動は長距離バスがほとんどだし、宿泊はネットカフェです。そうやって節約を心掛けることで、なんとか音楽だけの収入で食べていけています」





■50歳目前。もうサラリーマンには戻れない


――このたび50歳を目前として、4月20日(土)に日比谷野外音楽堂にてワンマンライブを挙行されますね。この大きなイベントにひとりで挑もうと思われた動機はなんですか。


スギム
“目標”がほしくなったんです。これまでずっとライブをやってゆくのに必死で、『目標』と言える、目指すものがなかったんです。メジャーレーベルからアルバムをリリースした時も、担当の方から『次の目標はなんですか?』と訊かれたんです。けれども、ぜんぜん頭に浮かばなくって」


――これまで目標なくやってこられたのですか?


スギム
「将来へ向けての、これという具体的な目標って、なかったですね。だって、もし『売れたい』という目標があったとしても、自分でも『さすがにそれは無理だ』と思うじゃないですか(笑)。パンツ一丁だし、クリトリック・リスっていう名前がもう下ネタだし、歌詞がテレビでは放送できません。とはいえ僕は今年の10月で50歳になります。もうサラリーマンには後戻りできないところまで音楽に足をつっこんでしまいました。だったら、『これまでの集大成となるライブを命がけでやってみたい』と考えたんです。それが日比谷野音でした。はじめて自分で打ち立てた目標です」


――どなたかの勧めではなく、ご自身でお決めになったのですね。


スギム
「そうです。会場も自分で押さえました。日比谷野音で土曜日にライブをやれるってすごい恵まれたことなんです。抽選で五百何十倍という難関を勝ち獲れたので、さらに『これは、やらなきゃ』という気持ちになりました」





■これまでの日比谷野音の歴史でもっとも軽装備な出演者


――パンツ一丁の中年アーティストが日比谷野音をひとりで制するって、日本のロック史に名を残す重大事件ではないでしょうか。


スギム
「最近でこそヒップホップの人たちがDJとMCだけでステージに立つことはありますが、ここまで軽装で出演するのは僕だけかもしれませんね。ステージで自分で機材のプレイボタンを押し、カラオケ状態で歌うという、これまでの野音のライブでもっともミニマムなかたちでの出演者になると思います」


――日比谷野音は大舞台ですが、なにかスペシャルな演出をお考えでしょうか。


スギム
「野音であっても基本的なパフォーマンスは同じです。こんどの野音はもちろん撲にとって特別なステージだし、見せ方のアイデアもあるのです。でもだからといって『野音やからバンド編成』とか、音楽を変えてしまうのは違うと思っていて。ベースとなるスタイルは、いままでと同じです。野音だからといって変えません」





■2000人以上の集客がなければ赤字をひとりで背負うことに


――出演だけではなく、宣伝から制作からすべて自分でやるって、たいへんなのでは。


スギム
「そうなんです。ライブの内容をよいものにするのはもちろん、動員数も自分の責任ですから。2000人以上お客さんが来ないと赤字なんです。そこもクリアしないと、たとえライブがよくても、これからが悲惨なので。そういう点でも、大きな目標です」


――アラフィフの星であるスギムさんの晴れ舞台ですから、ファンの方々も喜んでいらっしゃるのでは。


スギム
「みんな応援してくれています。期待に応えたいです。けれでも僕のファンって、僕がアクシデントに見舞われるのが好きなんですよ。心のどこかで『スベれ』『失敗しろ』と思ってる。そういう点での期待には応えたくないですね(笑)





■洋楽の影響をアウトプットする方法がわからなかった


――日比谷野音でのワンマンライブだけではなく、先ごろはインディーズでサードアルバム『ENDLESS SCUMMER』(エンドレス・スカマー)をリリースされましたね。メジャーからではなく自主制作を選ばれたのはどうしてですか。


スギム
「ファーストアルバムは原盤がメジャー制作で、セカンドアルバムは完全にメジャーからのリリースでした。それまでCDを作った経験がなく、『ミックス』や『マスタリング』がいったいなんの作業を指している言葉なのかすらわからなかった。それで制作担当の方が優れたエンジニアさんたちを紹介してくれたおかげで、いい音源が作れたんです。めっちゃ感謝してるんですが、人の手やノウハウを借りて『作っていただいた』という感覚がずっと拭えずにいたんです。なので3枚目となるこの作品は、できるかぎり自分で、DIYでやってみようと。歳を重ねるごとにリズムやメロディのつけ方も、自分なりにつかめてきたので」


――拝聴して、刺さる言葉の連続で、のたうちまわるように聴きました。オリジナリティに溢れていて、すごい名盤です。なにより、ほかの誰かの影響を受けていない孤高感が素晴らしかったです。


スギム
「音楽はこれまでMTVをきっかけにけっこう洋楽の影響を受けていて、パンクだったりオルタナティブであったりメタルであったり、時代に応じてさまざまなアーティストの曲を聴いてきたんです。ただ、インプットはしてきたけれど、アウトプットの方法がわからなかった(笑)。だから聴いてきた音楽とは程遠いものになっているのだと思います。はじめはMacに入ってるフリーソフトでドラムだけを抽出しながら曲をつくっていました。そんなふうに独自の方法を模索してきた結果が、ほかにはない音楽になっている原因ではないでしょうか」





■パンツは楽器。手をかざすと音が鳴る


――基礎的な質問をさせてください。ステージ衣装の革パンツの股間にしつらえられた丸いものは、なんなのですか?


スギム
「股間の丸いドーム部分はテルミンという楽器なんです。ドームに手を近づけると音が鳴ります。つまみが4つくらいあって、エコーがかけられたり、ノイズっぽい音が鳴ったりするんです」


――名前はなんというのですか。


スギム
エレクリトリックパンツです。このパンツをはきはじめたのはライブをしだして2、3年目の時期。それまでは自分の股間に手を当てて『わんわんわんわん』って反響音を口で言っていました


――パンツ自体が楽器だったのですね。


スギム
「昔はもっと構造が複雑で、いろんなマシンを装備していました。左にはリズムマシーンをつけて、右にはボーカル用のエフェクターを装着して。うしろにはミキサーをつけて、電飾もビカビカ光ってました。全部パンツひとつで完結していたんですよ。ただ、操作をするためにはずっと下を向いていなきゃいけなくって、動けない(笑)。現在はテルミンもマイクもワイヤレスになり、だいぶん簡素化しました」





■終電の時間を過ぎても仕事が終わらない過酷なサラリーマン時代


――これも以前からの疑問なのですが、坊主頭にしているのはなぜですか。


スギム
「これは、ハゲているからです。アタマを丸めたのは会社勤めをしていた営業マン時代。34、35歳くらいから。それまでも、なかなかのハゲ具合だったんです。父親もハゲているし、きっと遺伝なのでしょう。とはいえ、いまさらヅラや育毛は無駄な抵抗だと思えて、いきなりバリカンで髪を刈って、1センチくらいの短い坊主頭にしました」


――サラリーマン時代に坊主頭にするって勇気がありますね。運気が変わりそう。


スギム
「そうかもしれません。坊主頭にしたら、それと同時に管理職になったんです。出世ではありますが、仕事がすごく忙しくなってしまって。これまでの営業の仕事は続けつつ、部下の指導にもあたらなくちゃならない。終電では帰れない日が続き、深夜営業していた心斎橋のバーのソファで寝かせてもらっていました。夜中に仕事が終わったら、バーで飲んで、その店で眠り、朝またこの店から出社する。そんな多忙な暮らしをずっと続けていましたね」





■楽器が弾けない。そのためバンドでのパートは「ダンサー」だった


――クリトリック・リスはもともとバンド名だったそうですが、バンドをはじめたのはなぜですか。


スギム
「きっかけは、酔っぱらった勢いです。36歳の時かな。バーの常連さん4人で飲みながら、『バンドやろうや』という話で盛りあがって。それがすべての始まりでした」


――パートは現在のようにボーカルですか?


スギム
「いえいえ、僕は完全にオマケでした。そもそも、僕はたまたまカウンターに居合わせただけだったんです。残りの3名は楽器経験者たちなんで、なにも弾けない僕はダンサー(笑)。僕自身も、それまで特に趣味もなかったので『ライブハウスのステージに立つって、どんな気分なんだろう』という興味本位で、軽い気持ちで引き受けちゃったところはあります」





■ふと口にした下ネタ「クリトリック・リス」がアーティストネームに


――クリトリック・リスという名前になったのは、どうしてですか。


スギム
「酔っぱらった席で、僕が口にした『クリトリック・リス』がヘンにウケたんです。『エレクトリックとか、サイケデリックとか、ジミ・ヘンドリックスみたいでカッコええやん』って。もちろん、ただの下ネタなんですけれど。酔っぱらってるから、音楽性の話じゃなく、下ネタしか出ないんです」





■初ライブの日、バンドメンバーが会場に来なかった


――伝え聞くところによると、初めてのライブで、ほかのメンバーが全員、会場に来なかったんですって?


スギム
「そうなんです。正確に言うと実は、あとひとりは来たんです。ただ、ひとり増えたところでね(笑)。しかもその人も『事情があるからステージには上がらない』と言いだして


――なにしに来たんですか、その人(笑)。それでライブは、どうなさったのですか。中止ですか。


スギム
「いいえ。中止にするわけにいかず、僕ひとりがステージにあがらなきゃならない状況に陥ったんです。ほんまにねえ……テンパリましたよ、あの時は。いきなり初ステージで、ひとりで出なあかんことになってしまって


――焦りますよね。それで、どのようにしてライブ時間をしのいだのですか。


スギム
「めっちゃ困りましたよ。なんせ、曲を憶えていないですから。ダンサーなので『当日に行って、後ろで踊っておけばええんかなくらいにしか考えていなかったんです。それでまあ、ステージへあがるのは僕ひとりという緊急事態を乗り切るために先ず、ワケが分からなくなるほど、お酒を飲みまくりました。ライブハウスのスタッフから出番ですよと告げられても『服を着たままじゃ、とてもじゃないけれど出られない』と。それでパンツ一丁になってステージへ飛び出していったんです


――酔っぱらってパンツ一丁になってステージへ飛び出して……なにをされたのですか。


スギム
「楽器がなんにもできないですから、対バンの人からリズムマシーンを借り、それにのせて喋りました。ドラムの四つ打ちのような音を鳴らしながら、僕が子どもの頃に経験したトラウマなど、ラップでもポエトリーリーディングでもないような言葉をかぶせたんです。与えられた持ち時間を埋めるには、それしか方法がなかったんです





――危機一髪だったそのステージの出来栄えは、どうだったのでしょう。


スギム
「それはそれはヒドイものだったと思います。リズムに合わそうとすんねんけど、合わしきれていない。でもその時は、自分なりに必死だったし真剣やったんです。そういう僕が切羽詰まっている姿が、音楽をずっとやってきた人たちから見ると新鮮やったんでしょうね。そのライブを観ていたイベンターが、ステージが終わって泥酔して倒れている僕のところへやってきて、『何月何日にイベントやるから、うちにも出てくれへんか?』と声をかけてくれて」


――おお、いきなりスカウトですか。クリトリック・リス・スタイルの原型はファーストステージからできていたのですね。では2回目のライブは、心の準備もかなりできていたのでは。


スギム
「いいえ。2回目は、さらにヒドかったんです。期待されて出演しているぶん、プレッシャーがすごくて。出番前は、自分ひとりで立つことすらできないほど泥酔してしまいました。なんとか這うようにステージに上がって、置いていた機材のボタンを押そうとしたら……足元がよろけて倒れてしまいましてね。機材に頭を打ちつけて流血し、機材ごと前のめりに倒れこんで、ゲロを吐いて終わるという。地獄でしかなかったですね」





■パンツ一丁になれば、非日常の世界へ飛び込める


――ずっと不思議なのですが、なぜずっとパンツ一丁なのですか。


スギム
「初ステージの時、『服を脱げば、頭が切り替わる』と考えたんです。実際、パンツ一丁になると非日常の世界へ飛び込むためのスイッチが入る。吹っ切れますね。脱いじゃったら、もう後戻りできないでしょう。それから14年経った今も、パンツ一丁です」


――なるほど。しかしながらほとんど全裸に近い状態だと、危なくはないですか。ケガしないのでしょうか。


スギム
「裸で裸足ですから、ケガはつきものです。屋外のライブでテントの頂上から登場した日があったんです。そしてテントを滑り、3メートルくらいの高さから飛び降りたんです。自分ではカッコいい演出のつもりでしたが、見事に脚を骨折しまして。着地した瞬間に「折れた!」ってわかったんですが、中止にはできない。それから30分間、骨が折れたまま、苦痛を耐えながら、やらなあかんかった


――うわあ……(絶句)。


スギム
ライブのたびに、必ず身体のどこかをケガしてるんです。危害を加えられる場合もあります。僕はアンダーグラウンドな環境でライブをやることが多く、ややこしいお客さんも多いんです。ステージから降りて客席で歌うんですが、ステージへ戻ると背中を刃物で切られていた日もありました


――すごい世界で闘ってこられたのですね……。





■音楽活動に専念するため42歳で脱サラ


――せっかく出世して管理職にまでなり安定していたの、脱サラして音楽の道を歩まれたのはどうしてですか。しかも若者とは言い難い年齢で。


スギム
「いろんなところから声をかけてもらって、全国のフェスやライブサーキットへも呼ばれるようになり、『あ、これは音楽で食べれるんじゃないか』と。サラリーマンとライブの両立も難しくなっていましたしね。それで42歳で脱サラしました


――42歳でですか! 相当な決意ですね。


スギム
「決意……。う~ん、正直、まさか自分が14年も音楽で食べていく日々になるとは思わなくて。42歳で脱サラをしたときでさえ、心のなかで『こんなスタイルで、プロのアーティストとして長くはやってはいけないだろう。1,2年、好きな音楽活動をやって、また広告業界の仕事に戻るんだろうな』と客観的に見ていたほどです





■おじいさんになっても裸で歌っていたい


――自分でも半信半疑だったアーティスト活動を続けてこられた秘訣は。


スギム
『流れるように』です。自分の力だけでは無理で、ずっと周りの人たちに助けてもらいながら、やってきました。ありがたいことにメジャーからも声がかかって」


――「以前は目標がなかった」とおっしゃっていましたが、日比谷野音でのライブを終えたあとは、どうされるのでしょうか。


スギム
「末永くやっていきたいし、次もいい音源を作りたい。それだけですね。売れるよりも、長く続けることが自分にとっては重要なんです。おじいさんになっても裸で歌っている男がいるなんて、おもしろいじゃないですか」


――変わってゆく部分は、ありますか。


スギム
「これからどうなるかはわかりません。変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。変わっていくとしたら、お酒を飲む量でしょうね。この頃は泥酔したままステージに上がると、本格的に呂律がまわらなくなってきたので(苦笑)





クリトリック・リス 50th 生誕ワンマン



2019年4月20日(土)@日比谷野音
時間:開場 17時00分 / 開演 18時00分
チケット料金:前売り 3,000円 / 当日 3,500円
※雨天決行
※3歳以上要チケット

お問い合わせ
エイティーフィールド 03-5712-5227

クリトリック・リス 50th 日比谷野音ワンマン 特設サイト
https://clitoricris-yaon.site/

■Ticket info

・ぴあ
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=1840334
・e+
https://eplus.jp/sf/detail/2792130001-P0030001P021001?P1=0175
・ローソンチケット
https://l-tike.com/concert/mevent/?mid=389778


完全DIYのアルバム『ENDLESS SCUMMER』発売中!!



価格:2,500円+税
品番:SCUM-001
レーベル:SCUM EXPLOSION
POS:4580529539039




TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


タイトルバナー/辻ヒロミ