「立ち呑み」はお好き? シブい立ち呑み屋さんの写真展「神戸立ち呑み巡礼」開催

2019/1/21 16:30 吉村智樹 吉村智樹

▲さぁ勇気を出して、立ち呑み屋さんののれんをくぐってみよう。居酒屋にはない雰囲気のシブい世界がきっとあなたをとりこにする


こんにちは。
関西在住のライター、吉村智樹です。


この連載では、僕が住む関西の耳寄りな情報をお伝えしてゆきます。
今回はその第52回目となります。





■神戸の激シブ「立ち呑み」屋さんばかりの写真展が開催!


「立ち呑み」をしたこと、ありますか?


1月25日(金)から兵庫県の西宮市で、これまでにない観点の写真展が開催されます。
それが「神戸立ち呑み巡礼」


その名の通り、神戸にある「立ち呑み」酒場を撮影した写真がズラリ50点以上も並ぶ展覧会です。


展示のなかには、残念ながら閉店してしまったお店の写真もあるとのこと。そういう点でも、これは神戸のストリートカルチャーを知るうえで、ひじょうに貴重な記録展と言えるでしょう。


■酒場のなかでも「立ち呑み」は独特


居酒屋、割烹、パブ、バル、Bar、スナックなどなど、酒場にはさまざまなかたちがあります。なかでも「立ち呑み」の雰囲気は独特です。


多くの店が木造で古びており、暖簾をくぐれば、目の前にはいきなり木製のカウンターが! キャッシュオンデリバリーが基本で、日本酒が好まれるのも特徴。コップで「ひや」をあおったり、熱燗をくいっと飲ったりすれば、胸にぽわっ~と温かみが広がります。



▲扉の向こうに、年季が入った木製のカウンターが



▲お酒とつまみを購入して呑むのが基本。希望すればレンジで温めてくれる店もある


値段が安いうえに粋でシヴい風情にひたれるとあって、この頃は女性おひとり様の来店も増えているのだとか。


この「神戸立ち呑み巡礼」展で掲げる写真を撮影したのが、垂水区にお住いのフリーライター、芝田真督(しばた まこと)さん(71)。



▲71歳で現役、しかも人気ライターの芝田真督さん。憧れの存在


*今回紹介する神戸の立ち呑み屋さんの画像はすべて芝田真督さんが撮影したものです。


芝田さんは「神戸下町グルメを書かせたら右に出る者なし」と謳われる庶民派文化研究の第一人者。これまで神戸の大衆食堂や純喫茶を丹念に取材したガイドブックを多数上梓。なかでも『神戸立ち呑み八十八カ所巡礼』(神戸新聞総合出版センター)は「呑み助のバイブル」と呼ばれ愛され、酒好きのあいだで読み継がれています。


さらに昨年は、2006年に初版を自費出版した『神戸立ち呑み巡礼』の改訂版をリリース。伝説のミニコミの復活とあり、新聞各紙で採りあげられるなど大いに話題となりました。



▲芝田さんが立ち呑みの店を取材した『神戸立ち呑み八十八カ所巡礼』と『神戸立ち呑み巡礼』。ともに「呑み助のバイブル」と呼ばれる


今回の写真展「神戸立ち呑み巡礼」は、これまで立ち呑み酒場をコツコツ発掘し、実際に呑みながらひたすら取材と撮影を続けてきた芝田さんの、言わば集大成。ディープな立ち呑み酒場の店内の様子をカラーで観られることも意義深い。


なぜ、そこまで立ち呑みに惹かれるのか?
「神戸の立ち呑み」の魅力とは?


写真展の準備に忙しい芝田さんにお話をうかがいました。


■1日7軒ハシゴ! 150軒以上をめぐった立ち呑み大好きライター


――芝田さんはこれまで何軒、神戸の立ち呑み酒場を訪れられたのですか?


芝田
150軒ほどです」


――ひゃ、150軒も! もしかして毎日呑んでいらっしゃる?


芝田
「さすがにそれはないです。ただ立ち呑みしようと決めた日は1日に7軒ハシゴする場合もあります


――1日7軒ですか!? お金がよく続きますね。


芝田
「いえいえ、立ち呑みって安いですよ。日本酒一杯とクラッカーで合計300円なんて店もありますから」


――300円とは、喫茶店より安いですね。



▲立ち呑みの魅力は、なんと言っても値段の安さ



▲「7軒ハシゴしても5000円いかないですよ」と語る芝田さん。インタビュー中はお座りいただきました


■立ち呑みのなかでも「角打ち」はさらにシブい!


――150軒にも及ぶ立ち呑み酒場を見つけだし、しかも実際にその場でお酒を飲んでいる芝田さんの眼力と左党ぶりがまず強力だし、神戸にそんなにたくさんの立ち呑み酒場がある事実にも驚かされます。


芝田
「立ち呑みの店はもっとありますよ。*『角打ち』できる店だけでも150軒以上の存在を確認しましたし(と言ってリストを見せてくれる)」





*角打ち……飲食店ではなく、店の一画に簡素な飲酒コーナーを設けた酒屋さんで呑む行為のこと。つまみはおもに乾きものや缶詰などで、それを購入するシステム。北九州で「角打ち」と呼ばれ、いつしか全国的に伝播した言葉。2018年度に発刊された「広辞苑」(岩波書店)第七版にも明記された。


――これは……強烈なリストですね。角打ちできる酒屋さんをこれほど探し出せるなんて、果てしない労力と情熱を感じます。


芝田
「正直に言って、たいへんでした。神戸でこんなことを他に誰も調べていませんから。参考にできる過去の記録がないんです。すべてイチからでした」


――それにしても、角打ちだけで150軒以上もあるとは……。神戸ってすごいな。


芝田
もっとあるんじゃないかと思うんです。個人でやっている酒屋さんの店の奥に角打ちのコーナーがあるかどうか、神戸市内のすべての店を確認できてはいませんから」



▲一見ごく普通の街の酒屋さん。このなかに立ち呑みがあるかどうかは入ってみないとわからない。なかば「賭け」だ



▲入ってみると……ありました! こういう酒屋さんのカウンターで呑む行為を「角打ち」と呼ぶ


■神戸に立ち呑みが多い「3つのワケ」とは?


――根本的な疑問なのですが、なぜ神戸には立ち呑み酒場が多いのでしょう。


芝田
「理由はいくつかあります。ひとつは三菱重工や神戸製鋼など大企業が多く、三交代制で工場をまわしていること。なので夜勤明けの人たちが朝や昼から呑むわけです。酒屋さんでしたら午前中から開いていますし、そこでちょっと角打ちして帰る習慣ができていった。もうひとつは港町であること。漁師さんや湾港労働者が仕事終わりで一杯やっていくお店が増えたんです。それから、やっぱり歓楽街の存在が大きいですね。新開地や福原は華やかな色街でしてね。おつとめの女性やスタッフたちは仕事が終わると、さくっと立ち呑みをして一日を締めていたのでしょう」



▲海外と港でつながっているお店が多いだけあり、外国人の姿も多く見受けられる


――神戸に立ち呑み酒場が多いのは、そういう複合的な理由だったのですね。では神戸ならではの特徴はありますか。


芝田
壁に世界地図を貼っているお店が多いですね。お客さんは海で働く人がたくさんいますから、世界地図を観ながら会話をするのじゃないでしょうか。あと、つまみがハイカラです。コンビーフ、ホワイトアスパラガスの缶詰、クジラのベーコンなど、まだ巷で一般的ではなかった頃から扱っていたそうです。蒸し豚や焼き豚を置く店が少なからずあるのも特徴。神戸には中華街の南京町がありますし、つまみに中華の技法も採り入れていたんじゃないでしょうか。紹興酒を置く店もあります」



▲船や港で働く人が多い神戸。そのため壁に世界地図を貼る店が多い。地図を観ながら海外での思い出話に興じるのだろう



▲乾きものと缶詰しかない店もあれば、鈴なりになるほどメニューが豊富な店もある



▲芝田さんがお好きなつまみは「きずし」。東京でいう「〆サバ」のこと


――神戸の立ち呑み酒場には、そんな多国籍な海洋浪漫があるのですか。お酒には特徴はありますか?


芝田
「ありますね。酒どころ灘の、いい酒が揃います。樽酒が飲める店もありますよ。僕は銘柄にはこだわらないタイプですが、灘の酒ならだいたいなにを呑んでもうまい。地元の蔵でとれた“酒かす”を使う『かす汁』もおいしいです」



▲地元だけあって灘の銘酒を置く店が多く、それゆえ良質な酒かすを使った「かす汁」もうまい



▲「僕は銘柄にはこだわらないんですが、灘の酒はやはりうまいですね」。芝田さんは夏は冷酒、冬は熱燗で清酒を愉しむという


――コップ酒&かす汁のコラボ、最高ですね! 冬は温まるでしょうね~。


  ■「消えゆく立ち呑みがあった記録を残したい」


――そもそも芝田さんが立ち呑みにハマったきっかけはなんだったのですか。


芝田
「きっかけは、実は大阪なんです。かつては大阪で会社員をやっていまして、仕事帰りに新梅田食堂街にある串カツの『松葉』『百百(もも)』など立ち呑みの店へ寄り、一杯ひっかけて帰るのが楽しみでした。自分でも『あ、酒が飲める体質なんだな』と気がついたのもその頃でした」


――大阪で立ち呑みに開眼された芝田さんが、神戸の立ち呑みをめぐるようになったのは、どうしてですか。


芝田
『記録に残したい』という想いからでした。鈴蘭台でパソコン教室の講師をやっていた頃、最寄りの神戸電鉄湊川駅で降りると『公園前世界長』という立ち呑み屋さんがあるんです。白い暖簾に大きな文字で『世界長』と染められている。こういう清酒メーカー一社の酒を店名にする呑み屋を“宣伝酒場”と呼び、深い歴史がある場合が多いんです。名物はバットに盛られたナポリタン。それがハイカラで、とても気に入りました。神戸らしい雰囲気の立ち呑み屋さん、こういう風情ある店をカメラにおさめたり文字にしたりして『記録にとどめておかねばならない』という使命感が芽生えました


――記録に残しておかないと、なくなる、ということですか。


芝田
「そうなんです。店主の高齢化、後継ぎがいない問題、立ち退き、不景気、いろんな理由があって立ち呑みは消えていっています。この頃はワインに特化したおしゃれな立ち呑み屋さんも増えたのですが、角打ちのような、いにしえのスタイルはどんどん減っていくでしょうね



▲「立ち呑みの店は記録しておかないと、どんどんなくなっていくんです。角打ちできる店も調査中に20軒が閉めてしまいました」


――古い立ち呑みだと、たとえばどんなお店がありましたか。


芝田
「神戸最古の角打ちだったのが中央卸売市場にあった『岩井商店』です。明治11年に創業し、神戸港開港からわずか10年で開店しました。『金盃』の木製看板が立派で、店構えがどっしりと重厚。素晴らしかった。ご主人が90代でね。もしもいまも続いていたら創業140年ですよ。建物がビルに改装することになって廃業しました。営業最後の日の前日にも行きましたが、『この風情が消えてしまうのか』と残念でしたね



▲「金盃」の看板が威風堂々とした「岩井商店」。残念ながら建物の取り壊しによって閉店した


――立ち呑みとひとことで言っても、それぞれにドラマがあるんですね。


■酒よりも、人が好き。立ち呑みは人に会いに行ける場所


――芝田さんがお好きな立ち呑みって、どういうお店ですか?


芝田
「店主さんとお話ができたり、店主さんと近さを感じられたりするお店が好きですね。2度目に訪れたときに顔を憶えてくれていると嬉しいじゃないですか。そういうお店は気持ちもゆったりします。僕は酒が好きというより、人が好きなんです。店主さんと会いたくて立ち呑みをめぐっていると言ってもいいかな」



▲立ち呑みは店主と客の距離が近いことが魅力だ


――店主さんが目の前にいるのも立ち呑み酒場ならではのシチュエーションですよね。芝田さんが考える「立ち呑みの魅力」とはなんでしょう。


芝田
「安い。気楽。酒や料理が出てくるのが早い。地域の歴史や街の情報が入ってくる。そして僕が思うもっとも魅力的な点は、店によって雰囲気が違うところ。店の雰囲気というのは店主さんやお客さんが長い時間をかけて醸しだしたものです。その店ごとの雰囲気を感じとることが楽しいんですよ」



▲店主と客の関係性がにじみ出る貼り紙


――最後に、写真展への意気込みをお聞かせください。


芝田
「神戸というと、いつもおしゃれな面しか採りあげられない。でも僕は立ち呑みは『もうひとつの神戸の文化』だと思うし、残してゆきたいと考えています。立ち呑みや角打ちができる酒屋にひとりでふらりと入っていやがられることは、まずありません。この写真展をきっかけに、ぜひ神戸の立ち呑みを経験してもらえたら嬉しいです」


なかなか勇気が出せずには入れなかったお店や、いまはもう閉店してしまったお店など、価値ある写真が並ぶ「神戸立ち呑み巡礼」 展。


作家在廊日はギャラリー「わびすけ」のホームページでお知らせします。
写真を見ながら、芝田さんと一杯やりましょう。
もちろん、そのときは立ったままでね。




芝田真督 写真展
「神戸立ち呑み巡礼」 わびすけで「ちょこっと一杯!」

会期●1月25日(金)~2月3日(日)
時間●午後1時~午後5時 金曜と土曜は午後7時まで
会場●ギャラリーわびすけ
住所●兵庫県西宮市甲子園口1丁目4-3
アクセス●JR「甲子園口」駅南出口前から東へ170m
電話●0798-63-6646
URL●http://bcbweb.bai.ne.jp/waviske/ (作家在廊あり)



取材・執筆 吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy