世界でひとつ! 子どもの落書きをぬいぐるみにしてくれる工房「エソラワークス」

2018/12/3 13:00 吉村智樹 吉村智樹


▲子どもがチラシの裏に描いた落書きが、ぬいぐるみに生まれ変わった。子どもの絵は「∞」(無限大)なパワーを秘めている


いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





■子どもが描いた「落書き」を「ぬいぐるみ」にしてくれる工房があった!


「子どもたちが描いた落書きに、命が吹き込まれている」


工房に並ぶ、いろとりどりなぬいぐるみを見て、そう感じました。



▲独創性に富みまくったキャラクターたち。すべて、子どもが描いた落書きから誕生した


兵庫県の芦屋に「子どもが描いた落書きを“ぬいぐるみ”にしてくれる工房がある」と聞きました。


工房の名前は「エソラワークス」


「エソラは“絵と空想”のエソラです。絵空事という言葉は『ありもしないこと』という意味で、あまりいいイメージはありません。でも、ありもしないことが実際に起きるおもしろさを伝えたくて、あえてこの名前にしました」


エソラワークスの代表をつとめる白石哲一さん(44歳)は、そう語ります。



▲子どもが描いた想像力豊かな落書きや絵を、手づくりであたたかみがある「ぬいぐるみ」にしあげる工房「エソラワークス」の白石哲一さん


■子どもの落書きを大人たちが立体化


2013年4月に起業した「エソラワークス」は、白石さんご夫婦と縫い子さん、計5人で営まれる小さなアトリエ。


制作はまず、送られてきた子どもの落書きを白石さんが「パターン」という設計図に起こします。それをもとに、皆でつくりあげてゆくスタイル。



▲子どものたちの心のなかに棲む妖精(?)たち。このような落書きが白石さんのもとへ届く



▲謎の帽子、謎のネクタイも再現



▲子どもたちの落書きをもとに製図



▲白石さんがひいた「パターン」に沿って女性スタッフが生地を切って縫製し、綿を詰める


すべて、手づくり。それゆえ、一か月間に生みだせるぬいぐるみの数は現状100個。混みあうと少々お待たせすることもあるのだとか。



▲こんなキャラクターたちがいる星は、きっと楽しいだろう


■うまい絵より「好きなように描いた絵」のほうが味が出る


そんな過程を経て、できあがったぬいぐるみは……「なんだこの、妙ちきりんなかわいさは!」


決してプロには真似できない、左右非対称ないびつでヘンな味わい。
誰にも媚びない、うまく描こうという欲さえ感じない、されど描く歓びはほとばしっているアタシ流なデザイン。大胆で伸び伸びとした、世界でただ一つだけのユーモラスなオリジナルキャラクターたちが、まるで会話をしているかのように楽しげに並んでいます。体温すら感じさせるあたたかみがあるのです。








白石
「お請けするお子さんの年齢は、厳密には決めていませんが、10歳くらいまでですね。それ以上になると、お子さんの絵がうまくなりすぎている場合が多く、この質感は出せなくなります。そして、なにかの賞を受賞をしたような“よく描けた絵”ではなく、たとえチラシの裏側であっても、お子さんが好きに描いた絵のほうが、ぬいぐるみにしたときにいいものができると感じています


確かに、お子さんの落書きは、うまくなるとともに残念ながら消えてしまう個性があるように僕は思います。



▲チラシやコピー用紙の裏に描かれた落書きが届く(現物ではなく画像でOK)



▲「しかくちゃん」がぬいぐるみとなって、再び子どもたちに会いにやってくる


こうして好き放題に個性を発揮した落書きのぬいぐるみ化を、白石さんは「クリッチャ」と名づけています。
「クリエイティブ+クリーチャー(想像上の生き物)+おもちゃで『クリッチャ』」なのです。


そして! この「クリッチャ」が遂に、このたび「グッドデザインアワード2018」のベスト100に選ばれました。街の小さな工房から生まれたヘンかわいい生き物たちが、大企業のデザインと肩を並べる評価を得たのです。



▲「クリッチャ」は「グッドデザインアワード2018」のベスト100に認定された


■子どもが描いていない背中を考えるのが仕事


裁縫ルームへ足を踏み入れて驚くのが、生地の種類の多さ。す、すごい量ですね! デニムもあれば和服の織布まであり、色も素材も多種多彩。



▲壁いっぱいに積まれた生地や端切れの数々



▲毛糸の色や太さもさまざま


白石
「端切れを集めているんです。『できるだけ、いろんな生地を使ってあげたいな』と思っていて、生地屋さんやフリーマーケットなどに通って端切れを地道に集めています。『あ、この生地、使えるね』ってバチっとハマッたら気持ちがいいですね。反面、すべてが一点ものなので、同じ生地を大量に安く仕入れることができません。そのため、原価はどうしても高くなってしまいます。そこが頭が痛いところです」



▲この落書きが、こうなって……



▲背中にはハートマークが。原画にはないアイデア。さまざまな手触りの生地が縫い重ねられ、パッチワークのおもしろさが加わる


正面からしか描かれていない落書きの「背中」「側面」を考えるのも白石さんの大事な仕事。できるだけ種類が異なる生地をパッチワークし、ぬいぐるみを活き活きとさせてゆきます。ふれる部分によって布の手触りが変化し、指でなぞると、もう楽しい。手にしているだけで、いっそうの愛着が湧いてくるのです。


白石
「見えない部分にも、おもしろさを出したいと考えています。足の裏を見て『にやっ』としてもらえたら嬉しいです」


■子どもはいきなり喜ばない。「きょとん」とする


新たなアイデアを加え、子どもたちが紙に描いた謎のクリーチャーをふわふわ化する白石さん。自分が描いた絵が、まさかのぬいぐるみに変身し、子どもたちは大喜び! ……するかと思いきや、意外にも「すぐにはそうならない」のだそう。


白石
「封を開けて、ぬいぐるみを見た瞬間に『うわーっ』って喜んで……くれたらいいのですが、多くのお子さんは『ん?』『なにこれ?』って、はじめはきょとんとしています。自分が描いた絵がぬいぐるみになっている状況が呑み込めないようなんです。そして次第に意味を理解しはじめ、『ああ、そういうことか』と納得する。それからは、とてもかわいがってくれます」


親御さんがお子さんには内緒にしたたまぬいぐるみをプレゼントする場合が多く、もらったお子さんは、突然のファンタジアにあっけにとられることもあるようです。でもでも、あとから喜びが「ジワジワくる」感じが、これまたいいんですよね。



▲右手に持つ謎のスパンキング武器(?)も再現



▲右手のドリル(?)、左手のブラシ(?)も再現


■おばあちゃんが刺繍をした「孫の落書き」に感動


日々、童心を大切にしながらぬいぐるみづくりにいそしむ白石さんは愛媛県出身。ご自身の幼少期も、やはり絵を描くのが大好きだったのだとか。


白石
「幼い頃から絵を描いたり工作をしたりするのが好きでした。『自分が描いた絵が立体になって動きだしたらいいな』と考えたこともありました。ただ、将来まさか自分で工房を持つようになるとまでは考えていなかったです」


その後、大学進学のために関西へ。いったんは地元へUターンして建設業に従事したものの、メディカルの特許を持った関西の身内から「事業の起ち上げを手伝ってほしい」と要請があり、奥様の出身地である芦屋へ移り住みました。


堅い仕事に就いていた白石さんが「ぬいぐるみをつくろう」とひらめいたのは、ある日、突然のこと。


白石
「友人の家へ遊びに行ったら、子どもの落書きを刺繍したタペストリーが部屋に飾ってあったんです。子どもが自分の顔を描いて、おばあちゃんがその絵を『これいいね』と言って縫ってくれたんだそうです。それを見て、とてもあたたかい気持ちになりました」


当時、白石さんの娘さんは2歳。友人宅で見たタペストリーのように、落書きもたくさんしていたといいます。「自分も、あのタペストリーのようなものをつくってあげたい」。せっかくなら「触れたり、遊べたりしたらいいのにな」と考え、「だったら、ぬいぐるみはどうだろう」とアイデアが浮かんだのだそう。


白石
「娘が描いた落書きをぬいぐるみにしてあげたい。何日経ってもその想いが消えないんですよ。それで、裁縫なんてしたことがなかったけれど、妻に『ミシンの使い方、教えて』と頼んで、手さぐりでやりました。もともと工作が好きだったので、その作業はとても楽しかったですね」


■裁縫の経験がないにもかかわらずミシンがけに初挑戦


「娘さんの落書きをぬいぐるみに」と想う気持ちで胸ははやるものの、いきなりのミシンがけは無理。そこで白石さんは、まず試作をしてみることに。選んだモチーフは、かなり意外なものでした。


白石
「練習のために、使わなくなった枕カバーでNTTドコモのキャラクター『ドコモダケ』を試作しました。ほかの人からは『ぜんぜんドコモダケに見えない』『よくこれで続けようと思いましたね。普通なら心が折れますよ』と言われるのですが、僕は手ごたえを感じたんです」


テスト品づくりにドコモダケを選んでいただけるとは、弊社としましても感謝の気持ちでいっぱいです。しかしながら周囲の方がおっしゃるように、本当に、ぜんぜんそう見えない。白石さんの想像力はこの時すでに、子どもにしかたどり着けないネバーランドへと飛翔されていたのだと思います。



▲デビュー作は「ドコモダケ」。かなり日焼けをしたらしい


■「子どもの落書きに特化した工房がない。だったら自分がやろう」


以来、圧倒的な速度でぬいぐるみを縫う技術を習得していった白石さん。ドコモダケのできにたじろいだ友人たちも「これはおもしろい。縫ってほしい人は多いんじゃないか」と称賛し、ビジネス化を勧める声までもが挙がりはじめたのです。


しかし、白石さんは、いったん躊躇しました。


白石
「子どもが描いた落書きをぬいぐるみにする専門の工房は『すでにあるんだろうな』と思ったんです。そうして調べてみたら、これがなかった。海外にはあるらしいのですが、日本にはなかった。子どもの落書きに特化し、一点ものの作品をつくる工房がないことに驚き、『じゃあ、欲しい人、いるんじゃないかな』と、起業することにしました。前例がないことに対して不安はなかったか、ですか? いいえ、『こんなにおもしろいことを誰もやっていないんだ』という喜びの方が大きかったです。そうして『インターネットがあれば日本中の人につくってあげられるのかな』と考え、サイトを起ち上げました」


「子どもが描いた絵を一点もののぬいぐるみにする」という極めてまれな工房、エソラワークス。意気揚々と旗あげをし、注文は早くも殺到! するかと思いきや、厳しい現実が待ち構えていたのです。


白石
「制作依頼は、はじめは半年でたった2件でした(苦笑)。サイトを開設したら勝手に情報が広まるんだろうと簡単に考えていたんです。でも、アクセス数は毎日ゼロ。これではいかんと、友人にSNSでのシェアをお願いするなど、それからさらに半年間はこつこつと広報活動をしていました」


一歩一歩、粘り強くPRを続けるうち、じょじょに口コミでウワサが広がり、注文が増えだしました。ここで白石さんは一念発起。勤めていた事業から身を引き、エソラワークスを専業とする決意をしたのです。


白石
「皆さんから、『ぬいぐるみの工房を開くことに、奥さんはよく賛成してくれましたね』と言われるんですが、妻から反対されることはなかったです。『あなたは昔からそういうことをやりたがっていたから』って。それまで口には出してはいなかったですが、ものづくりがしたいという気持ちが伝わっていたんですね」





■絵を描きたがらなかった子供が描くようになった


「ものづくりが好き」。白石さんの情熱が、幼い子どもをかかえる親御さんに届き、アトリエには今日も、地球の平和は守れそうにないけれど愛おしいへにゃへにゃクリーチャーたちの絵が届きます。なかには、こんなハッピーな反応も。


白石
「あるお母さんが『うちの子は絵を描くのが好きじゃない。そんな子が描いた貴重な絵なので、ぬいぐるみにしてほしい』という依頼を受けたんです。それで縫ってさしあげたら、お子さんがとても喜んでくれて、それ以降たくさん絵を描くようになったのだそうです。そういうお話を聞くと、僕も嬉しいです」


そんなふうに親子の情景を慈しむ白石さん。「クリッチャ」だけではなく、キッズ向け携帯電話カバー&ストラップ「Pulllu(ぷるる)」というオリジナルグッズも誕生。エソラワークスが生みだす布製品が、より親と子どものあいだを縫いあわせてくれています。



▲底が開いているから、ふたを開けずともサッと電話がとれて、かけられる。首からさげられるので、なくす心配もない。これまでになかった携帯電話カバー「ぷるる」


白石
「今後は、たとえば山のなかのログハウスとか、お子さんが遊べるスペースと工房が一体化した場所をつくりたいですね」


「子どもたちが描いた落書きに、命が吹き込まれている」。


工房に並ぶ、いろとりどりなぬいぐるみを見て、そう感じました。
そしてエソラワークスから生まれたこのへんてこなぬいぐるみたちは、家族の一員となって、ともに生きていくのでしょう。



エソラワークス
https://esoraworks.com/




TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


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