今「ストリートけん玉」が激アツ! 子どもから大人まで楽しめる「けん玉カフェ」

2018/11/26 11:00 吉村智樹 吉村智樹


▲ストリートファッションの若者たちが集まるカフェ。みんなが手にしているのは「けん玉」だ


いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





■「けん玉」がいま世界中でブームになっている!


「けん玉」で遊ぶ人たちのことを、いま「ダマー」と呼ぶのをご存知ですか?


ひもでつないだ球を宙に浮かせて剣に挿す遊びは、いにしえの時代から世界中にありました。しかし、柄の尻や十字剣の両端に小皿・中皿・大皿を配し、複雑な技を可能にした「けん玉」は、日本生まれの日本育ち。羽子板、お手玉、独楽まわし、めんこ、やっこだこなどと並ぶ、古きよき日本の原風景です。


しかし! この日本伝統の遊び「けん玉」がいま「KENDAMA」という名で呼ばれ、最先端のアミューズメントとして再評価されています。さらには日本を飛び出し、世界中のダマーがストリートでプレイしているのです


■広々としたスペースで遊べる「けん玉カフェ」


そんな「ストリート系」のけん玉を存分に楽しめるカフェが、兵庫県の伊丹市にあります。


今年4月にオープンしたこの“けん玉カフェ”の名前は「Nothing but KENDAMA(ナッシング バット ケンダマ)」。日本語訳すると「けん玉しかない!」。けん玉カフェとしてやっていくんだという熱い決意を感じる名前ですね。



▲煉瓦造りのしっかりした建物に「けん玉&カフェ」ののぼりがはためく



▲オーダーをすればけん玉を無料で貸してもらえる。手ぶらで行っても大丈夫


もともと本屋さんだったという建物は20坪。日本にはけん玉カフェが数軒あるそうですが、これほどフロアが広い店は、ここだけなのだそう。



▲ほかのプレイヤーとぶつからない、広々としたフロア


ラックには国内製や輸入品など有名メーカーのけん玉50種以上がズラリ! フードやドリンクの注文さえすれば、練習をしたり、レッスンを受けたり(有料)、のびのびとプレイできます。手ぶらで訪れても、けん玉を無料で貸してもらえます。もちろん、飲食のみの利用もOK。ドリンクや、サンドウィッチやホットドッグなどの、おいしい軽食も豊富です。



▲国産や輸入物など、およそ50種類のけん玉がズラリ。「輸入物のけん玉」がこんなにあることに驚いた



▲レンタルけん玉。どれもデザインがカッコいい


■娘さんは13歳にしてけん玉のプロに


調理は夫の加藤誠さん(48歳)。接客や広報は鍼灸師でもある妻の有加さん(44歳)が担当。そして、娘の瑠梨(るり)さん(13歳)は、なんと中学2年生という若さにして、ストリートけん玉の国内ブランド「ENGI KENDAMA」に所属するプロダマー。国内段位ではなんと5段という超凄腕です。



▲夫の加藤誠さんは調理担当。妻の有加さんは接客や広報担当



▲向かってもっとも右が娘の瑠梨さん



▲瑠梨さんはストリートけん玉の国内ブランド「ENGI KENDAMA」に所属するプロダマー



▲さまざまな名だたるタイトルを受賞。トロフィーもやっぱりけん玉



▲プレイだけではなく、けん玉どうしを積み重ねる技もすごい


娘の瑠梨さんが、けん玉5段のスーパーアスリートになった理由、それはお住いの兵庫県伊丹市に、おおいに関係がありました。


加藤有加
「伊丹市では、小学校の学童保育のなかで、けん玉が必須のカリキュラムに組み込まれているんです。それで娘の瑠梨は3年生からけん玉を始めました。多くの子どもは小学校を卒業すると同時にけん玉をやめてしまうのですが、娘はけん玉が楽しかったようで、いまも続けているんです」


小学校は卒業しても、けん玉は卒業しなかった瑠梨さん。精進の末に名だたるタイトルをいくつもゲットし、遂にはブランド所属のプロダマーにまでなりました。けん玉カフェを開いたのは、娘の瑠梨さんを始め、けん玉を愛する子どもたちが安心して遊べる空間を確保したかったからなのだそう。


加藤誠
「けん玉カフェをやろうと提案したのは僕です。毎年、夏に広島の廿日市市(けん玉発祥の地)でワールドカップが開かれていて、娘の付き添いで訪れました。そしてワールドカップの様子を観て驚いたんです。『けん玉って、こんなに盛りあがれるんや!』って。街中のぜんぜん知らない人どうしが、けん玉を通じて、すごく楽しそうにしていて、カルチャーショックを受けました。正直それまでは、日本古来から伝わる地味な遊びというイメージがあって、あまり興味がなかったんです。でも、あの盛りあがる光景を見て180度、考え方が変わりました」


加藤有加
「技を組みあわせてプレイするストリートけん玉は、練習するために、ある程度の広さが必要なんです。だからって屋外で練習させるのは危険ですし、迷惑だと思われてもかわいそうですしね。『大人が観ていてあげられることができて、安全にけん玉ができる場所があればいいな』と思って、この店を始めたんです」


■夫は元関取。ちゃんこで鍛えた料理の腕前


「ダマーたちが安全な状況で練習ができるお店を」。そうして始めたのが、このけん玉カフェ。ここでひとつ疑問が。カフェをやるとなると調理が必要です。夫の誠さんがフードを担当するようになった理由は? これには驚きの理由がありました。


加藤有加
「実は主人は琴加藤という四股名の、元・関取なんです。中学校を卒業してから20歳を過ぎるまで佐渡ヶ嶽部屋にいまして、ちゃんこ番をしていたので包丁を扱うのは馴れているんです。料理は私より上手なんですよ」


関取として三段目までいったものの、ひじの故障で角界を断念。以来、建築の仕事をしていましたが、娘さんのプロ入りを契機に「けん玉カフェ」を開いたのだそう。この発想の転換は、ズバリ「金星」と言えるでしょう。


実際、ミックスサンド(500円 税込み)をいただきましたが、いかにも「お父さんが日曜日に腕を振るってくれた」かのような、いい感じにアットホームなお味。ボリュームがあっておいしかったです。



▲ボリュームのあるミックスサンド。けん玉プレイでお腹がへっても大丈夫


■けん玉はいま、エクストリームスポーツに


夫の誠さんがおっしゃるように、並んでいるけん玉を見ていると、確かに「日本の伝統工芸」「懐かしの和の遊び」という旧来のイメージは、がらりとくつがえります。ポップな色合いは、スノーボードやマウンテンバイクなどに肩を並べるエクストリームスポーツのツールそのもの。いまやワールドワイドに拡がっている「KENDAMA」は、高さ16センチ、玉の直径が6.5ミリと、世界標準も定められているのです。



▲アメリカのミネソタ州に本拠地を置くけん玉ブランド「Sweets」



▲チェコスロバキアのけん玉ブランド「Aura」



▲ アメリカ・ポートランドのけん玉ブランド「Deal With It」



▲デンマークのけん玉ブランド「KROM」の「POP」



▲なんと作家さんのお手製。こうなるともうけん玉もアートだ


では、そもそもなぜ「けん玉」は「KENDAMA」として逆輸入がはかられ、「ストリート系」として国際的な発展を遂げたのでしょう。


加藤有加
「プロスポーツの世界には、バランスをとる訓練のために、けん玉を練習する選手が少なくないんです。世界中へ広まったのにはいろんな説があるのですが、一説には、ある外国人プロスキーヤーが冬季オリンピック(おそらく2006年のトリノ)で、日本人選手がけん玉で練習しているのを見て、自分も始めたそうなんです。それを観た北米の人たちが『なにこれ、クールじゃん!』と言ってストリートで技を披露するようになり、その様子を撮影した動画が配信され、2007年ごろから一大ブームとなったようなんです」


日本では柔道の古賀稔彦さんや、サッカーの澤穂希さんも技術向上のために、けん玉をやっていたと言われています。けん玉は海外の人々には、やはり“新しいスポーツ”として知られていったのですね。


■けん玉の魅力は「何歳からでもチャレンジできること」


そうしてスポーティにテクニックを習得してゆく娘の瑠梨さんに引っ張られるように自分たちもけん玉を始めた加藤さんご夫妻。ところが……四十路に達していたおふたり、はじめから十代の女子と同じようには身体は言うことをきいてくれなかったようです。


加藤有加
「いや~、年齢とともに動体視力が落ちてしまって(苦笑)。娘のようには、すぐにはうまくはできませんでした。でも、やればできるんです! はじめは『こんな狭いところに玉を乗せるだなんて無理やん』って思っていたんですけれど、やればできる。『うわー! できたー!』って、やみつきになる。できたときの達成感はひとしおです。そして『じゃあ次、じゃあ次』って、新しい技にどんどん挑戦し続けたくなるんです」


加藤誠
「けん玉は難しいです。難しいんですが、楽しいから、いくらでも練習ができるんですよ。練習が苦にならないし、技ができるようになると本当に嬉しい」



▲難しい技をすいっとやってのける誠さん


「いくつになっても、新たなチャレンジをすることは楽しい」。おふたりは口を揃えてそう言います。このご夫婦だけではなく、社会人になってからけん玉を始める遅咲きのダマーもとても多いのだとか。


加藤有加
「午後7時を過ぎると、30代のサラリーマンたちが練習しにやってきます。伊丹市内からだけではなく関西一円からお見えになるんです。なので、お酒も出しています」


会社でのうっぷんも、愚痴や八つ当たりなんかで晴らすより、けん玉で解消した方がはるかに健全だし楽しいですよね。そうしてけん玉のネットワークは拡充し、加藤さん自身の暮らしも、ずいぶんとよい方向へ変わっていったと云います。


加藤有加
「有名な『スイーツ』(アメリカのミネソタ州に本拠地を置くけん玉ブランド)のチームが立ち寄ってくれたり、けん玉パフォーマンスユニットの『ZOOMADANKE(ず~まだんけ)』がトークイベントを開いてくれたり、世界中に知りあいができました。10月にミネソタで大会があったんですが、現地の大勢の人たちが、娘やうちの店のことを知ってくれていて、声をかけてくださるんです。はじめは伊丹市内だけのおつきあいだったのが、日本になり、世界になり。こんなにつながりが広がるなんて、けん玉をやっていなかったらありえませんでした」



▲海外の選手がやってきて親睦を深めることもあるという


ルーツは玉の穴に剣先を挿すシンプルなおもちゃだった、けん玉。でもそのシンプルさゆえに、世界中の人たちが言葉の壁を越えてひとつになれる遊びでもあります。誰もが挑めて、誰もが達成の喜びを分かちあえる「ホール・イン・LOVE」が、このお店にはあるのです。



名称●Nothing but KENDAMA(ナッシング バット ケンダマ)
住所●兵庫県伊丹市昆陽東6-10-5
電話●072-786-7028
営業●11:00~22:00
定休日●水
駐車場●3台
URL●https://www.nbk-itami.com/




TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


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