週末は「忍者」として過ごすOLさんに会ってきた!

2018/11/12 19:30 吉村智樹 吉村智樹

▲このかわいい「くノ一(くのいち)」さん。実は「平日はOLさん。週末は忍者」というハイブリットガールなのです


こんにちは。
関西在住のライター、吉村智樹です。


この連載では、僕が住む関西の耳寄りな情報をお伝えしてゆきます。
今回はその第45回目となります。





■週末は「忍者」に変身するOLさんがいた!


「なんだか毎日、冴えないよね……。パーッ! と気分転換がしたいなあ
そんなふうに、ど~んよりした気持ちを抱えながら日々を過ごしている方、多いのではないでしょうか。


しかし、飲みに行っても、カラオケで歌っても、どうにも気分が晴れない。あんなに楽しみにしていた週末も、結局、家でごろごろと食っちゃ寝している間に終わってしまう。冒険をしてみたいけれど、抜き足・差し足・忍び足をしながら、かわり映えのしない無難な日々を送ってしまう。


もっと「徹底的にリフレッシュをしたい」と願っている貴女。いっそ、週末は「別人」になって過ごしてみませんか?


兵庫県姫路市にお住いのA子さん(26歳)。日ごろは環境事業の事務員をしています。つまり平日はOLさんなのです。



▲平日は事務員をしているA子さん


しかし! 週末には180度どころではない大変身。A子さんは、なんと制服を脱ぎ捨て、「忍者」として過ごすのです。



▲週末の多くは姫路で唯一のくノ一「凛」として過ごす


■紅一点! 街でたったひとりの「くノ一」


A子さんは国宝「姫路城」周辺で、演武などで観光客を楽しませる7名のボランティアチーム「姫路忍者」の一員。NINJAネームは「凛」(りん)。忍者となって7年目。姫路忍者の紅一点であり、つまり姫路でたったひとりの「くノ一(くのいち)」なのです。



▲ユネスコの世界遺産リストにも登録され、「日本100名城」にも数えられる姫路城



▲凛さんと「姫路忍者」の仲間たち


凛さんたちが屋外で活動するのは、土日の天候がいい日。城周辺の茂みに隠れて息をひそめ、お客さんが大勢やってくると四方から登場。フラッシュモブ的にアクションがスタートし、武闘が終わるとお客さんと記念写真を撮るなどで、おもてなしをします。



▲遠くの狼煙を見つめているのか、有事に備え、城の石垣の上で待機する凛さん



▲外国人観光客からも人気が高い



▲日曜日は、自主的に武将隊を広める「姫路城甲冑隊」と一緒に行動することもある



▲伊賀忍者や名古屋の忍者仲間たちが集結。全国の忍びたちとの交流もある


晴天以外の週末は、姫路忍者たちが集まる茶処「ちせん」で練習をしていることが多いのだそう。店内でショーを披露することもあるという、言わば「週末、会いに行ける忍者」なのです。



▲茶処「ちせん」は、知る人ぞ知る、忍びの者たちが集まる場所



▲着替えは「ちせん」の店内で



▲店内でお客さんに殺陣を披露することもある


■姫路城の城下は忍者ゆかりの街でもあった


では、そもそも、なぜ姫路に忍者がいるのか。


実は姫路の一部は「隠密(忍者)が待機していた街」だったという説があるのです。そのエリアは「忍町」(しのびまち)。現在も地図にその名があります。


『姫路市町名字考』(昭和31年 橋本政次著)の19ページにある「忍町」の解説によると「松平直矩の時、曲輪外ではあるが、ここにあった薬師寺を飾西郡栗山村に移し、その跡を侍屋敷とした。『忍町(しのびまち)』は忍の者(忍術をもって仕えたもの)を置いたので名となった」とあります。


以上の資料から、17世紀に城下に忍の衆が集まる場所がおかれた(という説がある)ことがわかります。つまり姫路は「忍者にゆかりがあった(と考えられる)街」なのです。


■生まれも育ちも姫路。されど「街の歴史に興味がなかった」


凛さんは生まれも育ちも姫路。姫路以外の場所に住んだことがないという生粋の「姫っ姫(ひめっこ)」です。とはいえ凛さんは、そういった姫路城や忍者の歴史に初めから関心があったわけではありません。



「幼い頃から姫路市内でどっぷりと暮らしています。けれど、街の歴史とか、姫路城のなりたちとか、ぜんぜん興味がなくって(笑)。姫路に過去に忍者がいたかどうかも、まったく知りませんでした」


「地元の国宝にもっとも興味がないのは地元の人」という話は、よく耳にします。凛さんも、そんなふうに、ごくごく普通のOLさんとして、この街で静かに暮らしていました。


■忍者の衣装は「お母さんの手づくり」


そんな凛さんが、なぜ「週末くノ一」として、ふたつの顔を持つことになったのでしょう。



「天気のいい日に姫路城周辺を散歩していたら、忍者がひとり、うろうろしていたんです。私はてっきり仮装をするアルバイトだと勘違いし、『私もやりたい!』と思いました。それで家へ帰ってネットで調べたら、アルバイトではなくボランティアだとわかったんです。でもその時なぜか『お金にならなくてもいいから忍者になりたい』と強く思い、応募しました。なぜそこまで忍者になりたかったのか、ですか? それが……自分でもわからないんです。突然、『どうしても忍者になりたい』という気持ちが降りてきたんです


「どうしても忍者になりたい!」と、まるで幻術をかけられたように思いつめ、自ら忍びの道を志願した凛さん。とはいえ忍者といえば、まず必要なのが、あの黒い装備。忍者になろうにも装束なんて、どこのファッションビルへ行ったって売ってはいません。なので自分で用意しなければなりませんでした。



「忍者の衣装は、実はお母さんの手づくりなんです。浴衣の袖を切って、裁縫をしてくれて」


うぅ、これからスパイ活動や、ときには暗殺の使命も負うやもしれぬ娘のために衣装を繕ってくれるお母さん、泣けてきます。



▲浴衣をリサイクルした衣装はお母さんの手づくり。ほか、小物は量販店などで見つけたものを自分なりにつくりなおす


■厳しい殺陣。おでこに刀がガツーン!


さらにたいへんだったのが、殺陣。これを習得しなければ敵と戦えません。そこで、かつてジャパンアクションクラブ「JAC」(現ジャパンアクションエンタープライズ)に所属し、スポーツ・エンタテインメント番組「SASUKE(サスケ)」にも出場した経験があるという凄腕忍者の玉風(たまかぜ)さん(47歳)から特訓を受けることに。そして「耐えられたら免許皆伝」とあいなったのです。



「厳しかったです。私は空手の段を持っていたので、なんとかついていけました。けれどもいまだに稽古はハードです。小さな刀傷は無数にできます」



▲元「JAC」で、「SASUKE」にも出場していた先輩忍者の玉風さん



▲女子とて容赦しないハードな練習





「練習は、本音では好きじゃない。けれど、やるからには手を抜きたくない」という凛さん。厳しさは練習だけではありません。実演でも、しばしば事故が起きるのだとか。



「アクションしていた時に鉄の棒がおでこに当たって、鉢金(はちがね/激しい剣闘の際、前額部を狙う相手の剣を防ぐため、額に巻きつけて用いる金属)が、ひん曲がった時があったんです。もしも鉢金を巻いていなかったら、私の頭蓋骨はきっと割れていたと思います。そのとき、なぜ鉢金が必要なのかがリアルにわかりましたね。そして忍者の小道具には、すべてちゃんと意味があるんだと痛感しました」



▲金工職人が手作りした鉢金。これによって命が救われたことも


鍛えあげられた屈強な男性を相手に殺陣をしているので、ちょっと武器が頭に当たっただけでも女性にとってはダメージが大きいのです。そんな修羅場をかいくぐりながらも、もともと武道のたしなみがあった凛さんの憶えのよさに、玉風さんは「お前やったらできる!」と太鼓判を押し、難易度が高い忍術を次々と教えました。



▲今日は特別。事務員の制服のまま殺陣を披露!





■病院で忍術を披露。看護婦さんも患者さんも大喜び


そうして、凛さんは、いまでは姫路の名物くノ一に。街の人から感謝されることも少なくないのです。



「忍者の衣装を着替える時間がないまま、入院している方のお見舞いをしたことがあるんです。すると看護婦さんたちが『忍者のアクションが観たい観たい』とおっしゃって、ナースセンターの前で演武をしました。看護婦さんも患者さんも大喜びで、そのときは嬉しかったですね」


それはいいお話です。それに病院だと、自分たちがけがをしても、すぐに治療ができますしね(そういう問題じゃないか)。


■忍者に変身すると自分ではない自分になれる


こんなふうに「週末は忍者」という暮らしをはじめて7年。凛さんは「以前よりも毎日が楽しくなった」と言います。



「日本の方だけではなく、海外からのお客様もすっごく喜んでくださって。姫路を訪れてくれたお客さんの笑顔を見ると、私も幸せになります。『やってよかったな』って思うんです。それに、正直それまで考えこともなかったけれど、姫路という街がもっと好きになりました。忍者をやるようになってから、歴史もちょっと調べるようになりましたし」


凛さんにとって「忍者になる」という経験は、改めて地元の魅力を見直すことにつながったようです。さらに「世を忍ぶ姿」をもつことによって、こんなメリットがあったのだとか。



「忍者になりきると、自分だけど、自分ではなくなるんです。観光でいらした知らない方とでも気さくに話せるようになりました。普段の自分やったら、それは無理やと思う。別のキャラクターになりきるからできることだと思うんです








貴女も、会社がお休みの日は、忍法「分身の術」を使って別キャラクターに変身し、気分を変えてみませんか。鬱屈した日々からドロンできるチャンスかもしれませんよ。


凛 姫路忍者
https://twitter.com/kunoichi_rin



取材・執筆 吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy



▲今回の取材、凛さんの忍術にかかってしまったらしく、インタビューしている僕もなぜか忍者の格好に