全国を旅しながら「団地の給水塔」を撮影し続けるサラリーマンに会ってきた!

2018/10/8 11:00 吉村智樹 吉村智樹


▲意外なほどバリエーションに富んだ「団地の給水塔」。ここにある給水塔の画像は、すべてひとりのサラリーマンによって撮影された


いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





■団地の給水塔を探求する「日本給水党」の党首、その正体は?


あなたは「団地の給水塔」を気にしたことはありますか?


「団地の給水塔? 団地のはしっこに立ってるちんちんみたいなやつ?」


おそらく多くの人が団地の給水塔を風景のごく一部としてとらえ、気にも留めていなかったのではないでしょうか。


そんなひっそりとそびえる団地の給水塔を探し求めて全国をさまよい、撮影採集し続けている人がいます
それが大阪市内のとある団地に住むサラリーマン、小山祐之(こやま ゆうし)さん(36歳)。



▲団地の給水塔を撮影しつけている小山祐之さん


小山さんは「日本給水党党首UC」という別名をもち、これまでブログやInstagramに団地の給水塔の頭部(?)画像をひたすらアップし続けたり、文庫サイズのカタログを自費出版したりしてこられました。



▲小山さんは「日本給水党」党首のUCと呼ばれている



▲Instagramにひたすら団地の給水塔の画像をアップし続けている


そしてこのたび、いよいよ出版社から初の著書をお出しになったのです。


書名はズバリ『団地の給水塔大図鑑』(シカク出版)。
掲載されたおびただしく林立する「団地の給水塔」の画像はすべて小山さんが撮影したもの



▲小山さん初の著書『団地の給水塔大図鑑』(シカク出版)


これまでアートとして給水塔の写真集が発売された例はありました。
しかし“団地の”給水塔」のみ、データまで添えられた単行本が出版されるのは本邦初!
しかも「とっくり型」「むきだし型」「円盤型」、レアな「待ち針型」など、分類がなされていて読みやすい。
さらに魅惑の「内部潜入」ルポまで!
そんなタワー・オブ・パワーに溢れた一冊なのです。



▲「円盤型」



▲「ボックス型」



▲珍しい「待ち針型」


いったいなぜそれほどまでに「団地の給水塔」に惚れ込んだのか。
小山さんにその理由をおうかがいしました。


■400基以上に及ぶ「団地の給水塔」画像が掲載された本を出版!


――「UC」こと小山さんが初めて上梓された『団地の給水塔大図鑑』は、掲載されている団地の給水塔の物量にまず驚きました。いったい何基が掲載されているのですか?


小山
「これまで全国663基の団地の給水塔を撮影し、そのなかから405基を選りすぐりました


――663! そのなかから405! そ、そんなにたくさん……。どれくらいの期間で、それほどたくさんの団地の給水塔をお撮りになったのですか。


小山
「2008年の4月からなので、およそ10年ですね」


――10年で663基ですか。ということは単純計算すると一年でおよそ66基もの団地の給水塔を撮影されているのですね。日ごろはサラリーマンだということは、休日はほとんどを、旅と撮影に費やしていらっしゃるのでは?


小山
「そうなんです。給水塔の撮影をするまで、実は旅行ってあまりしたことがなかったんです。それなのに現在は勤めが休みの日は全国をめぐっていて、自分でも不思議です。とはいえ旅と言っても、観光地へも行かずに日中はずっと団地を訪れているのですが


――旅行がお好きなのではなく、団地の給水塔に導かれるように旅をされているのですね。


小山
「そうなんです。ただ天候がすぐれないと撮影しには行けませんので、つねに週間天気予報とにらめっこして休日の計画を立てています。飛行機だとキャンセルしにくいので、電車とバスを乗り継いで。自動車の運転をしないものですから、もっぱら公共交通機関を使って移動しています」


――電車とバスでですか。団地って多くが駅前にはないし、山あいにある場合も少なくはないですよね。バスで団地の給水塔へたどり着くだけでもしんどいのではないでしょうか。


小山
「はい。特に路線バスは発着・到着時刻やコースを事前に調べるのがたいへんです。運行本数も少ないですし。沖縄では路線バスで那覇から片道1時間半かけて団地の給水塔一基を撮影しました。帰りのバスに乗り遅れると簡単には那覇まで戻れなくなるので、撮影は時間との勝負でした。北海道では2基を撮影するだけで3日かかりました。旅費ですか? それは……考えないようにしています(苦笑)」



▲沖縄の那覇からバスで1時間半かけて辿りついた「登れる給水塔」



▲沖縄県営古謝団地


■団地の給水塔はカッコいい。だから晴れた日にしか撮影しない


――団地の給水塔の写真が、どれも晴れているのがさらにすごいです。


小山
“晴れた日に撮影する”ことには、ずっとこだわっているんです。団地は昭和に建てられたものが多く、曇りの日に給水塔を撮ると、どうしても『昭和の遺物が寂しげにたたずんでいる』という印象を与えがちなので、必ず晴天の日に、太陽の光を浴びた状態で撮ろうと決めているのです。僕が給水塔に魅力を感じたのは『団地のシンボルであろうとするカッコよさ』でしたので、カッコイイものとして撮りたいといつも思っています」


――「団地のシンボルであろうとするカッコよさ」! 団地の給水塔に惹かれるのは、そういう憧れがあるのですね。太陽の光が撮影にちょうどよい角度になるのは、何時頃なのですか。


小山
「日によって違うし、撮る場所によって変わります。“サン・サーベイヤー”というアプリで南中高度を求めて、そこで算出された数値を見ながら『何日は何時に到着すれば大丈夫』というふうに見計らいます。太陽が昇る角度によって旅のスケジュールが決まるという感じです


――団地の給水塔の撮影にそこまでの手間を……。まるでモデルさんを撮影しているようですね。でも、そうそううまくは晴れないでしょう? 天気予報はころころ変わりますし。


小山
「そうなんです。地方で撮影をするときは一泊して予備日を設けるのですが、それでも両日ともに雨が降ってしまう場合があります。そういうときはたとえ雨でも現地へ行って、撮る画角やカメラ位置などを決め、2年後に再訪する、そんなこともあります」


――ロケハンして2年後にですか! 小山さんがお撮りになっている団地の給水塔は、そこまで粘り強く採取されたものだったのですね。



▲週間天気予報と南中高度を確認しながら全国の「団地の給水塔」を撮影する。これは石川県営菅原団地



▲茨城県水戸市営河和田団地



▲福岡県北九州市小倉 公団(UR)徳力団地



▲東京都 八王子大和田郵政宿舎


■気になってわざわざ電車を降りて団地に給水塔を観に行った


――そもそも「団地の給水塔がカッコいい」と思われたのはいつですか?


小山
「小学校5年生のときですね。僕は新潟出身で、団地育ちだったのですが、そこには給水塔はなかったんです。それで小学校5年生のとき大阪へ転校し、初めて団地の給水塔を見ました。日本酒をいれるとっくりのような形をしていて、その不思議な形状がずっと心に残っていました」



▲「とっくり型」


――では、全国の団地の給水塔を撮り集めようと思われたのは、なぜですか?


小山
「今から10年前、勤めの帰りに京阪電車に乗っていたら、寝屋川市のあたりで車窓から警察の宿舎があるのが見えたんです。さらに一瞬そこに給水塔が立っているのがちらっと見え、小学生の頃に『カッコいい』と感動した日のことを思いだしました。そんなこともあって、ふと気になって電車を降りたんです


――え、わざわざ下車したのですか。


小山
「はい。辿りついてみれば宿舎は廃墟寸前で、周囲は異様な雰囲気。そしてその中心に給水塔がそびえているのを目の当たりにし、なんていうのかな……その光景が胸に迫ってきたというか、強い感銘を受けたんです。しかも幼い頃に観た“とっくり型”だったので、時間がさかのぼってゆく感覚をおぼえました。この出来事があって団地の給水塔に関心をいだくようになり『ほかにはどんなものがあるのだろう』と調べ始めたのがきっかけです」


■全国の「団地の給水塔」について調べている人はいなかった


――それまで団地の給水塔を調べている人はいなかったのですか?


小山
「給水塔そのものは近代建築としての評価がすでにありました。しかし“団地の給水塔”となると、調べている人はいなかったんです。『団地の給水塔? ああ、あるね』程度。軽んじられているのを感じました。だったらなおのこと調べ甲斐があるし『誰もやっていないのならば自分がやってみよう』と思ったんです。路上観察で、ほかの人が見つけたものをスタンプラリーのようにまわるのも違うんじゃないかと感じていたので」


■「円盤型」は関西にはほぼない。団地の給水塔のデザインには地域差がある


――これまで未踏のジャンルに挑まれて、全国の団地の給水塔を撮り歩かれて、感じたことはなんですか?


小山
「それは『団地の給水塔には地域差がある』『記録を残しておかないとなくなる』ということですね」


――やはり形状には地域差があるんですか。


小山
「はい。たとえば“円盤型”は近畿地方ではほとんど見ることはありません。反面、関東地方では円盤型が多いです。近畿でも兵庫県は“むきだし型+市章”という特徴が見受けられます。八角柱型が沖縄にいくつかあるなど、地方色が反映しています。そしていずれの地域のものもシンボル性を高める工夫が凝らされていて、それがカッコいい。それこそ団地の給水塔の魅力だと思うんです」


――円盤が関東では多く目撃されるって、ミステリーっぽくて、おもしろいですね。



▲関西に多い「とっくり型」。これは大阪府営門真住宅



▲大阪府営八田荘住宅



▲珍しい「フエラムネ型」。東京都営上沼田アパート


■団地の給水塔は、今のうちに記録しておかないと将来なくなる


――そして「記録を残しておかないとなくなる」というのは、どういうことですか?


小山
「団地の給水塔は、いまかなりの勢いで消えていっています。単行本に収録したなかにも、もう現存していないものも少なくないです」


――なぜ、なくなってしまうのでしょうか。


小山
「撤去される理由は、まず給水の方式が変わって存在理由をなくしているものがあること。次に老朽化が進んで倒壊の危険性があること。あと大きな理由は、再開発による立ち退きですね。給水塔だけではなく、団地そのものがなくなってしまう事例もあります」


――なるほど。東京オリンピックも団地の給水塔に影響しそうですね。


小山
「ありえますね。なので『早く撮らないと』という焦りも感じています。単行本の編集作業が終わったので、また日本中をどんどん撮りにまわりたい。リストには行きにくい場所にある団地が残っていて、旅の行程も次第に組みにくくなっているのですが、だからこそ、それが自分がやる意義だと考えています」


「日本給水党党首UC」こと小山祐之さんが尽力する「団地の給水塔」探訪は、まるで団地を守るヒーローと少年の友情物語であるかのようでした。


■初の個展「団地の給水塔大博覧会」開催中!


そんな小山さんが初の著書に続き、初の個展を開催中です。
ぜひ見あげるほどの熱い想いを感じてください。Me塔!


「団地の給水塔大展覧」
2018年10月21日(日)まで

入場無料

「団地の給水塔大図鑑」発売を祝して、記念写真展を開催します!
日本給水党10年間の集大成である給水塔写真パネルや資料を展示。
壁一面、およそ150基に及ぶ給水塔だらけの空間をお楽しみください!


開催場所: シカク
住所: 大阪市此花区梅香1-6-13
アクセス: 阪神なんば線「千鳥橋」駅から徒歩5分
営業時間:13時〜19時
定休日 :火水
Tel   :06-6225-7889
URL: http://uguilab.com/publish/2018watertower/



「団地の給水塔大図鑑」(小山祐之著 シカク出版 2,500円 税別)


団地の給水塔大図鑑/給水塔の基礎知識/珍給水塔レポート/給水塔グッズ紹介/仕様銘板コレクション/給水塔のディティール図鑑/給水塔を見に行こう!/禁断の給水塔内部潜入記/数字で見る給水塔/ほか
http://shikaku.ocnk.net/product/1986




TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


タイトルバナー/辻ヒロミ