中二病は今すぐ行くべし![世界を変えた書物]展がやばすぎる!!

2018/9/10 20:30 虹


写真提供:小学館写真室 藤岡雅樹

見上げる書架に並んだ古い本の数々。
部屋のあちらこちらには、誰もが知る偉人たちによる筆跡が。
吊るされた電球からは暖かな光が灯り、その部屋を訪れた者をさらなる本の森へと誘っていく。



「さあ、こちらへいらっしゃい。“知の連鎖”の素晴らしさを、きみに見せてあげよう」

部屋の奥から語りかけてくるのは、この屋敷の主人だ。
そう。彼こそ地上のすべての知を司る、「書の番人」なのである────。


……と、中二病全開の妄想を止められないほど魅力的なこの空間。
一体どこなのかというと、現在上野の森美術館にて開催中[世界を変えた書物]展という展覧会の展示室なのです。
いやもうこの展覧会、すさまじいレベルで素晴らしかったんですけれど、信じられないことに入館無料! さらには写真撮影OK! 本当にそんな太っ腹で大丈夫? と心配になってしまうくらいでした。



▲巨大な書物の間に立って記念撮影ができるフォトスポットも


本展は、金沢工業大学が所蔵するコレクションである“工学の曙文庫”から、選りすぐりの稀覯書(きこうしょ)をわかりやすく展示し、公開。
もしコペルニクスが地動説を唱えなかったら? ダーウィンが生物の進化を体系化しなかったら? 世界はどうなっていたでしょう。
人々の認識を一変させた彼らの大発見。それを世に伝えた人類の叡智が詰まったものこそ、「書物」なのです。



「工学の曙文庫」とは?

「工学の曙文庫」とは、金沢工業大学のライブラリーセンターに設置されている、稀覯書を主として構成されたコレクションです。
1982年の開設以降、現在までに約2,000点の蔵書を誇る貴重な文庫として知られています。

「稀覯書」とは何かというと、極めて稀にしか見ることのない本のこと。
少数しか残っていない、制作年が古い、そしてその内容が極めて貴重なもので、それが最初に出たもの、などが定義として挙げられます。
そのほか、書物のデザインや装丁が美しく美術的価値を持っていたり、副次的には原著者のサインがあるものや、著名人の蔵書であったものなども含まれます。


▲チャールズ・ダーウィン「種の起源」 ロンドン 1859年 初版


この展覧会では、科学技術分野における「稀覯書」がずらっと見事に並んでいます。
普段は目にすることができない、重要な科学技術上の発見や発明を記した書物、科学技術の発展に大きく貢献した業績などを最初に世に公表した書物、科学技術に関する内容の稀覯な書物が展示されているというわけです。

その中でも特に時代を大きく変えた重要な書物、著名な科学者の代表的な書物には「チェックしたい20冊」としてこのようなマークがふられていました。





[世界を変えた書物]展はこんなにすごい!


▮知の壁
[世界を変えた書物]展は、金沢21世紀美術館(2012年)、名古屋市科学館(2013年)、グランフロント大阪北館(2015年)にて、過去にも開催されていました。どれも好評を博し、満を持して今回東京へ巡回となったのです。


いまだ中二病を引きずっている私にとって、この入口からしてたまりません。



中に入ると……



すごい! やばい!! まるで魔法使いの書斎!!

この展覧会は「知の壁」、「知の森」、「知の繋がり」といった3つの空間に分けられており、この「知の壁」の部屋では、建築関連の美しい稀覯書を堪能することができます。

さりげなく置かれてるけど、エジソンの直筆メモ……。

▲トーマス・オールヴァ・エディソン 自筆指示メモランダム (年代不詳)


このうねるような書架は、なんと金沢工業大学の学生さんの手作り。歴代の学生さんが作り足しているそうです。
置かれている書物にぴったり合った雰囲気ですよね。



「稀覯書」の定義として初版本が挙げられていますが、改めて出版年を見ると、よくぞ集めたと恐れ入ってしまいます。


▲ドイツ美術史上最大の画家ともいわれるアルブレヒト・デューラーの「人体比例論四書」 ニュールンベルク 1528年 初版


丁寧に請求記号がふられたラベル。今なお、これらの書物は現役で人々に知識を授けているのでしょう。




展示されている書物には触れることができませんが、稀覯書の中でもさらに貴重とされているものが「複製本」として置かれています。こちらは手に取って、実際にページをめくることができます。
初版本と同じ製本様式ですので、その魅力をじっくり味わってみてください!


▲こちらは冒頭でも紹介したチャールズ・ダーウィンの「進化論」の複製本。




▮知の森
洞窟のような書架を抜けると、目の前が一気にひらけて「知の森」が出現します。



「知の森」は1階から2階へ続いており、13のカテゴリーに分けて紹介されています。
このカテゴリー、一見すると門外漢には難しそうなのですが、根っからの文系の私でも理解できました! そう、この展覧会の素晴らしいところは雰囲気だけではありません。秀逸なキャプションも大きな魅力のひとつなのです!



▲オットー・リリエンタール「飛行術の基礎となる鳥の飛翔」 ベルリン 1889年 初版/こんなに美しい本には一体何が書かれているのだろう……? と、知りたくなりますよね。また、「知の森」に展示された書物は、すべて下に鏡が置かれ、装丁を楽しむこともできます。


著者の功績を簡潔に伝えるとともに、この書物で発表されたことが何に影響を与え、この先へどう続いていくのか。こちらの好奇心を容赦なく刺激してくる紙芝居のようなキャプションは、「書いた人、天才なのでは?」と思わせるほどこちらを引きつけます。
しかも稀覯書だけあって、著者は超絶有名人。誰しもどこかで名前を聞いたことがある、または名前は知らなくても発表した内容は知っているものばかり。

たとえばこちら。

▲ヨーハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ「色彩論」 チュービンゲン 1810年 初版



名作『ファウスト』を執筆した文豪ゲーテは科学者でもあり、このように色彩に関する書物を遺していました。そしてキャプションによると、「ゲーテはニュートンに代表される機械論的世界観に危機感を抱いていた」とのこと……。
自分の知識の中では全く繋がることがなかった2人が繋がるのは、なんだか不思議な感じがしますよね。こういった思わぬ出会いが随所で起こり、いつしか真剣にキャプションを読んでいる自分に気づくのです。

また、工学の中でも異なるカテゴリー同士が実は繋がっていたりして、「うーん。知の連鎖だ!」と感動していると、それを視覚的に説明するマップが置かれていたりするなど至れり尽くせりの圧倒的プレゼン力。
工学に全く興味のなかった人たちに「工学って面白そう」と思わせるのが上手すぎて、思わずうなりました。


▲カテゴリーごとに色分けされた”知の系譜”を系統的、体系的にたどることができる「知の連鎖」マップ。そのほか「知の森」を探検するためのカテゴリーマップをもらうことができます。



ちなみに会場内にある映像シアターでは、建築史家であり、本展監修者である竺 覚暁(ちく かくぎょう)先生によるミュージアムトークを見ることができます。これ、見始めると面白すぎて途中で抜けられなくなるので、時間に余裕をもって行きましょう。


また、東京展特別出展の書物もあります。



これがすごい。ジョルジョ・ヴァザーリの「最も優れた画家、彫刻家、建築家の生涯」(増補改訂版)や、チャールズ・ダーウィン「種の起源」(初版!)、そしてNASAによる「アポロ11号任務記録(月着陸交信記録)、月面への第一歩」(初版!)などお宝がやってきています。
持ってきちゃって大丈夫? と心配になるくらい。もちろん中二心をくすぐるアルブマサルの「占星術」(初版・なんと1488年)もございます。


▲アメリカ合衆国航空宇宙局(NASA)「アポロ11号任務記録(月着陸交信記録)、月面への第一歩」 ヒューストン 1969年 初版


こちらはヴォーバンの「要塞都市の攻撃と防御 第Ⅰ、Ⅱ巻」。司馬遼太郎は著書『坂の上の雲』において、旅順要塞攻撃の参考書は本書しかなかったと述べたそうです。


▲セバスチャン・ル・プレストル・ド・ヴォーバン「要塞都市の攻撃と防御 第Ⅰ、Ⅱ巻」 ハーグ、1737-1742年 初版



海外の科学者だけでなく、日本人初のノーベル賞の礎となった湯川秀樹の論文や、「土星型」の原子構造モデルを発表した長岡半太郎の論文、また、広島、長崎に対する原子爆弾の効果を調査した報告書など、日本に関するものも展示されていました。


▲湯川秀樹「素粒子の相互作用について」 東京 1935年、初版



▲合衆国戦略爆撃調査団「広島、長崎に対する原子爆弾の効果」 ワシントンD.C. 1946年、初版




▮知の繋がり



ここまでくると頭が良くなったような錯覚を起こすとともに、今私たちが当たり前だと思っていることは、多くの専門的な知識が繋がりあって研究され、発表されたものなのだということをしみじみ感じるようになります。

その「知の繋がり」をわかりやすく表したものが、このシンボルモニュメント。



誰の研究(知)が、誰の研究(知)と繋がっているのかが一目でわかるようになっています。
先人の叡智があってこそ今の生活があり、そしてこの瞬間にも新たな叡智が生まれていると思うとわくわくしてきますね。


▮ミュージアムグッズの域を超えたコラボグッズがすごい!

ここまでかっこいい展覧会だと、グッズも気になりますよね!
その期待を裏切らず、入館無料の展覧会とは思えないほど力の入ったグッズが展開されていました。


▲風呂敷(全6種) 各5,000円(税込)/写真提供:小学館写真室 藤岡雅樹

こちらは京友禅の老舗「岡重」に別注したオリジナル風呂敷。
お値段は少し高めですが、ヒグマが噛み千切りでもしない限り破れないんじゃないかというほど丁寧な作り! 大判なので使い勝手も良いし、何より「我思う故に我あり」(デカルト)と書かれた風呂敷に本を包んで図書館に行くという、完璧な中二スタイルを全うできる唯一無二のグッズです。というか、単純にデザインがかっこいい。



▲タブロイド(全2種) 各300円(税込)

選りすぐりの12冊で展覧会全体を俯瞰する、ありそうでなかったタブロイドサイズのプログラム!
「SCIENTIA」篇では森羅万象の仕組みを探る6冊を、「ARS」篇では世界の知を活用し、人工物を作り出そうとする営みから生まれた6冊をチョイス。 森羅万象人工物というパワーワードでも惹かれるというのに、それぞれスキエンティアアルスと読むというね、もう……もうね、かっこよすぎるね……。



▲レザーブック&ノート 1,600円(税込)/写真提供:小学館写真室 藤岡雅樹

上のプログラム(2種)で取り上げられている書物全12冊の表紙から紙面までのハイライト部をプリントしたノート。会場の商品説明にもある通り、「読むべきか書き込むべきか」とハムレットのように悩んでしまう美しさ。
使うのであれば、ぜひ自分で考えた剣の絵や予言、魔法の呪文とその効果の設定を書きこみましょう!


ほかにも傘やTシャツ、好みのスタンプ(この図案のチョイスがまた……)を押して自分で作るトートバッグなど、どれも稀覯書の如く長く愛用できるように丁寧に美しく作られていました。
個人的にはブックノートがおすすめでしょうか。
しかし作った人、中二病のツボをよく分かっていらっしゃる……。



写真提供:小学館写真室 藤岡雅樹

雰囲気も良し、内容も良しの[世界を変えた書物]展。
会期が短く9月24日(月・祝)までとなっていますので、少しでも気になった方はぜひ早めに足を運んでみてください!

[世界を変えた書物]展
場所:上野の森美術館
会期:~9月24日(月・祝) ※期間中無休
時間:10:00~17:00  ※入場は閉館の30分前まで
公式サイト:http://www.kanazawa-it.ac.jp/shomotu/index.html