数百枚の絵が宙を舞う! ウワサの空飛ぶ高速紙芝居ユニット「スパイスアーサー702」とは?

2018/9/4 10:15 吉村智樹 吉村智樹


▲超高速でめくられた絵が天井高くまで放り投げられ、足元に散乱する。「僕が知ってる紙芝居と違う!」


いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





■のんびりした時代の象徴だった「紙芝居」


昭和生まれな僕ですら、リアルタイムでの経験はありませんが、かつて日本には「紙芝居」という子ども文化がありました。


「紙芝居」とは、文字通り、紙に書いた絵をめくりながらストーリーを語る娯楽。
言わば、テレビ番組のアナログ版。


荷台に額を乗せた自転車が公園にやってきて、語り部のおじさんが拍子木をカーンカーンと打ち鳴らすと、紙芝居の「はじまりはじまり~」。



(C)いらすとや


子どもたちは水あめやミルク煎餅などの駄菓子を購入することで、紙芝居を鑑賞できるシステム。
故・水木しげるさんも、第二次世界大戦から復員したのち、ゲゲゲの鬼太郎の前身「墓場の鬼太郎」を紙芝居で描いていました(目玉おやじが初めて登場したのも、実はこの紙芝居版の鬼太郎なのです)。


古きよき、レトロカルチャー、紙芝居。
ゆったりとしたのどかな時代に、想いを馳せてしまいます。


■絵をめくるたび宙に放り投げる超高速紙芝居?


しかし!


伝え聞く懐かしの紙芝居とはまるで違う、「最新型の紙芝居がある」というウワサを耳にしました。


その紙芝居はなんと、語り手が「絵をめくるたびに宙に放り投げる」のだとか。
しかもその飛び交う絵の枚数は大量で、めくるスピードは「超高速」
その数は、我々が知る紙芝居のおよそ10倍にも及ぶといいます。
紙の連続射撃! 絵の散弾銃!


「絵が飛びまくる紙芝居」とは、いったいどんなものなのか。
公演が催される会場へとおもむきました。


■空中を乱れ舞う紙芝居。足元はたちまち絵で埋もれる


訪れたのは8月4日の土曜日。
場所は神戸のギャラリー「アートスペースかおる」。


そしてウワサの紙芝居を上演するのは、空飛ぶ紙芝居「スパイスアーサー702」という5人組ユニット。
ひとつの紙芝居を、お囃子や義太夫語りなど男女5人がかりで上演するという、なかなか贅沢な構成です。



▲「作・演出・めくり」「お囃子」「うた・義太夫」「黒子」「語り」の5人によって構成されている空飛ぶ紙芝居ユニット「スパイスアーサー702」



▲「アートスペースかおる」にて開催された神戸公演


そしてスタートして、おおッ!


「超高速紙芝居」という噂にたがわず、絵がびゅんびゅん乱れ舞い!



▲あ! 紙芝居の絵が飛んだ!



▲超高速でめくるめくる!


ひとことで「絵が飛ぶ」と言っても、飛び方は多種多彩。
横に前に上にナナメに四方八方縦横無尽。



▲横っ飛び!



▲回転!



▲絵にあけた穴に指を入れて回転!



▲そして投げちゃう!


「びゅぅ!」と手前に飛んでくる絵もあれば、弧を描きながら天井高くまで飛びあがるもの、回転するもの、横っ飛びするもの、地面に叩きつけんばかりに力強く弾かれるものなど、ストーリーの展開や起伏に応じて飛ぶ距離や状態が異なるのです。
息つく間もなく紙が飛んでくるその空間はスリルに溢れ、言わば、空中殺法をくらわせる「紙のプロレス」。


めくられる絵は、1作品につき、およそ100枚から、なんと250枚!
普通の紙芝居は、多くても16枚までで展開されるのだそう。
ですから、これがいかに甚大な枚数であるか、おわかりいただけることでしょう。
単独公演でしたら、4~5本を上演しますから、いち公演につき600~800枚がばらまかれることになります。


しかも絵がパノラマ風に三倍の大きさまで横に拡大されたり、縦に何枚も連なったりするなど、見せ方もトリッキー。
そういった作品が、これまで40編以上あるというからさらに驚き。



▲縦に三連!



▲紙吹雪!


生の演奏や効果音が加わり、演者とナレーターが男女で分かれるなど、立体感が楽しい楽しい。
文楽ふうあり、影絵あり、いやもう、紙芝居の概念が覆されます。


そして、演者の足元は、投げた絵でたちまち埋もれます
作品の転換時にそのつど片付けるのですが、それでも次の演目へ入ると、見る見る、おびただしい数の紙の山が。
すべてポスターカラーによる手描き一点もの絵画
ある意味、これほど贅沢なアート体験はありません



▲床には放り投げた絵が、みるみる山のように積みあがる



▲転換のたびに片付けるのだが、また同じような紙芝居マウントができあがる


確かにこんな紙芝居、初めて!
いったいなぜこんなスピーディかつスペクタクルな紙芝居が誕生したのか。
空飛ぶ紙芝居「スパイスアーサー702」のリーダーであり、作・演出・めくり担当の「ピョンキー」こと西尻幸嗣(にしじり ゆきつぐ)さん(55歳)に、お話をうかがいました。



▲作・演出・めくり担当の「ピョンキー」こと西尻幸嗣さん


■「高速で大量に絵をめくったら、残像で、映画のように観えるんじゃないか?」


――西尻さんが率いる空飛ぶ紙芝居「スパイスアーサー702」の公演を鑑賞させていただいて、「とても映画的だ」と思いました。


西尻
「映画的であることは意識しましたね。『高速で大量に絵をめくったら、残像で、映画のように観えるんじゃないか?』と考えたのが、あのパフォーマンスをはじめたきっかけなんです」


――やはり映画を意識されていたのですね。調べたところ、以前は自主映画の監督をされていて、1984年の第七回「ぴあフィルムフェスティバル」で入選しているんですね。


西尻
「そうなんです。小学生の頃から、家にあった8ミリカメラで、見よう見まねで映画を撮っていたんです。それがきっかけで自主映画をやっていました」


――入選を記念して全国公開もされた映画作品「肉体労働者が空を飛ぶ時 窓ぎわのコーちゃんに恐怖の暗躍団が迫る」は、すでにタイトルに「空を飛ぶ」と入っていますね。


西尻
「あ、本当ですね。言われて気がつきました。空を飛びたいから? いやあ、どうでしょう。いまやっていることとの関連は……自分ではわからないですね」


――映画だけではなく、大阪芸術大学美術学科に在籍していた頃に漫画で『ヤングマガジン』でデビューもされ、さらに『ビッグコミックスピリッツ』『アフタヌーン』など、そうそうたる有名漫画雑誌でも入選されていますね。


西尻
「漫画も描いていました。立て続けにいろんな雑誌で採りあげられました。ただ、入選作はいわゆる私小説的な世界で、ストーリーものの連載となると難しくて……漫画家として生きることはあきらめました」





■シナリオや絵コンテまでも。一編を完成させるのに3か月かかる


――そうだったのですか。漫画家を断念されて、その後はどうされたのですか?


西尻
「社員デザイナーとして働きながら、90年代に入ってから木版画をずっと制作しているんです。絵を飛ばしながらの高速紙芝居をやりはじめたのも、最初は作家どうしのイベントの演し物だったんです。そのうち高速紙芝居がおもしろがられて話題になり、ラジオパーソナリティで女優の伊舞なおみが『私が弁士をやる』と言いだし、メンバーがひとり増え、ふたり増え、そうして現在のかたちになったのです。なので結成時期は、あいまいなんです。2004年から2007年のあいだに、ユニットになったのかな」



▲語りの伊舞なおみさん


――絵を飛ばすパフォーマンスもさることながら、とにかく枚数がすごいです。しかも一点一点、手描きで。一編しあげるのは、どれくらいかかるのですか?


西尻
「シナリオを書いて、絵コンテを描いて、絵を描いて、だいたい3か月かかりますね。以前は会社の仕事が終わったあとでも1日に20枚は描けたんですが、年齢を重ねるとともに、だんだん無理が効かなくなってきて。現在は1日10枚くらいです」





■子ども向けにつくったわけではないけれど


――以前ほどではないとはいえ、あの力がこもった絵を1日に10枚も描いておられるなんて、すごいです。さて「紙芝居」は、そもそも子どものための文化ですが、お子さんが観ることは想定しながら制作されていますか?


西尻
「もともと作家に向けての表現だったので、子ども用だなんて、さらさら考えていなかったです。ただ、実際にお子さんの前で上演すると、とても喜んでくれるんです。たくさん絵が飛んでくるのがおもしろいみたい。そういうのもあって、見せ方は少し考えるようになったかな。そして今年つくった作品は、メンバーからの要望もあり、ファンタジーに挑戦してみました。これも『子ども向きか?』といわれると、違うかもしれませんが」


――新作「ポンチャの山」ですね。子ども向けというより、子ども向けの裂け目から大人の世界が垣間見える、ほろ苦い作品でした。





西尻
「小学生の頃、薄暗い体育館で、みんな映画を観たじゃないですか。あのときの、決して明るくない空間でのドキドキ感、ああいう雰囲気は大事にしたいと思ってるんです。そういう点で、自分がつくる紙芝居のなかには、子どもの頃の原体験が反映しているのかもしれませんね」


深い余韻を残す、空飛ぶ紙芝居。
舞い散る絵は、創造欲の飛沫と言えるでしょう。






▲めくり尽くした!


■「スパイスアーサー702」の公演を奈良で観られる!


そんな「スパイスアーサー702」の公演が、9月23日(日)に、「なら国際映画祭2018」の一環として開催されます。


9月23日(日)
「なら国際映画祭2018」


開場:16時15分
開演:16時30分(終演予定・18時すぎ)
会場:尾花座(ホテルサンルート奈良1階 奈良県奈良市高畑町1110 )
木戸賃:1500円


チケット購入方法

★チケットぴあ Pコード 558-955
・電話予約 0570-02-9999(24時間受付)
・インターネット販売 https://t.pia.jp/

★店頭販売
ホテルサンルート奈良で購入可能(9/5~9/19)


なら国際映画祭2018
http://nara-iff.jp/2018/


まさに「モーション・ピクチャー」と言える空飛ぶ超高速紙芝居を、ぜひ映画祭で体感してみてください。


スパイスアーサー702
http://kamishibai702.blogspot.com/







TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


タイトルバナー/辻ヒロミ