コテコテ英語で道頓堀を案内する名物女性ガイド「はっちゃん」の1日に密着!

2018/8/13 15:00 吉村智樹 吉村智樹


▲丸っこくて愛らしい、この女性、愛称は「はっちゃん」。はっちゃんは高い英語力を活かし、訪日外国人を引率して道頓堀を案内するガイドさんだ


いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





■世界中から観光客が集まる「道頓堀」


日ごと夜ごと、大勢の観光客でにぎわう大阪ミナミの「道頓堀」
くいだおれ太郎、グリコの看板、大きな川、大きな橋、大きなカニ、大きな龍、大きな餃子などなど、わかりやすいアイキャッチとネオンサインの光彩に溢れた、大阪きっての一大繁華街です。



▲大阪を代表する繁華街「道頓堀」


道頓堀を行き交う観光客のほとんどが訪日外国人
実際に道頓堀に立ってみると、いかに外国人観光客が多いかがよくわかります。
日本語が珍しいほど、世界各国の言葉が四方八方から聞こえてくるのです。


産経WESTの記事によると、「平成29年に日本を訪れた外国人は2800万人超で過去最高を更新。そのうち大阪は初めて千万人の大台を突破した」と。
https://www.sankei.com/west/news/180404/wst1804040001-n1.html


さらに大阪へやってきた訪日外国人観光客に対するアンケート調査では、人気スポット1位が「道頓堀」
次いで2位が「大阪城」、3位が「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」となっており、歴史あるお城や国際的な遊園地をも抑えるほどの人気なのです。


■英語で外国人観光客を爆笑させる女性ガイドがいた


そんな道頓堀でいま、ひとりの女性が注目を集めています
それが「はっちゃん」の愛称で親しまれる畑中綾(はたなか りょう)さん(26歳)。



▲お好み焼き専用のコテを手にする「はっちゃん」こと畑中綾さん


146センチという小さなボディをフル稼働。
割烹着を思わせる和の装いで、お好み焼きをひっくり返す「コテ」を手に、夜の道頓堀を元気いっぱいに案内する女性ガイドさんです。


「はっちゃん」が注目される理由は、外見の愛らしさ、だけではありません。
とにかく英語がペラッペラなのです!
そのうえ流ちょうな英会話にはふんだんに笑いの要素が盛り込まれ、外国人観光客は大爆笑
外国語が堪能なガイドさんは、ほかにもいるでしょう。
しかし、笑都ナニワ流イングリッシュによる街案内は、彼女でなければ味わえないのでは。



▲外国人観光客を引き連れ、道頓堀を案内。はっちゃんのイングリッシュトークで観光客の笑顔が絶えない



▲「この線香の煙を、身体の弱いところへあてると、患部がよくなると言われています。はっちゃんは、おつむが弱いから」と煙を頭にあてる(といった説明を英語で)


そんな「はっちゃん」のガイドの面白さはワールドワイドに口コミで広がり、トリップアドバイザーでも紹介されました。
Facebookのフォロワーは、なんと3万人以上!
そうして、さまざまな国の人たちが、今夜も彼女に会いにやってくるのです。
海外の方から見て、大阪でもっとも人気が高いアイドルと呼んで大げさではないのです。





そんなウワサの「はっちゃん」の道頓堀ツアーに一日密着しました。


■1日4回、フルパワーで道頓堀を案内


「おおきに! ビキニ! ズッキーニ!」


はっちゃんの開口一番のギャグに、外国人観光客が涙を流さんばかりに大笑い。
ツカミはOK!
欧米人は特にこれがウケるのだとか。
「海外にも駄ジャレってあるんだ」と、いきなり驚かされました。



▲台湾からやってきた男子。日本は2度目。M-1を観るほど日本のお笑いに詳しく、好きな日本語は「ノリツッコミ」



▲インドネシアからやってきた青年。行きたい場所をすべてエクセルに列挙し、細かいスケジュールをたてていた。すごいカメラを持っている














この道頓堀界隈ツアーの名は「JAPAN NIGHT WALK TOUR」



▲はっちゃん自身がプランニングした「JAPAN NIGHT WALK TOUR」


「JAPAN NIGHT WALK TOUR」は世界中の人たちが参加できます(もちろん日本人も)。
はっちゃんが入社した2016年に実験的におこなわれ、2017年から本格的にスタートしました。


ツアーは午後6時から1日4回。
所要時間は45分。
一回あたり定員は20名。
予約は不要で、料金はなんとたったの1000円(税込み)!
※6歳未満無料
ガイドは交代制で、365日、年中無休。


はっちゃんは、おチビさん。
お客さんが自分を見失わないよう、鯉のぼりを掲げて道頓堀を先導します(鯉のぼりである理由は『特にない』とのこと)。



▲お客さんがはっちゃんを見失わないよう、鯉のぼりを持って先導する


■関西人も知らなかった道頓堀の穴場


いや~、はんちゃんが案内するツアーに同行し、いかに自分が道頓堀について何も知らなかったかを思い知らされました。


「くいだおれ太郎」の頭上に垂れるシャンデリア状のものが、実は数百に及ぶ小さなくいだおれ太郎だったり(こ、こわ!)、道頓堀橋の欄干に、お好み焼きのコテがずらりとディスプレイされていたり、見なれたグリコの看板が、ある瞬間だけグリコ商品が上からどかどか降ってくるデザインに変化したり。


はっちゃんに案内されるまで、ぜんぜん知らなかった。



▲見慣れた「くいだおれ太郎」だが、頭上を見あげると……



▲おびただしい数の「小さなくいだおれ太郎」が。知らなかった!



▲道頓堀の橋の欄干、外側から見ると、お好み焼きのコテが並んでいるデザイン。知らなかった!



▲にぎやかな道頓堀商店街の穴場「浮世小路」。道幅が1メートルほどしかない細長い路地。小料理屋が並ぶほか、江戸時代からの昭和初期までの大阪が再現されている。大阪人でも、ここの存在を知らない人は多い


僕は関西人なのに、いや関西人だからこそ、空気のような存在である道頓堀について、改めて見直そうとしていなかったんだなと反省。



▲大勢の人でごったがえす道頓堀エリアに、こんな誰も通らない道があったなんて! この街を熟知し、抜け道をするする歩いてゆくはっちゃん



▲マンホールまで案内!



▲はっちゃんは「道頓堀のマンホールガイド」を手作りしている


■「世界各国の英語」でしゃべくり!


そして聞きしに勝る、はっちゃんの英語力! エクセレント!
なにがすごいって、案内する海外の方のお国によって、はっちゃんは英語の発音を変えているのです


はっちゃん
「英・米の正しい発音をするだけでは英語は伝わらないんです。韓国からのお客様なら韓国で発音される英語を、中国からのお客様なら中国の英語を、マレーシアからのお客様ならマレーシアで話される英語を。どこの国も英語の発音が違います。なので微妙に発音を変えているんです


なんと彼女は「世界各国の英語」が話せるのです。
しかもどんな発音の英語がいいか、お客さんと会話するなかで瞬時にさぐって見極めるというからワンダフル。


そしてお客さんによってコースを変えるのも驚きました。
1日4回の周遊は、どれも行き先が異なり、たとえ同じ場所でも滞在時間が違う。
しかもその変更の判断は臨機応変で、かつ、よどみがない。


はっちゃん
「45分間のなかで、お客様がもっとも満足できるコースをその瞬間その瞬間に判断します。お客様が見たいもの、知りたいこと、興味を示したこと、示さなかったこと、歩幅、歩く速度、人数、それらの要素をすべて鑑みて、コースをどんどん変えてゆきます。天気が悪いときは雨雲レーダーのアプリを見ながら『○時○分は道頓堀が雨か。ならば○分までは屋根があるところを案内しよう』といったように気候でコースを変える場合もあります。雨雲の動きを気にするのは、できるだけ傘を差したくないからなんです。傘をさすと、お客様の表情が読み取れないから。つねにしっかりとお客様と向き合いたくて」


「傘をさすと、お客様の表情が読み取れない」。
お客さんの面持ちを見つつのとっさの判断力と対応力には舌を巻きました。



▲取材日はあいにくの雨だったが、雨雲の動きを見極め、雨がやんでから屋外へ。そのとっさの判断力に舌を巻いた


なかには、せっかく道頓堀へ来たのに「京都や奈良の名所を教えてくれ」とせがむお客さんも。
それでもはっちゃんはお客さんの要望に応え、笑顔でスマホを操作しつつ、京都や奈良のおすすめスポットや、外国人向けのガイドブックに載らない穴場なグルメを紹介するのです。


僕が1日くっついて歩いて、はっちゃんが困っていたのは「宮城蔵王キツネ村へはここからどうやって行くのか」とお客さんに問われたとき、そのたった1回だけでした。



▲「明日は奈良へ行きたい」という男子のために、道頓堀の路上で奈良のおすすめスポットを教えるはっちゃん


■気持ちのスイッチを切り替えて「はっちゃん」に変身


そうして4回のツアーは終了。
一回の周遊を終えるとダッシュで受付へ戻り、休憩する間もなくハイテンションで再び道頓堀をガイド。
パワフルで、ひとときとて手を抜かない姿勢に圧倒され、胸を打たれました。


はっちゃん
「畑中からはっちゃんになるスイッチ入れるんです。スイッチが入っている間は止まりません。なのでスイッチを切ったら、もうへろへろです(笑)」


いやあ、お疲れさまです。
はた目にハードなこのツアー、はっちゃんは月におよそ700人の観光客を案内しています。
そしてこれ以外にも夜までは修学旅行生の案内やホテルへの営業もしているというから、もう小さな巨人です!(あ、阪神か)


■英語も漫才の腕もエリート級


はっちゃんは、平野区生まれの、生粋の大阪市民。
高校時代になんばへ移り住み、道頓堀は十代の頃から生活の一部でした。


高校時代は吉本新喜劇の影響を受け、お笑い好きに。
2008年度「AEON 高校生M-1お笑い甲子園」に漫才コンビ「トマトキャット」として出場。
地区大会優勝を飾るほどツッコミが冴えるJKでした。


英語は「TOEIC895」「実用技能英語検定準2級」。
英語は4歳から習い始めたのだそう。


はっちゃん
「両親が海外旅行が好きで、私が旅先で不自由をしないように、英語を習わせてくれたんです。グアム、バリ、香港、オーストラリア、ハワイ、ベトナム、タイ……いろんな国へ行きました。そして、どの国でも英語さえ話せたら意思が伝わるのが子ども心に楽しくて、英語がますます好きになりました。これまでいろんな習い事をしてきましたけれど、続いたのは英語だけ(笑)」


幼少期から、英語でのコミュニケーションの楽しさを知ったはっちゃん。
さらに彼女はこの頃、早くも現在の仕事に通じる体験をしたのです。


はっちゃん
「ある日、海外から来られた方が道に迷って困っていたんです。それを見た母が『あんた、あの外国の方を案内してあげなさい』と私の背中を押しました。私はおそるおそる『May I help you?』と声をかけました。そうすると、とても喜んでくださって。私自身も自分が話す英語が人の役に立って嬉しかった。あの経験が、いまの仕事へつながっていると思います」



▲かつて漫才でツッコミをやっていただけあり、トークは抜群


■「日本人の英語は英語しすぎていて通じない」


子供の頃から英語での道案内を経験したはっちゃんはその後、旧:東商業高等学校国際経済科で商業英語を学び、大学は大阪芸術大学短期大学部英米文化学科へ進学。
さらに短大時代に半年間イギリスへ留学。
現地で英語について、ある事実を知るのです。


はっちゃん
「オックスフォード大学の寮に半年間いて、気がついたんです。日本で教えている英語は『ちゃんと英語英語しすぎている』って。実際の英会話はもっと砕けたものだったし、日本の英語は英語すぎて、いまの若者に通じない場合さえある。なのでこのツアーガイドでは、できるだけ堅くない英語を使うようにしています」


「日本の英語は英語すぎる」。
短大時代にそう気がついたはっちゃんは、よりいっそうリアルな英語が話せるようになるために、現在ある独自な方法で勉強しています。
それが「映画」。
なんと洋画だけで1200枚以上のDVDが家にあるのだとか


はっちゃん
「映画のセリフや挿入曲を日本語に訳してノートに書いて、あとで答あわせするんです。これがすごく頭に入るんですよ。あと『このセリフ、いいな』と思ったらガイドで話すこともあります。だから映画を観ることがいまもっとも仕事に役に立つ勉強法ですね。とはいえ勉強のためというより、トム・クルーズが好きだから始めたことなんですが(笑)」


■言葉は通じなくとも全身を使って伝える


トム・クルーズ好きゆえか、日々さまざまなミッションを乗り越えるはっちゃん。
英語は堪能ですが、お客様全員が英語を話せるとは限りません。
母国語しか話せない外国人だって、やってくる。
それでも、はっちゃんは全力でガイドをするのです。


はっちゃん
「国の名前を聞いても、地球のどこにあるのか、すぐにはわからない。何語なのかもわからない。でも、私が知らない国から来られた方にも『道頓堀は楽しかった。来てよかった』っと思ってもらいたい。なので簡単な英単語と、あとは身振り手振り。頑張れば伝わるし、笑ってくれる。ときには再来日してお友達を連れてきてくれる。そんなとき、このお仕事をやってよかったと本当に思います。日本の47都道府県あるなかで大阪を選んでくれて、大阪でも観光できる場所がたくさんあるのにわざわざ道頓堀を選んでくれて、何万人もいる道頓堀で私と出会っている。これってすごいことやと思うんです。その出会いに感謝して、この時間を大切にしたい。いつもそんな気持ちでやっています」


お客さんとのコミュニケーションを大切にするはっちゃん。
お客さんに教えたおいしい飲食店へ「本当に行ってきたよ」と、あとで写真が届くこともしばしば。











はっちゃん
「はじめの挨拶の『おおきに! ビキニ! ズッキーニ!』ということばも、お客様につくっていただいたんです。はじめは『おおきに!』だけだったんですが、『ビキニ!』『だったらズッキーニは?』というふうに声がかかって。このツアーは、お客様を案内するだけではなく、自分自身もお客様に想い出をつくってもらってるんやなあと思いますね。これからもお客様とともに過ごす時間を大切にしたいです」



JAPAN NIGHT WALK TOUR
http://nightwalk.jp/
*はっちゃんがまわる日時は要問い合せ



協力:木村美季



TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


タイトルバナー/辻ヒロミ