SNSで目撃報告が続出! 街を走る謎のミニミニカーの正体は?

2018/7/3 10:30 吉村智樹 吉村智樹

▲SNSで「あの小さなクルマはなに?」と話題騒然。その正体は?


こんにちは。
関西在住のライター、吉村智樹です。


この連載では、僕が住む関西の耳寄りな情報をお伝えしてゆきます。
今回はその第28回目となります。





■SNSで目撃報告続出! あれはなんだ! 謎の激小ミニカー


「とても小さくてかわいい車が街を走っている」。
昨年あたりからTwitterをはじめとしたSNSで、ある車の目撃情報をたびたび目にするようになりました



▲TwitterやInstagramなどで目撃情報が多数投稿される。「インスタ映えカー・オブ・ザ・イヤー」だ


投稿された画像を見ると、車体はパナソニックの前身ブランド「ナショナル」(松下電器)時代のデザインが施されています。
しかもその車が目撃される場所の多くが大阪。


パナソニックといえば大阪の門真(かどま)市に拠点を置く電機メーカー。
今年3月に創業100周年を迎えたので、僕はてっきり「パナソニックが記念行事の一環として当時の宣伝カーを復刻して走らせているのだ」と思い込んでいました。


しかし調べるうちに、そうではなく、パナソニック(ナショナル)とは直接関係がない一般の方の自家用車だと判明


いったいあの小さな車はなんなのか?
「匿名」「匿住所」「個人情報非公開」を条件に、ウワサのミニミニサイズカーの持ち主と接触することができました。


■駐車場1台分に3台も停められるミニミニサイズ


待ち合わせ場所でスタンバイしていると、き、来た!



▲本当に来た! あまりにも小さな車体。目の錯覚で道路が広く見える。


間違いなくあの車だ。
失礼ながら、笑ってしまうほどの小ささ。



▲駐車場へ誘導。小回りが利きまくる動作がカワイイ



▲なんだかおもちゃみたい


小さすぎて反対に見落とすはずがないマイクロサイズ。
さらにレトロなデザインが愛らしい。
SNSで話題になるのもおおいにうなずけます。


持ち主はハンドルネーム「kaorububu」(カオルブブ)さん
40代の男性です。


いったんコインパーキングに駐車していただきましたが、スペースがすっかすか!



▲持ち主のkaorububuさん。匿名&匿顔なので、カウンタックのお面をかぶってご登場



▲駐車スペースがスカスカ!


kaorububu
「普通の駐車場なら1台分で3台は停められますよ


1台分で3台も! ということは単純に普通自動車サイズの「およそ3分の1」なんですね。
こんなに車体が小さいと、運転席はかなり窮屈なのでは……。


kaorububu
「いいえ、意外と広々としているんです。足元もゆとりがあります。苦痛がないし、乗っていること自体がとても楽しい車です」



▲足元は意外と広々~



▲ひとり乗りの運転席。ハンドルまわりはさながらレトロミュージアム



▲大人ひとりが首を屈めることなくすっぽり収まる


実際に運転席に座らせていただきましたが、僕はけっこうな巨体であるにもかかわらず、背中をかがめることもなく、すっぽり収まりました。
そして、おっしゃるように、座っているだけで楽しい~。


■正体は80年代に発売された「原付免許で運転できる自動車」


原型となる車は富山県にある日本でもっとも小さな自動車メーカー「光岡自動車」が1982~1985年に発売したマイクロカー「BUBU501」
BUBUシリーズは女性を対象にうみだされ、最初期は原付免許で運転できました。



▲80年代に人気を博した「BUBU501」「BUBU502」



▲「BUBU503」


眼の前にあるBUBU501はおよそ3年前から始動。
埼玉県の農家の倉庫に放置されていた朽ちた不動車を15万円で買いとり、修理をして蘇らせたものなのだそう。
kaorububuさんの仕事の内容はヒミツですが、このBUBU501は配達をはじめとする営業車として普段使いしています。


ボディは金属ではなくFRP(繊維強化プラスチック)。
窓はガラスではなくアクリル。
なので車体はすこぶる軽く、手でひょいっと持ち上げることができます。
「それに、たとえ割れたり壊れたりしても、自分ですぐ直せます」と、どこまでもお手軽でお手頃。
維持費はなんと年間たったの数千円!


外周のデザインは塗装ではなく「自分でシールを切って貼った」というから、kaorububuさんの造形技術がすごい。
スピードは「馴れれば50キロくらい出せる」のだそう。


前進がエンジン、バックは電動、モーターで動かします(なのでバックするときはギリギリギリギリッと、ものすごい音が)。
冷暖房はなく、そのため窓にはお手製の送風パイプがしつらえられています



▲冷房がないため雨どいを送風パイプとして利用


燃費は「リッター40弱」。
ガソリンスタンドで給油をしていると、他の車の運転手が「自分の給油を置いたまま写真を撮りに来ます」とのこと。
そりゃ、これほどリトルサイズの車がちょこまかガソリンスタンドに入ってきたら、誰しもが「なんだ? なんだ?」と気になりますよね。
kaorububuさんはこのような小さな小さな車を愛し、なんと3台も所有しています。


■街から消えた理由は、大流行しすぎて「国が規制をかけた」説


それにしても驚きました。
こんなに小さな車が80年代に発売されていたとは。
しかも一般公道を走っていただなんて、いまでは信じられません。


kaorububu
「販売当時は『ちょっとした買い物に出かけられる』と評判になったんです。全国のローカル自動車メーカーがこぞって発売しました。3輪車だったり4輪車だったり、いろんなスタイルのものがありましたね」



▲「BUBU501」は三輪車。後輪が一本タイプ


ほほお、そんなに人気が高かったのですか。
とはいえ現在こういう激小自動車がポピュラーではないということは、言い方は悪いですが……もしや「一発屋」だった?


kaorububu
「いいえ、逆です。すごい人気で、ブームに乗じて大手メーカーも発売しようとしていたほどです。しかしそれを知った国が規制を強めたため、新たに製造できなくなったのだという説があります」


なるほど、飽きられて消えたわけではなかったのですね
身体は小さいけれど、ひと頃の日本の自動車史を揺るがす大きな存在だったんだな。


■あまりに欲しくて高校時代に購入し「運転席でじっとしていた」


kaorububuさんはこういった小さな車を3台も所有しているそうですが、初めて購入したのはいつですか?


kaorububu
高校生の時です


こ、こ、こー、高校生、ですか?!?!


kaorububu
初めて買ったのはBUBU502でした。まだ運転免許も取得していないのに、中古車屋の片隅に置いてあったBUBU502がどうしても欲しくなり、買いました。運転できないから父親の知り合いに頼んで家まで運んでもらって。そして運転免許を取得するまでは動かさず、秘密基地のように家で運転席にじっと座って楽しんでいました


ほぉ~。
高校時代に運転免許を手に入れる前にすでに購入し、動かさないまま楽しんでいたとは、なんというユニークな学生生活。
でも確かに運転席に座ると、自動車というより宇宙ロケットのコクピットにいるような、胸の高鳴りを憶えました。


kaorububu
「そうなんです。よくレトロって言われるんですが、SNSに投稿する若い人たちは、懐かしいものではなく新しい車としてとらえているんだと思うんです。”未来の乗り物”という感じで。僕自身も特にレトロだから好きなわけではない。『デザインが新しいな』って思ったから選んだんです」


おっしゃるとおり、昭和50年代の原体験がない若者やお子さんにとって、これはレトロというよりニュー・ウエーブ。
きっと斬新なものとして目に映っているでしょう。
SNSに掲載するだけではなく「乗せてほしい」と頼まれることもあるのでは?


kaorububu
「お子さんが乗りたいといえば乗せてあげます。お子さんに限らず声をかけてもらったら、どんどん乗ってもらっています。車って『乗ってナンボ』ですし。それにTwitterでフォロワーさんから『うちの地方にも来て』と声をかけられたから遠征したことも何度もあります。先日も九州をめぐってきました。さすがに高速道路には乗れないので、軽トラックの荷台に積みこんで運びました



▲「うちの街にも来て」というリクエストに応え、軽トラックの荷台に乗せて遠征することも


遠出するときはトラックに乗せていくんですね。
親亀の背中に子亀が乗っているようで、さらにカワイイです。
ご自身で「この車に乗ってよかった」と思うことはありますか?


kaorububu
「このBUBU501を見て、おばあちゃんが孫に『昔はこんなんが街を走っててんで』と話しているのを見たとき、ああ乗っていてよかったと思いました。離れた世代を結ぶコミュニケーションツールになってくれて、それが嬉しかったです」



▲「運転席に座らせてほしいと言われたら、『いいですよ』と、どんどん座ってもらっています。車は乗ってナンボですから」


■世の中を明るくしたかったから、明るいデザインに


ところで大きな車に興味はないのですか?


kaorububu
「うーん、実は以前ある高級外車に乗っていたんです。確かにいい車なんですが、別に街ゆく誰かを楽しませているわけでもないし、あるといえば優越感だけ。そんなふうに人の優位に立つような気持ちになるのが、めんどくさくなりましてね。それやったらみんなもっと楽しめるものが乗りたかった。僕らの世代になると、やれ高級車を買っただの、やれいくら稼いだだの、そういうことが自慢になりがちです。でも『車ってもっと楽しいもの、面白いものとちゃうんかな』と僕は思うんです」


そうですよね。
優越感って、ひたっているのは本人だけ。
しかも見ている人は、実はさほどうらやましいとは思っていないのが正直なところです。


「車ってもっと楽しいもの、面白いもの」と考えるkaorububuさん。
では外装に凝ったのも、そういう理由で?


kaorububu
「はい。3年前の大阪は凶悪な事件が多く、雰囲気が沈んでいました。『なんか明るい話題を提供できないものか』と思い、それまで白かったボディをナショナルのデザインに変えたんです。明るくしたいという想いから、当時のキャッチフレーズ『明るいナショナル』にあやかって」


あ、「明るいナショナル」にあやかってですか!?
BUBU501をナショナルのイメージにラッピングしたのは、「世の中を明るくしたい」という想いからだったのですね。



▲パナソニックに表敬訪問


しかしここまで大胆だと、当のパナソニック(ナショナル)から抗議されないか心配です。


kaorububu
「抗議などまったくなかったです。それどころか『感動した』とおっしゃっていただきました。粋な会社です。僕もご理解をいただき、感謝しています」


さすが地元企業、ふところ深いですね。



▲松下電器(ナショナル)の創業者、松下幸之助氏とご対面



▲ダッシュボードには「ナショナル坊や」が


■弟が誕生! ニックネームは「山パン号」


今後はどのようなことを考えていらっしゃいますか。


kaorububu
「BUBU501よりさらに50センチ小さい『サイデスカー』というコンパクトカーをヤマザキパン(山崎製パン)のデザインにしてみようと思っています」



▲BUBU501よりさらに50センチ小さい「サイデスカー」(乗りもの館)



▲かつては「走るバスタブ」と呼ばれたのだそう


おお! 今度はヤマザキパンですか。
ナショナルに続きヤマザキパンを選ばれた理由はなんでしょう。


kaorububu
「ヤマザキパンって70年近くデザインが変わっていないんです。それってすごいことだと思うんです。単なる懐かしいってだけではなく、『街のデザインをもう一度見直そうよ』。そういうメッセージを込めていつも運転しています」



▲デイリーヤマザキに横付け



▲リスペクトを込め、クッションはランチパック



▲ナショナル号と山パン号、これからこの兄弟の姿がSNSを騒がせるかも


新たに登場するのは、まるで食パンのようにスクエアなボディの弟カー。
こうして街に蘇ったBUBU501とサイデスカー。
時代に楽しさを運んでくる頼もしい奴ら。
車体は小さくとも、大きなけん引力を誇る存在なのです。



▲取材を終え、道路へ戻ってゆくbubu501



▲さよ~なら~。また街のどこかでお目にかかりたいです


@kaorububu
https://twitter.com/kaorububu501



(吉村智樹)
https://twitter.com/tomokiy