「悪人orヒーロー?」都内6会場に悪が展開!多分野連携展示「悪」がスタート!

2018/6/11 09:30 はろるど はろるど

ドラマや映画はもちろん、ありとあらゆる物語に欠かせない悪役の存在。何かとネガディブなイメージのある「悪」ですが、誰しもが1人や2人は、好きな悪役がいるものですよね。そもそも主役を超えるほどに存在感のある悪役も少なくありません。

そうした「悪」を、美術、ないし歴史資料から掘り下げたら、一体どうなるか?今、都内の6つの施設で、古今東西、様々な「悪」をテーマにした展覧会が開催されています。

■多分野連携展示「悪」

それが多分野連携展示「悪」。ストレートなタイトルですよね。中でも目立っているのが、太田記念美術館の「江戸の悪PartⅡ」。「人はなぜ、悪に、惹かれるのか?」をテーマに、江戸の盗賊、侠客、悪僧、それに妖術使いなどの「悪い人」たちが大集結!ちょうど2015年に開催された同名の展覧会が、出品点数を倍増し、パワーアップして開かれています。(前後期で全点展示替えあり。)




「江戸の悪 PARTⅡ」太田記念美術館(神宮前)
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/special/2018/edonoaku/
会期:6月2日(土)~7月29日(日)
(前期:6/2~27、後期:6/30~7/29)

またほかの「悪」の展覧会はご覧の通り。何も「悪」は江戸時代だけではありません。中国考古資料や落語に講談、さらには現代美術に登場する「悪」と、実に多岐に渡っています。6月に入って全てが出揃いました。




多分野連携展示「悪」一覧
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/special/2018/edonoaku/event.html

「悪人か、ヒーローか Villain or Hero」東洋文庫ミュージアム(本駒込)
http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/
会期:6月6日(水)~9月5日(水)

「惡-まつろわぬ者たち-」國學院大學博物館(渋谷)
http://museum.kokugakuin.ac.jp
会期:6月1日(金)~8月5日(日)

「HN【悪・魔的】コレクション~evil devil~」ヴァニラ画廊(銀座)
https://www.vanilla-gallery.com
会期:5月30日(水)~7月1日(日)

「悪を演(や)る-歌舞伎の創造力―」国立劇場伝統芸能情報館(半蔵門)
http://www.ntj.jac.go.jp/tradition.html
会期:6月2日(土)~9月24日(月)

「悪を演やる -落語と講談-」国立演芸場演芸資料展示室(半蔵門)
http://www.ntj.jac.go.jp/engei/event/1686.html
会期:4月1日(日)~7月22日(日)

チケットの半券やパンフレットのクーポンによる相互割引も実施中!さらに銀座の蔦屋書店でも、「悪」に関したトークイベントやブックフェアが行われます。まさに初夏の「東京悪まつり」ですね。全てを1日で回るのは難しそうですが、この機会にぐるっと「悪」巡りといきたいところです。

■いざ、東洋文庫ミュージアムへ

というわけで、私も早速、「悪」を見に行くことにしました。最初に選んだのは、本駒込の東洋文庫ミュージアム。かの三菱財閥の第3代当主、岩崎久彌の創立した、東洋学分野の日本最古でかつ最大の研究図書館で、2011年にコレクションを公開するミュージアムがオープンしました。


東洋文庫。一般観覧料は900円ですが、ぐるっとパスを使用するとフリーで入場出来ます。

最寄駅は都営三田線の千石駅です。不忍通りを日暮里方面へ7~8分ほど歩くと、右手に大きな建物が見えてきました。まだ新しいミュージアムです。六義園の近くでもあります。

■日中の悪人伝説に関する資料が一堂に


オリエントホール。国内最長の展示ケース内の古書も見どころ。

エントランスを抜ければオリエントホール。天井高のある縦に長い空間です。ここでは100万冊もの蔵書から、企画展に合わせた資料をピックアップ。妖怪に関する本が目立っていました。


企画展「悪人か、ヒーローか」展示会場。

そして2階こそが、多分野連携展示「悪」の1つである、企画展「悪人か、ヒーローか」の会場です。日本、中国、一部に西アジアやヨーロッパの「悪人」、あるいは「ヒーロー」とされる、歴史上の人物の記録資料などがずらりと並んでいました。さほど広くはないスペースですが、所狭しと資料があり、かなりボリュームのある内容でした。しかも一点一点の解説が細かい!人物や作品を知らずとも大丈夫です。

■本当に悪人?実はヒーロー?


イラスト入りの親しみやすいキャプションも嬉しい。

さて展示ですが、タイトルが示すように、単に「悪」だけを取り上げているわけではありません。つまり、当時の社会通念や支配制度で「悪」とされた人物が、ある時には「ヒーロー」として描かれていることがあるのです。また逆に偉業をなした人物が、逆に「悪」として語り継がれている例もあります。実は「悪人」と「ヒーロー」とは、表裏一体の関係にあるのかもしれませんね。

■始皇帝、三国志から、蘇我入鹿、織田信長、鼠小僧次郎吉、さらにナポレオンへ


「史記 秦始皇本紀」 司馬遷 紀元前91年頃成立 1525年(中国明代)刊

トップバッターは秦の始皇帝です。「暴虐なる皇帝」との言葉もあり、「悪」のイメージも拭えませんが、歴史書の「史記」には暴君であることの位置付けがなされていません。「悪」は、後の儒者による評価が大きいのだそうです。


「三国志」 陳寿撰 東晋(371〜451)年成立、1739年(中国清代)刊

また何かと日本で人気の「三国志演義」における「蜀びいき」も儒者による影響が大きいとか。そもそも演義の成立前より、蜀の劉備や諸葛亮を善玉とする傾向がありましたが、南宋の儒者である朱熹と朱子学の流行が決定づけたとする説も存在します。江戸時代に日本でも朱子学が正学となっただけに、日本人の蜀好きも少なからず影響があるのかもしれませんね。


「日本書紀」 舎人親王ほか編 720年成立、1610年(江戸時代)刊
「妹背山婦女庭訓」 近松半二ほか作 1771年初演、1849年(江戸時代)刊

日本ではどうでしょうか。古代では蘇我入鹿です。確かに悪役として扱われることが多いですよね。しかし全ては「日本書紀」の記述のゆえのこと。それが「蘇我氏=悪」(解説より)のイメージを植え付けました。しかし一度、貼られたレッテルはなかなか拭えません。江戸時代の浄瑠璃や歌舞伎の演目においても、蘇我入鹿は超人的なスケールを持つ大悪役として描かれました。


「信長記」 小瀬甫庵 1622年(江戸時代)刊
「読史余論」 新井白石 1712年成立 1860年(江戸時代)刊

「太平記」に登場する足利尊氏楠木正成も、後世に大きく評価の変わった人物です。そして織田信長。天下統一を目指した豪傑ですが、江戸の朱子学の観点からは厳しく評価されていたそうです。新井白石は「読史余論」で信長を「天性残忍」と称しました。


「鼠小紋春着新形」 河竹黙阿弥作 1857年初演、1891年刊

「義賊」として知られる鼠小僧次郎吉は、むしろ「美化しすぎ」(解説より)でもあるそうです。最後はナポレオンへ。19世紀末のイギリスの伝記、「ナポレオン・ボナパルトの生涯」では、「世界各国に対する侵略者」として批判的に書いている一方、日本の漢詩人である頼山陽は、1818年、ナポレオンを「悲劇の英雄」として讃える詩を詠みました。そのナポレオン像は、幕末、明治にかけて、多くの人の心を捉えたそうです。


「地震風刺絵」 1855年(江戸時代)刊

また「人ならざる悪」として、災害や病気を鬼や妖怪の「悪」に象徴するという指摘も面白かったですね。それらは恐ろしい存在ながらも、時にユーモラスに表現されることがありました。地震のナマズも一例かもしれません。風刺絵では、まるで「地震許すまじ!」とナマズを懲らしめています。

■モリソン書庫も必見!


モリソン書庫。「日本一美しい書棚」と評判。

どっぷり「悪」に浸ったのちは、モリソン書庫へ。1917年に岩崎久彌が、オーストラリア人G. E. モリソン博士から一括して購入した、2万4千点にも及ぶコレクションで、東アジアに関する欧文の書籍、絵画、冊子などが整然と収蔵されています。


書庫でもあり展示室でもあります。館内は全て撮影OK。

貴重な書籍だけに手に触れることは叶いませんが、まさに歴史の重み、知の蓄積を体感出来る空間ではないでしょうか。まさに圧巻の一言でした。


シーボルト・ガーデン。「日本植物誌」記載の草木が植えられています。

この夏に東京で展開する多分野連携展示「悪」。まだまだ始まったばかりです。私も今後、全部追っていこうと思います!




「悪人か、ヒーローか」 東洋文庫ミュージアム@toyobunko_m
会期:6月6日(水)~9月5日(水)
休館:火曜日。但し祝日の場合は開館。翌日休館。
時間:10:00~19:00
 *6月17日(日)は15時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般900円、65歳以上800円、大学生700円、中学・高校生600円、小学生290円。
住所:東京都文京区本駒込2-28-21
交通:都営地下鉄三田線千石駅A3出口から徒歩7分。JR線・東京メトロ南北線駒込駅(JR線南口、南北線2番出口)から徒歩8分。