蒸し暑い夜にお届けする実話怪談 実際に耳にしたコワ~い話(関西編)
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いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。
おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」。
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。
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■メディア業界で実際に耳にした恐怖体験
いよいよ、梅雨の季節がやってきますね。
蒸し暑いこの時季になると、メディアで盛んに行われるのが「怪談」企画。
ぞっとする話は暑気払いにもってこいです。
僕が働いている関西のメディア業界でも、恐怖体験をした人のエピソードをよく耳にします。
そういうわけで今回は「僕が関西のメディア業界で実際に耳にしたコワ~い話」を3つ、お届けします。
■楽屋の壁から無数の黒い○が……
関西の某テレビ局がまだ大阪の「西天満」という場所にあった時代の話です。
ラブホテルと墓地に囲まれていたこのテレビ局は、外観がうす汚れ、陽の射さない立地がさらに薄気味悪さを醸しだしていました。
そして外見だけではなく、館内で実際に奇妙な経験をしたり心霊現象を体感したりしたキャスト及びスタッフは少なくないのです。
ある夏の日のこと。
人気落語家のBさんがレギュラー番組の収録のため、楽屋入りをしました。
勝手知ったる我が家のように何度も使った楽屋。
なのに、今日はどうも様子がおかしい。
室内にキナ臭いにおいがたちこめ、空気が澱んでいるように感じたのです。
「なんかいやな雰囲気やな~。ワシの前に、誰ぞおかしなやつが使うてたんかいな」
そうつぶやいて座椅子に腰かけると、今度は「壁の状態がおかしい」ことに気がつきました。
平らなはずの壁が「もごっ」と動き、そこから……。
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なんと、黒くただれた腕が何本も突き出てきたのです。
さらに壁の向こうから「水を……水を……」といううめき声が聞こえてきます。
Bさん驚いては腰を抜かし、体当たりでドアを開け、転び出た廊下を這いながら「楽屋、替えてくれ!」と叫びました。
実はこの日、壁から突き出た腕を見た者はB さんだけではありませんでした。
局内のさまざまな場所で、壁から腕が出てくる光景を目撃した者がいたのです。
しかし多数の人が見たという腕の正体は、結局はわからずじまい。
ただ原因があるとすれば、この日が7月31日だったことが考えられます。
明治時代、焼失戸数11365戸という甚大な火災「天満焼け」。
この大きな災害が起きたのが、明治42年7月31日でした。
このテレビ局は、この広域大火災の焼け跡の上に開局していたのです。
■巨大な魚のお腹から出てきたものは……
平成ひとケタ台の頃のお話です。
某テレビ局が歳末に「人気料理人が作る最高級おせち」という特別企画を放送することにしました。
食材の費用に糸目をつけず贅沢極まりないおせち料理を作ろうという主旨です。
調理を担当するのは、現在はお亡くなりになっている高名な和食の料理研究家。
テレビでレギュラー番組ももっており、お茶の間の人気者でした。
そんな先生が食材として挑むのは、巨大な超高級魚「クエ」。
いつもは繊細な和食を手がける先生が初めてテレビで巨大魚クエの活造りにチャレンジするとあって、この企画の目玉となっていました。
しかし本番当日、先生はめまいと頭痛を訴え「やりたくない」「いやな予感がする」と抵抗感を示した。
いつもはおだやかでわがままを言わぬ先生なのに、珍しい駄々っ子ぶり。
尋常ではない拒否反応にディレクターは焦りました。
「もしかして、巨大魚を前に怖じ気づいたか?」と、先生の腕を疑いもしました。
とはいえ、いまさら中止にはできません。
めったに手に入らない、しかも高価なクエ。
特にこの日に用意されたクエは、漁師さんも「こんなにでかいの、見たことがない」というほどまるまると肥えていた極上品。
今日の機会を逃すと再び入手できる保証はないのです。
そんなわけで、いやがる先生をスタッフ総出でなだめすかしつつ、なんとかスタジオへと押し込み、手に出刃包丁を持たせました。
観念した先生、カメラを前にするとスイッチが入ったのか、「えいや!」と気勢を上げ、ぼってり膨らんだクエの腹に刃をずぼりっと刺したのです。
すると……。
「なんだこの魚は!」
先生はそう叫んで、なんと卒倒してしまったのです。
先生が割いたクエの腹からは、「ころころっ」。
転げ出てきたのは、人間のものと思わしき目玉。
さらにネックレスと指輪、消化しかけて溶けはじめている一葉の写真が出てきたのです。
明らかにこのクエは、人間にまつわる何かを食べていた。
あるいは、人間そのものを食べていた……。
人目に触れてはならない写真とともに、なんらかの理由で海に投げ出された人間を……。
先生のいやな予感は、これが原因だったようです。
クエの胃袋から、霊的な波動を感じとっていたのかもしれません。
■老婆が霊視していたものは、実は……
放送の世界でよく起きるのが「マネージャーの失踪」です。
かつては在阪グラマーアイドルだったKさんもマネージャーに消えられたひとり。
これも平成になりたての頃の話です。
ある深夜番組のロケで、セクシーアイドル数名とともに山奥にあるピラミッド型の屋敷に集められたKさん。
ロケの内容は、ここに住む霊能者の老婆が「アイドルの守護霊と話をして未来を占う」という、正直言ってありがちなオカルト企画でした。
Kさんは内心、霊能者だという老婆の化粧っ気の濃さと、あからさまにスピリチュアルな雰囲気を演出したインテリアや建物に、はじめから胡散臭さを感じていました。
「まあ、なにを言われても『えー、なんでわかるんですかー』とか言ってはしゃいでいればいいかぁ、とその時は思っていましたね」
Kさんはそんなふうに、「とりあえず今日の仕事はやり流そう」と決めていたのです。
そして、収録がスタート。
老婆は次々とゲストのアイドルたちを霊視してゆきます。
「あなたには亡くなった弟さんがいますね?」
「最愛のご両親に、決して明かせない恋愛をしたことがありますね?」
「あなたは、恩人の教えに背いていることがひとつ、ありますね?」
アイドルたちは順番に、知られたくない、隠しておきたい過去を続々と暴かれてゆきます。
皆の表情は青ざめ、泣き出し、嗚咽が止まらない娘もいました。
それを見てK さんは、怖れる演技をしながらも内心「みんな迫真の演技やな~」と感心していたのだそう。
そして最後にKさんが霊視される番がやってきました。
霊能者の老婆はK さんが来ていた赤いジャケットをじっと凝視しながら、「あなた、お金のことで隠していることがあるでしょう?」と詰問しはじめたのです。
思い当たるフシがないため戸惑っていると、眉間に皺を寄せた老婆は次に、
「ヘビのようにとぐろを巻いた、ゆがんだ性欲が見える……。あなたには色情魔が取り憑いている」
老婆はそんな、とんでもないことを言いだしはじめました。
Kさんは「なんて失礼なババアだ」と怒りましたが「そうか、私は“オチ”要因という設定なんだ」と理解し、とっさに笑顔で「そうそう。わたしヤリマンなんです~、ってナニ言わせるんですか、もぉ」とその場を取り繕いました。
Kさんについていた男性マネージャーが失踪したのは、そのロケの翌日でした。
そしてこのマネージャーの男は事務所の金を使い込んでいたことが発覚。
さらに「デビューさせてやるから」と言ってタレント志望の女性に淫らな行為を働いていたことも判明したのです。
Kさんは収録当時の状況を思いだしました。
そして、ハッと気がつきました。
その日、収録が始まる前、部屋が暑かったので、スタイリストが用意してくれた赤いジャケットをしばらくマネージャーに持たせていたのです。
「老婆は誤って、自分ではなく、マネージャーの因業がたっぷりしみついたジャケットを霊視してしまったのではないか?」
「そしてマネージャーはロケの様子を見て、自分の悪行が暴かれていることに気づいたのではないだろうか」
Kさんは、その光景を思いだし、震えが止まらなくなりました。
あの日、他のアイドルたちが怯えて泣いていたのは、決して演技ではなかったのです。
いかがでしたか。
どれもこれも実際に耳にしたものばかりです。
魑魅魍魎がうごめく関西メディアの世界。
このようなエピソードは、まだまだあるのです……。
イラスト:せろりあん
TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy
タイトルバナー/辻ヒロミ