【深イイ話】まさに白馬に乗った王子様!とある美術館のかっこ良すぎるエピソードが海外で話題に

2018/5/23 17:53 Tak(タケ) Tak(タケ)


ヘンリー王子とメーガン・マークルのロイヤルウェディングのロイヤルウェディングに沸く英国。二人に関する様々なエピソードや今回の結婚式にまつわるあれこれが、日本のお茶の間の話題となっています。

さて、皆さんの中で英国の現代アーティスト、パメーラ・ジューン・クルック(P.J.Crook、Pamela June Crook, MBE、1945年~)の名前を耳にしたことがある方はどれくらいらっしゃるでしょう。


Pamela June Crook

自分も昨年、この画家を教えて頂くまでは、名前すら存じ上げませんでした。ましてや、日本にまとまったクルック・コレクションを有している美術館があることも…

その美術館とは、日本一のサルバトール・ダリのコレクションを誇る諸橋近代美術館です。


磐梯朝日国立公園内にある諸橋近代美術館

諸橋近代美術館とクルックの出会いは、ヘンリー王子とメーガン・マークルに勝るとも劣らないほどドラマチックなものでした。

日本に「ダリ美術館」を作るべく海外のオークションやヨーロッパ各地のギャラリーをまわっていた創設者の諸橋廷蔵氏(1934~2003年)が、パリのギャラリーでクルック作品を偶然目にしたのが、1995年のこと。


パメーラ・ジューン・クルック 《紙帽子》 1995年
公益財団法人諸橋美術館蔵
©PJ Crook 2018


一目でクルック作品に得も言われぬ独特の魅力を全身で感じ取った諸橋氏は、展示されていたクルック作品を全て一括で購入したのです。

その当時の様子をクルックは次のように振り返っています。

「1 9 9 5 年 、パリのアラン・ブロンデルギャラリーの展覧会のころは、私の生活は楽とはいえなかった。展覧会のオープニングの夜には地下鉄のストライキや爆破騒動があり、作品の売れ行きにはあまり期待できなかった。それでも2作品は売 れたが 、人通りも少なく、これ以上何もないと思っていた。そんな中、私のパートナーであるリチャードが 2人の日本人男性が興味深げにウィンドウの中を覗いているのを見かけたことが映画のような出来事のはじまりだった。彼らはギャラリーに入るなり展示を見はじめた。グロースターシャーのアトリエで仕事をしていた私はリチャードから感動的な電話をもらった。リチャードは、「 2人の日本人紳士が絵を買ってくれたが 、どの作品だと思う?」と尋ねた。疑いながら作品のタイトルを聞いていくうちに、展示作品の全てを購入してくれたことがわかった。このことはパリとロンドンのギャラリー中に広まった。」- PJ C r o o k


クルックの回想に登場する「2人の日本人紳士」こそが、まさに諸橋廷蔵氏です。(お付きの人を伴っていたので2人との表現になっています。)



クルックにとって諸橋氏はまさに白馬に乗った王子様でした。

この個展の成功がターニングポイントとなり、1996年にはイギリスの伝説的プログレッシブ・ロック・バンド「キング・クリムゾン」のリーダー 、ロバート・フリップと知り合い、以降 、度々バンドのCDジャケットを手がけるようになりクルックの知名度もぐんと上がっていきました。



1999年6月3日に念願であった諸橋近代美術館を開館させた諸橋氏は、2001年に日本で初めての「クルック展」を開催しました。クルック自身も来日し講演会を行うなどし親交を深めたそうです。

しかし、別れは突然にやって来ます。2003年に諸橋氏がこの世を去ってしまうのです。訃報を聞いたクルックは一枚の作品を諸橋近代美術館へ寄贈します。それが日本を題材にしたこの作品です。


パメーラ・ジューン・クルック 《ジャポニカ》 2001年(add.2003年)
公益財団法人諸橋美術館蔵
©PJ Crook 2018


諸橋廷蔵氏の人生と業績を称え、彼への追悼として(この作品を)贈る。
- PJ C r o o k


諸橋氏が急逝した後も、クルックと諸橋近代美術館の蜜月関係は続き、2016年には4回目となるクルックの回顧展を開催。これに合わせ作家から4枚の版画が寄贈され、新作「ふくろう」をはじめとする4点を翌年新規収蔵品として加えました。

そして、今年(2018年)の7月8日から収蔵作品を全て一堂に公開する「Dear Ms.Crook 〜パメーラ・ジューン・クルック展~」が開かれるのです。


パメーラ・ジューン・クルック 《現在-過去》 2001年
公益財団法人諸橋美術館蔵
©PJ Crook 2018


クルック作品をよく見ると、額縁まで「絵」の領域としているのが分かります。また作品によっては変形キャンバスを用いるなど、形式にとらわれない絵画制作をしています。

元々はロンドンでテキスタイル・デザイナーとして活躍していたクルックが絵筆をとったのは27歳になってから。子育ての余暇として絵を描き始めたそうです。


パメーラ・ジューン・クルック 《きつね》 2015年
公益財団法人諸橋美術館蔵
©PJ Crook 2018


それにしても、美術館と現役作家のこれほど良好な関係を他であまり見た記憶がありません。

パリのギャラリーで、諸橋廷蔵氏との偶然の出会いから始まったクルック。諸橋近代美術館との友好は今も昔も、そしてこの先の未来も変わらず続いていくことでしょう。

今年の夏から秋にかけて、諸橋近代美術館で開催される「パメーラ・ジューン・クルック展」。大切な人、大好きな人と一緒に出掛けましょう!!




「Dear Ms.Crook
〜パメーラ・ジューン・クルック展〜」


会期:2018年7月8日(日)〜2018年10月21日(日)
会期中無休
開館時間:9:30〜17:30(最終入館は閉館30分前)
会場:諸橋近代美術館
http://dali.jp/
福島県耶麻郡北塩原村大字桧原剣ヶ峯1093番23
主催:公益財団法人 諸橋近代美術館
後援:ブリティッシュ・カウンシル、福島県、福島県教育委員会、北塩原村、北塩原村教育委員会、裏磐梯観光協会、福島民報社、福島民友新聞社、河北新報社(順不同)

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