スーパーヒーローがコーヒーをいれてくれるカフェがあった!

2018/5/7 12:00 吉村智樹 吉村智樹


▲あるカフェの光景。カウンターのなかにはユニークすぎるマスターの姿が……


いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





■超ド級の「インスタ映え」カフェがあった!


このところ雑誌やネットでは「インスタ映えするカフェ」がよく特集されていますよね。


クリームてんこ盛りなパンケーキ、ド派手なカラーリングのデコスイーツ、フルーツが何層にも重ねられたシェイクドリンクなどなど、InstagramをはじめとしたSNSはいま、ポップなカフェメニューが華盛り。





そして関西にも一軒、これ以上ないほど「インスタ映えする」ウワサのカフェがあります。


とはいえこのお店、いただけるメニューは、誠実に一杯ずつドリップされた香り豊かなコーヒー、昔ながらのホットサンドやピラフなど、極めてシンプルな喫茶軽食。
どれもとてもおいしいけれど、SNSで大々的に拡散されるタイプのものではありません。


では、いったいなにがインスタ映えするのか?
それは、“カフェのマスターご自身”なのです。


■なんとカフェのマスターはスーパーヒーロー!!


噂の「インスタ映えするカフェ」があるのは兵庫県たつの市。


外観は、いたって普通のカフェ。



▲見たところ、フツーのカフェだが……


いまのところ、これといって「映え」の要素は見当たりません。


ところが……「ああ!」
店内から誰か出てきた!



▲だ、誰!? (カメラを構える僕の姿、思いッきりガラスに映りこんでいますね……ごめんなさい)


名前は知らないけれど、出てきたのは、きっとスーパーヒーロー。
ここ「カフェアロア」は、なななんと、“マスターがスーパーヒーロー”というカフェだったのです。
これはもうインスタ映えしまくること間違いなし。



▲カウンターでコーヒーを淹れているのは、テレビでは観たことがないスーパーヒーロー



▲ポーズもキメてくれた!


■やさしい笑顔のマスターは月に一度スーパーヒーローに変身


普段のマスターはやさしい面持ちの八木靖裕さん(42歳)。
ご覧のとおり、日ごろはごく普通の人間です。



▲「カフェ アロア」マスターの八木靖裕さん。一杯ずつドリップする絶品の「アロアブレンド」は一杯450円(税込み)


そんな八木さんは、毎月第四日曜日のみ、ご自身が考案した「スクランブルヒーロー白夜」というオリジナルヒーローに変身して調理と接客をします。



▲毎月第四日曜日のみ八木さんが考案したオリジナルヒーロー「スクランブルヒーロー白夜」がマスターをつとめる



▲コーヒーを淹れる八木さん



▲コーヒーを淹れる白夜


そんな八木さんを、そして「白夜」を慕い、大阪など他府県からお客さんが来店し、なかには遠く岡山県からもわざわざやってくるのだそう。


八木
「漫画やイラストを描く人、プラモをつくる人、写真を撮る人、小説を書く人、造形物をつくる人などなどサブカル創作を趣味とするさまざまなお客さんがお見えになります。同じ趣味の人どうしで会話を楽しんだり、情報を交換したり、コレクションを披露しあったり、突然ワークショップが始まったり。皆さん思い思いにゆったりとくつろいでいますね。ただ……」


ただ?


八木
「こういう店だと知っている人にとっては当たり前の風景なんですが、知らずにお店に入ってたお客さんは、白夜の姿を見て、ドン引きしますね(笑)」


そうでしょうねえ。
きっと白夜ならぬ「白昼夢を見た」と勘違いするかもしれません。



▲常連のお客さんにとってはもう日常の風景



▲ウエイターとしても働く白夜(お客さんのうしろに僕のカメラバッグががっつり映りこんでいますね……ごめんなさい)


■マニア集結! お客さんがコスプレでやってくることも


取材当日は、カウンター席でお茶を飲みながらプラモデルを組みたてるお客さんや、遠路はるばる大阪の河内長野市からスター・ウオーズの「C-3PO」のコスチューム(手作り!)持参でやってきた方まで多彩なジャンルの趣味人が集まっており、とてもいいムード。



▲カウンターでプラモデルの組み立てを楽しむお客さん。つくっているのは、いまアロアの客さんの間で大ブームだというアニメ「フレームアームズ・ガール」の迅雷さん



▲なんと! 遠路はるばる大阪の河内長野市から兵庫県のたつの市までC-3POのお手製コスチューム持参でお茶をしにきたお客さん


八木
「店内にディスプレイされた400体近いオブジェやプラモデルも、ほぼすべてがお客さんたちがめいめい持ち寄ってくれたコレクションなんです。僕のもの? 実はないんですよ。カフェを始めた当時は、本当になんにもなかったんです」


ええ! 充実の陳列ぶりを見て、てっきりコレクターの店主が開いた私設ミュージアム兼カフェなんだと思っていました。
まさか、この膨大な数のお宝がお客さんたちの私物だったとは。



▲トランスフォーマーシリーズのダイナザウラー。デカい! お客さんが持ち込んだものだという


八木
「こちらのシン・ゴジラの模型なんて10万円近くする高価なものです。それなのに『自分だけが持っているより、同じ趣味の仲間と共有したい』といって置いていってくださって。壊したり盗んだりするお客さんがいないと信用してくれているからこその善意なので、本当に嬉しいですね」


確かに正義のヒーローがコーヒーを淹れてくれる店で悪事は働けませんよね。



▲お客さんが持ってきてくれたシン・ゴジラの大きなフィギュア。10万円近い高価な商品。このように店内にあるコレクションのほぼすべてがお客さんが持ち寄ったもの



▲店内ではお客さんが持ってきたプラモデルを展示し、人気投票をおこなう。先ごろ開催されたぽプラモデルコンテスト「プラコン☆2018」にて金賞(グランプリ)に輝いたのは「1/100 バルバトス ルプス レクス」(こきん さん作)


■演技ではなく本気で殴りあった自主制作映画


では、そもそも「スクランブルヒーロー白夜」とは、いったいナニモノなのでしょう。


八木
「スクランブルヒーロー白夜は、僕が監督・脚本をつとめた自主映画の主人公なんです。闇の世界に光を照らすヒーローなので、白夜という名前をつけました。普段は播州弁を話し、一日のうち3分間だけ人間に変身できるという設定。デザインはシラサギをモチーフにしています」


そう、店長の八木さんはカフェのマスターになる以前は、ご自分の苗字をもじった「スタジオ・エイト・ウッド・カンパニー」というサークルで自主映画を撮る若手監督でした。ときには「白鷺(しらさぎ)城」とも呼ばれる姫路城の許可を得て撮影するなど大胆にして本格的な作品づくりをしていたのです。


スクランブルヒーロー白夜が活躍したこの自主映画は、ほかにも「蒼士(そうし)」「勇紫(ゆうし)」「炎舞(えんぶ)」などたくさんのヒーローが登場するのだとか。

かのヒーローたちのマスクが店内にも飾られ、残された傷に、歴戦の勇士たちの激闘ぶりがうかがえます。


八木
「あの頃はまだCGの知識も技術もなかったから、演技ではなく本気で殴りあっていたんです(苦笑)。『素人がつくる映像作品なのにケガを怖がって、誰が楽しんでくれるのか!』って当時はめちゃめちゃアツくなっていました。でも『それくらい頑張らないと面白くならない』っていまでも思っているし、『技術がないからこそ全力でやる。手を抜かない』という気持ちは、今日まで変わらずいだきつづけています」


八木さんは現在、同人誌に掲載する漫画を描き、さらにクレイ(粘土)フィギュアの制作に没頭しているそうですが、それも『技術がないからこそ全力でやる。手を抜かない』という気持ちで、いちから勉強しながら取り組んでいるのだそう。
そういうピュアでホットな気持ちがお客さんにも伝わるんでしょうね。



▲八木さん監督の自主映画で活躍したヒーローたち。「ケガおおそれず本気で殴りあった」という。激闘の傷痕がなまなましい



▲八木さんがいま熱心に取り組んでいるのが粘土フィギュアづくり。この作品は「サーバイン胸像」


■「スター・ウオーズのように異星人が集まるカフェがやりたかった」


では、そんなスーパーヒーロー白夜が、なぜカフェのマスターに?


八木
「僕は『スター・ウォーズ』が大好きで、異星人どうしが自然に交流するあの世界を自分の店でも再現してみたくなったんです。『映像の中のヒーローに実際に会えるカフェがあったら、きっと面白いぞ』って。それで2007年から白夜が接客する日を設けることにしたんです」


2007年から……つまりスクランブルヒーロー白夜がカフェのマスターをつとめはじめ、もう10年を超えるのです。
10年を貫くって、なかなかできることじゃないですよ。
八木さん、「たつの市のジョージ・ルーカス」と呼ばせてください!


■マジで!? ヒーローの素材はテーブルクロス


もうひとつ、気になるのがスーツ(着ぐるみ)の素材。
ピカピカ輝いていて、確かに夜が白むほどに光が反射しています。
お手製だそうですが、材料はいったいなんですか?


八木
「実は、テーブルクロスなんです」


テ、テーブルクロス?


八木
「何色かのテーブルクロスをホームセンターで買って切り貼りしてつくりました。ブーツは白いゴム長靴だし、接着はガムテープだし、ほぼ日用品を利用しています。原価はトータルで一万円いっていないんじゃないかな」


白夜ってホームセンターで購入した素材でつくられていたんですか。
スクランブル&ドメスティックヒーローですね。



▲おしりに空いた穴はかわいいアップリケで補修


■指を血まみれにしながらマスク制作


そしてもっとも気になるのがマスク。
もしかしてこれ、金属製ですか?


八木
「はい。アルミ板を金切りばさみで切ってつくりました。制作中に誤って指を切ってしまい、何度も血だらけになりました。そして切り取ったアルミ板をホームセンターで買ったヘルメットに貼りつけているんです。特撮もので金属製マスクは珍しい? そうなんです。当時はネットの情報も多くなかったので、特撮ヒーローを自分で制作する方法がわからなかった。プロが使う石膏やFRP(繊維強化プラスチック)でつくるなんて、自分には遠い世界のことだと思っていたんです」


はさみで切った金属製のマスクをかぶって、本気で殴りあっていたのですか……。

決して安全ではないですが、それを乗り越える創造の輝きが、多くの人の心を捉えたのだと思います。



▲ハンドメイド感満載な首に巻く「電磁ベルト」。これを装着するとすさまじいパワーをやどすという



▲「僕が誕生するまでは、なかなかたいへんだったんだよ」と回顧する白夜


■店名が「アロマ」ではなく「アロア」。その意外な理由とは


最後に質問をもうひとつ。
コーヒーのアロマ(香り)がとてもよく、本当においしいのですが、なぜ店名が「アロマ」ではなく「アロア」なのでしょう。


白夜
「アロアというのはアニメ『フランダースの犬』のヒロインの名前で、誰からも愛される彼女にあやかって店名にしました」


ああ、彼女の!
思えば「フランダースの犬」の主題歌は「よあけのみち」。
闇の世界に光を照らすヒーローがキッチンに立つ店に、ふさわしい名前です。



カフェアロア
兵庫県たつの市龍野町北龍野12-1 TNマンション1F
0791‐62‐3158
13:00~19:00
休日●火・水
スクランブルヒーロー白夜がマスターをつとめるのは毎月第四日曜日

スクランブルヒーロー白夜のブログ
https://ameblo.jp/byakuya-b/





TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


タイトルバナー/辻ヒロミ