とにかくカッコいい。デザイン好きは必見、それが琳派!
まずは琳派とは
安土桃山時代から江戸時代初期に活動した本阿弥光悦や俵屋宗達、そのおよそ100年後に活動した尾形光琳、更にその100年後の江戸時代後期の酒井抱一や鈴木其一などの活動を中心とする流派。
ただ、流派と言っても抱一と其一を除くとその間には師弟関係などは無く、あくまでも前人の作品をリスペクトする事で時代を超えて特徴や技法が継承されていくと言うところが面白いです。
「風神雷神図」俵屋宗達(建仁寺所蔵)
琳派の手法の一つでもあるのが、物の形を簡略化し、それらをパターンとして扱ったり、大胆な構図の中に取り入れたりするというところ。そう、まさに今でいうデザイン的な手法を江戸時代に確立しているのですよね。
そのシンプルでありながらも装飾的な造詣はその後の時代の画家やデザイナー達にも影響与えていて、今に伝わっています。シンプルでカッコ良いデザインの根本を探っていくと琳派の影響があった、と言うことは珍しく無いはず。
琳派と近代の画家やデザイナーとの関係性
琳派に関わったり影響を受けた画家やデザイナーなどは無数に居るのできりはありませんが、ざっくり私見で主要メンバーの関係性を簡単にまとめるとこんな感じになるしょうか。
例えば有名なデザイナーでもある田中一光は琳派をモダンにデザインとして取り込んで現代に琳派を広めました。
下記の写真、俵屋宗達が描いた鹿をモチーフにした「JAPAN」(1986年)のポスターを表紙に使っているのが京都dddギャラリーで以前に開催された「20世紀琳派 田中一光」(出版社:DNP文化振興財団)の図録。もう一つは尾形光琳の「光琳かるた」の流水図案を元にした「Music Today ’85」(1985年)のポスターを表紙に使っているのが「田中一光デザインの世界」(出版社:講談社)と言う本の表紙カバーです。
「JAPAN」のポスターも「Music Today ’85」のポスターも琳派が元ネタだとはっきり判るのに田中一光さんの中でしっかり消化されていて、立派な田中一光作品になっているのが凄いです。
琳派はデザインだ、と言ってしまうと少し乱暴だし、琳派の一部の面のことしか言っていないかもしれません。ただ、今では芸術品であるそれらの絵画や陶芸品なども、作成された当時はお城の広間などの調度品、つまりは部屋の装飾であったりすることも多いのですよね。
「鶴下絵和歌巻(部分)」下絵・俵屋宗達、書・本阿弥光悦(京都国立博物館所蔵)
誤解を恐れずに言うと、今で言う内装デザインやプロダクトデザインとも言えるわけです。今でこそ国宝などにもなるような美術品ではありますが、当時の琳派の面々は売れっ子ディレクターでありデザイナーであったのでしょう。
そのようなデザインとしての魅力も琳派の一面であると思います。また、だからこそ今でもデザインや現代アートのモチーフとして取り入れられやすいのではないでしょうか。
「八橋蒔絵螺鈿硯箱」尾形光琳
もちろんただのデザイン的なカッコ良さだけでなく、そこに知識や文化、歴史、技術等が様々に絡まり今に残っているものとなります。だからこその美術品であり、本物としての格でもあるわけです。
「燕子花図屏風」尾形光琳(根津美術館所蔵)※写真はレプリカ作品
上記は光琳一番の名作と言っても良い「燕子花図屏風」(のレプリカ)ですが、この絵は伊勢物語の東下り「八橋」のシーンを現していると言われています。在原業平の和歌「から衣 きつつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」(句の頭文字を取ると「かきつばた」になるので有名)のシーンです。
当時はカキツバタの花と橋を組み合わせて絵にすればそれは伊勢物語を描いている、と言うのが教養のある人たちの中の常識でした。そこから橋を取り外してカキツバタのみで八橋を表現するとは!橋がないのに八橋?ひっかけ?今で言う引き算の美ですね。凄い発想。
琳派に関する展覧会
琳派に関連する展覧会などは毎年どこかで実施されていて人気の高さが伺えます。
今週末で終了してしまいましたが根津美術館では自由人である兄の尾形光琳としっかり物の弟である尾形乾山の二人の展覧会が開催されていました。毎年この時期に見る事が出来る国宝の「燕子花図屏風」は壮観でした。
山種美術館では今週末から琳派の本流である本阿弥光悦や俵屋宗達から光琳、酒井抱一や鈴木其一、そして琳派に影響を受けた近代現代の日本画家やデザイナーまでを紹介する展覧会が開催されています。上記の田中一光も取り上げられるようです。
東京国立博物館では俵屋宗達、尾形光琳、尾形乾山、酒井抱一などの琳派作品を含め日本美術の名品がザクザク出ている展覧会が開催されています。
また、熱海のMOA美術館でも琳派関連の展覧会が開催されます。琳派の祖である光悦とその影響を受け継承をしていった光琳の二人を中心とした展覧会です。
今に伝わる琳派の影響
「紅白梅図屏風」尾形光琳(MOA美術館)
上記で紹介した展覧会には出展されませんが、MOA美術館が所蔵している「紅白梅図屏風」は光琳の描いた名作の一つです。梅の枝は写実的でリアルを超えるような雰囲気を醸し出しています。それに比べ枝に描かれている梅の花や真ん中に流れる水の流れの模様は抽象的で簡略化されとてもデザイン的です。
「紅白梅図屏風 一部拡大」尾形光琳(MOA美術館)
「光琳模様(光林模様)」と言う言葉をお聞きになったことがあるでしょうか?尾形光琳風のスタイルをした文様を指しています。形を簡略化した琳派独特のスタイルに習ったこの様な模様は着物などの柄として流行したそうです。「光琳梅」「光琳千鳥」「光琳菊」「琳派の流水紋」など今でも和風デザインにおいて欠かせないモチーフになっています。名前は知らなくてもどこかでこの様な形を見たことはあるのではないでしょうか?
「光琳梅/光琳千鳥」
江戸時代に生み出されたモチーフが現代でも使われているというのも凄いものですね。そうそう、今の時代にも繋がっていく琳派の影響といえばこんなものも……
「たらしこみネイル」で検索してみてください。「たらしこみ」とは琳派で有名な日本画の技法の一つです。「たらしこみ」に関しては詳しく知りたい方はこちらを参照下さい。
流行りの「たらしこみネイル」は日本美術・琳派が産みの親だった!
https://ima.goo.ne.jp/column/article/4376.html
まさか琳派の面々も自分達の技法が何百年も後に女性の爪を彩ることになるとは思わなかったでしょうね……。
安土桃山時代から江戸時代初期に活動した本阿弥光悦や俵屋宗達、そのおよそ100年後に活動した尾形光琳、更にその100年後の江戸時代後期の酒井抱一や鈴木其一などの活動を中心とする流派。
ただ、流派と言っても抱一と其一を除くとその間には師弟関係などは無く、あくまでも前人の作品をリスペクトする事で時代を超えて特徴や技法が継承されていくと言うところが面白いです。
「風神雷神図」俵屋宗達(建仁寺所蔵)
琳派の手法の一つでもあるのが、物の形を簡略化し、それらをパターンとして扱ったり、大胆な構図の中に取り入れたりするというところ。そう、まさに今でいうデザイン的な手法を江戸時代に確立しているのですよね。
そのシンプルでありながらも装飾的な造詣はその後の時代の画家やデザイナー達にも影響与えていて、今に伝わっています。シンプルでカッコ良いデザインの根本を探っていくと琳派の影響があった、と言うことは珍しく無いはず。
琳派と近代の画家やデザイナーとの関係性
琳派に関わったり影響を受けた画家やデザイナーなどは無数に居るのできりはありませんが、ざっくり私見で主要メンバーの関係性を簡単にまとめるとこんな感じになるしょうか。
例えば有名なデザイナーでもある田中一光は琳派をモダンにデザインとして取り込んで現代に琳派を広めました。
下記の写真、俵屋宗達が描いた鹿をモチーフにした「JAPAN」(1986年)のポスターを表紙に使っているのが京都dddギャラリーで以前に開催された「20世紀琳派 田中一光」(出版社:DNP文化振興財団)の図録。もう一つは尾形光琳の「光琳かるた」の流水図案を元にした「Music Today ’85」(1985年)のポスターを表紙に使っているのが「田中一光デザインの世界」(出版社:講談社)と言う本の表紙カバーです。
「JAPAN」のポスターも「Music Today ’85」のポスターも琳派が元ネタだとはっきり判るのに田中一光さんの中でしっかり消化されていて、立派な田中一光作品になっているのが凄いです。
琳派はデザインだ、と言ってしまうと少し乱暴だし、琳派の一部の面のことしか言っていないかもしれません。ただ、今では芸術品であるそれらの絵画や陶芸品なども、作成された当時はお城の広間などの調度品、つまりは部屋の装飾であったりすることも多いのですよね。
「鶴下絵和歌巻(部分)」下絵・俵屋宗達、書・本阿弥光悦(京都国立博物館所蔵)
誤解を恐れずに言うと、今で言う内装デザインやプロダクトデザインとも言えるわけです。今でこそ国宝などにもなるような美術品ではありますが、当時の琳派の面々は売れっ子ディレクターでありデザイナーであったのでしょう。
そのようなデザインとしての魅力も琳派の一面であると思います。また、だからこそ今でもデザインや現代アートのモチーフとして取り入れられやすいのではないでしょうか。
「八橋蒔絵螺鈿硯箱」尾形光琳
もちろんただのデザイン的なカッコ良さだけでなく、そこに知識や文化、歴史、技術等が様々に絡まり今に残っているものとなります。だからこその美術品であり、本物としての格でもあるわけです。
「燕子花図屏風」尾形光琳(根津美術館所蔵)※写真はレプリカ作品
上記は光琳一番の名作と言っても良い「燕子花図屏風」(のレプリカ)ですが、この絵は伊勢物語の東下り「八橋」のシーンを現していると言われています。在原業平の和歌「から衣 きつつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」(句の頭文字を取ると「かきつばた」になるので有名)のシーンです。
当時はカキツバタの花と橋を組み合わせて絵にすればそれは伊勢物語を描いている、と言うのが教養のある人たちの中の常識でした。そこから橋を取り外してカキツバタのみで八橋を表現するとは!橋がないのに八橋?ひっかけ?今で言う引き算の美ですね。凄い発想。
琳派に関する展覧会
琳派に関連する展覧会などは毎年どこかで実施されていて人気の高さが伺えます。
今週末で終了してしまいましたが根津美術館では自由人である兄の尾形光琳としっかり物の弟である尾形乾山の二人の展覧会が開催されていました。毎年この時期に見る事が出来る国宝の「燕子花図屏風」は壮観でした。
山種美術館では今週末から琳派の本流である本阿弥光悦や俵屋宗達から光琳、酒井抱一や鈴木其一、そして琳派に影響を受けた近代現代の日本画家やデザイナーまでを紹介する展覧会が開催されています。上記の田中一光も取り上げられるようです。
東京国立博物館では俵屋宗達、尾形光琳、尾形乾山、酒井抱一などの琳派作品を含め日本美術の名品がザクザク出ている展覧会が開催されています。
また、熱海のMOA美術館でも琳派関連の展覧会が開催されます。琳派の祖である光悦とその影響を受け継承をしていった光琳の二人を中心とした展覧会です。
今に伝わる琳派の影響
「紅白梅図屏風」尾形光琳(MOA美術館)
上記で紹介した展覧会には出展されませんが、MOA美術館が所蔵している「紅白梅図屏風」は光琳の描いた名作の一つです。梅の枝は写実的でリアルを超えるような雰囲気を醸し出しています。それに比べ枝に描かれている梅の花や真ん中に流れる水の流れの模様は抽象的で簡略化されとてもデザイン的です。
「紅白梅図屏風 一部拡大」尾形光琳(MOA美術館)
「光琳模様(光林模様)」と言う言葉をお聞きになったことがあるでしょうか?尾形光琳風のスタイルをした文様を指しています。形を簡略化した琳派独特のスタイルに習ったこの様な模様は着物などの柄として流行したそうです。「光琳梅」「光琳千鳥」「光琳菊」「琳派の流水紋」など今でも和風デザインにおいて欠かせないモチーフになっています。名前は知らなくてもどこかでこの様な形を見たことはあるのではないでしょうか?
「光琳梅/光琳千鳥」
江戸時代に生み出されたモチーフが現代でも使われているというのも凄いものですね。そうそう、今の時代にも繋がっていく琳派の影響といえばこんなものも……
「たらしこみネイル」で検索してみてください。「たらしこみ」とは琳派で有名な日本画の技法の一つです。「たらしこみ」に関しては詳しく知りたい方はこちらを参照下さい。
流行りの「たらしこみネイル」は日本美術・琳派が産みの親だった!
https://ima.goo.ne.jp/column/article/4376.html
まさか琳派の面々も自分達の技法が何百年も後に女性の爪を彩ることになるとは思わなかったでしょうね……。