驚きの新食感! ボディビルダーのシェフがつくる「お麩」のスイーツ専門店

2018/4/16 11:00 吉村智樹 吉村智樹

▲パッと見、おいしそうなガトーショコラ。実はこのお菓子は和食に使う「焼き麩」でできているのです


こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。


この連載では、僕が住む関西の耳寄りな情報をお伝えしてゆきます。
今回はその第20回目となります。





■知ってた? 「麩菓子」が進化していた!


皆さんは「麩(ふ)菓子」を食べた経験はおありでしょうか。
幼い頃に駄菓子屋さんに売られていた麩菓子は、きっとこういうものだったと思います。





ぶっといフォルム。
ほんのり甘く、しゃくしゃくした食感。
懐かしい想い出です。


しかしいま、この「麩菓子」が大きく変貌を遂げています。
麩菓子のニューカマ―といえる「創作お麩スイーツ」の専門店が滋賀県の草津市にオープンし、話題となっているのです。
しかもその麩菓子をつくっているのは、なんと! 元ボディビルダーのシェフなのだとか。


筋骨隆々なマッチョマンがつくる麩菓子とは、いったいどんなものなのでしょう。
麩安な気持ちをおさえつつ、さっそく草津市へと向かいました。


■お麩でスイーツをつくるのは謎のマッスルシェフ


こちらが、昨2017年7月14日にオープンした「お麩deスイーツ」
ピンクを基調としたかわいい配色の店構え……ですが、店頭には確かにイカツめなサングラスの男性「マッスルシェフが心を込めて手作り!」と語っています。



▲ピンク色を基調としたファンタジックな外観。お隣りは「錯乱坊」というスナック



▲まさかテレンスリー? 謎のマッスルシェフ


このサングラスの男性は、きっとご主人。
取材で不快にさせて、殴られないか心配に


■ガトーショコラにチーズケーキ。これ本当にお麩?


店内へ足を踏み入れると……麩ぉおお。



▲整然とスイーツが並んだ清潔な店内



▲「ベイクとスフレの中間」だという「ガト麩フロマージュ」



▲保水に富んだ焼き麩を使っているため、しっとり。空気の含有量が高いから見た目よりずっとローカロリー


ショウケースに並ぶのは、旧来のイメージ覆す最新型の麩菓子でした。

麩をふんだんに使ったチョコレート味の麩菓子「ガト麩ショコラ」、麩のチーズケーキ「ガト麩フロマージュ」、生地にカボチャを練りこんだ季節限定商品「ガト麩パンプキン」などなどなどなど、パウンドケーキのような「お麩スイーツ」がズラッ。



▲お麩にバナナ?



▲お豆さんがふんだんに入った「ガト麩うぐいす抹茶」。身体にもよさそう



▲かぼちゃたっぷり。ハロウインの時期限定で発売された商品


どれも「麩でできている」と知らされなければ、まずわからない仕上がりです。
年間を通しおよそ20種類が並び、バリエーションはこれからさらに増えるのだそう。
ほかに麩のラスクやかりんとうなど、さまざまなテイストの麩菓子が並んでいます。



▲いちごのお麩スイーツ



▲紫芋の「お麩ラスク」



▲キャラメルやアールグレイなど多種多彩なお麩ラスク


■焼き麩を手で崩して、ひとつひとつ手作り


この方が「お麩deスイーツ」のオーナーシェフ阪森智之さん(46歳)。
お店をたったひとりで切り盛りするパワフルなシェフです。



▲「お麩deスイーツ」のオーナーシェフ、阪森智之さん


阪森さんが営むこの「お麩deスイーツ」の特徴は、単に創作麩菓子の専門店というだけではありません。
最大のポイントは、通常は味噌汁や吸い物など和食に浮かべる「焼き麩」を使っている点にあります。


阪森
「お麩でお菓子をつくるお店はほかにもありますが、だいたい原料はお麩になる前のグルテン粉なんです。焼き麩を手で砕いてガトーショコラやフロマージュをつくっている店は、自分が知る限り、ほかにはないと思います」


阪森さんはなんと、焼き麩を手で崩しながら丁寧に手づくりしているのです。
麩をフードプロセッサーにかけたりすると、空気をふんだんに含んだ食感のよさが損なわれるため、手間はかかるけれどそうしているのだとか。


■「脇役のお麩を主役にしたい」


手間といえば、商品がたくさん並んでいますが、ひとつひとつ焼き方も温度も焼く時間もぜんぶ違うのだそう。


阪森
「お麩って意外とデリケートなんです。新作商品を開発するときは、いつも『脇役のお麩を主役にしたい』と考え、試行を重ねます。膨らまなかったり、お麩の独特なにおいが残ったり、なかなかうまくいきません。たとえ10種類の試作品をつくっても、納得いくものがひとつもできあがらない場合もある。日々研究を繰り返し、季節にあったお麩のスイーツを開発しています」



▲焼き麩を原料とした「ガト麩ショコラ」。膨らみ方がすごい。原料の焼き麩そのものもショコラに合うように特別につくられたものを使っている


■意外としっとり。驚きのとろふわ新食感


麩ぅぅぅ、お話をうかがっていて、もうたまらなくなってきました。
よそでは見たことがない「ガト麩フロマージュ」(パウンド型一本1000円+税)をひときれ、いただきます。


チーズケーキタイプの麩菓子、いったいどんな味なんだろ……(おそるおそる、ぱくり)。


「ん?」「んんん!!!!!」


おいしい!
これは、すっごく、おいしい!


パウンドケーキとプリンの中間くらいのしっとり加減、そこにマシュマロのぼよよん感を加えたような。
そして舌の上で、とろぉんととろけてゆきます。


なにこれ?
夢?


初めての、驚きの、麩不議な食感です。
焼き麩が原料というから、もっとさくさくしているのかと思いきや、正反対でした。


阪森
「このガト麩フロマージュは『洋菓子店にチーズケーキがないなんて話にならない。これができあがるまで店は開けない』と覚悟を決め、何度もつくりなおして挑んだ自信作なんです。食感がおもしろいでしょう。お客さん、みんな食べてびっくりしはります。焼き麩って洋菓子にすると、こうなるんです。意外ですよね。僕も意外でした」



▲「このガト麩フロマージュができあがらなければ店は開かない」という覚悟で挑んだ自信作


焼き麩がもたらした新しい食感。
パティシエの阪森さんにとっても未知なる発見であり、その新発見は、極めてユニークな業態の店をオープンさせる勇気にもなっていたのでした。


■シェフはなんと元ボディビルダー


そんな阪森さんには、ふたつの顔があります。


ひとつは「パークホテル京都」「ホテル日航」などで20年以上にわたり腕を磨いた凄腕の洋食シェフ(なのでパティシエではないのです)。


もうひとつはスポーツをする人たちの健康を食から考える「アスリートフードマイスター」。
ホテルのシェフになるまではスポーツジムのインストラクターをしており、自分自身もボディビルの大会に出場するほど身体を鍛えています。



▲ボディビルダーとして大会にも出場した


阪森
「開店準備に忙しくてここ2年ほどさぼっていたんですが、そうしたら身体がたるんできて(苦笑)。この4月からゴールドジムでのトレーニングを復活させました」


阪森さんは京都の伏見出身。
競輪選手になるのが夢で高校時代は自転車部に入り、さらに学外では訓練施設に通うほど真剣に取り組んでいました。
しかしながら高校から「ギャンブルにかかわるべきではない」と諭され「一気に醒めてしまい」、好きだったウエイトトレーニングだけを続けることに。
その後、スポーツジムのコーチとして働き始めます。


■「お麩を和食だけに使うのはもったいない」という発想


そんなおり、洋食の匠と呼ばれるシェフの父親から「調理の世界に入ってみないか」と誘われ、ホテルの料理人に。
ホテルのキッチンで料理だけではなく製菓と製パンの技術も叩き込まれたのだそう。


麩との出会いは、ホテルのシェフ時代。


阪森
「洋食でお麩って、まず使わないんですよ。日頃、お麩がおつゆに入っていても気にも留めなかった。そんなある日、和食の料理人と一緒に仕事をする機会があり、初めてお麩を扱ったんです。そして使ってみてふと『お麩は日本の伝統食。だから和食ばっかりや。でも発想を変えて、洋食のデザートに使ったら面白いんとちゃうかな』とひらめいてね。まずはフレンチトーストのようにミルクとたまごでひたしてみた。すると、これが想像以上においしかったんです。お麩は保水力が高いし空気を多く含んでいるから、普通に小麦粉を使うより生地がしっとりするんです。それが発見でした」


■4年もの試行錯誤を経て完成したお麩スイーツ


麩でフレンチトースト風のスイーツを試作し、「食感がしっとりする」ことに気がついた阪森さん。
さらに滋賀県大津市にある、大正3年創業、100年以上の歴史をたたえる完全手工の老舗「麩前」を工場見学。
その際に焼きたてを食べ「お麩ってこんなにおいしかったのか!」と感動。
「このお麩でこれまでにない洋菓子をつくってみたい」と考え、ホテルに勤めながら本格的に試作に没頭。
「ガト麩ショコラ」と「ガト麩フロマージュ」を、なんと4年もの歳月をかけて完成させました。




▲100年以上の歴史をいだく製麩の老舗「麩前」。昔ながらの手作り



▲「お麩deスイーツ」では「麩前」の焼き麩も購入できる。こちらは滋賀県産小麦を使った「ふくさやか」



▲こちらは福岡県産の「ラーメン専用」に育てられた小麦が原料



▲小麦によって麩の味がまるで違うことに驚かされる。オリーブオイルにひたして食べると、お酒のおつまみに最高


阪森
「ガト麩ショコラは『麩前』で特別に作ってもらった焼き麩を使っています。冷やすと生チョコのようになり、常温だとフワフワになる。変化が楽しめるのもお麩を使っているから。焼き麩だからこそ出せる味と食感に仕上がりました」


そうしてホテルが休みの日などに「マッスルシェフ」の屋号で各地の手作り市へ出店。
「おいしい」という評判に手ごたえを感じ、いよいよ専門店をオープンさせたのです。


阪森
「僕自身、まだまだお麩のことがわかっていない。勉強している最中です。『アツアツのお麩でスイーツがでけへんかな』とか『反対にかき氷とか、冷たいお麩スイーツがでけへんかな』とか、いろんなアイデアが浮かびます。これからもお麩を使ってさまざまなお菓子にチャレンジしたい」


軽妙で柔軟な発想と、それをやり遂げる気力。
まさに「お麩」と「筋肉」のよさが合致したお店でした。



お麩deスイーツ
滋賀県草津市上笠3-31-22-1
10:00〜19:00
不定休
https://muscle-chef.jimdo.com/



(吉村智樹)
https://twitter.com/tomokiy