実は正真正銘の「××」だった!?ガレのガラス器でアール・ヌーヴォーなお花見を
桜の開花状況にやきもきする季節がまたやって来ました。今年のお花見はちょっといつもより早めとなりそうですね。
桜・桜・桜とサクラばかり注目されているので、春の花が焼きもちをやいているようにも感じます。目を向ければフリージア、ミモザ、木蓮、ゼラニウムにチューリップと色とりどりの花々が見頃をむかえています。
さて、箱根にあるポーラ美術館の展示室にも3月17日から、素敵な花々が咲き誇っているのをご存じでしょうか。
と言っても、実際の花ではなく、フランスのガラス工芸家、エミール・ガレ(Émile Gallé、1846年5月4日 – 1904年9月23日)が手掛けた花たちです。
「エミール・ガレ 自然の蒐集」展には、130点ものガレ作品が集結しています。その中でも最も多くモチーフとなっているのが植物(花)なのです。
では、実際に美術館に咲いたガレの花たちを観ていくことにしましょう。
エミール・ガレ「タンポポ文耳付花器」1890年代 ポーラ美術館蔵
「鬼百合文花瓶」1890年代 飛騨高山美術館蔵
「ケシ文花器」1900年頃 ポーラ美術館蔵
「ヤグルマギク文水差」1879-82年 ポーラ美術館蔵
「雪山の花文花瓶」1900年頃 ウッドワン美術館蔵
いがかですか。単なるデザインではなく、自然界にある植物の姿をそのまま生かし作品に転用しているのが分かりますよね。なんちゃって感が全くないのがガレ作品の凄い点です。だからこそ、「美術館でお花見」が可能となるわけです。しかも四季折々の花々がいっぺんに楽しめちゃうのです。
円山応挙の写生画や伊藤若冲が描いた鶏に、絵とは思えないリアルさを感じるのと似ています。そしてガレも江戸時代の絵師たちも徹底した自然観察があったからこそ、こうした作品を生み出せたのです。
ガレが「植物マニア」だったことは有名な話です。ここで敢えてマニアという言葉を用いたのは、単にファンなのではなく、正真正銘の植物学者でもあったからです。
ガレは14歳のころから植物採集に熱心に出かけたそうです。また彼の周りには優秀な植物学者がいたことも彼を植物学へ一層傾倒させました。
1880年にはナンシー植物園監督委員会のメンバーに任命され、自宅には1ヘクタール以上の広大な庭園に2000種以上の植物を栽培していたそうです。芸術家として大成せずとも植物学者として十分やっていける知識とポジションを築いていたのです。
ガラス器の原案(下絵)はガレ自身が描きました。そこに描かれている植物はまさに植物学的な目で細部まで観察された完成度の非常に高いボタニカル・アートといえるものです。
「エミール・ガレ 自然の蒐集」展では、このようにガレ作品と実際の植物の標本が一緒に展示されています。本物と並べても遜色ないどころか、花々の特徴を上手く掴んで作品化していることがよく分かります。
「われわれの根源は森の奥にある、苔むすところ、泉のほとりに。」エミール・ガレ『芸術著作集』1908年
また、ガレ作品のモチーフとされている花が描かれた印象派の絵画も並べて展示してあったりもします。こんなことが出来るのは豊富なコレクションを有するポーラ美術館ならではのことです。
同じ花であっても、工芸品と絵画作品とでは表現の仕方が違います。当然ながら感じ方受け止め方も違ってきます。それぞれに良さがあり、こうして同時に展示されることでお互いを補完しつつ鑑賞できる実に贅沢な展覧会となっています。
最後にこちらの作品を紹介しておきます。
「蘭文八角扁壺」1900年頃 ウッドワン美術館蔵
19世紀になり、新大陸からもたらされたカトレア(蘭)やファレノプシス(胡蝶蘭)に植物マニアのガレも心を激しく動かされたはずです。
「急速な近代化が、親しみのある昔からの草花を押しのけて、われわれに向かって投げかけてきた。」とガレは戸惑いながらも大胆なモチーフとしてカトレアを用いた作品を早速作り上げました。
と同時に、見慣れない不自然な完璧な美しさを持つ花に対して、ガレに死のイメージを受け付けました。そのことをがこの作品の裏側に見て取れます。
「蘭文八角扁壺」1900年頃 ウッドワン美術館蔵
枯れ朽ちたカトレアが表現されているのです!あの美しいアール・ヌーヴォーの旗手ガレの作品とは思えません。しかしこれもある意味で「現実」をそのまま表していることになります。
「おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな」と詠んだのは江戸時代の松尾芭蕉ですが、ガレももしかしたら同じ気持ちだったのかもしれませんね。
何て、ことは置いておき、ポーラ美術館へ花見と洒落込みましょう!そうそう、一部の作品を除いて写真撮影可能です。折角箱根まで行くのですから良いカメラを持参しましょう。ファインダーを通して作品を観ることで違う発見もあったりします。
「エミール・ガレ 自然の蒐集」
会期:2018年3月17日(土)~7月16日(月・祝)(会期中無休)
開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
会場:ポーラ美術館
主催:公益財団法人ポーラ美術振興財団ポーラ美術館
特別協力:東京大学総合研究博物館
ポーラ美術館